エド×妹アルで終盤に成年向けな描写がありますので御注意ください。



蛇口からは、湯気を立てて勢いよく暖かなお湯がバスタブへと注がれている。
ボクはその様子をひどく胸を躍らせて眺めていた。

*   *   *

女の子の身体を得てから嫌だったこと。
座った時はいつでも膝頭はきちんと閉じていないといけない事。
だってそうしないと、みんなボクの事を驚いた顔をして見るからなんだ。
特に兄さんは両膝の間をじいっと見つめてそのまま動かなくなっちゃうし、そのまま何も言わずにいるとだんだん腰が引けてそのうちどこかに行っちゃうんだ。
それ以外にも、以前のようにあまり重いものを持ったり出来ないところとか、肌が敏感すぎるところとか、アレがあることとか…とにかく、いろんな部分で制約を受けてしまうことが多くて辟易してしまう。
でも、そんな中、この身体でなくては感じ得なかった幸せな事も、もちろんあった。

その中の一つがこの、お風呂に入る事だ。
バスタブの半分くらいまでお湯を溜めて、それからゆっくりとその中で身体を温める。
これはもうほとんど毎日の習慣のようになっていて、これをしないと眠れない日もあるほどだった。
お湯を溜めるのと一緒に最近流行のバスバブルも一緒に入れてバスタブの中を泡だらけにしてから足先からゆっくりとお湯の中に身体を浸すと、えも言われぬ心地よさが全身を包む。
でも、肩口までは浸からずに、せいぜい胸の辺りまでに留めておくんだ。あんまり深く浸かると後でのぼせて大変だから。
バスタブの中ではバスバブルの泡を身体中につけて、マッサージするように撫で回す。
バスバブルのいい匂いと滑らかな泡が全身を包み込んでいつまでもそうしていたい気分になる。
それから、バスタブのふちに頬杖をついて、そのまましばらくのんびりと過ごすんだ。
うっかりするとそのまま眠り込んじゃいそうになるからこれは注意が必要だけどね。
あんまり長い時間そのままでいると、兄さんが心配してバスルームの扉をノックしてくる。
絶対そのまま入ってこないところは兄さん自身もボクが女の子になった事にまだ慣れていないのか、ただ単に恥ずかしいのかどっちなのか分からないけど、とりあえず兄さんにいい加減にしろと言われてようやくボクはバスタブから出る決意をするのが常だった。

今日も、これから始まる魅惑のひとときにボクはひどく期待しながら洋服を脱ぎ始めた。
着ていたシャツを脱ぎ、下着に手をかける。
このブラジャーってやつは、なければないで非常に困った事になるし、つけていてもとても疲れる時があってあまり得意じゃない。 
疲れるのはホークアイ大尉曰く、身体に合っていないものを身につけるからだという事らしいけど、だって、ボクの胸に合うサイズって、なかなか売ってないんだよね。
それもあって、手早くブラジャーのホックを外してそれをさっさと取ってしまい、大きく腕を広げて伸びをした。
ああ、この開放感てば、お湯につかったときに匹敵するくらい、気持ちいい。
それからボクはショーツを手早く膝の辺りまで引き下ろし、それをそのまま足から引き抜いて、ようやくバスタブの中に浸る権利を得たのだった。
まるで初めて人前に立つ演説者のように、ボクはおずおずとお湯の中に右のつま先をほんの少しだけ、つっこんでみる。すると、とたんにぴりぴりと刺すような熱感がボクの皮膚を刺激した。
「ひゃあっ…!」
驚いて思わず両手で自分の二の腕をかき抱いて、その場に立ちすくむ。
「ちょっと熱かったかなぁ…でも、入っているうちにお湯も冷めるしね…」
一人そんな事をつぶやいてから、再びつま先をお湯の中に沈めた。
じいいん、と、痺れるような感覚が、お湯に浸かった肌から身体の中心へとしみ込むように襲ってくる。
ボクは小さく叫び声なんかを上げながら、徐々にお湯に浸かる部分を増やし、やがてボクの身体はいつもの胸元までお湯に浸かっていったのだった。

