車庫の屋根越しに見えるその日の夜空は、
変な色をしていた。

やがて上空から光がゆっくりと、
しかし確実にこちらの方へ近づいてくる。
その光は、
アダムスキー型円盤と、
それを取り巻く巨大な火星大王シリーズ(あの有名なブリキのロボット)数体が放っている。



パーツアニメでカクカク動く、水野純子マンガタッチの火星大王が、
二重露光で不規則にズーミングしてくる状況は、
誰がどう見ても悪い冗談でしかない。
実際、(魔)自身も冗談だとあきれて見ていた。


・・・だが・・・


冗談だったのはここまで。
(魔)が目を離した隙に、火星大王は、外にいた(魔)の妹をひょいとつまみ上げると、
そのまま、もの凄い勢いで、停めてあったマイカーにブンと投げつけた(!)。
はんぺんの切れ端みたいに真っ二つに折れて、
車にめり込む妹。

唖然とする(魔)。


・・・いもうとがころされた・・・


見ていた母親に駆け寄る(魔)は、思わず詫びる。
「俺が逃げろって言ってれば!妹に注意してれば・・・死ななかったのに!!」
・・・返事がない・・・
流石に放心してる?
いや、違う。母親はきょとんとして(魔)の話を聞いている。

「なにいってんの?」

「死んでないよ。」



え?!



次の日。
普通に布団に寝ている妹。
五体満足だし、ギプスも包帯もしていない。
まるで風邪でもひいて、ちょっと寝ていただけみたいだ。
家族の反応も特にない。
昨日のUFOの話も出てこない。
(なんで生きてるの?あの状況で・・・生きてるわけない・・・)

(魔)は少し不審に思った。




さて、その時点で気が付いたのだが、うちの家には居候がいるらしい。
17、8歳のナイスガイだ。
彼はなんだか(魔)のことが好きらしいのだが、
(魔)は適当にあしらっている。
そんな日々が何日か続いた・・・


ところがある日、2階の窓から登校中の女子高生を眺めていた(魔)が、
「夏服はええなぁ・・・」
と一言漏らしたことで、事態は急変する。

それを聞いて、なんだかあわて始めるナイスガイ。
(この時点で、(魔)は女子高生と、実際にちちくりあっていたかも知れない)
冷や汗を垂らしながら、
必至に抗議してくるナイスガイ。
「だめ!異性となんて、刺激が強すぎます!」

何言ってるんだ、こいつ。
わけわからん。

「!!!!!」
どんどん脂汗が流れ、顔は上気し、ろれつが回らなくなるナイスガイ。

何でそんなに興奮してるんだ?

「!〜〜〜〜ッ・・・」
突然、バッタリと倒れるナイスガイ。
仰向けに倒れ、白目をむいて固まっている・・・

・・・駆け寄って見ると・・・


息をしていない?!


慌てて心臓マッサージと人工呼吸をする(魔)。
しかし、息を吹き返す様子はない。

死んでしまった?

(魔)の隣では、ナイスガイの知り合いらしい、先に登場した女子高生が泣いている・・・




そこで初めて気が付いた。
ナイスガイ、身長が1mそこそこしかないのだ・・・
頭もでかいし、目もギョロッとしてるし、手足も変に細い。
・・・人のデテールはしているが、どう考えても、こいつはリトルグレイのシルエットだ!・・・
よく見れば、隣の女も同じような体躯。

まてよ・・・

(魔)の家族は?
なんでヒト一人死んだのに騒がない?
なんで隣の家からは、ここ数日、人がいるのに物音一つしない?

それに、
この音は何だ?
さっきから流れている、古いSFの主題歌みたいな音楽は。
夢だから、BGMとして流れているのか?
それとも、実際に、机の上に置いてあるあのラジオから流れているのか?
・・・ラジオ?・・・
そういえば、
ナイスガイが混乱するのと時を同じくして、変な声、流れてたよな?



そこで遂に(魔)は気が付いたのだ!
部屋、家、この場の雰囲気全体がおかしいことに!

暑いので窓がちょっと開いてる、あそこ、
もしかして・・・
隣の家の人、覗いてる?!
なんだか虚ろな目で!
よくよく思い出したら、うちの家族もあんな目だった?!
 



なんでそんな目でこっちを見てるんだ。


いや違う。
今日だけじゃない。
多分、今日も昨日もその前の日も
・・・「ヤツラ」はあんな目でずっと自分をみていたんだ!・・・



隣で泣いている小さな人間。
目の前の不自然な死体。
・・・鳴り響くBGM・・・





幸運にも、(魔)はそこで目が覚めた。
自分以外が、その人そっくりの偽物になるという話のは、
完全に映画「ボディスナッチャー」のプロット。
文章ではこの話の雰囲気を伝えることは難しいだろうが、
冒頭の妹が殺されるシーンと、
周りの人間が全て偽物だと気付くクライマックスシーンは、恐怖以外の何物でもなかった。
特に、
頭の中でBGMが鳴り響くラスト2分間、(魔)はマジで混乱していた。
起きたとき、どきどきしていたよ。




「ボディスナッチャー」のラスト、
友人、家族、最愛の彼女・・・全て失った主人公は、
自ら複製人間となりことを望む。

この夢が現実なら、(魔)はどうしていたろう・・・



今回は古典SFネタの為、白黒放送でお送りしました。
しかし、
「ヒドゥンインヴェーショナーズ」って・・・
何てタイトルだ!
(笑) 

 

モドル