一成 「―――何をしているんだ、衛宮」 士郎 「いや、見ての通り雑巾がけだけど」 一成 「いや、それは分かるが……なぜ衛宮がうちのお堂の雑巾がけをしているのか、今ひとつ理解が出来ないのだが。」 士郎 「ああ、それは…体力作りの一環として普段使わない筋肉も使おうと石段の上り下りをしていたところに一成のお兄さんが来て、掃除などいかがかなとお願いされて、こうしてお堂の雑巾がけを任されたんだ。」 一成 「何故断らなかったのだ。」 士郎 「普段お世話になってるからな。それに堂内の雑巾がけ、結構楽しいぞ。」 一成 「(溜め息)いや。生徒会の事で散々頼っている俺が言えることではないか―――しかし、頼まれればお前は友人宅の掃除まで引き受けるというのか?」 士郎 「場合によるけどな。前も遠坂の家の掃除とかしてきたし―――」 一成 「(深い溜め息)」 士郎 「どうした?」 一成 「いや……衛宮にそのような仕事を押し付ける遠坂に対する怒りよりも、結果的に遠坂と同じ事を頼んでいるという現状にやや眩暈をな……」 葛木 「失礼する。零観(れいかん)から衛宮に差し入れだが……一休みする前に、手を洗ってくる方が先だな。」 一成 「宗一郎兄、零観兄は来ないのですか。」 葛木 「ああ。檀家の方が来られたのでそちらの相手に回っている。衛宮と一成、二人で食べなさい、との事だ。」 士郎 「どうもです。じゃ、手を洗ってきますけど、戻ってくるのはここでいいんですか?」 葛木 「神仏の前では落ち着かないか。では私の部屋にしよう。あいにく、来客用の部屋は使用中だ。」 === 葛木 「衛宮、茶だ。」 士郎 「ありがとうございます。」 一成 「随分と嬉しそうだが、気に入ったのか?」 士郎 「む、そんなに嬉しそうか俺」 一成 「ああ。(頷きの「ああ」)確かその菓子ならまだ残っていたな。いくらか持って帰るか?」 士郎 「そこまでしてもらうのは悪いんじゃないのか?ちょっと雑巾がけしただけだぞ。」 一成 「別に構うまい。」 キャスター 「宗一郎様、お食事の準備が出来ました―――あら。一成君はともかく―――どうして坊やが居るのかしら?」 士郎 「まあ、ちょっとあって―――それ、キャスターが作ったのか?」 キャスター 「そうよ。何か文句でもあるのかしら」 士郎 「キャスターって、もしかして料理苦手か?」 キャスター 「な、何よ、そんな風に言うからには当然坊やは料理が出来るんでしょうねっ!」 一成 「ああ、衛宮の飯は美味いですよ」 キャスター 「―――どうして一成君がそこで答えるのかしら?」(笑顔で怒る) 一成 「あ、いや。衛宮の飯を食ったこともありますし」 葛木 「ふむ。衛宮は料理が得意なのか」 士郎 「え、はい。ずっと自炊していたんで、できるほうだとは思いますが」 葛木 「ふむ。キャスター。自分の技術に引け目を感じるのであれば、衛宮に教えを受けてみてはどうだ。」 士郎&一成&キャスター 「「「は?」」」 葛木 「無論、二人が了承すればの話だが」 キャスター 「……宗一郎様がそう仰るんでしたら、私は構いませんけど……」 士郎&一成 「「え」」 士郎 「―――まあ、別にそんくらいなら構わないけど」 葛木 「決まりだな。妻によく教えてやってくれ、衛宮」 士郎 「―――成り行き、としか言いようがないなぁ。」 ===後日=== 士郎 「いらっしゃ……誰もいない?やれやれ、今時ピンポンダッシュなんて、小学生どころか藤ねえでもしないぞ……って、わわわっ!」 キャスター、いつの間にか玄関で靴をそろえている 士郎 「おい……」 キャスター 「あら坊や、侵入者探知の結界なら外させて貰ってるから」 士郎 「・・・・・・・・・・」 キャスター 「ところで、桜さんはご在宅?」 士郎 「なんだ、そういうことか」 ☆注意:キャスターとセイバー・凛は険悪な感じです。桜とは仲がいいという感じ。味方になる相手がいるかどうかを探っていると士郎は察します。 士郎 「いや、今日は買い物で新都に出ている。夜まで帰らないって言ってたけど」 キャスター 「なら、安心したわ」 士郎 「うん、先に言ってくれたら引き留めて……なに?」 キャスター 「あの娘にこんな所を見られるのは、避けたいの。ほら、あの娘は私が完璧な奥様だと信じているじゃないの?なのに、私が坊やにこんな頼み事をしているなんて知ったら」 士郎 「なるほどな、桜の夢を壊したくないと」 キャスター 「まさか。