兄さんこっそり浮気?アルたんお口で対抗?

俺があの女と知り合ったのは、軍のやつらに女遊びを教えてやると、そういう場所に連れてこられた時だった。
俺は別にそういうことに不自由はしてなかったし、大きなお世話だと断ろうとしたが、若い時に遊んでおかないと年を取ってから遊び方を知らなくて痛い目を見るだの言い包められ、あっという間に女のいる部屋に放りこまれた。
俺を連れて来た奴は、俺にこの宿で一番の別嬪さんをあてがってやったと言い残して自分もどこかの部屋に入って行った。部屋の中には俺と、栗色の髪をした女だけ。女はベッドに腰掛けていたけど、俺の姿を見ると近寄って来て俺の手を取りベッドへと誘った。
「ほら、時間が勿体無いじゃない。おいでよ」
「い、いいよ。無理矢理連れてこられただけだから…。もう、帰るよ」
俺がそう言うと、女は目を丸くして、それから怒ったように喋り出した。
「この店で一番の売れっ子のあたしをそんな風に扱うなんて!いいかい坊や?ここに来たからにはやることやって金は置いて行ってもらうからね!」
「金なら別に惜しくない…ごめん、さっきも言ったけど、そういう気分じゃないから…気を悪くしないでくれよ」
俺はポケットから札を数枚取り出し、ベッドサイドテーブルに置いた。五万センズあったから、この店の料金は3万だと聞いたし、女もこれで機嫌を直すだろうと俺は勝手に思って、またドアの方に向かって歩き出した。しかし女は機嫌を直さず、そればかりか更に怒り出してしまった。
「あのね、金の問題じゃないって言ってるの!このあたしを前にして何もせずに帰るなんて失礼だって言ってるんだよ!」
「あ…ああ」
女の剣幕に俺は呆気に取られて、そして女を見つめた。確かにこの店で一番だと言われる事はあると思った。豊かに伸びた栗色の髪や、宝石のように輝く大きなグリーンの瞳や、見事に盛り上がった胸とか、これ以上ないだろうと思わせるくびれたウェストや抱き心地のよさそうな腰とか。でも残念ながら俺にはアル以上に魅力を感じられなかった。
「ごめん…」
「別に謝られたって嬉しくも何ともないね。こっちは商売なんだ、悪いと思ったら寝ておくれよ。さあ」
出て行こうとする俺の腕を掴んで、女はそう言うと、俺の上着を脱がせに掛かった。商売だと言うだけあってその手さばきは見事で、気がつけば俺のズボンの外しづらいベルトのバックルまでもう外しかけていた。
「ちょっと、よせよ!」
「照れてるの?初めて?」
「違うけど。あ、こういう所は初めてだけど!」
「じゃあ、やり方分かるね?ほら、さっさと脱いで!…あら、義手?足も?ふうん、大変ね…さあ、おいで」
ズボンを剥ぎ取られ、シャツも脱がされて下着姿の俺をベッドに引きずり込むと、女は自分も着ていた服を脱いだ。薄い布切れといった感じのワンピースの下の身体はやっぱり想像した通り見事で、流石の俺も息を飲む。すると女は嬉しそうに微笑んで言った。
「ふふ、ようやくその気になってくれた?触ってみて?」
女は俺の左手を自分の胸にあてがうと、ゆるゆると揉むように動かし始めた。
その胸はアルのより大分大きい感じで、俺の手からはみ出そうだった。次第に揉んでいる胸の先が硬くなって来て、女が顔を上気させる。ああ、と声を上げながら顔を俺の耳元に持って来て囁いた。
「あんたみたいに可愛い子を相手にしてると、ついつい本気になっちゃうわ…下も触って…」
そう言い、彼女は俺の左手を今度は自分の股間に導いた。ショーツを着けていないその部分に指を這わせると、もう少し湿っていて、中指がぬるりと中に吸い込まれるように入って行く。妙に熱さを感じる指を前後に動かしてやると、女は苦しげに眉間に皺を寄せて喘いだ。
「ああ…上手…もっと奥に…ん…」
言われるままにそうしてやり、女が激しく反応する場所を指で刺激してやった。すると女は身体を細かく震わせて泣き始める。次第に指がきゅうきゅうと締め付けられたけど、しばらくして女が身体を離して荒い息をつきながら言った。
