兄×妹な上に妊娠ネタなのでお嫌いな方はごーばっくよろしくです。

5月のセントラルはようやく初夏らしい日ざしが差したか思えば、肌寒い陽気の日もあって未だ上着が手放せない。


「わあ!ねえ兄さん、赤ちゃんがボクを見て笑ったよ!」
それはエドワードとアルがいつものように2人で連れ立って食料の買い出しに行った時の事だった。
野菜売りのワゴンでアルが品定めをしている時に、その隣に同じように買い物をしていた乳母車に赤ん坊を乗せた若い女性と小さな男の子がいた。アルは最初その3人に気がつかなかったが、ふと赤ん坊の笑う声が聞こえてその方を見たのだった。
赤ん坊は手におもちゃを握りながらきゃっきゃっと楽しげに笑っている。その姿が余りにもアルにはかわいらしく映り、選んでいた野菜もそこそこに、その赤ん坊に目を奪われていた。
「かわいい!この子いくつなんですか?」
アルは背を屈めて乳母車に顔を近付け赤ん坊に手を振り、それから立ち上がって母親と思しき若い女性に尋ねた。
「もうすぐ1歳になるの。ちょっと目を離すとどこへでもはいはいして行っちゃうから大変なのよ」
大変と口にしながらも女性は嬉しそうに話す。その傍らで女性の脚にすがっていた小さな男の子は退屈したのか、女性から離れてアルと女性のやりとりをそばで見ていたエドワードの上着の裾を引っ張り始めた。
「おっ、なんだよ?そりゃ俺のだぞ!」
男の子はその小さな身体に似合わない程の力でエドワードの上着の裾を引っ張り続ける。ぐいぐいと引っ張られ続けて遂にエドワードの肩からするりと上着が引き降ろされてしまうと、この頃はめっきり落ち着いたと評判の鋼の錬金術師と言えども頭に血が昇ってつい乱暴な言葉を口にしてしまった。
「クソガキがぁっ!離せっての!」
軽く男の子の手を左手ではたくと、上着を着直した。しかし、男の子はエドワードに叩かれるなり目に大粒の涙を溜めて顔を真っ赤にして泣き叫び始めたのだった。
その泣き声に、アルが丸い大きな目を更に大きく見開いてエドワードを睨み付けた。
「兄さん!こんな小さい子になにしてるの!ごめんね、泣かないで!ボクが今この悪いお兄ちゃんを怒っておいたからね!」
「えっ…だって、このガキが…俺の服を…」
「いいから!お母さんにも謝るの!」
自分の命よりも大事な、今やエドワードの恋人であるアルに猛烈な勢いで怒られて、エドワードは渋々と乳母車の女性に頭を下げる。アルも男の子の涙を拭いてやり、女性に謝罪した。
「いいのよ。こちらこそご免なさいね…うちの子、いたずらが大好きで…」
やがて親子3人はその場を後にした。アルは去っていく3人に手を振り、特に赤ん坊にはとびきりの笑顔を送っていたが、片やエドワードはアルの後ろでぶちぶちと小言を言っていたのだった。
「なんでぇ…俺ばっか悪いみたいに…元はと言えばあのガキが…」
「…兄さん?いい加減にしてよ?どんな理由でも、あんな小さい子にむきになるなんて!」
「でも…」
「でもも何でも、言い訳は言わない!さ、行こう!」
先程の親子に向けたのと正反対の表情でエドワードを睨み付けると、アルはすたすたと歩き始めた。
「ああっ!待てよアル!そんなに怒るなよ…なあ!アルってば!」
アルの後姿を必死になって追い掛けるエドワードだったが、遂にその隣に並んで歩く事は許されなかったのだった。

