| 山のよ
うに積み上げられた書類を横目に窓の外を眺めていたユーリは走り回る子供たちを見つけて、恨めしそうに眺めていた。 「何を見ている、そんなことをしていたら日が暮れてしまうぞ」 王の職務の半分以上を押し付けられている長兄グウェンダルの眉間のしわがまた一本増える。 「使用人たちの子供がオニゴッコでもしているのだろう」 窓辺で魔術の本を広げていたヴォルフラムが外へ顔を向ける。 「おにごっこ? へー眞魔国にもあるんだ」 「ユーリの世界でもあったのか?」 眠たげだった目が輝く。 ユーリについてきたものの、書類に埋もれ、グウェンダルの睨まれるユーリを見ているだけでは退屈だったのだ。 「よくやったよ〜、おれ足だけは速かったからさ。よく鬼になってみんなつかまえてた」 「オニだったのか?」 「逃げるよりつかまえるほうがたのしーじゃん」 ついにペンを放りなげてしまったユーリは子供の時を思い出していた。 「まったくユーリは幼少の頃から尻軽だったのだなっ」 「へ? なんで?」 「うるさい! ぼくがオニだったらすぐに捕まえてやるぞ!」 ほんのり赤くなって、斜め上の方をみるヴォルフラムを不思議に思いながら、グウェンダルのほうに顔を向ける。 「な〜グウェンダル〜、気分転換したいんだけど〜」 「まだ書類は半分も終わっていないのだが?」 眉ひとつ動かさずにペンを走らせる。 「おれもう手が痛くなってきちゃった、ちょっと外走ってくるだけだから。 ね、お願い! お願いします!」 陛下の必殺技、上目遣いウルウルモード。対グウェンダル用。(ギュンターにも有効) 「う……そんなうさちゃんみたいな目でみるな!」 視界に入るユーリの攻撃にあえなく撃沈の長男。 「行ってきてもいい?」 「あの木の陰が噴水に架かるまでだぞ。ヴォルフラム! 陛下を責任もって連れて来い!」 そういうとグウェンダルは奥の部屋に紅茶を入れに席を立った。 「ありがとう! グウェンダル!」 言い残すとユーリは執務室を走り出た。 「あ! 待てユーリ!」 ヴォルフラムは後を慌てて追いかけて外に出た。 「あー外の空気は美味い!」 背伸びをするユーリの後ろに立つと、ふとさっきの会話を想い出した。 口元に笑みを浮かべると短く刈られた草の上に足を踏み出した。 「ユーリ、オニゴッコをしよう」 「へ? ヴォルフラムと二人で?」 この年になってからしたことないな〜とのんきに考えながら聞き返した。 「もちろんだ、ユーリがオニだ。ぼくを捕まえてみろ」 「陛下、ヴォルフラム? 何をしているのですか?」 通りかかったギュンターが足を止めた。 「あ、ギュンター、ちょっと休憩! いきなり鬼って、じゃんけんとかして決めるんじゃないのか? そもそもこっちにじゃんけんってあるのか?」 「じゃんけん、とはなんですか?」 日ごろから『眞魔国のことはなんでもワタクシが教えて差し上げます。 陛下のことはなんでも知りたいのです』と言ってはばからないギュンターが好奇心いっぱいの表情で話しに加わる。 ユーリは日本で誰もが知っているグーチョキパーをやってみせた。 「ああ、[火・水・土]みたいなものでしょうか?」 「[火・水・土]?」 ギュンターはパー、チョキ、グーと手を動かしながら[火・水・土]説明した。 「火は水に消されます、水は土に吸収されます、土は火に灰にされます」 「なるほどー、やっぱり似たようなものがあるんだな。やっぱり最初は土ー!なの?」 「いえ、[ヒーデーブー]です」 なんだか掛け声だけで打ちのめされそうになっていた。 「そんな子供みたいなことをしていたのですか?」 「ヴォルフラムが鬼ごっこしようっていうからさ」 邪魔が入って隣で腕を組んで膨れている。 「お、オニゴッコですか! 陛下、そのような子供の頃ならいざしらず……。 