私が恥を晒したくないだけよ」 士郎 「……了解、そういうことにしとこう。桜には内緒にしておくし、他のみんなも出払ってるから安心して上がってくれ」 キャスター 「では改めて。こんにちは、坊や。いえ、今日は先生と呼んだほうがよいかしらね。」 ===料理教室開始!=== 士郎 「違う。ス…えっと、中がスカスカになってるのが多いから大きければいいって訳じゃない」(ジャガイモの選別方法を教えてる) キャスター 「そ、そうなの―――ええ、知っていてよ、初歩の初歩ですものね、そんなコトは」 士郎 「じゃあ肉じゃがでいこう、比較的和食っぽいし。」 キャスター 「・・・♪宗一郎様、肉じゃがお好きかしら……」 士郎 「いや、俺に聞かれても」 キャスター 「坊やが独身男性は手作りの肉じゃがが好きだって言ったんじゃないの」 士郎 「大抵はそうじゃないかなって話だよ。共通幻想っていうか、男のさもしい夢っていうか。や、そんなコトを気に揉む前にさ、腕まくりぐらいしてくれ」 キャスター 「え?あ、あら、私としたことが。ええ、分かってる、分かってるのよ、本当に。安心なさい、水除け染み除け脂除けの魔術をかければいいんだから。雑菌対策も完璧よ」 士郎 「……まあ、ならいいけど」 包丁を使い始める 士郎 「なんだ、刃物は慣れてるじゃないか」 キャスター 「何の事かしら?」 士郎 「包丁の使い方。とても料理が不得手とは思えない」 キャスター 「刃物自体は魔術で使うもの、慣れていて当然よ。」 士郎 「そういえば、ボトルシップ作りなんて細かい作業もしてたっけ。気楽にすればいいぞ。いつもの魔法薬を作るようなつもりでさ」 キャスター 「料理と調合は比べられないわよ。効用を優先する薬学と、味覚と栄養を調和させる調理は別物も別物、第五次元の感覚だわ」 士郎 「そうか?レシピ通りに手を動かすのは同じだし。アンタなら簡単だと思うんだけどな。」 キャスター 「それで済むのならこうして教わりには来ませんっ。……桜さんも言ってたわ、料理は愛情ですってね。作る事より食べさせたい相手を想う事が目的の半分なのよ。思考を集中し複雑な式の計算を展開させながら行う調合とは違うの」 士郎 「う……そうなのか?」 キャスター 「ええ。だから、魔術のように効果だけを求める方法で美味しい料理が出来て、それを宗一郎様が喜んでくださったとしても、私は嬉しくないわ。」 士郎 「……へえ」 キャスター 「料理を作る私だけが楽しくても意味がないでしょう。二人の為にうまくならなくちゃ。」 士郎 「…そうだな」 セイバー 「シロウ、すみませんが何かつまむもの、を―――」 キャスター 「・・・・・・・・・・!なんだ、貴女なの」 セイバー 「キャスター……なぜ貴方が上がり込んでいるのですか。シロウ!?」 士郎 「待て、今日のキャスターは敵じゃないぞ?料理を習いに来ているだけだ。」 キャスター 「そういう事よ。お邪魔しているわ、セイバー」 セイバー 「何をのんきな……そんなあからさまな空事を真に受けるなんて、どうかしています!まさか、シロウはキャスターに操られているのですか!?」 士郎 「そんな訳ないだろ。あとそう、このコトは桜やみんなには黙ってて貰いたいんだけど」 セイバー 「フ、さっそく馬脚をあらわしましたねキャスター、隠すのは後ろ暗いものがある証拠です!キャスターは信用なりません。私があの女に囚われてどんな目にあったか、シロウはもう忘れ……」 士郎 「まあそういう不幸な経緯もあったけど……どうした?」 セイバー、肉を持っているキャスターの手に釘付け セイバー 「こほん……何を、作っているのですか」 士郎 「ああ、今日教えてるのは肉じゃがだけど」 セイバー 「肉じゃがですか……」(嬉しそうに) キャスター 「坊やのおかげで、セイバーは舌が肥えているようね。じゃあ私の肉じゃがが貴女を満足させられれば、宗一郎様にもきっと御納得頂けるわ」 セイバー 「キャスター、どうやら今日の貴方は敵ではないようです」 キャスター 「ええ、肉じゃがでセイバーを味方にできるのならお安いものよ」 士郎 「っつーか、安すぎるよな、実際」 セイバー 「……わかりました。前衛はわたしに任せて、後衛のあなたがたは安心して料理に打ち込んでください。