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「なー、ごめん…もう機嫌直してくれよ?」
夕食の後も怒ったような表情のアルに、エドワードは前から横から背後から謝り倒す。しかし、アルはと言えばそれに対してもまだ無言のままだった。
(機嫌直さねえなぁ…仕方がない、最後の手段で行くか!)
万策尽きたように見えたエドワードだったが、とっておきの作戦があるらしい。そろそろと、洗濯物を畳んでいるアルの背後に近づくと、音を立てないように静かにその身体に抱き着き、首筋に唇を這わせながら囁いたのだった。
「アル…お前にそんな風に冷たくされると、俺…辛くてどうにかなっちまいそうになるよ…」
エドワードはそう言いながら左手の指先でアルのボリュームの出て来た胸の膨らみをやわやわと揉みはじめる。とたんにアルは身体をびくり、と跳ねさせた。
「やだっ!ずるっ…」
「だってさ、機嫌直してくれねえから…」
エドワードの指先がアルの着ていたシャツの胸元からするりと入り込み、ブラジャーを通り越してその下の素肌に直接触れて来た。その指先の動きに最初は大きくもがいていたアルの身体の動きが徐々に小さく、弱くなっていく。そして今度は切なげに揺れ始めたのだった。
「どうしたらいつものアルに戻ってくれる?」
胸の膨らみの先端にエドワードの指が届き、それを摘むようにして愛撫する。その感覚にアルは、あ、ああと声を漏らし、顔を紅潮させた。
「んっ…もおっ……そんな…」
「お前の好きなようにしてやるよ…な?だから…」
今度はエドワードの機械鎧の右手の指がシャツを捲り上げてアルのへこんでなめらかな腹を露出させる。ちょっと冷たいかもと思いつつも臍の辺りに触れると案の定、アルはぴくりと身体を反応させた。
「あん…もう怒ってないから…だから…やめて…」
遂に待ち焦がれていた言葉を聞いて、エドワードは嬉しさの余り抱きしめていたアルを更に力強く抱きしめた。と、とたんにアルの口から痛い!と悲鳴が漏れる。驚いたエドワードがアルの身体から離れると、目を潤ませたアルがエドワードを見つめてこう言ったのだった。
「ね、好きなようにしてくれるんでしょ?…だったら、部屋に運んでちょうだい…ちゃんとしたいよ…」
胸元を直しながらそう言うアルを、何も言わずに嬉々として抱き上げて、エドワードはベッドを目指して駆け出した。
自分達の寝室に辿り着いてアルの身体をベッドに投げ出すと、エドワードは薄く色付いたアルの小さな唇に自分の唇を重ねる。それはすぐに深い口付けになり、息を荒げながら互いの舌を吸いあった。
その間にエドワードはアルの服を脱がしに掛かる。部屋着のショートパンツのジッパーを降ろし、少しずつ腰から引き抜く。やがてその下のショーツがすっかり見えるようになると唇を離してアルの両足を揃えて持ち、ショートパンツを太ももの辺りに留めて、それから指先をショーツの股の部分に這わせた。
まるでおむつを換えられようとする赤ん坊のような格好のまま、アルはエドワードの指による愛撫を受けていた。2重になった布地越しに亀裂をなぞられ、時折力を入れて振動を与えられて、あっと言う間にその部分は潤いはじめる。この肉体を得てからしばらくして覚えた感覚にアルは堪らず声を上げ始めたのだった。
「ああ…ねえ…焦らさないで…ちゃんと触って…」
「どこを?どこを触って欲しいんだ、アル?」
アルの懇願に気付かない振りのエドワードは、焦らすように布地越しの愛撫を続けた。閉じられた太ももの僅かに空いた隙間から指をねじ込み最も敏感な突起に刺激を与える。するとアルは不意に息をのみ、背中を引きつらせた。
「あっ!それ…そこ…!」
「それ、じゃ分からないよ…ちゃんと言えるだろ?」
エドワードはなおも指先に力を入れて敏感な部分を刺激するが、突然その指を引き抜いてしまう。いきなり消えてしまった快感にアルが顔を歪めて今にも泣きそうになりながらエドワードの胸に縋り小さな声でつぶやいた。
「ボクの…触って…」
「なにを?」
「ボクの…あ…あ…」
ようやくアルが"Please touch my buttom..."と小さく言い終える。そしてそれを待ち構えてエドワードがアルの素肌を覆っていたショーツは脱がせて股を大きく開かせた。
その股の間はすっかり湿っていて、薄く生えた金色の和毛がぺったりと貼り付いていた。それでもそのまた中心の、アルが触れて欲しいと訴えた部分は充血して硬く勃ちあがっている。エドワードはその突起をそっと生身の指先で押した。
「やあっ…!ダメ…あん、兄さん!」
ほんの少し触れただけなのに激しく反応したアルに、エドワードは更に刺激を与えた。亀裂からとろとろと溢れるぬめりをすくい、突起に塗り付けるようにするとアルが身体をばたつかせる。より強い刺激を得ようとしているのか、それともそれから逃れたいが為なのか。どちらとも言えない苦悶の表情をアルは浮かべていた。
「きもちいい…あ…やだ…そんっな…ああ、ああ!ダメ!もう…」
だが、しばらくするとアルの様子は明らかに変わっていった。白い肌が赤く染まり、細い指がエドワードの金色の髪を掻きむしった。
「あ…あ…もっ…ダメ…」
アルの控えめな口元からちろちろと赤い舌の先が見え、そしてひっ、と喉を詰まらせたような小さな悲鳴とともにその身体が硬直し、徐々に弛緩していく。その姿に言い様のない興奮を覚えて、エドワードはズボンの下ではちきれんばかりに勃起した自らの欲望を解放した。
自分も服を脱ぎ、それからベッドサイドに常備してある避妊具に手を伸ばす。どうにもこの作業は何度やっても慣れないとエドワードは心の中でぐちた。片手が機械鎧のため、薄いゴムを扱うのはなかなか面倒で、最初のころはよく避妊具を破ってしまいアルに呆れられたのだ。
この時もそうだった。手間取って機械鎧の指で先端の部分をひねるべきか、それとも根元まで伸ばそうか思案していた。
その時に、快楽の余韻から解放されたアルがエドワードの手を押しとどめ、囁いたのだった。
「それ、今日はいらない…」
アルの言葉にエドワードは目を丸くした。確か10日と少し前にアレがつらいとアルはこぼしていたはずなのに。
「だって…ヤバいだろ?」
「いいよ…いらないよ…兄さんも、着けるの面倒だって、いつも言ってるじゃない…」
とろん、とした目でそう言うアルと封を切ってしまった避妊具を見比べて、結局エドワードは避妊具を放り投げたのだった
「本当に大丈夫か?」
もう一度、確認しながらアルの秘所にいきり立つ欲望を押し当ててエドワードが囁くと、アルはその先端の感触にもう我慢が出来ないといったようにエドワードの首に腕をからめ、腰を突き出した。
「はやく…入れて…」
エドワードはアルに請われるままにその内部へと自らの欲望を侵入させた。ぬめる感触と吸い付くような肉の熱感が堪らない。
「んっ…アル…すごい…お前の…全部、吸い取られそっ…あっ」
先程達したその余韻か、アルの内部はまだ収縮を続けていて、エドワードの欲望をきゅうきゅうに締め付ける。そのきつさに思わず声が上がった。
「んっ、ふ…あ、あんっ!あっ…ま…た…あ、あ…」
アルの方も再び快感の波に押し上げられ、苦しげに喘ぎ出す。エドワードの右肩を掴んだ指先が金属をかりかりと引っ掻いた。
やがて、押さえの利かなくなった2人は互いに激しく腰をぶつけるように動きだす。それに合わせてベッドが激しく軋み、悲鳴のように音を立てた。
「あっもっ…い…く…」
「…いいぜ…ほら…」
額に汗を浮かべて顔を左右に振りながら、アルは絶頂が近い事をエドワードに告げた。その様子を見てエドワードは更に激しくアルの内部を突く。
「やあっ!兄さん!一緒に!出して!」
「えっ…?」
しかし、アルの言葉にまたエドワードは戸惑って一瞬動きを止めた。妊娠の可能性があるのにそのまま中に精を放つのは躊躇われたので、アルが十分に達してから外に放とうと考えていたからだ。
「いっいいよ…お前がイッたら外に出すから…」
動きを止めてそう言うエドワードに、アルは顔を歪めて叫ぶように訴える。
「やだ!お願いだから…中にちょうだい…中に…欲しいの!」
そう言って、アルは泣き出してしまった。
普段ベッドの中ではエドワードのする事に大人しく従うアルが、この時ばかりは激しく自分の主張を通そうとしているのを見て、エドワードはどこかその言動に違和感を感じたのだった。
それでも、エドワードもまた愛しい恋人の言う事には逆らえないのだ。それに自分とアルとを隔てるものがないと言う状態は恐ろしいまでに魅力的で。
そんな訳で、彼が躊躇ったのはほんの数秒間のみだった。再び大きく動き始め、直に触れる粘膜の感触を十分に味わい尽くしてからアルの中にたっぷりと精を放つ。アルもまたそれまで押しとどめていた快感を解き放って、息を詰めがくがくと身体を痙攣させ、それからベッドの上に静かに横たわった。
「…アル、大丈夫か?」
エドワードは抜け殻のようになったアルの頬を軽く叩くと優しく問いかける。アルは声こそ出さなかったが微笑むと微かに首を縦に振りそれに答えたのだった。
「あー、汗だくだな。俺、シャワー浴びて来る!アルも来いよ?」
激しい行為のせいでそのまま寝てしまうのを躊躇われたので、エドワードはベッドから降りるとそう言ってバスルームへ向かおうとした。
「ボク、兄さんの後でいいよ…先に使ってて」
アルは横になったまま、笑って答えた。手を振り、エドワードに早くシャワーを使わせようとしている。
エドワードが部屋を出ていった後でのろのろとアルは身体を起こした。その拍子にエドワードの、アルの内部で放った精が溢れ出て来て、アルは咄嗟に手元にあったタオルでそれを押さえた。
そのままアルは何かを考え込むかのように動かなかったが、やがて諦めたように立ち上がるとまだ漏れ出て来る精を拭い、バスルームに向かったのだった。

