Shower

◇◇◇

 シャワー室に、エンブリオン幹部男子全員がそろった。

 それ自体が、椿事でもあった。
 なんせ、ヒートはいわゆるカラスの行水で、ずかずかと風呂場に踏み込んだ時の速度をゆるめずに、シャワーヘッドの下をくぐり、そのまま出て行ってしまうような男だったから(洗えよ)、ヒートと出会うこと自体が、賭けの対象になってもいいくらいの珍しいことだったのだ。

 だから、シエロがヒートの股間を覗き見たのも、ただの偶然。
 年少の彼が、他メンバーの体格の良さを気にしてたのは、やや影響していたかもしれない。

 直後、シエロが「ヒートのちんこが変!」と騒ぎはじめて、ある事実が判明した。

 ブラザー・ヒートは、カセイホウケイ。

 ゲイルに協力してもらい、エンブリオンのボス・サーフは、それを丁寧にむいてあげた。

 めでたしめでたし。

 ――で、終わるはずだったのだけどね。

 終わるわけがない。
 ヒートくんは、それまでなんにも知らなかったんだから。
 ちんこ勃っちゃっても痛い時が多かったから、自分でいじることもしなかった。
 (あ!だからいつもイライラしてたのか!)
 それが、ボスの長い指で扱かれて、頭の中がまっしろ、まぶたの裏もまっしろ、になるくらい気持ちよくなって、正直「ニルヴァーナって、ここじゃねえの?」と思っちゃった。
 でも、サーフに負けたみたいで悔しいから口では言わない。

 つまり、くだんの一件以来、ヒートはそこそこ長風呂になった。
 わっかりやすい!
 幹部なのに、下っ端構成員のバスタイムにも乱入するようになって、ひそかに顰蹙を買っていた。
 やることなすこと、つくづく裏目に出る男だな、ヒートは。

 エンカウント・オンにして、サーフと一緒の機会を多くしたい、と思ったわけだ。そして、5回に1回くらいでいいから、同じことしてくれねえかな、みたいな?
 さりげない風を装っているけど、バレてないと思ってんのは当人だけ。もちろん、サーフにもバレバレだった。

 一方、サーフは。

 「なんて可愛いんだろう。ヒートは」
 と、端正な面差しを崩さないまま、考えていた。
 本人は、満面の笑みを浮かべているつもりだったのかもしれないが、ゲイルとは別の意味で表情筋が壊れている彼は、顔つきで端的な感情表現ができない。
 そのため、周囲に余計な誤解を招き、本人が意図していないところで、得をしたり損をしたりする。

 今回の得
 ・ヒートがどんなあからさまな誘い方をしても、ボスは微動だにしないんだ、さすがだな!(信者1)
 ・陽動作戦に載ってこないので、ヒートが更に動揺して、次なる手段に出ようとしている。(やはりエンブリオン1のアタッカー。押してダメなら更に押す!↑ゲームが違う)

 今回の損
 ・ボスがいっぱいいっぱいになってるのに、誰も気づかない。
 えー?
 そうなんだー!なににいっぱいいっぱいなの?ボス!なんでー!
 
 と言うわけで、誰もわかってない。

 氷のような美貌のために、孤高の存在に見えるのはいた仕方ない。幻想を破って申し訳ないが、ボスだってありきたりな男です。
 頭の中で、ヒートにあんなことやそんなことをしたりはするし、もちろんむらむらも臨界状態。
 で、考えすぎて、どこから手をつけたらいいのかわからなくなっているのです。
 ………
 あ?

 まあ、ヒートをむいてあげた時には、どさくさに紛れて、自分のちんこも触ってもらい、めでたく発射したのですが、とどめを乞う悪魔みたいに震えて頂上に登りつめてしまっていたヒートに、サーフが果てたことまで、理解できたかどうか。
 ――可愛かったな。
 サーフはあの時のヒートを反芻する。
 涙も唾液も鼻水もとにかく出せるものは出しちゃって、眼もどこ見てるかわからないし、そんな状態で、胸まで飛んだ自分の精液に驚いて、余計パニックになっちゃってた。とにかく俺の名前ばかり連呼してたよな。「サーフ、サーフ!サーフ」って。舌ををもつれさせたままで。
 あんな可愛いヒート――いや、あんな可愛い生き物、見たことがない。
 俺が両手で抱きしめたら、怯えでだだ漏れになってた生体マグネタイトが、段々収まっていくんだ。あの、ふっとい腕で、泣きながら俺にしがみつくんだぜ。

