崩れていく。
 アルファ山が、崩れていく。
 錬金術の始まりの地、ひいては世界の始まりの地とも謳われた、アルファ山が。
 ソル神殿が。
 至高なる錬金術の力が眠っていた、聖なる神殿が。
 崩れていく。
 なすすべもなく、崩れていく。
 大きな音を、悲鳴を上げながら、崩壊する。
 一人の男を巻き込みながら。
 私が何をしたというのです。
 一切の抵抗が出来ぬままに巻き込まれた、男。
 私が、いったい何をしたというのです。
 男の心が、崩壊の渦の中を駆け巡る。
 私は、何もしていない。
 私は何もしていない。
 私はただ、真実を求めただけだったのに。
 私はただ、私が何なのかを知りたかっただけなのに。
 私は、何も、していないと、いうのに!
 水。
 地。
 風。
 火。
 四つの力を浴びた、ソル神殿。
 伝説となっていた、黄金の太陽なる現象を浴び、
 真の姿を取り戻した、その刹那。
 ソル神殿は、崩れる。
 轟音とともに。
 アルファ山ごと。
 一人の愚かな男とともに。
 一人の哀れな男とともに。
 《人》であると、証明するために、足掻いてきた。
 ひたすらに足掻き続けていた。
 そのために、欲した。
 永遠の命と、究極の力。
 だというのに。
 彼の手に入れたものは、
 永遠に近い命。
 究極に近い力。
 絶望そして失望。
 だが、それでも構わなかったのだ。
 何はともあれ、彼は力を得た。
 より長い時を得た。
 それらがあれば、求めるものは、手に入った。
 手に入れられた。
 悔しいのは、ここで死を待つしかないということ。
 
「全ての力を失ったアレクスは、助からない」
 
 あの、忌々しい一つ目の岩は、そう告げた。
 私に、死を、突きつけた……!
 不意に、怒りがこみ上げてきた。
 あるいは、憤りが。
 私は、死なない。
 男は崩壊の渦に向かって告げる。
 私は死なない。
 まだ、死なない。
 自分が何者なのか、その答えを。
 自分が《人》であるという証を。
 真実を。
 真実を、この手に掴むまでは。
 死なない。
 死ねない。
 ……死んでたまるか!
 落ちる。
 足元から落ちていく。
 空気が彼の身を切る。
 彼は、その中で、叫んだ。
「く……ううっ……うわああああああぁぁぁぁっ!!!」
 喉も裂けよ、とでも言っているかのように。
 叫ぶ。
 絶叫する。
 ありったけの力を求めた。
 自らの中に求めた。
 失われたはずの力が、応えた。
 身体中を満たそうとする、その、力。
 懐かしい、蒼の力。
 水。
 その力が極限まで達した、
 その、
 刹那。
 
 彼は、言葉を叩きつける。
 彼の全てを解き放つ言葉を。
 解放の言葉を。
 ……すなわち、彼自身の名を。
 
「アレクスっ!!」
 
 暗闇だったその空間に、蒼の光が満ちる。