「あたしばっかり気持ちよくなっちゃダメだわ…今度はあんたを気持ち良くさせてあげる番ね」
女は俺の股間に触れて、布地の上から細い指先でまだ柔らかいままの竿に触れた。しばらく触ってから下着を脱がし、俺をベッドに横たえさせてからくったりとした性器を口に含み、愛撫を加え始めたのだった。
女の技術は驚く程巧みだった。先端の感じ易い部分はいざ知らず、袋の部分から果ては肛門まで愛撫を加えられて、体中が熱くなる。けれど、女がどんなに俺に刺激を与えようとも、俺の欲望は中途半端に柔らかいままで、いつまでたっても女の中に挿入できるようにはならなかった。
「おかしいわ…どうしたの?いつもこうなの?」
女が焦って俺に聞いて来た。
「う…いや、こんなこと、初めてなんだけど…いつもはこうじゃないんだけどなぁ…」
アルとする時はただキスしただけでも硬くなるってのに、今日に限ってなんでこうなのだろうと自分がどんどん情けなく感じて来た。女も必死になって愛撫を加えてくるが、とうとう時間切れとなってしまった。
「若いのに…こんなの、初めてだわ!」
女が肩を落としてそう呟いた。自分の身体とテクニックに絶対的な自信があったんだろうけど、俺のこのざまでその自信が砕かれてしまったのかもしれない。申し訳ない事をしたと思い、俺は服を着た後でもう一度、ごめんと言った。
「…いいのよ。無理矢理やらせたあたしも悪いのよ…」
女も服を着けて立ち上がった。それからテーブルの上の金を掴むと、そのうちの数枚を俺の手に握らせた。俺の手には4万センズがあった。おかしいと女に言うと、彼女は笑っていいの、と言った。
「あんたを満足させられなかったのに、貰えないわ。店の取り分だけ頂いておくから、もしその気になったらまた来てちょうだい。その時は必ず満足させてあげられるようにあたしも頑張るから。あたしはフィオナよ。今度来る時はあたしの名前を呼んで」

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家に帰る。俺が帰って来た事に気がついたアルがリビングから姿を現して微笑んだ。
「おかえり。ご飯は?食べて来たの?」
「いや、食い損ねたから何か食わせて」
簡単なやりとりの後、キッチンに行くともうスープを暖め始めていて、有り合わせの材料でこしらえたらしいサンドイッチを差し出された。
「ごめんね。ボクも今日は食欲なくて、ちゃんと食事作ってないんだ」
見れば、アルの白い頬がいつにもまして白く、目元には隈まで作っていた。
「どうした?顔色が悪いけど?」
「うん、生理痛酷くて…」
アルはそう言って腹の辺りを押さえた。そうだ、朝出かける時もなんだかふらふらしていたっけ。アルは痛み止めを飲むのが好きじゃない。痛みは引くけど、その後で眠り込むとそのまま目を覚まさないんじゃないかという不安に襲われるとか言って滅多な事では飲まないんだ。でも、今日は相当酷い痛みがあるようで、アルの身体が心配な俺としては薬を飲んで欲しかった。
「なあ、あんまり酷いなら痛み止め飲まないとダメだぞ」
アルにそう言うと、案の定、アルは表情を曇らせて小さな声で呟いた。
「でも…飲みたくない…」
「飲めって!量を減らして様子見ながらなら大丈夫だろ?」
俺が怒ったように言うと、アルは仕方なくと言った風情で頷き、薬を探し始める。俺が食事を終えた頃、アルも薬を飲み、俺の傍に寄って来た。
「傍にいていい…?」
まだ青い顔をしているアルがそう言って身体をすり寄せて来た。まだ読みかけの本があったからそれを読みたかったけど、二人して俺の部屋に行き、アルが横になりたくなったらすぐなれるようにベッドに腰を下ろしてアルを抱き寄せた。
傍らには読みかけの本をスタンバイさせておこう。
そうやってしばらくアルの髪を撫でてやっていたら、薬も効いてきたのか身じろぎをしながら俺に話し掛けて来た。
「…ねえ、今日は何かあったの?」
ぎくり。なんでそんな事を言うんだろう?なるべく表情を変えないように何も、と答えると、アルは怪訝そうな表情で言った。