 可愛くてたまらない。

 などと、よかったところを、端から列挙していくうちに、今度も同じようにヒート・フルコースが味わえたらいいなあ、と、欲が肥大してしまう。

 気がついたら、一日が終わっている。
 その頃、ヒートが丸一日据え膳状態だったと、なにげに他人から聴かされる。

 うーんうーん。


◇◇◇

 一方、
 本日もまた据え膳状態のまま捨て置かれたヒート・二十四歳。
 トライブエンブリオンの最年長。性格は瞬間湯沸かし器。
 よく我慢してる。
 
 それもこれも、自分から「おう!またアレやってくれよ!」と言うと、サーフに頼み事してるみたいだからな!(してるじゃん)
 そすっと、まるで、俺がヤツより下っぱみたくね?(だって下っ以下略)
 それに、なんだ、アレは気持ちいいけど、その最中って俺、なんかみっともなくね?
 威厳、つうの?貫禄のあるかっこよさ、つうの?なくなっちまうつーか。

 ――ヒートの自己評価の高さに非常に驚く。
 彼の頭の中の自分は、スタイリッシュで颯爽としていて、頼りがいがあって、ニヒルで命知らずなのだ。(最後だけ合ってる)

 実際、構成員の中には、ヒートをそんな風に『誤解』してるメンバーもいた。今回のことで誤解は充分解けたはずだ。かといって、エンブリオンの中で、ヒートに忠告するような命知らずはいない。

 シエロをのぞいては。

 廊下の角っこから、なんの前触れもなくすっ飛んできて、ご挨拶。
 「ヘーイ!ブラザー・ヒート!今日もちんこお元気で何より!あれえ?まだガチンガチンなの?アニキに抜いてもらったらいいのニィ!」
 青いウナギ頭に、ヒートの鉄拳が飛ぶ。
 
 「アタタタ!フレンドリーなアドバイスになんて仕打ち!ヒートなんかちんこ爆発して死んじゃえ!」
 「ち、ち、ちんこちんこちんこ、うるせんだよオメエは!」
 ほんと、うるさいですねすみません。
 でも、シエロはひるまない。

 「ふーんだ(鼻息!)折角、アニキに伝言でもしてあげよっかなあって思ったのにさ。じゃ、失敬!」
 「ままま!まてウナギ頭!」
 「…誰のことかなあ」
 「いや。…シエロ」
 「わかればいいんだよ。ちんこヒート」
 ぐぐぐぐ。ここはこらえろ。
 「んふふふ。偉いねえ、ヒートは。シエロさまがご褒美をやろうな。アニキに何を伝えて欲しい?」
 「…シャワールームに来い」
 「そいから?」
 「俺もすぐに行くから、首ィ洗って待ってろ!」

 ヒート。
 首を洗うって言葉は、ご飯の前に手を洗うのとは意味が…
 ……
 ――まあ、いいや。

 シエロは両手をひろげて、キーンとボス方面に走っていった。

◇◇◇

 来たよ。来たよ。ヒートの伝言。サーフはそれをドキドキして聴いた。
 「…シエロ。首を洗うって言葉は、ご飯の前に手を洗うのとは意味が…」
 「ま、それはそれ。これはこれ」
 そうだね。

 シエロと会話した作戦室からすぽんと飛び出ると、自分用お風呂セットを抱えたボスは、一直線にバスルームまで走った。
 
 そして、脱衣所に入ると、お風呂セットの入ったおしゃれポーチ(自室の壁フックにかかってるアレ)をかかえ直し、タグリングを使って、廊下につながるドアに最高権限のロックをかけた。

◇◇◇

 熱い湯は悪かない。
 と、気づいたのは最近だ。以前は、シャワー浴びてる時間は、ただもったいないだけだった。水なんか、天からいくらでも降ってきて、戦闘中でも休憩中でもおかまいなく浴びっぱなしだ。なのに、他のメンバーは何が面白くてわざわざまた水浴びなんかする?
 けれど、サーフを待ちながら、体温より少しだけ温かい湯が自分の肌を流れていくのにゆっくりと浸っていると。
 なんかこう。
 熱っぽくなったサーフの指が、触っていくみたいなさあ…
 『ちょ、おま、まさか、そんなとこまで、指延ばしちゃうの?
  俺自分でも触ったことねえんだけど、こら、やめろってんだよ、ちがうぞ、おまえが触るから止めようとしてんだぞ、でも、この機会に触っちゃうか』(この人、救いようがない)
 ってな感じで、普段ではありえないポーズで身をよじらせていると、浴室の隅のドアから、気配を殺したサーフが、じっとこちらをうかがっているのに、気がついた。
 「バッ!バカやろう!いるならいるって言いやがれ!」
 これを逆ギレと言わずして、なんとしよう。
 しかし、サーフは、まったく動揺した様子を見せず、おしゃれポーチを片手に、水音をひちゃぴちゃ響かせながら、ヒートの隣のブースまで歩いてきた。