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次に2人が抱き合った時、エドワードは例の様にベッドサイドの常備品を探った。しかし、どこをどう探ってもそれは見つからず、焦りながらそれの在り処をアルに尋ねた。
「えっと…捨てちゃった…」
「すっ…捨てたって…!」
避妊具を捨てたと、アルは苦笑しつつそう答えた。
「だってさ、そのままの方が気持ちいいし」
「そんな…人が恥ずかしい思いをして買って来たものを…」
呆然とするエドワードだったが、なんとか気を取り直し、ベッドの上でアルと差し向いになり話し出したのだった。
「あのな、現代に於いて、アレを使う事が最も確実な避妊方法だってのを知ってるだろ!」
「うん」
「それをどうして捨てる?いや、それよりも人のものを勝手に捨てるな!」
「…兄さんだけのものじゃないよ。ボクらの、だよ。それに残ってた分はボクが買った分だったし」
「うっ…でもなあ…」
「それより…ねえ、早くしようよ…してくれないなら、ボク自分でするよ?」
アルはエドワードの言う事に聞く耳を全く持たないといった風情で、ベッドの上で股を広げると白い指を赤く濡れた秘所に滑らせたのだった。
「ね…ここに兄さんの…入れて?ボク、欲しくておかしくなっちゃうよぅ…」
亀裂を指で割り開いて、露出した突起を指の腹で細かく震わせるようにして、アルは自らを慰め始めた。
「あっ…んっ…は…やく…我慢でき…なっ…あ…あ…っっっ」
思いきり開かれた内股がひくついて、その上真っ赤に膨れた突起や襞がエドワードを誘っているのが見て取れる。
避妊具を勝手に捨てられた怒りは収まった訳ではなかったが、アルの余りに妖艶な姿に、エドワードは喉を鳴らしながらその光景に見入っていた。
「兄さん!はやく、あ…あ…もっ…ダメ…ね、入れて?お願い…兄さんの…欲しい…!」
ごくり、とエドワードが唾を呑み込んだその時、アルは自分を慰める指の動きを止め、エドワードに縋り付いて密やかに話し掛ける。
「…大丈夫だから…しようよ?」
そのままエドワードを押し倒して馬乗りになると、アルは自分の秘所にエドワードの硬く反り返ったモノを擦り付け、腰を下ろした。
「んっ…おっき…い…あん…あ…いい…にいさん…」
「ア…ルッ…そんな…よ…せ…うっ…でちま…う…」
アルはエドワードの気分が良くなるような言葉を口にしながら、盛んに腰を振り立てる。エドワードは戸惑いながらもねっとりと吸い付くような肉の感触と快感にその行為に抗えずにいた。
やがて、アルの内部が強く収縮し、エドワードの欲望から彼女が欲していた精を余すところなく搾り取っていった。