*   *   *

「なー、アル居るのか?」
ところが、お湯に浸かってくつろいでいるところに兄さんの声が聞こえた。
「悪ぃ、ちょっとションベンさせてー」
扉の向こうで、切羽詰まったような兄さんの声が聞こえる。
ボクがバスルームを使うからって我慢していたみたいだけど、ボクが遠慮なしに長風呂するから我慢しきれなくなったらしい。
バスルームは扉を開けて左手が洗面台、正面に便器が、そして右側にバスタブが備え付けられていた。
バスタブはこじんまりとしたボクたちが借りている家からしてみれば結構不釣り合いなものだった。
寝室2つ、リビングとダイニングのテラスハウスで、2階部分の半分近くを占めるバスルームは明らかに2人が、しかもそのうち一人は適当にしか使わないのに立派な白い大きめのバスタブとたっぷりのお湯が出る蛇口とシャワー、そしてバスルーム自体アンティーク調のタイルが張りつめられていてとても居心地のいい場所となっていた。
この家を建てた人の趣味だったんだろうけど(そして、ここに決めてもらうようにお願いしたのは実はボクだったりするのだけれど)。
ちなみに、バスタブと便器の間には仕切りが何もないので、ボクと兄さんは互いにバスルームを使うときは重ならないように避けるようにしていたけれど、今日みたいにボクが長風呂してしまうと時折兄さんがその被害を被る事もあったのだった。
「いいよ」
さて、話は戻り、兄さんに道端で立ちションをされるのもどうかと思い、ボクはそう答える。すると、兄さんがすぐにバスルームの扉を開けて中へと急ぎ足で入って来た。
「アル、頼むから長風呂も程々にしてくれよ。ションベンも自由に出来ない」
ほんの少しだけ不満の色の見える声でそう兄さんは言うと、ズボンのジッパーを降ろし始めた。もぞもぞとズボンの中からペニスを引っぱり出し始めたのでボクは一応気を使ってトイレの便器とは反対の方に顔を背け、それから反論した。
「おしっこくらい、いつだってすればいいじゃないか。兄弟なんだし、別に今更…」
そうだ、ボクは今女の子だけど、元々男同士なんだ。兄さんの股間についてるモノだって見慣れてるし、遠慮する事なんてないんだ。
でも、ボクのこの言葉を聞いた兄さんはひどく複雑そうに、困ったような顔をして、それからおしっこを全て出し終えたペニスをズボンの中に仕舞って呟く。
「…お前がよくても、俺が困るんだよ」
その声が兄さんらしくなくとても小さかったので、ボクはえ?って聞き返すと、兄さんは勢いよくボクの方を向いたかと思うと、すぐに顔を反対側に背け、それから怒った声で言ったのだった。
「大体な、そんなに風呂に浸かって身体がおかしくならねえの?今だって真っ赤じゃねえか!」
「大丈夫だもん。ちゃんとのぼせないように温度だって研究済みだから。赤くなってるのは血行が良くなってる証拠だし、リラックスできて、兄さんみたいにカラスの行水よりはよっぽど健康的だよ!」
そう。兄さんはお風呂で身体を温めたりはしない。
別にきれい好きじゃない訳じゃないけど、おそらくは機械鎧が浸水するのがどこか心配なんだと思う。
ウィンリィ曰く、ちゃんと防水加工を施しているからお風呂程度では壊れたりしないそうだけど、着けている当人にしてみれば、万が一動作不良が起これば、特に兄さんのように機械鎧がなくては身動きすら不自由になる人にとってはほんのわずかな異常も見逃す事は出来ないんだろう。
でも、ボクとしては日頃の緊張を解きほぐす最高の時間なんだ。そんな風に拒絶しなくてもいいじゃないか。
「せっかくちゃんとしたバスタブが備え付けてあるんだから兄さんも使えば?あったかくて気持ちいいのに!」
