一番最初に発行した本「Wrong Heaven」の中に掲載されているお話です。
アルの身体が女の子になった直後のお話です。アルの自慰メインで兄さんは手を出していません。

本の原稿の前のベタ打ちのテキストからなので、本とちょっと違う部分もあるかも知れません(細かい表記の部分だけなので話の筋には関係ないはず)。
そーいやwebに載せてなかったぜ!と思い出したので。そういう単純な理由です。はい。

女の子の身体は、深い森のようで、大きな海のようで、まだ見た事のない不思議の国のようだって、僕は思ったんだ。

兄さんが作り出した母さんそっくりの女の子の身体に、僕は鎧から魂を定着された。
最初はそれを受け入れられなくて、苦しくて、死んでしまいたいと思った程だったけれど、徐々に馴染んで来る肉体の感覚に、僕の魂は新しい身体を少しずつ受け入れていった。
まるきり生まれたばかりの赤ん坊のようだったこの身体は、物凄いスピードで外界に適応していく。食事をきちんと取るようになったらそれまでふらふらして立つ事も出来なかったのが、ものにつかまりりながらではあったけど立てるようになり、数歩ずつ歩く事も出来るようになった。
そしてようやく1人で歩けるようになった僕は身の回りの事をしたり、お風呂にも1人で入れるようになったんだ。
それまでは兄さんが抱きかかえてバスタブにお湯を張って身体を洗ってくれていたけど、僕の裸を見ないようにバスタオルで隠しつつ、僕の手が届かない所を洗ってくれたりというのは、相当大変な事だったらしい。
僕が、もう1人でできるよ、と言うと、兄さんは目を潤ませて喜んでいた。
シャワーの栓を捻ってお湯を浴びつつ、石鹸を泡立てて身体を洗う。ああ、髪は前みたいに石鹸で洗っちゃいけないんだよね?兄さんが買って来てくれたシャンプーを使おう。
身体を洗っていると、たっぷりとした胸の膨らみが気になった。だんだん、大きくなって来ているみたい。泡にまみれた両手で持ち上げたり、ぷるぷるしてみたりして遊んでいたら、それまで平らだった乳首がぷうっと膨れて硬くなった。
もう何年も前の、子供の頃の身体を思い出しつつ、今のそれと比べてみた。色は違わないけど大きさが全然違う。敏感な部分だから、あんまり触ると痛いかも。
胸を触るのはもう止めよう。
それから脚先や、背中やおしりをスポンジでごしごしと擦る。ちょっとひりひりし始めたので、スポンジで擦るのはやめて、手のひらで撫で回すようにして洗った。
まだまだこの身体は敏感で大変だ。ほんの少しの刺激で赤くなったり、痛くなったりする。身体を洗うのも、慣れれば前みたいにごしごし洗っても大丈夫になるのかなぁ?
シャワーで体中の泡を流しつつ、大事な部分も洗う。男でも女でも、清潔にしなきゃいけない事に変わりはないけど…まだやっぱり自分でも見たり、触ったりは恥ずかしかった。
指先でゆっくり優しく割れ目をなぞる。シャワーのお湯がちょっと熱く感じて、驚いて指が滑った。
「あっ…」
どこか、物凄く敏感な部分に触れてしまったようで、僕は小さく声を上げてしまった。
太ももに自然と力が入り、あそこがきゅうっと締まった気がする。もう一度、恐る恐る心当たりのある場所を指で触れてみると、やっぱりその場所に指が触れた時に僕は身体を震わせた。
「ン…ふ…あ…」
変な感じ。あそこがどきどきと心臓のように高鳴り、おしっこを出したくなるような…。
僕はそれをすごく恥ずかしく感じて、急いで身体をきれいにするとバスルームから出たのだった。

でも。
気になる。
僕のここはどうなってるんだろう?男の子の時は自分で良く見えるようについていたけれど、女の子のここは鏡でも当てて覗き込まなきゃ形すらはっきりと分からない。
…しばらく付き合う身体だもんね、いいよね、観察するぐらい…。僕は自分にそう言い訳して、鏡の前に立った。