 「リクエスト通り、まず首を洗うから」
 長いまつげを伏せて、白いうなじにシャワーを当て始めた。

 バスルームのスチームで、上気していく、サーフの白い肌。
 左頬のアートマの周りも、ぽおっと紅がさして。
 
 セラは白い女だけれど、サーフも同じくらい白い。むしろ、さ青な髪のために、凍りつきそうなほど、白い。
 それが、ほどよい湯温で、とかされて、ほどかれてく。
 
 花。
 花って、なんだっけ、と、ヒートは思った。はなのほころぶようすに似ている。
 
 その、はかなげな、花のように可憐なサーフの口元から、ふんわりと言葉が漏れる。

 「ヒートのちんこ、もう、すごいことになってるね」

 んあああ、とヒートは呻いた。
 なんか知らん。知らんけど、今すぐ爆発しちまいそう。

 一見しただけではわからないが、サーフのテンションだって、最高潮に達していた。
 ひとりで浴室にいるヒートを観察してるだけで充分盛り上がったけど(えと、シエロが可愛がっている、あの獣?が、身繕いするようなポーズとっちゃってさ。でもその格好の意味はわからなかった)、
 この瞬間、こちらを見ているヒートの眼と来たら。
 いましも涙が流れそうに潤んでいるのを、本人は気づいているだろうか。湯のためか、興奮のためか、火照りきった胸や腹がどきどきと脈打つのが、こちらにも伝わってくる。それと、腕のアートマ。そのあたりから、ヒートの生体マグネタイトが、ちろちろと漏れているのだ。
 あからさまに色めいているくせに、心のどこかで怯えてる、って?
 ぞくっとする。嗜虐心?
 それ、反則だよ、ヒート。俺、もう、何しても謝らないからね。おまえが悪いんだぞ。

 棒立ちになっているヒートに、サーフはつま先立ちになって抱きついた。
 あんなにあからさまに誘っていたってのに、ヒートは指先ひとつ動かせない。
 朴念仁。
 白い肌をしたボスは、ひたりと胸を寄せたまま、お互いの股間をぐるりとすりあわせた。
 「…あッ…」
 「まだ、痛い?」
 鋭いヒートの悲鳴に、サーフは柔らかに問いかける。
 「…いた、くねえ、よ」
 「だったら、気持ちいい?」
 「……」
 なんで、そこで黙るんだよ。
 「気持ち悪い?だったら、よすよ」
 「…いや、悪く、ねえ…」
 「いいの…?」
 「……」
 あー、もう。
 ほほえましい気持ちも、もちろんあるが、このままじゃ、どっちも持たない。もどかしい。
 ボスは、すとんと床にひざまづいた。
 「…!」
 予想のつかない行動に反応して、とっさにヒートが戦闘時と同じ、構えの姿勢を取る。少し緩めた膝のおかげで、膝を突いたサーフの前には、ヒートの股間。

 そして、元気いっぱいのヒートのちんこ。
 こないだ、ボスが手ずからむいてあげた。この世に出たての先っぽだった。ヒート本人より先に触ったのは俺。そう思うとサーフは頭の奥に、じん、と痺れる熱さを感じた。いきなり棹の根元を掴むと、先へと擦りあげた。
 「…ぎ…っ」
 驚きの声を押し殺すヒート。彼の噴出する、マグネタイトの量が増した。
 「何を怖がってるの?気持ちよくしてあげるんだから、そんなに怖がらないでくれよヒート」
 「――怖がってなんか…」
 どうしてこう、すぐ強がりを言うんだろうね。