多分、そう言った後のボクの行動は兄さんにとって想定外だったんだろう。
ボクが兄さんの右腕を掴んでバスタブの中に引き入れたら、兄さんの身体はいとも簡単にお湯と泡の中へと沈み込んだ。
「うぎゃあ!がっ…あ、アル!あわ…泡が目に!よせってば!」
狭いバスタブの中で、首を絞められたがちょうのようにばたばたと大暴れする兄さんのおかげで、バスタブからは盛大にお湯が溢れ、バスルームはあっという間にお湯浸しになってしまった。
はわ、あわわ、と大急ぎでバスタブのふちにしがみつく兄さん自身、全身濡れみずく。頭のアンテナすらへたって履いていた靴の中も、ズボンも、かるくひっかけていたシャツも全てずぶぬれだった。
こんな風に慌てる兄さんはこの所見かけなかったから、なんだかボクはこれがひどく面白くて、ずいぶんと減ってしまったお湯の中で身体を折り曲げて大笑いする。
「うふ、ふふっ…ほら、気持ちいいでしょ?兄さんがお湯を外にこぼさなけりゃ、もっとあったかくて気持ちいいんだよ」
むうっと頬を膨らませてボクを見る兄さんに、そしてボクはもう一言。
「ボクの数少ない愉しみを邪魔しないでよね。女の子でいるのって、めちゃくちゃ大変なんだ」
そうなんだよ。いくら疲れていても大股開いてぐったりできないし、寝癖のついた髪なんかで外にも出られないし、下着は窮屈だけどちゃんと着けないと身体の線が崩れちゃうってみんなうるさいし、げっぷもおならも出来ないし!
ボクはほんの少し、それを言いたかっただけだった。それ以外の何物でもなかった。
女の子って疲れるよ。それだけ。
でもきっと、男だってそれは一緒だよね。
痛くたって悲しくたって涙なんか見せられない。女の子の前では(特に好きな子の前では)強がりばかりだった気がする。
今はまだ、この身体でしんどいと思う事の方が多いだけで、そのうち何事もなかったかのようにそれは日常に変わっていくんだろう。 
男でいた時に、しんどいなあって思っていたのと同じように。
ずぶぬれの兄さんはこんなボクをお湯のしたたる前髪を通してじいっと見ていた。
けれど、そんな兄さんの様子がちょっといつもとは違う事にボクはしばらくして気がついたんだ。
「…しんどいか。その格好でいるの、つらいか…」
「……あ、あのね、そうじゃ…なくて」
ボクは無神経にも兄さんをひどく傷つけていた事にようやく気がついた。
バスタブの中で濡れて縮こまった兄さんは、本当に苦しそうにそう吐き出した。
本当は、きっと何も言わずここから出て行ってしまいたかったに違いないけれど、そうせずに言ってしまうのが兄さんらしい。
「ごめんな…俺が代われるもんなら代わってやるんだけど、さ…無理、だから…」
それ以外はどうされてもいいから、と、兄さんはボクに向かって殴れ!と言わんばかりに自分の顔を差し出した。
だから、ボクは殴る代わりに兄さんの頭に手を置くと、そのまま思いっきりお湯の中につけてあげたんだ。
「ぐばっ!なっ!また、また泡が目にぃぃぃぃ!」
「腹いせに殴るなんてしてあげないよ!バカ兄!」
ボクの方も情けなくて泣きたかったのをわざと陽気に笑いながら言う。
「誰だってそう大した事じゃなくてもつらいとか、しんどいとか、言いたくなる時があるでしょう?兄さんみたいに深刻には考えてないからそんな顔をしないでよ!ほら!元に戻って!」
ボクがしんどいって思うように、兄さんだってしんどくて。
ボクたちはそれを忘れちゃいけない。
大きな目をもっとまんまるにした兄さんは、それからようやくばつの悪そうな笑顔で笑ってくれたのだった。