兄さんが図書館に行ってしまったのを見計らって、ドレッサーの鏡の前に立った。上半身はシャツを着たまま、下半身は全て脱いで、ドレッサーの椅子に片足をのせると、僕のあの部分が鏡に映りこんだ。
ようやく生え始めた陰毛の更に先に、ふっくらと盛り上がった割れ目がある。
なんだか、妙な気分だ。もう自分のものと言ってもいいのに、好きだった子に秘密を打ち明けられているかのような感じ。見てはいけないものを見てしまい、どうにも落ち着いていられない。
…兄さんみたいに男の子だと、女の子のここを見たら興奮するのかな?僕の魂は男だから、こんな風に妙な気持ちになるのかな?
震える自分の指で、その割れ目の両脇のふくらみに触れてみた。ぷにぷにしていて我ながら触り心地がいいかも知れない。それから、両手を使ってそのぷにぷにしたふくらみを指で押し広げてみた。
僕の、その中は濃いピンク色とでも言った方がいいのか…とてもいやらしい色をしていて、おまけに濡れたように光っていた。
ああ、そうか。この部分は口の中や、目の中と同じ粘膜だもの。濡れているのは当たり前なんだ。
1人でそう納得する。
次に割れ目の上部に目をやると、赤い突起が姿を見せていた。
これはなんだっけ?男だと、亀頭に当たる部分かな。指先でそうっと触れてみると
「あっ…」
また、あの時のように声が出てしまった。胸が走った後のように盛大に高鳴り、太ももに力が入る。
どうしよう。もう一度、触っても大丈夫かな…?
戸惑った挙げ句、再びその突起に指を這わせた。
「ん…あっ…あん…」
とがったそれは、どんどん硬さと大きさを増していき、僕はそこから広がる初めての感覚に指の動きを止めることが出来なかった。
「あ、ああ…やだ…おっ…かし…い…」
ふと、鏡に映る自分の姿が目に飛び込んで来た。嫌だ!なんてはしたない格好をしているんだろう!左足を椅子に乗せて思いきり開いて、夢中で大事な部分を刺激して…。
そう思った途端、身体が熱くなるのと共に、びりびりとあの部分から身体の奥の方を伝って頭のてっぺんに何かが走り抜けて行った。
「ぐっ…ああ…!」
苦しい!瞬間、息が止まり、腰がびくびくと跳ねて…僕は身体から力が抜けてしまい、床に崩れ落ちた。それまで脚を乗せていた椅子に縋るようにして身体を預けて、しばらくぼうっとしていたのだった。
しばらくしてようやく落ち着いた僕は、自分の指先を見た。ちょっと濡れていた事に驚き、あの部分を触ってみると、身体の奥から滲み出して来たのか、割れ目がぬるぬるとした液に濡れていた。
僕はすごく恥ずかしくなってバスルームに飛び込むと、急いで身体を洗い、はしたない行為の名残りをすべて洗い流そうとした。

