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君を待つ理由

時間軸はTV本編24話あたりです。そして一騎と総士は17話で結ばれている設定です。成年向け表現がありますのでご了承の上でご覧ください。



……総士、総士!
まどろみの中で耳にする声は、かすかに震えて自分の名前を呼んでいた。
ずっと聴きたかった声。自分を自分にしてくれた声を。
「かず……き……か……」
「総士!よかっ……た……このまま、目、覚まさなかったら俺……もう……」
皆城総士はそれまで閉じていた目をゆっくりと開き、自分の横で付き添っている人間を見た。
天井に据え付けられている照明が逆光になってはっきりとは見えなかったが、声でその人物が幼なじみであり、ファフナーパイロットである真壁一騎だと言う事が分かった。
アルヴィスの制服を着た一騎は総士の右手をしっかりと包み込むように握りしめている。次第に意識のはっきりとして来た総士は、自分がどうやらベッドに寝かされており、そしてそのベッドの傍らに一騎が付き添っているのだという事を理解した。
「一騎……おまえ……身体は……」
「ああ、同化症状はもうすっかり治ったよ。大丈夫……」
次第にはっきりとして来た視界に映る一騎の表情は笑顔ながらも両目に溢れんばかりの涙を溜めており、笑った拍子にぼろりとそれが頬を伝って二人の手へと滴った。
「……そうか……それは……よかった……」
「うん……」
総士の手を握りしめたまま、一騎はこぼれた涙をシャツの裾で拭い、総士に向かってまた笑顔を見せようとするが、丸く大きな瞳から次々と涙があふれてそれもままならない。仕方なく、一騎は嗚咽をこらえて奇妙に歪んだ表情を総士に向かって見せて、総士はそんな一騎の手を弱い力で握り返した。
「一騎、僕は……あれから、どうしていたんだ……?」
戦闘の途中でフェストゥムにジークフリード・システムごと攫われた筈だったのだ。それから竜宮島を攻略する方法を聞き出そうとしたフェストゥムによって様々な幻覚で精神を揺さぶられ??肉体の感覚もおぼろになり、意識すら遠のいた果てに、この場所で意識を取り戻した。どれほどの時間が経過したのかも分からなかった総士はただ一騎の顔を見つめて、彼の返答を待っていた。
一騎は総士の手を握ったまま、しばらくはその優しげなまなざしを総士に向けているだけだったが、しばらくの後、言葉を発する事をためらうかのように顔を横に背けて悲しげに表情を歪めた。
「ど……どうし……た……?何が……起きた……?」
「総士……ごめん……」
ぼそりと一騎はそれだけを総士へ告げてまた黙り込んでしまう。その姿に最悪の事態が起きている事を察して、総士は力の入らない身体をなんとか起こして一騎の腕に縋って叫んだのだった。
「一騎!頼む、一体何が起きたのか、僕に教えてくれ!どんな……どんな事が……一騎!」
総士のその叫びにも一騎は答えずに、ただ悲しげな表情のまま、顔を背けていた。しばらくして、今度はまた涙ぐみ始め、小さく嗚咽を漏らしながらようやく口を開いた。
「ごめん、お、俺……島を、守れなかった……そ、総士を探しに、俺が最初に島を出たら……すぐにあいつらが……来て……急いで引き返したけれど、俺が戻った時には、もう……な……にも……ごめん……ごめん……」
「一騎……」
「一人でもいいから……だ、誰か、いないかって、でも……誰も、誰も……!」
「……一騎、もう、分かった……もう……」
総士は声を詰まらせて泣き出した一騎を自分の胸に抱き寄せると、そのまま一騎と同じように泣いた。
一騎を責める事など総士には出来はしない。竜宮島を瞬時に殲滅できるような数の敵に、たとえ一騎のように優秀なパイロットとずば抜けた機体があったところで勝ち目はないのだから。
それどころか、島の末路をまざまざと見せつけられる結果となった一騎が哀れで仕方がなかった。
誰よりも島に住まう人々を守りたいと考え、その身を削ってまでも戦った一騎と共に涙を流し、失われた自分達の大切な人々と場所を悼むべきなのだと思った。
「それでも……お前だけでも生き残れたのは幸いだった……」
ひとしきり泣いた後で、総士は一騎の肩を、赤ん坊をあやすように優しく撫でながらそう言った。それまで号泣していた一騎も、その感触に落ち着きを取り戻して涙に濡れた顔を上げ、なんとかといった風情でいつもの柔らかな笑顔を総士に向けたのだったが。
「ああ……俺も総士にまた会えるなんて思わなかったよ。あの後、俺もフェストゥムに捕らえられたんだ」
「な……ん……だと……?」
そう言えば、一騎はどうやってフェストゥムに拿捕されていた自分を取り戻したのだろうか?