「なんか、違う匂いがするよ?」
あの女の匂いだろうか…?まずい!自分では気がつかなかったけど、アルには分かるのか!あんな場所に行った事がばれるときっと怒るか泣くかするに違いない。
「いいい、いやあああ、べ…別にぃ」
ますますまずい!すごく不自然な返事をしちまった!これは泣かれて問いつめられるのか…そう思って覚悟していると、アルはなんとも俺の想定外の行動をしてきたのだった。
「ねえ、口でしてあげる…」
アルはそう言い、ベルトを外し、ジッパーを下げると下着の中から俺の性器を取り出し始めた。
「い、いいよ…具合悪いのに」
「いいの。もう治ったから。ボクがしてあげたいの…」
先端を銜えられ、舌先でちろちろと刺激を加えられた。俺はあの女−フィオナでは全く役立たずだったのに、アルの、ちょっとした刺激で今にも弾けそうな位にまで張り詰めている。
ああ、バカだな、と自分でも思った。あんなに綺麗な女でダメで、自分の妹には欲情するんだから。真性の変態だ。
そんな事を考えている内に、どんどん余裕が無くなって来た。アルが喉の奥に届きそうな勢いで頭を上下に動かしている。そして、アルが一番深くくわえこんだ時に俺はたまらず口の中にすべてをぶちまけてしまった。
「ぐ…」
アルは苦しげに俺から身体を離して、口元を押さえたままで部屋から飛び出して行ってしまった。後をついて行ってみると、バスルームに飛び込んで口の中のものを咳き込みながら戻している。どうやら俺の出した物が喉の奥に入り込んでしまったみたいで、洗面台にすがってすべてを吐き出してから、苦しそうにその場にしゃがみ込んでしまった。
「ご、ごめんな!大丈夫か?」
俺はアルの背中をさすってやりながらそう言った。アルはごほごほとまだ咳き込んでいたけど、ようやく立ち上がると目から溢れた涙を拭いながらごめんね、と逆に俺に謝って来たのだった。
「いいよ、俺がいきなり出すからいけなかったんだ…さ、もう寝よう」
赤い顔をして苦しげに顔を歪めたアルを部屋へと連れて行き、おとなしく寝るように言って聞かせて自分も部屋に戻った。
しばらくして、アルが啜り泣く声が聞こえた。読みかけの本を読み出した所だったけど、内容なんて全く頭に入って行かない。でも、今またアルの顔を見た所でアルが落ちつくとも思えなかったのでそのままでいた。
アルは俺が何をしていたか、うすうす勘付いていたんだ。だから、体調が芳しくないというのにあんな事をしたんだろう。
ごめん、もうあんな事はしないよと心の中で何度も繰り返す。
けれど、それからしばらくして俺はまたフィオナと会う羽目になってしまった。

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「あら?あのときの!」
図書館から帰る途中で目に飛び込んで来たのは、目にも鮮やかな真っ赤なワンピースを着た女だった。
「あー、あんた!」
「覚えていてくれて光栄だわ。あれからどお?もう一戦交える気になったのかしら?」
女−フィオナは悪戯っぽく笑ってそう言うと、俺の腕に身体をすり寄せて来た。
「よせよ!そんな気はないよ」
俺がそう言って彼女から離れようとすると、またからからとフィオナが笑った。
「冗談よ!でも、食事くらいは付き合ってくれない?仕事前に腹ごしらえをしておきたいのよ。この先においしいお店があるから御一緒してちょうだいな」
この先の店と言うと、アルが働いている店だ。それはちょっと困るので別の店に行こうとフィオナの腕を取って歩き始めた。
入った店でフィオナはその細い身体に似合わない量の料理を注文した。俺は夕食はアルが用意してくれているから飲み物だけ頼んでフィオナが食べるその姿をぼんやりと眺めていた。
「あんたは食べないの?」
「うん。妹が家で用意したのがあるからな。どこかで食べて来ると心配するから」
フィオナがメインのラムのローストの、皿に残ったソースを丁寧にパンにつけて口に放り込んでからそう聞いて来たので返事をすると、彼女は驚いたように俺の顔を凝視して呟いた。
