エドワードの性器に目を奪われながらも、小さく声を上げて拒む素振りをアルフォンスは見せた。
少しは触れたいと思う。けれども触れてしまって大丈夫なのだろうか?なにせ自分の手はなめし革とはいえ、人間の皮膚よりもだいぶごわついていて硬いのだ。そんなもので敏感な部分を刺激していいのかと言う思いがアルフォンスの思考の中に止めどなく沸き上がって来ていた。
けれども、そんなアルフォンスの思いなど知らぬと言わんばかりにエドワードはアルフォンスの事を睨みつけて行為を迫っている。
アルフォンスはなんだか存在せぬ身体からつうっと冷や汗が流れた気がした。
「うう……分かったよ」
とうとう観念したアルフォンスはエドワード同様に拘束された両手をエドワードの股間に向かって差し伸べた。
エドワードの隣に並ぶように立ってから、腰を落として右手の指先をそっとエドワードの性器に添えた。指先がそれに触れた途端、革のひんやりとした感触にエドワードが身体をひくつかせたが、アルフォンスは構わずに指をそそり立つ性器にそって動かし始めた。
アルフォンスが親指と人差し指を使ってエドワードの性器の先端から中程までを扱き始めると、すぐに先端からはぷくりと先走りの露が滲み始めた。アルフォンスが躊躇いながらもそれを先端や包皮との境に塗り込めるようにすると、エドワードはくうっと喉を鳴らして更に身体を震わせた。
「もう……ちょっと、強くしてもいいぞ……」
やがて、溢れた先走りで性器全体が濡れたようになり、アルフォンスも指を動かす事にすっかり慣れると、エドワードはもっと刺激を強くするようにとアルフォンスへ注文をつけ始めた。
「……平気?痛くなったりしない?」
「大丈夫だ。自分でする時はもっと強くしてるんだ」
それまで相当の注意を払って刺激していたアルフォンスは兄の言葉に驚きながらも指先へ加わる力を心持ち強めにした。
ぬるりとして滑りそうになる指を性器の先端に押しとどめ、二本の指でつまむようにして扱くと、兄が頭の上に持ち上げた手枷をかたかたと鳴らした。そっと気づかれないようにその表情を観察すると、半開きの目はうつろで、小さく開かれた口からは白い吐息が小刻みに吐き出されていた。
「き、気持ちいい……?」
「あ、ああ。上手いな、お前。もう少しで……イケそうだ……」
増々濡れそぼり掴みづらくなった兄の性器のあちこちに触れながら、アルフォンスはおぼろげながら何処が敏感で、どう触れれば兄が反応を示すのかを理解し始めていた。先端のむき出しになった粘膜に触れると鋭敏な快感が走るのか、背をしならせて反応するし、幹の部分を扱けば緩やかに圧迫される快感なのだろう、もっととせがむように腰をせり出して来る。どっちにしろ、兄にとっては心地よいものである事に間違いはないようだった。
(それにしても……)
だが、エドワードのそういった姿を目にするうちに、アルフォンスはざわついた心地を感じるようになっていた。
それはまるで存在しない自身の肉体が、兄の姿を見て興奮を覚えているかのような、そんな感覚だった。じりじりと中途半端な熱であぶられているような、焦れったく、もどかしい感覚だ。実際は感じる肉体を持たないので感覚というのは間違いなのかもしれないが。
(兄さん、すごく気持ち良さそうだ……刺激してあげるとあちこちぴくぴくささせてるし、先っぽからどんどんぬるぬるしたのが出て来るし……そんなに……いいのかな?……ボクも元の身体に戻って自分や、他の人にしてもらう時って、あんな風になっちゃうんだろうか……?)
途端にアルフォンスの中で羞恥心が高まった。そして自分は兄のようになんてならないと思う余り、目の前で快感に打ち震える兄に向かって悪態をついてしまったのだ。
「は、早く出しちゃってよ、本当に世話が焼けるんだから!弟にこんな事まで手伝わせて、頭がおかしいとしか思えないよ!」
アルフォンスがなめし革の指先を少し乱暴に動かすと、エドワードがやや折り曲げ気味の膝をがくがくとさせて喘いだ。牢獄の外にいる兵士に知られないよう赤く濡れた舌を突き出してはひゅうひゅうと空気を吸い込んで声を押し殺していたが、十数秒して落ち着くと、金色の瞳でアルフォンスの頭部を上目遣いに睨みつけて言った。
「畜生、お、覚えていろよアル……お前の身体が戻ったら、今の俺とおんなじようにしてやるぞ。両手拘束強制オナニーだクソったれ!お前が泣こうが喚こうが容赦しねえ……何にも出なくなるまでイカせまくってやるから覚悟して……お……けって……の……」
興奮が過ぎたのだろうか、吐く息も白く変わる気温だというのに、エドワードは額にうっすらと汗を浮かべていた。長い前髪がそんな汗ばんだ額に幾筋か張り付き眉根を顰めているが、それは苦痛から来るものではなく、せり上がって来る快感が大き過ぎたからだった。
(そんなに気持ちいいの……?ボクの手で触れられるのがいいの?ボクの身体もそんな風に……兄さんに……?)