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我に返ったエドワードは、またしてもアルの中で精を放ってしまった事に頭を抱えた。そして少しでもその確率が薄まるならと、うっとりとエドワードの腹の上で彼の欲望をくわえこんだままのアルをそのままの体勢で抱え上げると、やおら立ち上がり、バスルームに向かって走り出したのだった。
「ひっ!に…兄さん!やだっ!」
「動くな!アソコが裂けるぞっ!」
流石に自分より僅かだが背の高いアルを繋がったまま担ぎ上げなおかつ歩くのは小柄なエドワードにとって大変な事だったが、アルの足を床に下ろしてしまえば抵抗されるのは目に見えていた。必死の形相でバスルーム目指す。同じフロアにあったのがせめてもの救いだった。
ようやく辿り着いたバスルームで、アルの身体をバスタブのふちに下ろし、エドワードは素早くオーバーヘッドタイプのシャワーに長いノズルを錬成してアルの股間に押し当てた。暖かな湯が強い勢いで噴き出し、溢れ出したエドワードの体液やら、アルの体液やらを洗い流し始めると、アルはそれを見て顔を真っ赤にして抵抗し始めた。
「ダメだよ!やだ!あ…ダメ…なくなっちゃうよぉ…兄さんのがぁ…」
エドワードは手足をばたつかせるアルを無理矢理押さえ込み、その秘所に指を差し込んで中にあるものをすべて掻き出さんとばかりに湯で洗った。洗って洗って、ぬるりとしたものがすっかり出なくなった頃、ようやくエドワードはアルの身体を解放した。
「ひどいよ!なんで…なんで!」
「酷いのはどっちだよ!お前は俺に隠れて何をしようとしていたんだ?ああ?もうこのところずっとコンドームも無しにセックスさせて、なにがしたかったんだよ!おい、アル!」
目に涙を浮かべて抗議するアルに、エドワードはこのところ見せた事のないような激しい怒りの形相で叫んだ。その気迫についアルは息をのみ、そして今度は前よりももっと多量の涙を浮かべ、それをぼろぼろとこぼしながら呟いたのだった。
「だって…赤ちゃんが…」
その言葉にエドワードは凍り付いた。
「赤ちゃんが…欲しかった…」