「…へえ、意外ね。そんなに妹大事で、よくあんなテクがつくもんだわ」
「…うるさいな。あんたには関係ない事だ。それより、よく食うな。太らないのか?」
仕返しのつもりでそう聞き返すと、フィオナは鼻で笑いながら答えた。
「あたしたちの仕事は重労働なのよ。このくらい食べないと身体が持たないわ。それに、食べずにいるとどんどん胸がしぼんじゃうからねえ。お客の為に食べてるようなもんだわ」
フィオナはちょうどいいタイミングで運ばれて来たチーズタルトを口に運び、コーヒーをブラックのままで飲むと、俺をじっと見つめて、それからおもむろに言う。
「ねえ、あんたの大事な人って、もしかして妹なの?」
「なんだよいきなり?どうしてそう思うんだ?」
いきなり図星な事を言われて頭に血が昇るのが分かる。女ってやつはどうしてこういう事に鋭いのかと苦々しく思いながらも返事をすると、フィオナはにっこりと笑った。
「ああ、そうなんだ?あんたは妹とそういう仲なんだ?」
「だったらどうなんだよ!」
「別に。でも、妹にはちゃんと勃つんでしょ?あたしにはダメでもさ」
それから、フィオナは俺の耳元に顔を近付けて囁いた。異常ね、と。
俺はなにも言えずに黙ってしまった。フィオナは尚も笑いながら俺に話し掛ける。
「そう言えば、あんたは初めて会った時、軍人さん達に連れられて来てたわね?まさか、その年で兵士なの?」
話題がアルの事からそれて安心した俺はフィオナに聞かれた事に答えた。
「違うよ。まあ、軍の仕事は多少してるけど」
「へえ。だから羽振りがいいんだ?そんなに若いのにね」
やがて最後に残ったコーヒーを飲み干して、フィオナは立ち上がった。
「もう行かなくちゃ。あんたとのおしゃべりが楽しすぎてゆっくりしすぎたわ」
彼女はレシートを手にとって、ボーイを呼び寄せるとさっさと俺の分の支払いまでして出口へと歩いて行ってしまった。
「おい、自分の分は払うよ!待てって!」
大股でさっそうと歩き出したフィオナを追い掛けると、彼女は歩く速度を落とさずに言った。
「あたしにお金を使うのは、あたしと寝た時にしてちょうだい!じゃあね、坊や!」
フィオナと別れてから家へと帰った。今日は帰りが早いからとアルに言っていたのに予定より随分と遅くなってしまって、もしかしてものすごく怒っていたらどうしよう、と心配しながら玄関のドアを開けると、キッチンからアルが顔をのぞかせていた。
「…おかえり。遅かったね」
アルは怒ってはいなかったけれど、暗い表情で俺を出迎えた。また体調が悪いのかと思い尋ねると、そうではないと言う。ダイニングテーブルの方を見ればいつもよりもかなり豪華な内容の食事が並んでいた。
「うわ、すげーっ!なんだよ、作るの大変だったろ?」
「ううん…大丈夫」
とりあえず席に着いて食事を始める。アルの料理はどれも旨くて、俺はがっついて食べ始めたけど、ふとアルを見るとため息をつきながら殆ど食べていないことに気がついた。
「アル、どうしたんだよ?やっぱり身体の調子が…」
「違うの。大丈夫…ごめんね…」
アルはそう言うと涙ぐんで無理矢理食べ始めた。

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それからまた数日後…またしても俺はフィオナとばったり会う羽目になった。
「あら、また会ったわね?」
どうやら、俺の図書館からの帰り道と彼女の通勤?経路が重なるらしい。時間帯も何日か交代で同じ頃にこの辺を通るらしかった。
「ねえ、また食事に付き合ってよ?やっぱり一人で食べるよりも誰かと一緒の方が楽しいわ」
俺はまた食べないけど?と言うとそれでも構わないと言う。なのでまたこの前と同じ店に入って、俺は飲み物だけ注文して、フィオナはまたもりもりと食べ始めた。
「そう言えば、あんたの可愛い妹とはうまくやってるの?」
フィオナがローストビーフのサンドイッチを大口を開けてかぶりついて、グレープフルーツジュースでそれを流し込みながら喋り始めた。