捕らえられている場所すら、分からなかった筈なのに。そして、同化症状に苦しんでいた身体を誰が治療したというのだろうか?
一騎の話通りであれば、アルヴィスでパイロットらの同化症状を治療していた遠見千鶴も島もろとも失われた筈であるのに。
総士の中で急速に一騎へ対しての警戒心が沸き上がった。目の前の彼は一体何者なのか?本当に一騎なのだろうか?そして自分は……?
「一騎、お前はどうやって僕をここへ運んで来たんだ?マークザインを動かす事もやっとだったお前の身体を治療したのは一体誰なんだ?僕の身体だって……!」
総士は矢継ぎ早に一騎へ対してそう問いただしたが、一騎は総士に対してあの穏やかな表情のままでぞっとするような言葉を告げた。
「フェストゥムが俺の身体の同化症状を治してくれたんだ。もちろん、お前の身体もだよ、総士。俺、今までフェストゥムの事を誤解していたみたいだ。あいつらは俺たちの事を理解したいと思っていただけなのに、俺たち人間ときたら破壊する事しか考えていなかったんだ」
「待て、一騎……そんな事を言うな!」
「もう、戦わなくてもいいんだ、総士。あいつらは俺たちの事をすっかり理解してくれたよ。俺たちをひとつにしてくれるって……素晴らしい事だろう?なあ、総士……総士……?」
違う!一騎じゃない!一騎はそんな事を言わない!
激しい拒絶が総士の内部でふくれあがって、それまで抱き寄せていた一騎の身体を思わず突き飛ばす。総士の力の十分に入らない腕で一騎の身体はほんの僅かに揺らめいただけだったが、そうされた一騎の方はあからさまに不服そうな顔を総士に向かってみせていた。
「総士、なんでそんな事を考えるんだよ?俺は俺だ、真壁一騎だろう?ほら、もっと側に寄って見てくれよ」
一騎はそう言って顔を総士の前に突き出した。総士が横になっていたベッドの右側に一騎はいたので総士はいつもしていたように右目で一騎の姿を捉える事が出来たが、一騎自身が言うように一騎そのものの外見をしていても、どうしても目の前の彼が一騎だと思う事が出来なかった。
「……一騎、なぜ、僕がそう考えたと言えるんだ?僕は何も……」
「総士は俺の言う事を受け入れられないのか?……俺は総士の為に戦ったよ。お前の命令だってちゃんと聞いた。お前に黙って島を出た事もあったけれど、今はお前の為になんだってする覚悟は出来ている。俺はお前の事が好きだよ、総士。お前だって……俺、知っている……お前が俺の事をどう思っているかって……ファフナーに乗って、クロッシングをしていれば、システムのお前と感情を共有できるだろう?俺、嬉しかったよ……総士が俺の事をそうやって見ていてくれたんだって分かってさ……なあ、だから……」
「かず……き……」
「……そうか……総士は俺の事をもう聞いてはくれないんだな……なら、もう俺が総士の側にいる必要もないって事だよな……残念だよ、総士……」
一騎の言う事を受け入れられずにためらう様子を見せていた総士に、一騎はそう冷たく言い放つと椅子から立ち上がり、部屋の入口に向かって歩き始めた。
一騎のその足取りに躊躇はみじんもなく、やがてそこまで辿り着くとロックに手を伸ばして扉の解除をし始める。冷たい電子音が鳴り、扉のロックが解除されたその瞬間、思いあまった総士は、
「一騎!……すまなかった……お前が嘘を吐く筈もない……島の事を聞いて少し取り乱してしまっただけだ……」
そう言って、縋るように右腕を一騎に向かって伸ばしたのだった。
総士の言葉にそれまでの硬い表情をほんの少しだけ緩めた一騎は、出て行こうとしたときよりも更に早足で総士の枕元まで舞い戻り、そのまま情熱的に総士の身体を抱きしめる。総士の栗色の髪を乱暴に指先でかき乱しながら。
「ああ……分かってくれたんだ……俺、嬉しいよ……総士」
抱きしめられながら、総士は一騎の匂いを胸深くまで吸い込む。