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エドワードはアルを部屋に連れ戻して、寝間着を着せた。もうアルは泣いてはいなかったが目を真っ赤に腫らせて鼻をすすっている。そんな状態なのに話をしなくてはならない事にエドワードは身を切られる思いだったが、ここで互いの気持ちを晒さなくてはこの先も同じ事の繰り返しになるだろうと覚悟を決めて話し出した。
「この前の赤ん坊見たからか?…お前、昔っから犬やら猫やら子供やら好きだったもんな…でも…可愛いから欲しいってのは違うだろ?生むまでも大変、育てるのも大変だし…それに…俺とじゃ、ダメだよ。アル…」
血が濃過ぎるんだ。…そうエドワードは呟いた。
けれど、アルはエドワードの言葉に首を横に振って答えたのだった。
「確かに…あの子を見て、可愛いって思った…でも、そうじゃないよ…」
「なら、なんで…?」
「…怖いんだ…ボクが…いなくなってしまったらって…そう考えると…」
アルの指が寝間着の裾を握り締めて白くなっていた。
「アル…なんで…そんな事を?身体にどこかおかしいところでも見つけたのか?」
「…ううん。そうじゃないの…でも、あのお母さんと子供たちを見て…空を見上げたら、雲ばっかりの灰色の空で…怖くて…。ボクのこの身体がどうにかなってしまったら、兄さんはひとりぼっちになっちゃう…そう考えたら、もう、どうしようもなく怖くて。でも、もしボクと兄さんとの間に赤ちゃんが出来たら…兄さんはボクの代わりに家族が出来るし、ボクの代わりにその子が兄さんを愛してあげられるし…だから…」
紆余曲折を経て得た肉体だった。その上他人には理解し得ない程もつれた感情の上で実の兄との愛を成就させた。だが、心の奥底に些細だがいつでも拭い去る事の出来ない不安感を抱えてアルは日々を過ごしていたのだ。
そして、それを埋めるのがエドワードとの間に子を作る事の様に思えてアルは一連の行動を起こしていたようだった。
「バカ…言ってら…」
エドワードはぼそっと呟いて、それからアルを抱きしめた。
「お前の代わりの家族、だって?…そんなの、いらねえよ…」
背は自分より高いくせに、ずっと華奢なアルの肩を抱きながら続ける。
「大体、とんでもなく血が濃いのに、まともに子供が育つ訳がない…お前もその位分かってるだろう?」
「…近親婚の、他人同士との結婚との比較で、遺伝子異常の出る確率は50倍以上…一応、調べたよ…」
アルは感情のこもらない声で、どこかで得た知識を披露する。
「実際、そうだった…あの時の…」
「でも、それでも確率は100%じゃない!」
「でも、もしそうだったら?仮にそうでなくとも、お前の身体が耐えられないかも知れない…」
「大丈夫だよ!もう、身体だって…」
エドワードもアルも、声を震わせて、それでも必死に自分の思いを吐き出し続ける。しかし、エドワードは抱きしめていたアルの身体を解放してやると、やり切れない、といった風情で途切れ途切れに話し始めたのだった。