「いつも通りさ。それより、女がそんな大口開けてモノ食ってていいのかよ?」
「いいのよ。あたしは田舎育ちだから、上品になんて出来やしないのよ」
指先についたマスタードをぺろりと舐める仕種をしてフィオナが笑う。その笑顔が俺が思っているよりは彼女の年が若いのではないかと思わせた。
「なー、フィオナ、あんたっていくつ?」
「女性に年を聞いちゃいけないって、お母さんに教えてもらわなかったの?」
「母さんはもう随分前に死んじまったよ」
「…そう。そうね、あたしの年は…いくつに見える?」
「あんたは、すごく色っぽくてさ、俺なんかより随分年上だって思ってたけど、そうやって笑ってる所とか見てるとすごく若く見えるんだ。そうだな、20…2くらい?」
俺がそう言うと、フィオナはにんまりとして俺の額を指先で弾いた。
「まあ、遠くはないっていう事にしておこうかしらね。じゃあ、今度はあんたの年を聞く番だわ」
今度はフィオナが俺の年を聞いて来た。俺は素直にもうすぐ18になる所だと(本当は18になるまでまだ半年ばかり、あったんだけど)告げると、綺麗な目をまんまるくして驚いていた。
「…15くらいだと、思ってたわ…」
「悪かったな、ガキで!」
そんな風に会話を交わして、フィオナも食事をし終えたので、俺はもう帰ろうと立ち上がった。けれど、フィオナはそんな俺を制してまた座らせた。
「今日は時間があるわ…」
それから、フィオナは自分の事を話し始めた。
「あたしは南部の出身で、故郷はとんでもない田舎。電気も通ってないような。子供の頃はそんなところで育ったわ。そこにはずっと、好きな男がいた。将来結婚しようって、男と女がどういう事をするのか知らない頃からそう言ってて。でも、そのうち内戦が始まった。あいつは軍隊に入って手柄をたてれば出世して、田舎の貧乏暮らしともおさらばだって、そう言って軍人になったのよ。あたしに自分が帰って来るまで待ってろって、そう言って」
けれど、男は帰って来なかった。マスタング准将のような国家錬金術師が投入されるまで国軍もかなりの犠牲を出していたようだから、きっとフィオナの恋人もその犠牲者の中の一人になってしまったんだろう。
「しばらくは、田舎にいたのよ。でも、もうあいつがあたしの事を迎えに来る事もないと分かって、そこにいる意味もなくなってしまったの」
そしてフィオナはセントラルにやって来た。最初、男に騙されて身体を売らされることになってしまったが、たまたまその才能があったのと、彼女のいた店に軍人がよく来ていたことが彼女をその道に長く居着かせる結果となった。彼女は軍人には特にサービスを厚くしたと言う。
「…あたしの話はこれでおしまい。さ、もう出ましょうか?」
そして彼女は立ち上がった。

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最近フィオナと会う所為で時折帰宅が遅れる。アルは機嫌が悪いと言うより、どんどん気持ちが落ち込んでいるようで、もうフィオナに声を掛けられても会うのはよそう、と誓った。
そしてこの日、帰宅してみると、いつもはキッチンにいるはずのアルはそこにはいなかった。
「アル?いるんだろ?」
声を出しながら家中を捜しまわる。2階に上がるとバスルームから物音が聞こえたのでそちらへ向かうと、そこにはやはりアルがいた。けれど、いつもと様子が違っている。よく見ると、泣きながら錬金術で自分の髪を茶色く染めていた。
「うわっ、なにしてるんだよ!よせ!」
俺はアルの手を掴んでそれを止めさせると、ぼろぼろと泣くアルを抱きしめてやった。
「に…にいさぁん…」
「なんで髪を染めてるんだ!しかも泣きながら?」
「だって…兄さん、母さんみたいな髪の色の女の人、好きなんでしょ?」
「な…なんでそんな事!」
「あのひとみたいにおっぱいもおっきくて、セクシーで…そういう人がいいんでしょう!」