帰宅した兄さんの顔を見るのが恥ずかしい。僕があんなことをしていたって知ったら、兄さんはどんな風に思うだろう。
まだ兄さんも僕も子供だった頃。
学校で男の子と女の子の身体の違いと、どうしたら人間が作られるのかを勉強した。先生が絵を見せながら説明を始めると、みんながざわざわと騒ぎだし、ちょっと身体の大きい男の子が女の子をからかったりしてた。
僕と兄さんは母さんを錬成しようと研究をしている最中だったから、この事はあんまり僕らの中では重要ではなかった。それでも、先生の説明にちょっとどきどきした記憶がある。
その日の帰り道、友達みんなとの帰り道の途中で、ある子がこんな事を言い出した。
「にいちゃんが言ってたけどよ、アレってキモチいいんだって!」
「どうやってすんだよ?」
「女のアソコに突っ込むんだよ!女もキモチよくなるって」
「えーっ、そうなのかぁ?」
「そうだって!それに、自分の手でするのもキモチいいんだぜ!にいちゃん、いっつもしてるんだ!」
いつも一緒に帰ってた幼馴染みのウィンリィも、その時は別の女の子の友達と帰ってた。僕は友達の話を聞きながら、兄さんを見た。兄さんはさもつまらなさそうな顔で友達を見て、僕にこう言った。
「そんな面倒なことしなくても俺は母さんを錬成するぞ!」
…兄さんはいつだって錬金術しか頭になかったから、こんな事をした僕を軽蔑するだろう。
それに、男の人はみんな自分の手でするって聞いた事がある。でも、男の人はしても、女の人がするのは聞いたことがない。僕の知ってる女の人…ウィンリィやホークアイ中尉がそんな事をするなんて思えないし。
やっぱり僕はおかしいのかな?
兄さんが図書館から借りて来た本を見せてもらおうと声を掛けた時、偶然に兄さんの左手が僕の左手に触れた。途端に思い出されるあのこと。顔が赤くなって、僕は慌てた。
「…アル?熱でもあるのか?」
「えっ?う、ううん、大丈夫!なんでもないから!」
「そうか?無理するなよ。自由に動き回れるからって、疲れて寝込んでちゃしょうがないからな」
「うん…気をつけるよ」
この身体になって初めての兄さんへの隠し事だった。
けれど、僕はその事を罪深いものと考えれば考える程、もう一度、あの激しい感覚に翻弄されたいと願うようになっていた。
それからは兄さんのいない時に、兄さんの目を盗んでと、その行為に及んだ。
どうしちゃったんだろう、僕は?
「ん…ここ…いい…」
乳首も感じることを発見して、指先で摘んで軽く捻るとじわじわと甘い感覚がそこから広がる。ひとしきり両の手で二つの膨らみとその先端を刺激してから、僕は手をまた下腹部に伸ばした。
「あ…はあん…そっ…そう…そこが…ああ!」
指先が敏感な突起を捕らえる。それはまるで玄関の呼び鈴のように僕の身体の中から快感と言うものを目覚めさせて引っぱりだした。
魂を定着された当初はあんなにも拒絶していたこの身体で、僕は快楽を得ようとしている。なんて身勝手なんだろう!でも、この身体は暖かくて、柔らかい。
僕はもう何年もそういう感覚から遠く離れた場所にいた。だからかな?こうして触れる事に抗えない。羞恥心よりも、この心地よさが勝ってしまうんだ。

僕は息の止まるような感覚を求めて、指を動かした。
割れ目から溢れ出た液を突起に塗り付け、こねるようにして指を押し付けた。時折ぬるりと滑ってあらぬ場所を刺激するのがまた違う快感を呼び起こす。滑って捕まえにくい敏感なそれを右手の指で刺激しながら、左手の指は割れ目にそって動かした。
「ああ、もう…もう…ダメ…また…あ…」
こんな時に頭の中に浮かぶのは、あの映像だった。ゆらゆらと揺れる風景の中、その金色の瞳を見開き、こちらを見つめる兄さん。血まみれの男、ゆっくりと、伸ばされる左手、そして…お腹の底からせり上がるような快感を感じて、そのまん中の突起を激しく擦り上げた。
「ああ…ああ!」
ひく、ひく、と割れ目の奥が収縮するのが分かった。後を引く甘い感覚がすっかり去るまで、僕は身体のあちこちに触れてその余韻を楽しみ、それからのそりと身体を起こしてシャワーを浴びた。

そんなある日の事だった。いつものように兄さんは出掛けて行く。僕はどこにも行かないようにと念を押され、部屋に閉じこもっていた。
思えば、僕がこんな事に溺れてしまうのにはずっと部屋に閉じこもりっぱなしなのも原因だ。本を読んでもその知識を発散させる場所もなく、僕はこの部屋で自分と向き合わなくてはならない。…外へ出たい。兄さんと旅をしていた頃が懐かしい。宿が取れない時は野宿をして星を見つめながら兄さんが眠くなるまで話をしてくれた。1人の時間は誰も歩いてない夜の街を散歩して、猫達の集会場にお邪魔したりした。
…寂しいんだ。僕はどうしようもなく、寂しいんだ。だから、こんな事までしてしまうんだ。
ゆっくりと、シャツのボタンを途中まで外して、ブラジャーの下の乳首を触ると、それはすぐにこりこりとし始めた。いつもしてるからすぐ反応するようになったみたい。もどかしくなってホックを外し、胸を露出させてゆっくり揉み出すと、あそこも反応して下着がべたりと肌に貼り付いた。
指を使いはじめるといつもより早く絶頂の波がやって来る。
「うあ…ダメ…あ…!」
ベッドの上でシーツを握り締め、目を閉じてそれを受け止めた。余韻が消え去った後にあそこに押し当てられていた指を割れ目にそってなぞると、妙にべたべたとした感じがする。
(なんか…違う?)
不思議に思い指を外して起き上がると、腰の辺りのシーツが僅かに赤く汚れていた。