エドワードはその時、窓越しの眼下に痩せて変わり果てた姿の少女を認めていた。
彼女はこちらを見て微笑むと、そのまま地面に膝をつき、ゆっくりと上体を折ってそのまま倒れる。
エドワードは研究所で共に働いていた職員が驚いて止めるのも聞かずに、まるで転げ落ちるかと思う程の勢いで階段を降り、彼女の元に辿り着いた。
しばらく前に降り出した雨が少女の青白い顔を濡らして、そして淡いピンクの地に小花を散らした模様のワンピースからすらりと伸びた足を伝って血が流れる。流れ出た血は雨によって地面へと滴り、エドワードと少女の周辺を赤く染め上げた。
少女はまだ微笑んでいたが、それはエドワードの母が臨終の際に彼に向けたものと寸分も違わなかった。最も幼い頃の死の記憶を呼び起こされたエドワードは叫んだ。
「アル!アル、アル!」
会っていない期間は1月もなかったというのに、この痩せ方は一体どうしたのかと、少女の小枝のような腕を取り、エドワードは嗚咽した。やがて到着した救護車に一緒に乗せられ、救護車の乗員が口々に妊娠の可能性が、とか流産が、などと話すのをぼんやりと聞いて、ああ、こんな風に変えてしまったのは自分の所為なのだと理解するに到り、がたがたと酷く揺れる救護車のシートの背もたれに身体を押し付けて、また泣いたのだった。
やがて着いた病院の待ち合い室で、手術の為の承諾を得たいと医師に言われたが、両親共に居ないのだと説明すると医師は困ったように腕を組み、成年者のサインが必要だと呟いた。自分ではどうする事も出来ないのだと悟って、仕方なく自分の後見人の軍人の連絡先を医師に伝え、呼び出して欲しいと頼む。しばらくして連絡が取れたのか、処置室から寝台に乗せられて少女が姿を現す。エドワードはその少女の顔を一目でもいいから見たいと思ったが、こうして彼女が苦しむ原因を作った張本人が自分である事を思い出して、ゆっくりと移動する寝台を追い掛ける事もせずに、その場に立ち尽くしていたのだった。

「お前は言ったよな…誰かの犠牲の上で得た肉体なんて、欲しくないって…それは、俺にとってもそうだ。お前があんな風に苦しんで、身体をぼろぼろにして、そうしてまで生み出しても、俺は愛せないよ。そんな…そんなのは、嫌だよ…!」
掠れた声で絞り出すように言い終えて、エドワードはまたアルを自分の胸の中に抱きしめた。
「…もう、そんな風に考えるのは止めろ…俺達は、もう絶対に、どんな事があっても離れる事は無いんだ」
エドワードの言葉に、アルはただ、何も言わず頷いた。