 怖がらないでくれよ、と言いながら、サーフはその、頼りない桃色に染まっている先っぽを指先でこねると。

 ぱっくりと、自分の口に含んだ。

 「ぐ…ん――っ。うあ!あ…ぁ、ああ、だめぁああ…!」
 感触より、驚きが先走ったのがわかるヒートの叫び声。
 まるで、腕が取れたか、膝がもげたかした時みたいな声だ。
 むしろ、そんな時の方が、もっとおとなしいかもな。俺たち、覚悟はいつだってできてるし。
 だったら、この声は、ヒートがあげる、滅多にない声だってことだ。
 ――また、俺が手にしたヒートの『初めて』
 
 サーフの頭の芯が、ぐんと温度を増す。生まれた熱は、一気に胸に降り、心拍数を上げた。
 ――かわいい。俺のヒート。いろいろ考えずに、もっと早くこうしちゃうんだった。
 彼の下半身も、ずんと重みを増している。無意識に左手が自分の股間を探る。

 ヒートの腰も、床に落ちた。
 あまりのことに不意をつかれて、ヒートは自分の視点が下がったことにすら気がつかなかったくらいだ。
 口、は、食事につかうものじゃなかったか…?
 サーフは、ちんこ自体を食う気はないらしく、ただ、吸ったり舐めたりを繰り返している。
 吸われるたびに、奥の方から何かがせり上がってきて、切ない感触もどんどん高まってくる。
 考えれば、そもそも、ちんこがなんで気持ちいい場所なのかもわからないし。
 もともとこうするものなのかもな、とヒートは思った。

 でも、もともとこういうもの、とシンプルに思いこむには、微妙にひっかかりがあった。
 ――恥ずかしいのだ。
 サーフが、自分のちんこをくわえてる状態が、恥ずかしい。その、くわえてるサーフの顔つきを見るのも、非常に恥ずかしい。(でも、見てると、全身がうずうずする)
 レーションや獲物を食べれば、純粋に満たされる気分になる。この行為も、満たされる気持ちは、確かにある。
 しかし、この、得体の知れない恥ずかしさ。気持ちいい筈なのに、浸りきれない。
 「――サ、サーフ。俺、も、それ、やめろよ…」
 「気持ちよくないの?そんなわけないよね。ちんこからだらだら涎出てるよ」
 わわ。そ、そんな言葉使ったらいけねえだろう!なんでいけねえかわかんねえけど!
 「は、恥ずかしい、だろう、よっ!」
 「…なんで…」
 「わかんね…っ」

 サーフは、不満だった。
 折角、今回も、可愛いヒートが見られると思ったのに。
 どうしてか、往生際が悪い。
 思いっきり、浸ればいいだろうが。
 口を離して、利き手でちんこをごりごり擦ってやった。
 「――ぎゃう…ん!」
 「弱い悪魔みたいな声出して…」
 「…サ、サーフ…」
 「集中できないなら、止めるよ」
 「…――」
 口をつぐんだまま、首を横に振るヒート。
 もう!わがままだな!
 
 と、そこで。

 こないだ、シエロと参謀の行為を見学した時のことを思い出した。

 シエロ、気持ちいいって言ってたっけ。
 揚げ句は、自分がどういう状態だか、訳わかんなくなっちゃって。

 サーフは、再び、自分の股間に手をやった。
 こっちも、はじけそうなくらい大きくなってる。
 「舐めてくれる?ヒート」
 「…いやだ」
 言うと思った。

 「じゃあ」
 サーフは、仰向けに横たわったヒートの両足首を掴むと、大きく開かせた。
 大柄な身体が、あからさまに怯えて、震える。マグネタイト値MAX。

 「訳わかんなくなるくらい、気持ちよくしてやろうな」 

 そう言いながら、身をヒートの両脚の間に割り込ませ、指で、尻を探った。
 「んあ!うわああ」
 いきなり、身を引かれた。
 真っ青になって、後ずさりまでしてる。そこまで驚くかな… ビビリだよ、こいつ。
 「なに…なにすんだよ、てめぇ!」
 「気持ちよくしてやるって、言ってるのに」
 「出すとこだろうが!」
 以前のサーフと同じこと言ってる。
 「気持ちいいって」
 「だれが」
 「シエロが言ってた」
 「俺は…!」
 気持ちよくないって?やってもみないのに?
 ヒートは、眼を見開いたまま、後ろ手に浴室のドアを開けようとした。
 「――それ以上は出られないよ」
 「…!!」
 「俺が、タグリングで、ロックした」
 混乱して、叫びまくるヒート。ああ、うるさい。口に何か詰め込んで塞いでやろうか。