アルが、俺とフィオナが一緒の所を見ているのは明らかだった。もう、弁解のしようもないけど、なにもなかった事を分からせようとアルの顔を見つめる。
けれど、アルは更に激しく泣き出して、しゃくり上げながら言った。
「ボク…がんばって、おっぱいもっとおっきくする…兄さんの出したのも、全部飲めるようにするから…お願いだから、もう、あの人と会わないで!」
胸というのは頑張って大きくなるものなのかと疑問を持ちつつ、俺はアルを更に抱きしめてやった。
アルは俺の胸の中でまだ泣いていて、しきりにごめんなさい、お願い、と繰り返している。
最近元気がなかったのは俺のせいだったのかと気がついて、胸が締め付けられる思いがした。
とりあえず、染まった髪を元の色に戻してやり、リビングへと連れて行って話を聞いた。
フィオナはアルの店の常連客だった。いつも決まった時間に来るフィオナが姿を現さない日があったので気に掛けていたアルが帰宅途中偶然俺達を見つけたのだと言う。なにもしていない事は見て分かっていたが、俺達が楽しそうに話をしていたり、俺が帰宅してもその事を話そうとしなかったのでどんどん落ち込んでしまったのだと打ち明けられた。
「…兄さんがあの人の事を好きになったらどうしようと思って…」
「バカ、そんな事ある訳ないだろ!俺はアルが一番好きだ!」
「…ほんとう、に?」
「あの女と話してたのは成りゆきだ!俺はアルの髪が一番好きなの!胸も今くらいで丁度いい!」
「本当?」
アルはじっと俺の顔を見つめて、何度もごめんなさいと言った。アルを不安にさせるような事をしたのは俺なのに、どうして謝るのかと尋ねると、アルはしょんぼりとして話し始めた。
「…兄さん、あの人と会っててもちゃんと帰ってきてくれたし、いつも通り優しかったし…でも…一人で待ってると、どんどん悪い方に考えちゃって…2人きりで何を話してるんだろう、とか、もう兄さんが帰ってこなくなっちゃうんじゃないかって…」
一人で待っている間、そんな事を考えていたのか。
…変態で結構、異常で結構!俺はアルの為だけの俺でいよう。もうアルを一人で待たせたりするものか。
その夜は、アルと2人で錬金術の本を遅くまで読んで話をして、とうとう眠くなってそのまま寝込んでしまった。夜中、目を覚ますとアルもそのまま隣にいて、頭を俺の胸に預けていた。
「…アル、起きてる?」
「…うん。ちゃんとベッドで寝よっか?」
「そうだな…」
でも、俺達はしばらくそのままだった。アルがその柔らかい唇で俺の顔中に口づけて、俺はくすぐったくてアルの髪をくしゃくしゃと掻き回した。
「やっといつものアルに戻った…」
「…うん、もう大丈夫…」
笑って俺がそう言うと、アルも恥ずかしそうに微笑んだ。

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すっかりアルが元気になってしばらく経った頃、俺はまたフィオナとばったり出くわした。
今度はアルも一緒だった。図書館からの帰り道、重い本をアルと手分けしてかかえて歩いていると、通りの向こうから長身の女が手を振っている。見ればフィオナで、そのすらりと伸びた腕は旅行鞄を抱えていた。
「あら!そうだったの。あんたが坊やのいいひとだったのね」
フィオナはアルを見ると、そう言って笑う。するとアルが本を俺に預けて、ずい、とフィオナの前に歩み出て強い口調で言った。
「…いつもお店に来てくれてありがとうございます…でも、もう、兄さんを誘わないで!」
これはもしかして喧嘩でも始めるつもりなのかと俺は本を抱えたままでアルとフィオナの間に入ろうとした。しかし、フィオナはにこにこと笑ったままで、アルに顔を近付けると囁いた。
「大丈夫よ。あんたのお兄さんは、あんたじゃないとダメなんだって!あたしなんて話しかさせて貰えなかったわ」
それからフィオナは呆気に取られたアルを横目に、俺の方に向き直り、こう言った。
「お金も充分稼げたし、もう田舎に帰るわ。…セントラルにいれば、あの人に似た人と会えるかもって思ってたけど、いくら待ってても来なかった…。あたしももう30になるしね…じゃあね!」
