「お祭り?」
「ダメです」
「なんだよ…ギュンター、まだ何も言ってないだろう?」
「人間の町に行くなんて。ダメです」
行商人に眞魔国と隣接する国で大きなお祭りがあると聞いて目を輝かせたおれにギュンターが釘をさす。
助けを求めるように、コンラッドをみると困った顔で首を振る。
「陛下、祭りともなれは人が多くて危険です」
「だけどさぁ…」
名付け親にすがるような目で食い下がってみる。
「今はグウェンも外交中で、警備も手薄なんです。陛下に十分な護衛がつけられません」
いつもなら、一緒についてきてくれたり、助け舟を出してくれるのに、コンラッドにも駄目押しされた。
「そうです、あの国は治安も良くないと聞いています」
勉強の続きの分厚い本を広げながら、行商人が出て行った扉を見ていた。
「グレタにプレゼントしたいんだ、宝石が有名な町なんだろう?」
「グレタへのプレゼントなら、行商や眞魔国で探せばいいではないですか」
「今日はおとなしくギュンターの勉強に付き合って下さい、陛下」
「コンラッド〜、じゃあ一緒に…」
「ダメ」
ニッコリ笑って出て行くコンラッドを睨みつける。
他人事だと思って、おれが勉強嫌いなこと知ってるくせに。
だって、お祭りだぜ?
血が騒ぐってもんだろう?
「これでよしっと」
サングラスをかけて、帽子を被って完璧な変装。
行くなって言われれば行きたくなるってもんだろう?
ちょっと買い物して帰って来るだけだから。
そっと、城から抜け出して、通用門から外へ出ようと、他の者にまぎれて堂々と歩いていく。
まさか、こんなに堂々と出て行くなんて思わないだろうしね。
「何処へ行くんですか?」
城の外へ無事に出たと思ったとたん後ろから声を掛けられて、足を止める。
聞き覚えのある声に、ゆっくりと振り返った。
「陛下、困ります、そんな格好で外へ出られては」
顔は笑ってるくせに声が笑ってない。
「コンラッド…。ゴメン、すぐ帰ってくるからさ、見逃して!」
「見逃せません。と言っても、行くつもりなんでしょう? 俺も一緒に行きますから」
「ホントに!? ありがとうコンラッド!」
「敵いませんね、ユーリには」
肩を竦めて、いつもの笑顔を返してくれた。
正直いうと、ちょっと初めての土地に行くのに一人では不安だったからコンラッドが来てくれるのはありがたかった。
「たまにはおれも違う町に行ってみたいんだよ。結構周辺の国とも国交が回復してるわけだしさ。ギュンターが心配性すぎるんだよ」
「ユーリ、でもあの町は眞魔国と山一つはさんでいながら、国交もまだ正常化していないところです。それだけ危険という所ですよ」
「危険、ってもさ。ケンカごしなわけじゃないんだろう? だったらさぁ」
「ギュンターもはっきり言わなかったのですが、あそこは首都からも離れていて犯罪者の集まるところなのです。それゆえ魔族からの反感も多いので、こちらか
ら進んで国交回復もしていなかったのですよ」
ああ、そうか。おれは周辺国に親書を送るように頼んだのに、その国というか町には送ってなかったわけか。
だから、ギュンターも後ろめたくて、やけに反対したんだ。
「だからって、町の人がみんな悪い人なわけじゃないだろう? それにお祭り見に行くだけだから」
「でも、気をつけてくださいね。俺のそばから離れないでください」
「わかってるよ」
そう言ってうなずくと、コンラッドが山道に人気がなくなってきたのをいいことに手をそっと握ってきた。
「離れないで下さい、ユーリ…」
コンラッドの表情が笑っているのに、何故か哀しそうで、ぎゅっと手に力を込めた。
もう…、何度もこの手を重ねて、身体を重ねているのに。
そっと、重ねるように繋がれた手が温かかった。
「なんで、宝石、なんですか?」
「え? あぁ、グレタのプレゼント。小さい時にさ…、おふくろが『おばあちゃんの形見なの』ってキレイなブローチを大事にしてたんだ。なんか、そういう
の、ずっとグレタの手から子供や孫に伝わって欲しいから。それで、どうしてもキレイな宝石、選んであげたかったんだ」
ちょっと、子供じみた理由みたいで、俯く。
「それはいいですね」
山を越える街道を越えるころにはまばらながら人が増えてきて、さすがに繋いだ手は放した。
「さすがに人が増えてきたなー。屋根に飾りとかしてるのはお祭りだからかな」