初めて彼とこうしたのは、一騎が竜宮島へと帰還した後だった。大した会話も出来ぬまま、それでも互いに心を通わせて。一度はそれで満足して別れたというのに、不意にあの優しいまなざしが眼前に思い出されて咄嗟に再び彼の部屋の扉を叩いたのだ。
総士を目にした一騎の表情は驚きながらもひどく優しくて、何も問わずにそのまま抱きとめてくれた。総士が一騎のその腕の力強さと自分を包み込む懐の広さを感じて戸惑えば、ただ名前を呼び、子供をあやすかのように大丈夫だ、もうどこにも行かないからと囁きかけてくれた。
「一騎、僕から離れないでくれ……」
「ああ、もちろんだ。俺はずっとお前の側にいるよ」
ベッドの端に腰を下ろした一騎は総士の顔を両手で捧げ持つかのように触れると、そのうすくれないの唇にそっと自身の唇を重ねる。触れるだけの口づけを何度か繰り返す内にやがてそれは深くむさぼるように激しいものへと変化して行った。
「総士……いいか……?」
「……ああ……」
互いをむさぼり尽くすかのような口づけの後、一騎が上気した顔で総士へ尋ねた。
指先は言葉よりも先に総士が身に着けている薄いブルーの検査着の下の鎖骨をなぞり、そこから下方へと滑るように移動して両胸の飾りを探るかのようにうごめいている。けれど、総士の許しを得た途端、着衣の下にさっと潜り込んで来て、硬さを増した胸の先端を転がすように愛撫し始めた。
「あっ……か、一騎……」
ぴりぴりと肌を刺すような快感に堪らず声を上げた総士を、一騎は更に追いつめていく。
空いている方の手を総士の股間へと潜り込ませ、固く閉ざされた窄まりへと指を差し入れたのだ。その瞬間、総士がくっと息を詰めて身体を固くするが、一騎は構わず指先でその周辺をほぐすように動かした。
「一騎、そ、そこは……」
「いいから。力、抜いてくれ……ちゃんと慣らさないと。俺、総士とここで繋がりたいんだ……いいだろう?」
「し、しかし、あ、ああっ、一騎、そんな……んあっ!」
一瞬の不意をついて、一騎の指が総士の体内へと埋め込まれた。最初はそろそろと探るかのように慎重だった動きが、ある敏感な部分を見つけ出すと、そこばかりを触れてくる。
そうしている当の一騎には全く他意はないのだろう、総士に快感を与えているのだという事実が嬉しくて、親の手伝いが出来て得意になっている子供のように、ただその部分だけを繰り返し愛撫していた。
「う……あっ……か、一騎、頼む、もう……」
やがて、縋るような目をして総士が一騎へと訴えた。快感に直結する部分を執拗に責められ既に幾度となく達していた総士の身体は明確な終着点を欲している。一騎自身を受け入れ、繋がり合う事を。
「俺のが欲しい……?」
一騎は総士の訴えに笑顔を見せ、それから身に着けていた衣服を総て脱ぎ捨てた。総士の手を下半身の熱り立つ自身へと導きながら尋ねると、総士は潤んだ瞳で頷いた。
「一騎、ああ、頼む、はや……くっ……」
「どこに欲しいか言ってみてよ?総士のどこにこれを入れたらいい?」
懇願する総士の様子を目にした一騎がほんの少しばかり悪戯心を起こして穏やかな口調でそう尋ねながら、自身の昂りの先端を総士の窄まりに押し付けて前後に動かしたのだ。その行為に総士は身体を震わせた。
「そっ……そこに……」
「そこじゃ分からない。もっとちゃんと言って?俺にだったら言えるだろ?」
「か、一騎のが……当たってる、所に……」
「総士はココに、俺のを入れたい?」
「一騎、お願いだから、ああ、早く!」
余裕のある口振りではあったが、一騎自身も切羽詰まっている。
総士の言葉を待たずに己の昂りをきつく閉ざされたそれに突き立てるようにすると、そのまま腰を押し進めた。無理矢理に割り開かれた肉はめりめりという音を立てそうなほどに軋み、一騎の昂りを飲み込んでいった。
「総士ぃ……お前の中、熱くて、キツい……すごく良くて、おかしく……なり、そ、う……」
一騎がうめくように総士の耳元でそう囁けば、総士は一騎の下で細かく身体を震わせながらただ一騎の背に縋って言葉にならない声を上げていた。