*   *   *

少なくなったお湯を注ぎ足しながら、ボクは兄さんのシャツのボタンをひとつずつ外しにかかっていた。
濡れた生地が滑りを悪くしてボタンがなかなか外れない。その間に兄さんはぐしょぐしょになった靴を脱いでバスタブの外へと放り投げている。
ようやく外れたボタンの次に、今度はズボンを脱がしにかかるついでに、ボクは兄さんに話しかけた。
「ねえ、兄さんにとって男でいてよかったって思う事って、どんな事?」
「いい事ぉ?うーん…そう言われても…別にないけどなあ。あ、そうだアレだな、お前が毎月苦しんでるやつがないのが一番よかったと思うぞ。多分、俺だったら我慢できねえ」
ズボンとトランクスを一緒に脱ぎすてて、靴と同じように放り投げた兄さんはそう言っておえ、と舌を出した。
「機械鎧の痛みに耐えた人が何を言い出すやら。他にはないの?」
兄さんはボクの問いにううーんと首を捻りながら口ごもってしまった。
そりゃそうだよね。どっちがどういいのかなんて、意識しながら生活したりしないもの。
でも、と頭を掻きながら、それでも兄さんは答えてくれたんだ。
「今のお前とこうして居られるって事かな…お前にしてみたら勝手な奴だって言われそうだけど、お前に俺と言う人間を受け入れて貰えてるってのが、何よりも俺には嬉しいよ。だって、俺はお前に迷惑ばかり掛けて、その上甘えっぱなしで、どっちが兄貴なんだか分からねえってどれだけ言われた事か…でも、怒りながら、あきれながらもこうして一緒にいてくれる事が…一番だ」
ボクが元の身体に戻れていたら。鎧のままだったら。
兄弟の情は確かに存在して、兄さんは誰よりも大事な人だったかも知れないけれど、互いの足りない部分を互いに満たそうとまではしなかったに違いない。
何かの意思が働いてこのボクにこの身体を授けたのなら、それはきっと、兄さんと2人きりで生きて行くための手段。
「…ボクが、今、この身体でよかったと思うのはね…こうしてあったかいお湯の中でのんびりするってすばらしいって事が分かったのと…兄さんが、ボクと一緒にいるのがうれしいって言ってくれる事だよ」
ひどく頼りなげなこの身体でしか知り得ない大きな喜びを、今こうしてあなたと共有出来ている事が、ようやく実感出来たんだ。