「そうですね、にぎやかな雰囲気は平和みたいですね」
出店の店先には色とりどりのお菓子や良い匂いのする料理が並んでいた。
みたこともない品々に目を奪われていると、コンラッドの腕が腰に回された。
「ユーリ、あまり余所見をしないで下さい。逸れてしまいます」
「分かってるよ。コンラッド、アレ何? おいしそう!」
「食べない方がいいと思いますよ…。あれは大型軟体動物の内臓です…。キレイですけど、珍味でした」
口元に手をあててうんざりした顔をしているところをみると食べたことがあるんだろうな…。
七色の甘いお菓子なんかを想像していたおれは一気に食欲をなくした。
「食べ物はちょっと冒険だな…」
人の溢れかえる街の中心に近づくにつれ、コンラッドと離れてしまわないように、ちょこんっと袖をつまんだ。
離さない様に、離れない様に。
「グレタのお土産お土産。どんなもんがいいかな? 指輪とか」
「そうですね、首飾りだとずっと身につけていられるんじゃないですか?」
「そう…だね」
そっと、おれは自分の胸の青い魔石を服の上から押さえた。
ずっと、身につけて一緒に。
そうだ、コンラッドにもなにかプレゼント、したい。
こっそり買って驚かせたり。
いくつか並んだ店の高いところに、小さいけれど琥珀色の石がついた小さなケースに目が止まった。
「あ、あれいいな」
一瞬のことだった、品物を指差そうと身体を捻った時、腕を誰かに引っ張られたみたいに、身体が人の波に飲み込まれる。
「え、あ、ヤバッ! コンラッド!」
慌ててコンラッドを呼び止めようとしたら、人ごみに向かって巻かれた大量の花びらに歓喜する歓声にかき消された。
「ユーリ!?」
人と人の顔の間に、こちらを振り向くコンラッドの顔がちらりと見えた。
そのあとは、押されて、引っ張られて、自分の意思でなんか進めない状態で、後悔した。
お祭りに来たいなんて、安易に考えた自分に。
知らない土地、知らない人。
離れてしまった、人。
やっとのことで道の外れに押し出された。
「どうしよう、コンラッド!」
人ごみに視線を走らせる、きっとコンラッドも探してるはずだ。
ええっと、迷子になったときは迷子センター。何処にあるか分からないよ。
店内放送? こんな騒ぎじゃ大きなメガホンでも聞こえないよ。
落ち着け、落ち着け渋谷有利。
どうすればいい?
迷子になったときは、動かないこと。きっとコンラッドの方が動くのは慣れてる。
待っていれば見つけてくれる。
「おれは、ここだよ」
ぎゅっと唇を結んで、じっと人ごみを見る。
目の前を、遮る影に、視線を上げた。
「え…」
コンラッドのわけがなかった。鋭い視線の3人組。
「おにいちゃん、迷子かい? 俺たちが探してあげようか?」
ニヤニヤした笑いに、嫌な感じがする。
「いや…結構です」
「遠慮するなって」
見た目で人間を判断しちゃいけないって、分かってるけど。
けど、これは勘だ。
「ちょっと、料金を払ってくれればいいんだよ」
ポケットに手を入れたまま、下から見上げるようにいわれて、ココにいちゃ危ないと思った。
金なんて惜しくない。さっさと渡せば立ち去ってくれるかも。
懐を探って、金を掴んだ。
「さっさとしなよ、いい子だから」
腕をつかまれ、ひるんだところへ一人の男の拳がおれの胃のあたりに差し込む。
「ぐっ、うぐ…」
声にならないうめきをもらして、地面にしゃがみこむ。
「一緒に来てもらおうか、迷子のウサギちゃん」
バカ…ヤロウ…。
迷子は子猫ちゃんだ…。
動けないまま、引きづられる様に路地裏の細いくらい道へ転がされる。
「離…せよ…」
精一杯の力を込めて奴らをにらみつけた。
「なんだ、その目は!」
一番背の低い男の右足が頬を蹴る。
その衝撃でサングラスが冷たい路地に飛んだ。
「コイツ…っ」
「コイツ…双黒だ」
やばい、バレた。
後ろにジリっと下がる靴音が聞こえた。
そうか、まだやっぱり双黒のおれって不吉なんだな…。
このまま解放されれば…と思って目を閉じたおれの髪の毛が乱暴につかまれる。
「へぇ、本当にいるんだな。初めてみたぜ」
覗きこむ顔をみると血走った目をしている。本気でやばい、正気じゃなさそうだ。
「しかし…魔族ってやつは色っぽいもんだな…」
いわれた意味を考えるまもなく、ナイフの刃先が喉元から服を切り裂く。
うそ、だろ?