「そう……しっ……ちゃん……と、気持ち、よかったら……言って……」
一騎は挿入したまま総士の腰を高く持ち上げると、両足首を掴んで左右に開脚させる。真上から突き刺すように抽送を繰り返しながら総士の耳元へ顔を寄せては甘ったるい吐息まじりの睦言を囁いた。
「総士、総士……もっと……俺をちゃんと見てっ……んっ……ほ……ほら……お、お前のココ、もうグチャグチャ……俺のを食おうとしてるみたい……ああ、熱いよ。熱くてキュウキュウって……あ、ダメ、もう出るっ!総士!総士っ!」
ほどなくして、一騎は総士の体内へと精を注ぎ込んだ。
総士の中で爆ぜた熱は一騎の昂りにまとわりつきながら白く泡立ち、窄まりの周囲に溢れ出している。
一騎は窄まりの周囲に左手の指先を這わせて吹きこぼれた精を掬い取ると、それを総士の口の中へと捩じ込み、笑いながら言った。
普段の暖かみに溢れる表情からはかけ離れた、どす黒い情念に染まった一騎の笑顔に、快楽のただ中で揺れていた総士もさすがに驚き、一騎から繋がった身体を離そうと身をよじる。しかし、一騎は右手で総士の首を押さえつけており、総士がほんの少しでも抵抗を示せばそのまま縊られてしまいかねなかった。
「ほら、俺の精子……ちゃんとしゃぶってくれよ」
「ん……む……ふ、んん……かっ……はっ」
「総士って、こっちだけじゃなくて、口ん中も熱くてねっとりしてて、すごくいやらしいな……もっと俺の精子舐めさせてやろうか?お前の尻の穴から俺のを抜いて、お前にしゃぶらせてやるよ……そう言うの、好きだろう?汚されたものも、汚いものも……だって、お前がそうなんだから……そうだろう、なあ、総士?」
「か……か、かず……きっ……やめ……」
「俺の事を何年も蔑んだ目で見やがって、あげくあんなものに乗せて俺を苦しめたお前に、このくらいしてやったってどうって事ないよな!ああ、そうさ!俺は自分を守れれば他にどんな事だってするさ。お前を傷つける事だって!だからお前も俺を好きなようにすればいい!そう、そうだ……子供の頃、しようとした事を……ずっとひとつになりたいと言っていたじゃないか……なら、そうしろよ……そうするんだ、総士!」
違う、違う、違う!僕はそんな風にお前を見てはいない!僕はもうそれを望んではいない!僕はお前を……。
「あっ……ああ、あ……あ……うあ、あああーっ!」
一騎に身体を押さえつけられたまま、総士は声を上げて泣き出した。そんな風に振る舞うのは、幼い時分に一騎に左目を傷つけられた時以来だったが、そうしなければ自身を保てなくなるのだと、ただそう自分に言い聞かせて泣き叫び、そして弱々しく腕を伸ばして一騎へと縋り付いた。
「かず……き……ぼくを……ああ、こわ……して……たの……む……」
「……総士?」
「おねがい……だ……壊して……あいつらと同じように……もっと、もっとかき回して、ぐちゃぐちゃにしてく……れ……」
「……いいのか……?」
「お願いだ、もっと……もっと、お前を僕に与えてくれ……ああ、なんでもする。だから、もっと……もっと……」
「……分かった。お前の言う通りにしてやる……総士……愛してる……」
涙にまみれた総士の顔に何度も口づけを落とした一騎は、総士の首を押さえつけていた右手を解き、その指先で総士の乱れた栗色の髪を梳いた。
総士の表情が幾分か和らぎ、いつもの整ったかんばせに淫蕩な笑みがうっすらと浮かんだのを見計らい、一騎がまだ繋がり合ったままの下半身をゆるりと動かし始める。すると、途端に総士が切なげな吐息を漏らし始めた。
「一騎っ……ああっ、そっ……」
「総士、ちゃんと俺に教えてよ……どんなに感じているのか、どれだけ俺の事が欲しいのか……」
それまで総士の身体を組み敷く形だった一騎が、総士の身体を抱きかかえたまま体勢を入れ替えた。総士が一騎の腹の上に乗る形になる。慣れない体位に総士は一騎の上で顔を赤くして身をよじった。
「こうすると、総士がよく見えるな」