そう最後にフィオナは言い残し、俺達の前から姿を消した。
帰宅してからアルに問いつめられる。
「ねえ、ボクじゃないとダメって、なんの事?」
口を尖らせてそう言うアルをぎゅうと抱きしめてキスして囁いた。
「…こういう事」
アルの腰を抱き寄せて、自分の熱を帯びてる中心を押し付けてやると、アルは顔を赤くして身じろいだ。
「俺さ、アルじゃないとこうならないんだ」
アルの手を掴んで、指先をズボンの前の膨らみにそって動かしてやると、すぐにその指先は自分の意志を持って動き始めた。
「…図書館から借りて来た本、どうするの…?」
息の上がって来たアルのシャツを捲り上げて胸を露出させて、薄く色付く乳首に吸い付きながら俺は答える。
「明日読めばいいよ」
「んっ…でも、晩ご飯…」
「お前を食べるからいらないよ。お前は俺を食えばいい」
脇の下から脇腹に掛けて丹念に舐め回してやると、すぐに声が漏れるようになった。アルの身体から力が抜けたのを見計らって抱き上げ、ベッドの上に放り投げる。服をさっさと脱がせて部屋の片隅に投げ捨てると、自分も裸になってアルの上にのしかかった。
「あっ、やだっ!いきなり…うんっ…はあっ」
両足首を持って開き、金色の茂みをかき分け顔を覗かせた控えめな蕾を舌先で転がしてやると、アルは切なげに吐息を漏らし、やがてその部分を濡らしながらだめ、だめと訴え始めた。
「そこばっかり、やめて…あっ…もう…いっちゃ…う…」
「いいよ…お前が感じる所が見たいよ…」
腰を抱え上げて更に激しく蕾を吸い上げると、やがてアルは背をしならせて甲高い悲鳴を上げて達してしまった。
ぐったりとしてベッドの上に横たわるアルの顔の傍に俺の欲望を近付けてやると、それに気がついたアルが頭を上げてそれを吸い始める。
そんなことをされる前から俺は興奮してそこをガチガチに硬くし、先端からは先走りをしたたらせていた。アルが舌先でその雫を舐め取り、自分の睡液を竿にまぶしてから手を添えて上下に擦り始めた。亀頭の部分は口に含み、くびれた部分を丹念に舐め回している。ぐちゅ、ぐちっと濡れてまとわりつくような音と、じゅるっずずっという吸う音が左右の耳から後頭部を抜けて脳天を刺激する。いつの間にか俺もアルの愛撫に小さく声を上げて腰を揺らしていた。
「んあっ!…い…いいよ…すごい…アル…気持ちいいよ…」
あと数度擦られたら発射してしまうというところでアルの頭を強引に引き離す。突然腔内から欲望を引き抜かれてアルは恨めしそうに俺を見ていた。興奮して耳まで赤くなり、口の端からは睡液が垂れててらてらと光っているのがなんとも扇情的で目を逸らす事が出来ずにいると、アルが掠れた声で囁いた。
「…兄さんがボクを愛してくれるなら、なんだってしてあげる…でも、他の人なんて見ないで…」
正直、たかだか1時間と俺は思っていたけれど、それをお前がどんな思いで待っていたのかようやく分かった。
潤んだ瞳を真直ぐに見つめてやって、顔を近付け舌をからめる。そのままもつれるようにして身体を繋げると、俺達はあっと言う間に快楽の波に飲み込まれた。
「もっと…もっと…!あ…ああ!兄さん!もっといっぱい…あ…ひ…いいっ…」
アルの好きな体位−向かい合うようにして上体を抱き上げて、激しく突いてやると−アルの中の一番敏感な部分が俺の先端で擦られて、欲望を出し入する度に愛液が溢れ、アルの悲鳴が上がった。それを数度繰り返してアルはまた絶頂を迎える。アルの中の激しいうねりになんとか耐え、荒い息の中、俺はアルの耳たぶを噛みながら言った。
「…なぁ、お前に…かけたい…」
「んっ…いい、よ…ぜんぶ…ボクに…だして…」
アル、お前を俺のもので汚してやろう。その、象牙色の美しい肌に俺の精子を塗り込めてやるから、俺をいつまでも離さないでくれ。どこまでも淫らになって、俺を縛りつけてくれ。