「ち…血…!」
良く見れば、自分の指も血に汚れていた。慌ててシーツをベッドからひっぺがし、バスルームで洗う。なんとか目立たないまでにしてほっとしていると、今度は自分の内股をつうっと血が伝って落ちて来るのが見えてあわててタオルで押さえた。
傷つける程乱暴には指を動かしていないのに、なぜ出血したのか訳も分からず、僕はバスルームにへたりこんだ。
どうしよう…。
出血は少量ながらだらだらと続いていた。タオルでいくら拭おうとも止まらない。これはもしかして…とうとう拒絶反応が起きてしまったのかも知れないという考えが思い浮かび、僕は愕然とした。
そんな事って…魂を定着されて一ヶ月、気持ちがようやくこの身体を受け入れようとしているこの時に!
…兄さんに隠れていやらしい事をしていたからかな。もうこの身体が嫌だって、我慢出来ないって言ってるのかも知れない。
僕は情けなくなってぼろぼろと涙を流した。ごめんね、ごめんなさい。こんなに早く拒絶反応がでるなんて、思いも寄らなかったんだ。もっとつつましくしていれば良かった。そうすればもう少し長くいい状態のままいられたかも知れない。
…それよりも。兄さんが出掛けていない時にこんなこんな事になるなんて。兄さんが帰って来るまで持ちこたえられなかったらどうしよう?部屋に帰って来た途端、僕の身体が死んでいて、僕の魂もどこかへ飛ばされていたら…?
出血は止まらず、涙も止められず、僕は動けずにいた。

僕がバスルームで動けず、わんわん泣いていたその時。部屋の扉が開く音がした。
「アルー、ただいま。どこだよ?」
兄さんだ!よかった、間に合ったんだ…!でも、こんな姿を見せたくないと迷っていると、兄さんの方からバスルームを覗きに来てしまった。
「アルどこ…うおっ!」
兄さんは僕の乱れた格好と、血に汚れたタオルを見て驚いた声を上げた。
「どうしたんだ、これは!」
「にいさん…血が…血が止まらないよ…」
「何だって?だ、誰かに襲われでも…」
「ちがうよ…わかんない…でも、止まんないんだ…!あそこから血が止まらないよ!」
「おっ落ち着け!まずは泣きやめ!ほら、ちゃんとシャツを着ろ!」
シャツのボタンを一番上まではめられて、兄さんの上着の袖で涙を拭ってもらうに到り、僕はようやく泣く事を止めた。でも、まだ出血は止まってない。
「兄さん、僕の身体…拒絶反応が出ちゃったんだ…!」
鼻をすすりながらそう言うと、兄さんがその釣り上がった目を更に大きく見開いて、それからとても悲しそうな顔になって言った。
「そうか…とうとう…やっぱり、無理だったんだ…ごめん、ごめんな、アル!お、俺が…あんな事さえしなければ…」
今度は兄さんが泣き出した。それから僕の手を取って握りしめるけど、その手の上にぽとぽとと兄さんの涙が落ちて、僕もまた涙が溢れて来たのだった。
「にいさん、にいさん!もっと…もっとずっと一緒に居たかったよう!」
ひとしきり2人で泣いた後、兄さんがこう提案して来た。
「…なあ、アル、もしこれが本当に拒絶反応だったとしても…その身体が壊れてしまうまでに何かできる事もあるかもしれない…」
「症状を軽くするとか?」
「そうだ。お前、血が出る以外にどこか痛いとか、気になる所はないのか?」
兄さんにそう言われてえーっとと思い返してみた。そう言えば、なんとなくお腹が痛い。
「よし!これからまた図書館に行って本を借りてきて調べよう!待っててくれ!」
そうして兄さんは脱兎のごとく駆け出して行ってしまった。残された僕は仕方がないのでそのまま待っていると、15分程して分厚い本を何冊も抱えた兄さんが戻ってきた。
「おまたせーっ!さ、調べよう!」
兄さんは借りて来た本の中から「家庭で出来る!症状から判断する病気大全」という本を取り出すと、「出血」の項を開いて読み始めた。
「それでなんとかなりそう?」
僕が心配になり兄さんに問いただすと、兄さんは諦め顔ながらも懸命にページを捲り、呟いた。
「だって…とりあえずその出血を止めないと、拒絶反応以前に失血死しちまうだろ?」
兄さんが細かい本の活字を必死になり目で追う。しばらくして「これだ!」と声を上げてその項目を声に出して読み始めたのだった。
「…性器からの出血…女性の場合、性器のガンなどが考えられるのですぐに医師の診断を仰ぐ事が必要です…って、アル、ガンなのかよ!」
「そっ…そんな!ちょっと兄さん、他にはないの?僕にも見させて!」
僕は兄さんから本をひったくると他の文にも目を通した。
すると、同じ項の最後に、こんな文があった。
『初潮後は生理の周期が数年間は安定しない事もあります。不正出血を伴わないのであれば心配する必要はありません』
…生理?ふと思い当たって兄さんが持って来たもう一冊の医学書を奪い取り、婦人科の項を開いて読んだ。
『初潮を迎える条件としては、第2次性徴が始まり陰毛が生え、胸が大きくなり、また、体脂肪率が一定の値を超えるときとなっており…』
「もしかして…」
思い当たる事はいくつもあった。陰毛が生え始めたのは魂を定着されてしばらくしてからだった。食事をきちんと取るようになり、身体もふっくらして、胸も大きくなって…って、事は、この出血は…!
「兄さん、これ…」
そのページを兄さんに見せると、兄さんも察したらしく、がば!と立ち上がるとまた外へと駆け出して行ってしまった。そして10分後、小さな包みを手に真っ赤な顔をして戻って来たのだった。
「これ!俺は外で待ってるから!」
包みを開けると、sanitary napkinの文字が目に飛び込んできた。外装の裏には使用方法も書いてあったのでその通りにしてみると、少々不愉快な感じはするものの、もうバスルームから動けないなんて事はなくなった。
部屋の外で待っていた兄さんを中に招き入れた。もうきちんと服を身に着けている僕を見て、兄さんは安心したようにほうっと息を吐き出した。
僕達は先程の大騒動からようやく解放されて、互いが使っているベッドに腰掛けていた。どこか照れて僕も兄さんもまともにお互いの顔を見る事が出来ずにいる。
生理が来って事は、妊娠する事が出来るようになったって事だ。大人の身体になったって事なんだよね?
「兄さん…?」
僕は俯いたまま兄さんに声を掛けた。
「ありがとう…」
それから、お礼を言う。僕の為に本を借りて来てくれて。それに、恥ずかしいだろうに、生理用品まで手に入れてきてくれて。
「うん。でも、良かったな。最悪の事態は避けられたみたいだ…」
兄さんも照れて、兄さんらしくない、小さな弱い声でそう言った。