一騎が総士を見上げながら無邪気に笑って言った。だが、総士はと言えば、ぷいと顔を横に背けている。
「ば、莫迦……そんな事を言うな……恥ずかしい……」
「総士は俺に見られるのは嫌いなのか?俺は……ずっとお前を見ていたい……お前を傷つけた時から竜宮島の平和が破られたあの日まで、俺は総士を見る事が出来なくて……どうしようもなく、お前の事が気になって、お前の事ばかり考えていたのに……だから、こうしてお前だけを見ていられる今を……終わらせたくないと思う……」
だが、一騎の率直な告白に、総士もまた己の心情を吐露せずにはいられなかった。
「僕は……お前が見ていたいと思う僕になれたのか……?」
「……ああ。そうだよ」
「しかし……皆を守る事も出来ずに敵に囚われた僕に……そんな資格が……」
「それは……総士の所為じゃないだろ?島は、あの場所に生きる者皆で守るべき場所だった。それは叶わなかったけれど、これからは俺とお前、二人で……生きて行こう……」
「一騎……うれしい……もう、僕の元から……離れないでくれ……」
総士は一騎へと顔を寄せてそう告げると、唇を重ねた。絡めた舌先から伝わる一騎の唾液がひどく甘美に感じられて、そのままずっと味わっていたいと何度も舌を一騎の口中へと差し入れては彼の歯列や上あごの粘膜をなぞり上げる。
総士があまりにキスばかりに熱を上げていたので、一騎は、
「総士、ほら、キスばかりじゃなくて、こっちも……」
総士の顔を自分から引き離して笑ってから、下から腰を突き上げるように動かし始めた。
「あっ!か、一騎のがっ……僕の中で……あ、あ……こすれ……うあ、ああ、駄目っ、もっ……あああーっ!」
体内の肉壁を隔てて存在する最も敏感な箇所を抉られるように擦られ、総士は背をのたうたせながら果てた。果てた後も一騎は緩やかに腰を動かし続けていて、快感の余韻が引ききらないうちにまた高みへとさらわれてしまう。
「あっ、ま……か……一騎、まっ……また、あ、あ、あ……」
「総士、ココをゴリゴリされるの、本当に好きだよな」
「莫迦、そっ……やめ……んあ、駄目だっ、一騎、一騎っ!」
「総士、もっと……たくさん感じてくれよ……もう、お前ばかりが我慢する事なんてないんだ……好きなだけ俺とこうしていればいいんだ……」
総士の汗ばんだ身体を抱きしめながら、一騎は言う。一騎自身も総士の体内でその昂りを締め上げられて、いよいよ果ててしま寸前にまで至っていた。
一騎が総士の顔を引き寄せて、強引に唇を重ねた。
息も継がせぬほどに荒々しいキスに、総士は体中の血流が逆巻くのを感じて、自分から腰を一騎に押し付ける。刹那、一騎がうめき声を上げながら、総士の中の、あのたまらなく刺激的な箇所にそれまで溜め込んでいた熱を放ったのだった。
「総士……俺の大事な総士……愛してる……」
「ああ……僕もだ、一騎……」
嵐の過ぎ去った後で、それぞれの存在を愛おしむように、二人は互いの顔に触れてその指先を手に取り唇で触れる。
だが次の瞬間、一騎は唐突に作り物めいた笑みを浮かべて、
「総士……なあ、今度こそ身体だけじゃなく……本当にひとつになろう……」
ぞわぞわと心を直になぞり上げるような声色で総士へと言ったのだった。
「一騎……?」
「さっきも言ったじゃないか?もうお前と俺には帰るべき場所はないって。だからひとつになるんだ。総てがひとつになれる場所へ、二人で……」
「一騎、そんな……」
「総士は俺とひとつになりたくないのか?」
「一騎……それは……それだけは、できないんだ……」
総士は悲しげに頭を振り、一騎の顔を見下ろした体勢で右腕を一騎の首元へと添えると、そのまま渾身の力を込めて一騎の喉笛を押しつぶした。
苦しげにうめき声を上げた一騎は懸命に首を締め上げる総士の手を払いのけようともがくが、爪の先で総士の白い肌を引っ掻くばかりだ。
「そうっ……し……な……で……あ……」