「ちょ…冗談…」
「双黒ってやつは、高く売れるんだろ…、じゃあちょっと位味見しないとな…」
荒い息が頬にかかる。
イヤだ。 嫌悪感のせいか、外気に晒されたせいか、鳥肌が立つ。
「お前ら、押さえてろ…」
両腕をつかまれて、顔を上げられる。顔を背けたら、髪を掴まれた。
押し当てられた唇とこじ開けようとする舌の感触に吐き気がこみ上げる。
気持ち悪い。
コンラッドと…するときは微塵にも思ったことない感情。
ああ、いつも優しく触れられる感触はあんなにも気持ちよかったんだ。
おれ、愛されてるんだよな。
ごめん、おれがこんなとこ来たいなんていわなければ。
今頃探してるんだろうな。
今のサイアクな状況から逃避したくて必死に、コンラッドの顔を思い浮かべる。
ふいに、顎から両頬を捕まれ、口腔を開かれた。蛇みたいな舌が這い回る、噛み付いてやろうとしても上手くいかないものだ。
「うぐ、がっ」
喉の奥に苦い味がする、吐き損なった胃液だ。
「ちょっと楽しませて…もらおうか…」
一瞬、混乱した脳では意味を取り損ねて、目が点になる。
顔の前に、ズボンの中から引き出されたソレが突き出されて、身体がひく。
がっちりと押さえ込まれた身体はビクともしないで、嫌な含み笑いと共に口に押し込まれた。
「うぐっ」
喉をつくソレに吐き出せない苦しさと情けなさで、涙がこみ上げる。
こんなのイヤだ。
無理に動かされて、嗚咽をこらえきれずに声が漏れる。
息もまともに出来なくて、このまま死んでしまうんじゃないか。
「汚い手でユーリに触るな!」
幻聴、かと思った。
「うわぁ!」
身体が、自由になって、目の前に開けた視界に、剣の光と誰かが飛び込んできた。
「許さない…ッ」
解放された体が自分で支えきれなくて、地面に倒れこむ。
見上げた目の端に、剣を振るい、見たこともないようなコンラッドがいた。
切りつけたコンラッドの剣が一人の肩を掠めて血が落ちる。
火がついたような目とすばやい動きに、彼が獅子と呼ばれていたことを思い出した。
戦場で、敵をなぎ倒す、別人の彼がいた。
かっこいい、なんて他人事みたいな考えが浮かんで、目の前の出来事が夢みたいだ。
「うおおお!」
逃げようとする、男の一人の腕に剣が食い込み鮮血が、おれの頬と目の前の地面を赤く染めた。
そのリアルな温かさに我に返る。
「ダメだ! ヤメロ! やめるんだ!」
こんなのコンラッドじゃない。
おれの声も届かないように、コンラッドは次の剣を振り上げた。
「コンラッドっ! それ以上やったら死んじまう!」
光を取り戻した、コンラッドの目がこちらに向けられる。
「ユーリ…」
バタバタと男達が逃げていく足音が遠ざかる。よかった…誰も死んでない。
「ユーリ!」
慌てて駆け寄った、コンラッドに抱き上げられる。
「ゴメン…おれのせいだ…。二度とコンラッドにこんなことさせたくなかったのに」
そっと、コンラッドの頬についた血を拭う。怪我じゃなくて返り血だったことにちょっと安堵する。
「ユーリ…」
「コンラッド…、ゴメン…」
何故か、涙が止まらなくてコンラッドの腕にしがみついて、おれは泣いていた。
「行きましょう、人に見られるとやっかいだ」
脱いだ上着がおれの肩に掛けられる。
「やだ…帰りたくない…。みんなに知られたくない…」
わがままだって、わかってる、勝手にこんなトコに来て、こんな目にあって。
「ユーリ…宿を」