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それから2週間あまりが過ぎ−アルの様子がどことなく落ち着かない事にエドワードは気付いた。
アルはなにかを話し掛けても心ここにあらずと言った風情でぼうっとしていたかと思えば、そわそわとしていたりで、火にかけていた鍋を焦がすに到って一体何に気を病んでいるのかとエドワードは尋ねたのだった。
「…アレが、来ない」
その、アルの一言に、エドワードは飛び上がって驚愕した。
「なんだってぇ!あ、あんなに一生懸命かき出したのに!!」
「もう、3日も遅れてる。…今まで、こんなに遅れた事、ないのに…」
「…そっか…はは…仕方ないよなぁ」
2人して床にへたり込む。
そう言いつつも、どこか冷静な自分を感じたエドワードとは反対に、そうなる事を望んでいた筈のアルは落ち着きを無くしていた。
「ごめんなさい…ボクが変なこと、するから…」
「アルのせいじゃない。俺やアルがどうこうしたからって、コントロール出来るものじゃなかったし…気にするな!」
涙ぐみ始めたアルを慰めながら、エドワードの頭の中ではこれからの生活設計が物凄いスピードで組み立てられていく。
(金の心配はしなくてもいいけど…アルがまたあんな風に辛くならないようにまず医者に診せて…ばっちゃんたちにはどう言おうか…それよりも先に、きちんと結婚とかするべきなのか?ってか、できるのかな?)
自分もアルもまだどう考えても子供で、それなのに本当に親になれるのかという不安はあったが、これから自分が何が起ころうともアルを守らなくてはならないのだと自覚させられているようで、エドワードは身を引き締めたのだった。

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もう何日か経たないと医者に診せても判断が付かないとのことで、2人はアルの次の休みの日、3日後に診察を受けようと相談してそれを決めた。
だが、その前日の夜、アルは診察を受けないと言い始めたのだった。
「…どうしたんだよ?先延ばしにするより、すぱっと分かった方が…」
その必要が無くなった、と、アルは笑って言った。
「さっきから、出血してるんだ…違ったみたい…」
そう言ったアルの表情はすっきりとしていて、それが逆にエドワードの胸を締め付けた。

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7月のセントラルは初夏らしい日ざしが差したか思えば、肌寒い雨の日もあって未だ上着が手放せない。
エドワードとアルは図書館に行った帰り道、どんよりと厚い雲の掛かる空を見上げていた。
「雨、降りそうだね」
いつも通りの穏やかな表情でアルはそう呟いて隣に立つエドワードの手を握り締めた。
あの日以来、アルはそれまで以上に明るく振る舞う事を自分に科しているかのようだった。
診察を受けるはずだった日、アルはエドワードに無理矢理引きずられてやはり診察を受けさせられた。結果は予想通り妊娠だったが流産していたと医師に告げられた。
今日のこの日と同じようなどんよりとした曇り空の下、アルは呟く。
「…まだ、2人きりでいても、いいって、言われてるみたい…」
アルの表情が穏やかな分、エドワードは言うべき言葉を失うのだ。
アルが泣き叫び、自分に呪の言葉を浴びせかけたのならば、しっかりと抱きしめ叱りつけ、そして愛していると言えたのに。
エドワードにはただ、アルが握っている手を強く握り返す事しか出来なかった。
「…ねえ、兄さん」
「…何だ?」
アルが空を見上げたまま話し始めた。エドワードは小さく返事をする。
「…ボク、もっと強くなるんだ…この身体が傷付きやすい分、ボクは強くなるよ…どんな事があっても、揺るがないようになるんだ…ダブリスのせんせいみたいに、なるんだ…」
アルが上を向いていたのは、溢れそうな涙を堪えていたからだとエドワードは知った。
「…せんせい、みたいに、か…。あんまり俺の事、殴るなよ?そういう所は似せなくてもいいんだからな!」
エドワードが子供の頃の様ににかっと笑って見せると、アルもつられて笑い、それと共に丸い金色の瞳からほろり、と一筋の涙もこぼれた。
「雨が降らないうちに帰ろっか!」
「おう!」
空にはどんよりと厚い雲が掛かってままだったが、2人は手を取り合い、駆け出した。

補足:近親婚についての捕捉。通常の50倍というのは常染色体性劣性の遺伝病のみで算出した数値です。突然変異によるものや優性遺伝のものも含めれば数値ははるか彼方まで跳ね上がります。

ちなみに、常染色体性劣性の遺伝病の通常(他人同士)の場合、発生頻度はパーセンテージで現せば0.0025%程度(約40000人に1人)ですが、これが0.12%(800人に1人か)くらいまで上がる訳です。 詳しくは病気毎に発生頻度や保因者頻度は異なりますが、まあ、他の本でも40000人に1人の数字が上がっていたのでこれでいいってことにして〜お願い〜。

参考:中込弥男 著 ヒトの遺伝(岩波新書)

      


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