 でも。
 そんな、無理矢理より、もっといい方法があることに、サーフは気づいた。
 だって、ヒートだって、またあの気持ちいいことをしたくて、ここに来たんだから。
 そして、こんなビビってるくせに、こころの中では、まだ期待してる。怯え電波出しまくりなのに、ヤツのちんこときたら、全然萎えてない。

 サーフは、壁の段差に立てかけておいたお風呂セット入りおしゃれポーチの中を探って見せた。
 「なにかあってね、ヒートがHP1になるようなことでもあったら、困ると思って、いろんなツール持ってきたんだけど」
 サーフの穏やかな声に、彷徨っていたヒートの視線が、しっかり戻ってきた。
 「これ、わかる?パナシーア」
 「……」
 「ヒートがこれ以上混乱するようなら、飲ませる。そして、俺も飲む。きっと心がフラットになるよ。その後は、俺、もう、ヒートに欲情したりしない。二度と、ヒートに触らないから。それのがいい?そうしようか?」
 
 暴れていたヒートの身体から、力が抜けた。
 
 「口、開けて」
 ヒートが、また、首を左右に振る。
 「――ヒート」
 「だめだ」
 「…おまえ、勝手すぎだろう」
 責めるサーフを見返すヒートの眼が、これ以上もないくらい潤んでて。
 「ちがうもの、を」
 ちがうもの、って、何?
 「パナシーアじゃねえ…」
 「何を?」
 
 「俺の口に」
 
 そこで、目をつぶる。
 
 「入れてくれよ」
 
 ヒートは、にじるように床を這ってくると、眼をつぶったまま、思い切りサーフの股間にむしゃぶりついてきた。

 サーフは、一生懸命施している紅い髪を、愛おしげに撫でる。
 「ヒート、やっぱり可愛いね」
 きっと、聞こえてないだろう。
 聞こえてたら、またきっと怒り狂って、今度こそパナシーアを口に放りこむ羽目になっていたはずだ。
 
 耳を、頬を、顎を、なでさする。
 ヒートは、しゃぶりながら、また、弱い悪魔のように、喉を鳴らした。
 それは、あきらかに怯えじゃなく、ボスの心を甘く、柔らかくとかして、頬を紅いろに染めるような声だった。

◇◇◇
 
 浴室の外では、青いウナギ頭と、腕組みの参謀が、こっそりと様子をうかがっていた。
 まあ、中の様子は、アジト全体につつぬけですが。
 ふたりがのぞき込んでるのを、知られないようにしたかったので、そこの部分で、こっそりと、ですな。

 「ねえねえ、アニキ、ヒートに入れちゃうと思う?」
 「もっと奥ゆかしい表現はないのか」
 「えー?どう言おうと同じじゃん。で、どうなのよ、参謀としては」
 「覚醒していようといまいと、ヒートが鈍感なのは変わりあるまい。全部教えないで、気を持たせた方が、今後につながる」
 「……」
 「…悪い人だねえ」
 「常識だろう?」
 「俺相手には、はかりごとしないでね」
 「…知恵、と呼んでもらいたい」 

◇◇◇

 アジトの場所柄、浴室には、若干のスチームが入りこんでいて、温度が下がることはないが、その代わり、のぼせ上がるのは早かった。
 上気した身体をぐったり横たえているヒートに、サーフがシャワーを浴びせかけてきた。下げた湯温が心地いい。

 サーフは、長いまつげをしばたたき、それから唇を寄せてきた。
 ヒートも、唇で受ける。最早、相手が喰らおうとしているなんてバカは、考えなかった。

 少し冷たい、薄い舌。それが熱くなってくのを感じながら、ヒートはサーフに問いかけた。
 「…あのよ…」
 「…なに?」
 尻、って、あれ、何?
 と、のど元まで出かかっているのを、サーフは察した。
 ヒートが考えてることなんて、だだ漏れだから。
 
 今日は、お互い口でイッて、そこまでだったからな。
 まったく、知りたがりなんだから、ヒート。
 そのうち、大怪我して、戻れなくなっちゃうぞ。
 知らないよ。
 
 トライブエンブリオンのボスは、アタッカーの髪をやさしく撫でながら、囁いた。
 
 「まだ、知りたいことがある?
 だったら、今度は、俺の部屋をノックして来いよ。
 俺にしか開けられない鍵を、おまえのためだけに開けてやる」

◇◇◇  End

END