*   *   *

バスタブの中で膝を折り曲げてもどうにも身体は触れ合ってしまうから、いっそのことボクは兄さんの両膝の間に自分の足を割り入れて、そして顔を近づけた。
かさの増えたお湯の中で、ボクの胸がぷかりと浮いて揺れて、兄さんの目がまたそれに釘付けになる。
そんな仕草が面白くて、ボクはわざとお湯の中で身じろいで、そして兄さんの顔を覗き込んで笑った。
「あっ…あの、なあ、また胸がでかくなったんじゃないか?」
「うん。ちょっとだけだけど。また下着買い直さなきゃいけなくなりそう…お金かかっちゃうね、ごめんね」
「構わねえよ、それくらい…大した事じゃない」
そうやって話を続けていく内に、ボクは身体を少しだけ兄さんの方に寄せていく。
「兄さんだって、まだちょっとずつ背が伸びてるでしょ?」
「え?分かるか?!」
「分かるよ。でもこのまま伸び続けたら機械鎧を調整しないとね…」
バスタブのふちを伝ってボクの伸ばした指先が、兄さんの暖まった指先に触れる。
「ねえ、せっかく一緒にお風呂入ってるんだから、身体洗ってあげようか?」
ボクはその誘いの返答を耳にする前に、兄さんの腕を取ると手首の方から肩に向かって指先に強弱をつけながらなぞり上げた。
兄さんがひどく驚いて腕を自分の方に引っ込めようとするのを遮りながら、ボクはマッサージ、というよりも愛撫と言う言葉がぴったり来る動作を続ける。
兄さんの顔はますます赤くなってどこか息も荒くて、そしてそれはボクにも見事に伝播した。
先ほどから自分の中をかき乱していたものが、兄さんから伝染された熱によって具現化していく様がありありと感じられてどうにも堪らなくなった。
ぱちぱちと弾け飛ぶ泡と、乳白色のお湯の中をするりと抜けて兄さんの固く締まった胸板にしがみつくように身体を預けてそして囁いたんだ。
「ねえ、身体が温まって気持ちいいでしょ?」
「んっ…あ、ああ…そうかも…」
互いの身体のひどく敏感でとんがった部分がそれぞれの肌に触れ合いながら、ちりちりと募る切ない感触がもっともっととボクの身体を兄さんのそれに押しつけたがる。
兄さんの方もそれを察知してか、けれどもひどく優しく脇腹のあたりから上へと手を滑らせて、ぷかりと浮かんだ胸をすくいあげた。
「すげえ…掴んだら弾けそうだ…」
「平気…もっと、いろいろしてもいいよ」
兄さんの琥珀色の瞳がせわしなくボクの顔と胸を行き来する様がひどく楽しくてそう誘えば、小さな子供が初めて触れる小動物にちょっかいを出すように、ボクの胸の先端を指先で弾いたり、摘まみ上げたりし始める。先刻から身体を苛むちりちりとした感覚がそこで一気に頭のてっぺんまで突き抜けて、ああ、と、思わず声が漏れた。
「そこ…そこ…」
「アル?どこがいい?」
「そこ…んっ…そう…もっとつよ…く…」
もっとひどく揺さぶられて、この身体の中のものを兄さんの目の前で全てぶちまけてしまいたい。
でも、兄さんはいったんボクから指先を引くと、汗ばんでぺとりと額に張り付いたボクの前髪をかきあげながら、頬を撫でて言ったのだった。
「大丈夫か?」
「へいき…もっとしてくれないと、苦しくて…倒れる…」
「でも、この中じゃ…」
小さく遠慮がちにそう言った兄さんは、お湯の中を指差した。
「でも、俺ももうこんなだし…ここじゃなあ…」
ふと、お湯の中、泡にまぎれて顔を覗かせる兄さんのペニスの先端が目に入る。
おしっこをしていた時とは姿を変えたそれに思わず視線が留まってしまう。だって、それは大きく固く勃起していたからだった。
どうしよう、兄さんのアレから目が離せない。
「自分でもイヤになるなあ。ションベンしたいだけなのに、お前が横でその格好で居るのを見ただけで…勃っちまうとすげーションベンしにくいの、お前もちったあ分かるだろ?」
ああ、と、ここで理解する。ボクがいるとこうなるから、ボクの前でおしっこするの嫌だったって。
すっかり遠い昔の思い出と変わり果てた時代を懸命に脳裏に思い浮かべ、それからボクは兄さんの赤いなめらかな色味の先端を目にしてどうにも自分の中でむずむずと何かがわき上がるのを自覚して、ボクは兄さんの肩口に縋って囁いたのだった。
「せっかく暖まったんだから、冷えないうちにボクをいいところまで連れて行って?」
そう紡いだ唇が、もうひとつの熱っぽいそれに塞がれ吸い出されて喘ぐように声が漏れた。
どうん、どうんと信じられないほどの鼓動が、たぷたぷとした胸の、デリケートな肌を通して兄さんに聞こえている気がしてならなくて、それでまた熱が上がる。
「…やっぱり風呂に浸かり過ぎだな。ほら、腕だって真っ赤じゃねえか」
兄さんは二の腕の内側の柔らかいところに唇を押し当ててそう言った。
「違うよ…兄さんが…そんなこと、するからでしょ…」
「違わない…ほら、胸だって。皮膚が柔らかいところはどこもかしこも熱がこもっちまってるぞ…こっちも大変だ。早く冷やしてやらねえと溶けちまうかも」
御託を並べながら兄さんはボクの太ももの付け根のその奥まで指を這わせている。
その指がボクの中をかき回す度、お湯が入り込んでは兄さんの指が溢れ出させたぬめりと混じり合った。
「もう…ゆび…やめて…あつ、い…」
「出るか?」
「ん…」
ぬる目のお湯で全身を洗い流して、ボクは兄さんに横抱きのされながらバスルームを後にした。
今度はひんやりとしたシーツの上で、ボクは兄さんに全身くまなく触れられて、塞がれて、あのバスタブのお湯のような、熱っぽくて心地いい場所を漂うんだろう。
「ね、ボクがお風呂以外に好きな事、これから教えてあげる」
「それって俺も好きになれるか?」
「うん、多分お風呂と違ってずっとそうしていたいって思うよ」
(おわり)


うちのアルがお風呂好きなのはアル自体がお風呂好きなんではなくて、肉体の方の記憶が羊水の中をただよっていた時の事を憶えているからっつー理由があったりします。
ま、それは置いといて。
初出は2006年12月発行のコピー誌で冬コミの新刊2冊のうちの1冊でした。(もう1冊は『Sacred Heart』だったっけ)
このコピー誌、前日から徹夜して作ったおかげで面付けミスがありました(話はちゃんと読めるんだけど、話の途中に唐突にあとがきページが入ってたとかだった)。冬コミでお買い上げくださったみなさん、本当にすみませんでした……。
なお、Web再録に際して一部(一言抜けていた部分を足したり程度)修正しました。


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