肉じゃがが不心得者に見つからないよう尽力し、守り抜く事を誓います」 士郎 「いや、隠して欲しいのは肉じゃがじゃなくてキャスターの方なんだが。・・・まあいいか、どっちも同じだし。セイバー、よろしくな。しばらくこれでも摘んでてくれ」 ===料理再開=== 士郎 「助かったよキャスター。セイバーはあの通り頑固だからさ。」 キャスター 「セイバーは普通でしょう。おかしいのは坊やの方よ。一度ならずともあんな関係にあった私と、こうやって律儀に付き合っているんだから。」 士郎 「む。それを言ったら、ライダーとは一緒に暮らしているぞ」 キャスター 「ふ、そう言えばそうね。あの女、何度も坊やを殺そうとしていたものねぇ」 士郎 「いいだろ、昔のコトなんて。ランサーも言ってたぞ。敵だからって憎まなきゃいけない理由はないって。今は敵ですらないんだから、結構楽に考えていいんじゃないのか」 キャスター 「……そうは言うけど、ね。たとえば、私が坊やにした事は桜さんには話せないわ」 士郎 「大丈夫だよ。キャスターだって気持ちが割り切れているから、こうやって俺に料理を習えるんだろ」 キャスター 「……違うわ、宗一郎様に勧められたからよ。宗一郎様のためなら、バーサーカーにだって教えを請うわ」 士郎 「真剣なんだな、葛木先生の事になると」 キャスター 「あら、桜さんだって真剣でしょう?」 士郎 「む、どういう意味だそれ」 キャスター 「桜さんも大変ね―――それに私、料理は嫌いじゃないわ。好きな人と一緒に居られるように、嘘をつく事もある。けど料理には何も偽らず、純真にあたれるもの」 士郎 「……桜に見せてやりたいなあ」 キャスター 「なにを言い出すのかしら。桜さんにはこの事は秘密だって、・・・・・・っ!」 セイバー 「シロウ!」 士郎 「なんだセイバーか」 キャスター 「ふう、驚かさないでよ」 セイバー 「シロウ、凛が帰ってきました」 士郎 「遠坂か……!」 キャスター 「あの猿みたいに野蛮な娘ね。……まずいわ、あの娘やバーサーカーみたいな腕力バカは一番苦手なタイプよ。セイバーのように、話し合いで平和的に交渉とはいかなさそうね」 セイバー 「ええ、難しい相手です」 士郎 「いや、そりゃ遠坂は気難しいけどさ」 キャスター 「気難しいとか気優しいとか、そんなレベルのじゃないでしょうに。いいこと?私、魔術師同士の戦いで鉄拳(グー)を奥の手にするような相手は、あの子が初めてだったわ」 セイバー 「ええ、古には存在していなかった、新しいタイプの魔術師です」 士郎 「は……はは。キャスター、何か便利な魔術はないのか?隠身とか空間転移とか」 キャスター 「ダメね。いま魔術を使うのは発炎筒を焚くのと同意よ」 セイバー 「来ます!」 キャスター 「……ふっ!」 キャスター、フードをかぶる 凛 「ねえ衛宮くん……ん?」 士郎 「よ、よう、おかえり遠坂」 凛 「どうして貴女がそこにいるの?珍しい風の吹き回しね、セイバーが料理なんて。こんな時間から夕食の支度?」 士郎 「ああ、料理を教えているところなんだ。肉じゃがはほら、いろいろ応用が利くからな」 凛 「ふぅん……ちょっとセイバー、炒(ジャン)じゃないんだから」 士郎 「そういう訳で、いま手が塞がってんだがらな。用件があるなら後にしてくれ」 凛 「そう。……ところで、さっきから邪魔っけな、この紫の風呂敷包みはなに?ゴミ?」 ローブを裏返したキャスターが隠れているものを凛が足でもみゅもみゅとつつく 士郎 「や、やっぱり用件はいま聞こう!なんでも絶対服従するぞ、俺をゴミと蔑んでくれたっていい!」 凛 「そうそうゴミ袋の話じゃなくて。ちょっとセイバーを借りたかったんだけど、無理そうね」 セイバー 「はい、今離れるわけには参りません。私にはここを守る義務があります」 凛 「お土産の味見をして貰いたかったんだけど」 セイバー 「ではシロウ、あとは任せました」 士郎 「変わり身はやいなっ!」 ===以下、アイコンタクトな会話=== セイバー 「ここは私が凛を一旦遠ざけます」 士郎 「あ、うん、そういうこと。……分かった、あとは任せろ。」 セイバー 「ええ。それと肉はもっと多めに。」 士郎 「ラジャ。普段より二割り増しを善処します。」 ===アイコンタクト終了=== 凛 「そう。じゃあ、わたしの部屋に来て」 二人退場。 キャスター 「ゴミ袋……今まで魔女だ妖女だと言われてきたけど、ゴミ袋……」