Novels

僕たちの見た風景

もしかしたらパラレルワールドかもしれない世界のお話です。



小さな猫を拾った。
全身がやや灰色がかった黒で、喉元とお腹の一部分だけが白かった。
学校からの帰り道、神社の賽銭箱の下の所で、小さく丸くなって震えている所を見つけて家に連れて帰った。
僕の家はお母さんがいないし、お父さんも毎日仕事、2つ下の妹は身体が弱くてずっと入院中だ。
だから猫を飼うなんて無理だと皆に反対されたけれど、一生懸命自分で世話するからと言い張って、そしてようやく僕のうちで一緒に暮らす事になった。
最初は僕の事を怖がって部屋の隅に張り付いたまま動かなかった猫だけど、傍に寄って小さな黒いビー玉のような目を見て大丈夫だよと言い聞かせたら、ようやく小さなざらりとした舌先で、僕の指先を舐めてくれた。
一緒に暮らし始めてからは、木の幹にとまっていた蝉を捕まえては得意げに僕に見せに来たり、近所の用水路にいたザリガニに鼻先を挟まれつつ、全身びしょぬれになりながらそいつを捕まえたりと、一緒にいろんな事をして遊んだ。
でも、一度だけ何日間か出かけて帰って来なくなった事があった。
心配してあちこち探しまわったら、隣町で他の猫とけんかをしている姿を見かけたという話を人づてに聞き、そしてそれからしばらくして、全身傷だらけになって僕の所に戻って来た。
周りの大人の人に聞いたら、大人になって帰って来たんだよと言われた。
猫の名前はカズキにした。
どうしてそんな名前なんだって、もっと猫らしい、クロとか、チビとか、そういう名前があるだろうっていろんな人に笑われたけれど、こいつと出会った時に、これはカズキなんだって、頭のどこかでそう言う声が聞こえて来たから、僕はもう、この猫はカズキなんだって、そう思わずにはいられなかったんだ。
ある日、TVに映る美しい南海の無人島の映像に、僕とカズキは見入っていた。
どこまでも広がる青い空と海。
つぅっと伝うのは涙。
おかしいな、どうしてだろう、僕は泣いている。
何かを思い出しそうで、けれどそれが何かは、どうしても思い出せなかった。
カズキが身体を伸ばして僕の肩に前脚を置いて、僕の頬をざらりと舐めた。
まるで慰められているみたいだなって、思った。
「大丈夫だよ。ありがとう」
僕はカズキの頭を撫でて、それから彼をぎゅうっと抱きしめた。

かつて人類は今から数百年前に滅亡の危機を迎えた。
けれども、人類はそれを乗り越え、再び文明を地球上に築いたのだ。
その人類の前史の、かつての名残とも言うべきが、今では無人島として保存されている超巨大移動要塞艦だった。
紺碧の海に浮かぶその島を、僕はカズキと一緒にただ見つめていた。
いつの事だったのか、思い出せないけれど。
確かにそこに、僕とカズキはいたのだと、そう確信していたんだ。
おわり