ずっと。
 この時間が続けばいいのに。
 眞王廟の南側の庭は暖かな日差しが降り注ぐ林になっていた。
 分厚い本と、昼食替わりに持ち出したパンと真っ赤な果実を甘く煮詰めた瓶詰めを持って出た。
 風が渡る音が耳をかすめる。
 倒れた樹の上に腰掛けて、本を広げるとページをめくった。
 僕の知らない時間が、歴史書の中に流れている。
 大賢者、と呼ばれるようになってから、この国が歩んだ歴史は、"彼"と望んだ世界ではなかったようだ。
 でも、今は、少しずつ変わり初めていた。
 ぼくの心と一緒に。ゆるゆると、この時間の流れと一緒に。
「居るんだろう?」
 本から顔を上げずに、頭上の気配に声をかけた。
「降りておいでよ」
 木の枝が軋む音がして、隣に人が降りた。
「いつから気がついていたんですか? 猊下」
 悪びれない声で笑うお庭番に顔を上げると、空の様に青い瞳と目があった。
「ここは眞王廟の敷地だよ、許可なく入ったらダメじゃないか」
「あれ〜門番は通してくれましたよ」
 そういって、日差しの匂いのするヨザックが微笑んだ。
「君の女装はそこまで完璧なのかい?」
「今度から特技の欄に書いておきますよ。猊下はなにしてるんですか?」
「勉強。僕の知らない眞魔国の歴史を辿っておかないとね」
 続きの文字を指でなぞりながら読み進める。
「こんなところでですか?」
 不思議そうにつぶやきながら、瓶を持ち上げる。
「中はいろいろとうるさくてゆっくり読書も出来ないんだよ。いっしょに食べる? ちょうどお腹すいてきた」
 ちょうどフワリと落ちてきた木の葉をしおり代わりに本を閉じると、かごからパンを取り出した。
 ヨザックが瓶を開けてくれる。
 小さなナイフでやわらかい果実を掬い上げ、自分の分と2つ小さなパンに挟んで差し出した。
「いただきます」
 一口で頬張ったヨザックの口元には、子供みたいにはみ出した果実がついていた。
「ほら〜、ついてるよ」
 僕は指で掬い取ってあげて、その指をぺろりと舐めた。甘酸っぱい味が口のなかに広がる。
 不意に僕の手をヨザックが捕らえて、指を咥えた。
「ちょ…、ヨザッ」
 言葉だけの抗い。
 それを分かってて目を伏せたまま僕の指に舌を絡める。やわらかく爪の間や関節を這う感触に軽くめまいがする。
 指から口を離すとそのまま重ねられる。
「すいません、我慢できなくて」
 悪びれた様子もなく、もう一度。
「キスしていいなんて言った覚えないけど?」
 自分の分のパンをくわえながら、瓶のふたを閉めてかごにしまう。
 分厚い本をまた広げて、ヨザックに背中を預けた。
「もうちょっと付き合ってよね?」
「このまま、ですか?」
「僕だって、たまには誰かに寄りかかりたいことがあるんだよ」
 独り言みたいにつぶやいて、 背中に体温を感じていた。
 しばらく言葉も交わさずに、ページをめくっていたけれど、いつの間にか僕は居眠りをしていた。
 その間も、ただ、ヨザックはそこにいて。
 風が木々の間を渡り、日差しが降り注いでいた。
 ずっと。
 この時間が続けばいいのに。

                                        終わり
060408(c)Tsukasa Ichinose



えーと、ここでエロに突入するシナリオもあったので すが(笑) なんかラブラブで終わってしまったような。
いや、野外はだめよね。いろいろ面倒だし。


春ですから。


書かなきゃいけない原稿溜まってますから。時間よ止まれ!>現実逃避。




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