これまで目にした事のない兄の痴態を前にアルフォンスは思考を混乱させていた。目の前で快感に酔いしれる兄の姿がまるで自分の物であるかのような錯覚に囚われ、ありもしない自身の肉体が快楽にわななく様を夢想したのだ。自然と革の指に力がこもる。自身の肉欲を発散させようとするかのような上下の律動が激しさを増したその時、エドワードの頭部が手枷とともにのけぞった。
「あっ、あ……ああ、あっ……出るっ!」
エドワードはアルフォンスの手に向かって本能的に腰を押し付けるような仕草をしながら更に刺激を得ようと円を描くように下半身を揺すっていた。兄の細く白い喉元がく、くっとひくつきながら上下して何かを耐えているようにアルフォンスの目には映ったが、一方の下半身は主の意思とは正反対に快楽の奔流に押し流されようとしていた。
「アル、出る、出る!もっと、もっと強くっ!あっ、ああっ!」
「ひっ……ちょ、ちょっと……ま、ま……待って、ねえ、兄さん!」
兄の切羽詰まった声にアルフォンスは慌てふためきその巨体を硬直させた。兄の性器が押し付けられている自身の手に目をやると、薔薇色に充血した先端から今まさに白濁した体液が射出されんとするところだった。兄は腰を押し付け揺らしながら掠れた声で絶頂を訴えていたが、アルフォンスはどう対処していいのか分からず、ただ兄に乞われるがままに腸詰のような肉厚の指先で赤く濡れた先端を刺激し続けたのだった。
「くあっ……あ……はあああっ!」
やがて、エドワードの艶かしい肉色の先端から白い精が迸った。
驚く程大量のそれは数度の噴出を経てアルフォンスの指や掌に飛び散り、初めてそれを目にしたアルフォンスを大いに驚かせた。しかし、片やエドワードはと言えば、ようやく訪れた激しい快感と開放感に酔いしれ、ぼんやりとした視線を空に漂わせるばかりだった。
「うはー……なんつー強烈な……ヤバい、今までで一番良かったかも……」
兄の精を掌に受け止めて呆然としているアルフォンスだったが、兄が脱力して手枷ごと身体を鎧の自分に向かって預けてくるのを目にした。
顔は赤く火照り、額には汗を噴き出させて未だ快楽を貪っているかのような兄の表情からどうやっても目を離す事が出来ない。我を忘れてしまう程に他人の手から与えられる快楽は強烈で甘美な物なのだろうか。兄の顔と汚れた手を交互に見ながら、アルフォンスはぼんやりとそんな事を考えていた。
(どうしよう……兄さんてば、どうしてそんなに気持ち良さそうなの……?)
ふと、エドワードの先刻の言葉がアルフォンスの脳裏をよぎる。
いつの日か、すっかり元通りになった互いの身体にこうして触れる機会は訪れるのだろうか?兄は自身の言葉を覚えていてくれるのだろうか?
自分も兄のように甘やかな快感に身を委ねる日は来るのかと考えを巡らせていたその時だった。
「あー、スッキリしたぜっ!おいアル、ちゃんと手ぇ洗っておかねえと臭うぞー」
精を吐き出し、緩やかに萎え始めた自身の性器に指を添えて、エドワードは次に小用を始めていた。薄い黄色の液体がゆるやかな弧を描きながら陶器製の便器の中へと注がれる様を楽しげに見つめながら軽口を叩き始める。
「ふはー、たっまんねーっ!目一杯溜めてたションベンをこうして一気に放出する気持ちよさったらねえよなあ!……って、アル、どうした?」
「どうしたじゃ、ないよ……ったく、人の手にたっぷりぶっかけておいて……さっき自分で言った事、忘れないでよね!ぜーったい約束は守ってもらうからね!」
「は?な、何を怒っているんだよ?なあ、アル?アルフォンス?アルフォンスさーん?」
文句を言いつつ、ぷいっとそっぽを向いてしまった弟の無表情な顔を見ようとエドワードはうなだれた性器を素早くズボンの中にしまい込み、鉄仮面の奥の赤くともる光を覗き込んだ。
そんな無遠慮なエドワードの瞳に少々怒りを覚えたアルフォンスだったが、よく見慣れたその金色の瞳の奥に、微かに自分を惑わせた兄のその痴態が映り込んだ気がして、怒りよりも気恥ずかしさにその大きな身体を震わせた。
「みっ……見るなってば!この変態バカ兄貴!」
「変態上等だ!俺はどう言われようと溜まったモノは出すぞ!」
両手を拘束されたままふんぞり返っていたエドワードはひとしきり大笑いした後、自由にならない両手の先でアルフォンスの濡れた指を掴んで洗面台へと引っ張った。
「ほら、早く洗っちまえって」
「あ……う、うん」
エドワードが錆び付いた蛇口をようやくひねり、ちょろちょろと流れ出る、刺すように冷たい水でアルフォンスの指先を洗い始めた。。
冷たいだのなんだのと文句を言いながらも丁寧に指先を洗ってくれる兄に対して、アルフォンスはそれまで感じた事のない、えもいわれぬ戸惑いに似た感情を覚えていた。
いつか、兄とともに奪い取られた自身を取り戻したその時は。
「覚えていて……くれる……?」
エドワードの耳に届かぬように、アルフォンスは小さく呟いてから、再びベッドへと潜り込もうとする兄の後ろ姿を見つめていた。
(おわり)
ここのところずっとオフ用にお話を書いてきたので、ちょっと長くなりそうだったらどこかで区切らなきゃ、とかをすっかり忘れていました。とほ〜。
原作では、どのくらい牢屋に入れられていたのかがちょっと分からなかったんですが、この前アニメでこの部分をやってくれて、そうしたらどうやら兄弟は数日間牢屋暮しだったらしいですなあ。つじつま合ったかしら?
うちのサイトの兄さんはあけっぴろげですね。まあでも、あんなに四六時中一緒にいたらどうやってもオープンにしていかないともたないよねえ。とか思ったりしたのでこんな話を書いてみました。
ちなみに、刑務所などではこういう行為は禁止らしいけど、みんな見て見ぬ振りらしいです。そりゃそうだよなあ。なので、兄弟のいた牢獄の看守さんも慣れっこで、きっと見てない振りしてたに違いない!弟ばかりが焦ってたという訳ですな。