絞り出すようなコンラッドの声がいつもどおりで、抱きしめてくれた腕の温もりは変わらなかった。
小さな宿をとり、ドアを閉めた瞬間、安心したのに、吐き気がこみ上げてきて口元を押さえた。
吐き出してしまいたい、全部。
「う…ぅ」
「ユーリ、大丈夫ですか? 我慢しないで全部出して」
コンラッドの手が受け止めようと差し出してくれたけど、部屋の隅の入れ物に吐き出した。
胃の中から、何もないはずなのに、吐き気がこみ上げてくる。
「ユーリ…」
背中をさすってくれる手が優しくて、涙が出た。おれの所為なのに、おれが悪いのに。
「はぁ…」
「水、飲めますか?」
差し出されたコップから口に水を含んだがすすいだだけでまた、吐いた。
吐いても、吐いても、感触が消えない。
まだ放心状態のおれの手をとり、服をコンラッドが脱がせていく。
部屋に置かれた大きなタライの中には温かなお湯が張られていて、その中に座らされた。
ピチャ…。
「寒く…ないですか?」
シャツの袖をまくったコンラッドが優しく濡らした布で頬を撫でる。
無言で、隅々まで布で拭き清めてくれる。
何も言わない。
目の前のコンラッドに腕を回して抱きついた。
「ユーリ、」
コンラッドの白いシャツが濡れて張り付くものかまわずにぎゅっと抱きついた。
「スイマセン…。ユーリ、離れないと言ったのに…、俺のせいであんな…ッ」
「コンラッドの所為じゃない! おれが来たいなんて言ったから」
「俺がついていながら、ユーリ…」
コンラッドの唇に自分の唇を押し当てる。
そんな言葉は聞きたくない、自分を責める言葉なんか。
いつもより、激しく唇を吸い、絡める舌にコンラッドも応えてくれて。
大丈夫、気持ち悪くない。
「ん…ぁ」
もっと深く、口付けながらコンラッドの下に手を潜らせた。
「ユーリッ」
身じろいだコンラッドに、腕をつかまれる。
「したいんだ…忘れてしまいたい…」
全部、忘れたい。コンラッドの感触で全部消してしまいたいんだ。
軽くうなずいたコンラッドは、もう一度口付けながら、タライから抱き上げ、ベッドに運んだ。
コンラッドに覆いかぶさると、足の間に顔を埋め、コンラッドのモノを手で包み込む。
何度か、手のひらと舌を行き来させて堅さを増したソレを口に含む。
奥まで何度も咥える。
「ユーリ…あなたにあんな酷いことをしたのは俺ですっ 俺がしたんです」
こみ上げてくる欲望に、唇をかみ締めながら、コンラッドの搾り出すような声が聞こえる。
最後の液体まで飲み干すように深く咥える。
さっきのことなんか忘れるくらい、優しいコンラッドの愛撫に、今までないくらいコンラッドの上で腰を揺らした。
「ユーリ…水」
ぐったりと、目を閉じていると。いつの間にかコンラッドが頬にコップを押し当てる。
「あ…」
コップと一緒に掴んだコンラッドの指に口付ける、なのにそっとすり抜けられる。
「ダメです…俺の手は汚れてるから…」
哀しそうに笑っていうのは、さっきのことなのか、昔の戦場のことなのか。
「汚くなんかないよ…、おれのこと守ってくれる温かい手だよ…」
「ユーリ…」
コンラッドの目の端から、一筋涙がこぼれ落ちた。
終わり
みぃさんのキリリクでしたが、カッコいいコ
ンラッドはクリアーできなかったかも; すいません!
もっとえげつない陵辱ものを…とも思いましたがそれでは、ちょっと陛下がかわいそうなので(苦笑)
2006.3.16
(c)Tsukasa Ichinose