夢中になって腰を擦り付けるように動いているアルの胸に吸い付き、乳首をこりこりと甘噛みし、生身の左手は溢れた愛液をすくって、亀裂の上にある腫れ上がった蕾に塗りつける様にしてやった。
「やあっ!ひっ!…あああっ…また…いくぅ…」
アルの細い指先が俺の背中に爪をたてる。構わずに乱暴だと思える程に欲望を最奥に打ち付けると、アルはぐうっと息を詰め、身体を真直ぐに硬直させた。だが内部の肉の襞は俺の欲望から全てを搾り取ろうとするかのような動きで絡み付いてくる。
その肉の感覚にいよいよ我慢がきかなくなった事を悟って、俺はアルから欲望を抜き取ると自分の手でしごきながらアルの顔をめがけて白いどろどろとしたものをぶちまけた。
「アル!アルっ!あっ…はぁ…」
なんて絶頂感だろう!まだ快感に痙攣する欲望をアルの頬に擦り付ける。そしてアルは口元に付いたねっとりとした精を指先でこそげ取ると、うっとりとした表情で指を口に含んでしゃぶり始めたのだった。指先のものをしゃぶり尽くすと今度は欲望の先端に舌を這わせ、しずくを舐め取り、自分の愛液にまみれた竿を清め始める。まるでそれが自分の命の源であるかのように、愛おしそうに味わっていた。
「…お前、俺の…その…精液…好きか?」
余りにもその表情が幸せそうだったので、俺はついアルに聞いてみた。するとアルはほんの少しだけ困ったように眉を寄せて、でも照れてこう言った。
「ん…苦いし…おいしくないけど…兄さんのだって思うと、全部自分のものにしたくなるよ…」
…ダメだ。そんな風に言われると、またお前を抱きたくなる。アルの愛撫でいきり立った欲望をアルのとがった乳首の先に擦り付けてやると、アルは切なげな吐息を漏らし、今度は自ら股を開いて俺を誘う。
「ね…ここ…兄さんの、欲しいよ…」
細い指で自分の肉の襞を割り開いて、赤くぬらぬらとしたその奥を俺に見せつける。ぷっくりとした蕾を指の腹でこねまわしては堪らないと言うかのように腰を揺らめかしているその姿に、俺は再び欲望を突き立てた。

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「うーん…」
すっかり満たされて、俺はベッドの中でアルの髪をいじりながらセントラルから去って行ったあの女の事を思いだした。
「30かよ…おっそろしいな…あの胸…!まっさかなぁ…」
自分の気が付かない内に小声で呟いていたらしい。アルがそれを聞き付けてぎろっと俺を睨み付けて言った。
「…なに?あの人の事…?やっぱり、本当は何かあったんでしょう!?」
「え?な…なにもないって!」
「本当に?絶対?」
「…いや、ちょっと触っただけで…」
「やっぱり、なんかあったんだ!ひどいよ!兄さんの嘘つき!お仕置きしちゃうからね!」
アルはそう言うと、ベッドの中にもぐり込み、俺の股間のものをくわえこむ。…ダメだよ…だって、5回みっちりやったばっかりじゃないか…もう、勃ちやしないって…。
しかし、アルはとうとう俺の後ろまで責め立てて、俺の欲望を無理矢理勃ち上がらせると激しく吸ったり、先端に歯を軽く立てて嬲り始めたのだった。
「うあっ!やめろぉ…あ…」
も…もう本当に無理ですごめんなさいごめんなさいごめんなさいー!
「なんにも出なくなるまで吸い尽くしちゃうからね!どんな人に何をされても勃たないようにしてあげるから!」
…そこまでしなくても、どうやってもダメだったんだからと言いかけたけど、やっぱりやめた。
俺はアルだけでいい…アルだけじゃないと、身体が持ちそうにない…。

この話と同じタイトルの小冊子を、オフで発行している「愛してるから始めよう」にお付けしておりますが、小冊子の方はアル視点で、ここにない場面も少々付け足しております。

基本的に、オフで発行したものはとりあえず公開終了して、おいおい公開の形を取っていく予定。読みたいものがあればリクしていただけるとこちらとしてもありがたいっす。     


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