「……僕がこうしている事をお前はおかしいと思っているんだろう?……確かに僕には一騎が必要だ……しかし、お前は必要ない……一騎を騙る偽物に用はない」
静かに目を閉じて更に腕に力を込めると、骨のひしゃげる鈍い音が総士の耳に届いた。けれど、一騎の喉を締めた手に彼の肉の感触はもう残っておらず、そればかりか総士自身の指も、手も、実感を得る為の肉体は既に失われていたのだった。
「……フェストゥム……一騎を利用するとは……狡猾さもここまで来ると見事だと言ってやりたくなるな……」
これまでも敵対するミールからの精神攻撃に耐えて来た総士だったが、一騎の幻影を使って総士の精神を誘導しようとした相手に対して、総士は自身の別の思考を仕立て上げ、拮抗させたのだ。
「……僕の弱みに付け込めたと思っただろうが……あいにく、僕は自分自身の中に複数の思考を構築し、それをどれも同列に扱う事が出来る。フェストゥム、お前が入り込んだ思考は僕であって僕自身ではない……一騎達がこの場所に到達するまで、僕は決してお前に真実の僕を触れさせはしない……」
自分を捕らえているミールとは別系統のミールを有する総士にとって、フェストゥムの読心能力に対して防壁を築く事はさして難くはない。しかし昼夜を問わず責め続けられ疲弊した精神はほんの僅かなほころびを生じ、そしてフェストゥムはそこへつけ込む形で総士を凋落させようとしていたのだ。
そんな駆け引きが総士と敵フェストゥムの間でもう幾度となく繰り返し行われている。この先も同様の誘導が行われる事だろう。
囚われているジークフリード・システムの中で、総士はまだ動かす事の出来る目で周囲を見渡した。竜宮島から離れてからどのくらいの時間が経過しているのか、ほんの少しだけ気になったが、あの竜宮島で拘束された際のわずか1日にも満たない時間ですらもう自分には認識できずに居た事を考えると、ここでそれを気にかけてもあまり意味のない事なのだろうと想い至った。それよりも、フェストゥムが自分の肉体の大半を同化してくれたお陰で、肉体的な苦痛が思考を妨げなくなった事が総士にとっては僥倖だった。
これでまだしばらくは奴らからの誘導にも持ちこたえる事が出来るだろう。
「……まだ、ここでお前を待つ事が出来そうだ、一騎……」
一騎。
その名を口にして総士は深い慚愧の念に駆られた。
「一騎、すまない……僕は、僕自身を守る為に、お前との大切な記憶を……利用した……」
総士にとって、そして一騎にとっても、おそらく最も大切なもののひとつである筈だった。
クロッシングを通さずとも理解し合えたと感じたあの夜の出来事。誰にも明かさず、二人だけの密やかな約束にしようと誓い合ったそれを、フェストゥムを幻惑する為に総士は差し出したのだ。
先刻まで愛を囁いていた相手をためらう事なく縊る総士へ、フェストゥムはもう一騎の幻を利用する事はないだろう。
だが、果たしてそれが正しい事だったのかと言えば、そうとは思えずに総士は苦悩する。
それでもたったひとつだけ、そうしなくてはならない理由を総士は得ていた。
意識の片隅に、いつまでも消えずに残る一騎の悲痛な叫び。失われようとする己が半身を取り戻そうとする彼へ、伝えなければならない。
「生きていてくれ、一騎……僕も必ず、お前の元へと帰る……もう一度、お前の腕の中でお前を感じたい……」
たったひとつの理由。たとえ既にその肉体が失われていたとしても、たったひとりの、自分を理解してくれるその人の元へと、回帰する為に。
いかなる物をも利用してでも存在を保たなければならないという、決死の思いを抱きながら、総士は思考を自ら築いた防壁の奥へと沈み込ませる。
ようやく僅かばかりのまどろみの時を得て、目を閉じた。
その目尻からほろりと溢れ頬を伝う暖かな感触は果たして涙だったのか。
もうそれを知る術を総士は失っている。
「一騎……」
それでも、その涙を掬い取り、暖かな腕の中へと誘ってくれる彼の人の名を、繰り返し呼び続けていた。
おわり