夜になり、お腹の痛みで眠れなくて何度も寝返りを打っていると、部屋の反対側に置かれたベッドの方から兄さんが起き上がり、心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫か?」
「うん。うるさい?ごめんね…」
「いいから気にするなよ」
兄さんはそう言うと、またベッドへと潜り込んだ。
「…兄さん?」
「ああ?」
「ねえ…女の子のからだって、不思議だね」
眠れないついでに僕は話し始めた。
「この身体に魂を定着してもらってからもう一ヶ月だけど…毎日どんどんこの身体が変わって行くのが分かる」
兄さんは僕の話を聞いているのかいないのか、応えはしない。
「そりゃ、今でも自分の身体じゃないって、そう思ってるけど…でも、僕、この身体がすごく愛おしいんだ…」
毎日、毎日、驚く程に新しい発見がある。
身体を動かしたり、ご飯を食べたり、僕がそうしたいって思った事をちゃんとしてくれる。でも、それだけじゃない。人がどんなに暖かいのか、大人になるのがどんな事なのか、僕に教えてくれているんだ。
僕はここにいていいのかな?母さんにそっくりの、この身体で生きていてもいいの?拒絶反応が起きないと言う事は、きっとそうしていてもいいって事なんだろう。
ベッドの中で暖まった身体が、とろとろと睡眠を欲していた。ゆっくりと目を閉じて身体の欲しがるままに眠りにつく。
でも、その前に。僕は遠くなる意識の中で、もう一度こう言った。
「にいさん…ありがとう…」
それから、この身体にも。

シリアスなお話を書くのも好きなんですが、ドタバタとアホみたいな2人を書くのも好きです。エロでそれは難しいが好きだ−!!


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