いえ、純真な心をお持ちの陛下だからこそ、きっとそのようなお戯れを。わたくしもぜひ!」 「わぁーーー! ギュンター! 鼻血鼻血!!」 オニに捕まるときを考えて、感極まり鼻から出血大サービスなギュンターを尻目に準備運動を始めた、ユーリとヴォルフラム。 「なんかわかんないけど、俊足のゆーちゃんをナメルなよー、絶対つかまえてやるからな」 「やる気になってくれて嬉しいぞ、ユーリ」 「ちょうどいい運動じゃん。行くぞ!」 中庭で魔王陛下と陛下トト今のところ2番人気のヴォルフラムがオニゴッコをする、 と聞きつけた血盟城の者たちが覗きに集まり初めていた。 「息抜きに何をしているかと思えば」 下の庭を覗きながら、グウェンダルは紅茶を飲み干した。 「アチっ」 「1・2・3・456789・じゅう!」 急いで十数えると木陰に構えたヴォルフラムめがけて、土を蹴って走り出した。 「ユーリ!」 勢いよく走り出しながら、ユーリは思いっきり違和感を感じていた。 なぜ、ヴォルフラムはオニゴッコなのに、逃げもせずこっちを向いて、嬉しそうに腕を広げているのか? 「捕まえ……た!」 加速したまま、前のめりにヴォルフラムの肩を掴むと、目の前にゆっくりと目を閉じるヴォルフラムの綺麗な顔があった。 「でぇぇぇ〜〜! なにしてんだよ!」 とっさに体を捻り、向きを変えて踏みとどまった。 「なにって、ぼくを捕まえるのだろう? ほら、早くキスをしろ」 晴天の霹靂、さっきまで鬼ごっこをしていたのに、自分でも気がつかないうちに場面転換?? と混乱した思考回路で後ろをみるとハンカチを握り締めたギュ ンターに柱の影からはギャラリーがちらほら。 「ちょっと待った! なんとなくわかってきたけど、ちゃんと教えてくれよ。 魔族の国の鬼ごっこはやっぱり違うわけ?」 「オニゴッコはオニゴッコだ。オニは気に入った者を捕まえて口付けをするのだ。 ぼくも子供の頃はよくやった。自分の好きなオニにはキスして欲しくて逆に 追いかけたものだ」 今と変わらずかわいらしいお子様だっただろうヴォルフラムが容易に想像できて苦笑いが浮かぶ。 「そ、そんなの子供の遊びじゃないよ!」 今にも続行しそうな、ヴォルフラムから後ずさりながら視線を泳がせると壁にもたれながら騒ぎを楽しそうに見ているウェラー卿がいた。 これでは鬼というよりも逃げなきゃいけないのは自分だと、一目散に駆け出した。 「あ! ユーリ!」 「おれ、やっぱり逃げ足の方が速いかも!!」 花壇の脇を走りぬけ、城内に入ると柱の間を隠れながら、オニの追っ手から逃れる。 「ユーリ! 何処へ行った! まだ終わりじゃないぞ、ぼくに恥をかかせる気かっ」 「陛下、今度はかくれんぼですか?」 口から心臓が出そうなくらい驚いて振り向くとウェラー卿が立っていた。 「助かった! コンラッド匿ってよ!」 「いいですけど、口にキスしてあげないとオニゴッコは終わりませんよ?」 他人事だと思って面白そうに人差し指を唇にあてて、片目を瞑ってみせた。 「なんなんだよーあのルール! き・き・キスってさ! おれは日本人だよ、挨拶でキスする文化圏とは違うんだよ。人前でキスなんかできるかって!」 拳を握って力説したところで、恥ずかしさがこみ上げてきた。 知らなかったとはいえ、「オニ」の方が好き。とは。 キスするのが好きと公言してしまったようなものだ。 「では、ココでなら人目はありませんよ」 人畜無害って笑顔を浮かべながら、ウェラー卿の腕がユーリの腰に回り、ちょっと抱き上げながら、きゅっと締まったユーリの唇に口付けた。 チュ。 「捕まえた」 おふくろ、血盟城には、オニがいっぱいです。 終わり
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