士郎01 「珍しいなイリヤ、うちでゴロゴロしてるなんて。  今日は他にやるコトないのか?」 イリヤ02 「んー、ないよー。  もったいないよねー、今日は夜まで眠らなくていいのに、そういう時に限ってたいくつー」    床に寝そべったまま、ピコピコと足を動かす。 士郎03 「イ、イリヤ、ちょっと待ちなさい。  あー、そういう体勢で足を動かすとだな、」 イリヤ04 「えー? 何か言った、シロウー?」 士郎05 「…………」 士郎06 「……まあ、タイミング的にはいいってコトだし。  よしイリヤ。そんなに暇ならプールに行こう」 イリヤ07 「へ?」  ぴたり、とイリヤのバタ足が止まる。 イリヤ08 「シロウ、いまなんて……?」 士郎09 「いや、今日は秋にしちゃあ暑いし、前にセイバーと三人で約束したじゃないか。  今度、一緒にプールに行こうって」 イリヤ10 「そ、それって、わたしと……?」 士郎11 「イリヤと。居間には俺とイリヤしかいないだろ」 イリヤ12 「行く行く、ぜったい行く〜〜〜!!!!やったー!シロウとプールにデートだーーーぁ!」 士郎13 「そ、そんなに喜んでくれるとこっちも嬉しい。  行き先は例のプールだけど、いいかな」 イリヤ14 「もっちろんっ! ウワサの一大テーマパークでしょ?  ちゃあんと水着も用意してあるんだから、今すぐにでも出かけられるわ」 士郎15 「お。なら午前中から行くか。俺も準備はすぐ済むし」 イリヤ16 「うんうん! ぐずぐずしてたら邪魔ものがやってきちゃうし、電撃作戦でいきましょう!」 セラ17 「いけませんお嬢様。エミヤ様とデートなど、お戯れにも程があります」 イリヤ18 「セ、セラ!? 城に戻ってたんじゃないの!?」 セラ19 「いいえ。今朝は最悪の星回りだったので残っていたのです。特に男女関係の占いが最悪でした。ですので、エミヤ様がお嬢様に失礼をしないよう、空き部屋に忍んでおりました」 士郎20 『……まあいいけど。  なんだ、人ん家の空き部屋に隠れるのは失礼ではないのだろうか?』 リズ21 「空き部屋、ちがう。  セラ、誰も使ってない部屋を自分用に改造してる」 セラ22 「ふん。忌々しいですが、ここはお嬢様の別荘のようなものですからね。万が一に備え、部屋を一つ接収しておいただけです」 士郎23 『ははははは。失礼どころか圧政レベルの話だった。』 イリヤ24 「……ようするに盗み聞きしていたワケね。  あまり褒められた趣味じゃないわね、セラ」 セラ25 「お叱りはごもっとも。ですがこれもお嬢様を思っての事、何とぞご理解の程を。  ……そ、それにですね、繰り返しますがデートというものは、お嬢様にはいささか早いかと。加えて、あんな」 イリヤ26 「あんな、なに?」 セラ27 「プ、プールなどという、低俗なレジャーに興味を持たれてはいけませんっ!  私たちのような下々の者はともかく、イリヤスフィール様は高貴な血を受け継ぐお方。有象無象の人間たちに素肌をお見せになるなど、はしたないにも程があります!  そもそもお嬢様の素肌を拝することの出来る殿方は、将来を誓い合った方のみです!」 士郎28 「……よし、セラのイリヤ論は置いておいて。  プールがはしたないって言うセラは、プールには行かないのか?」 士郎29 『俺、前にセラと似た人が入っていくのを見た気がするんだが。』 セラ30 「え? そ、そうですね、好きか嫌いかで言えば、とても難しい問題になるのですが……」 リズ31 「セラ、こっちに来てから三着目の水着。すごい」 セラ32 「リリリリーゼリット……!  …………ふん。プ、プール自体に罪はありません。  私が問題視しているのはプールに群がる民草たちであってですね、」 イリヤ33 「なあんだ。なら貸し切りにすればいいじゃない」 セラ34 「な」 士郎35 「に?」 士郎36 「イリヤ、貸し切りって……わくわくざぶーんを、貸し切り?」 イリヤ37 「? そうよ、別におかしくないでしょ?  ほら、デパートに行くときだって一日貸し切りにしたりするじゃない」 イリヤ38 「セラ、すぐに手配なさい。手段は問わないわ。まだ開場していないし、魔術を使わずとも金銭だけで解決できるでしょ」 セラ39 「あ……いえ、お嬢様、それは」 イリヤ40 「できない、なんて返事はないわよね?  わたしはアインツベルンの後継者で、貴女はそのメイド長なのよ? わたしができると判断した事を、貴女はできないと首を振るの?」 セラ41 「で、できます、あの程度の施設を貸し切るぐらい、今すぐなんとかしてみせますとも!  ですがお嬢様、エミヤ様を同伴するというのは」 イリヤ42 「そっちも問題ないわ。シロウはわたしの将来の伴侶だもの。プールに同伴するのは当然でしょう?」 セラ43 「な」 士郎44 「にぃい!?」 セラ45 「……かしこまりました。  それでは、お嬢様はどうしてもエミヤ様とプールに行く、と仰るのですね」 イリヤ46 「そうよ。今日ばっかりは止めても聞かないから」 セラ47 「……わかりました。お嬢様がそこまで仰るのでしたらお止めいたしません。わくわくざぶーんも必ずや、パーフェクトに貸し切りにいたしましょう。  ただし。私からも、一つ条件がございます」 イリヤ48 「条件?」 セラ49 「はい。どうしてもエミヤ様とプールに行く、と言うのでしたら」 イリヤ50 「…え、そんなコト?」 セラ51 「はい。その程度のコトでございます」 士郎52 『セラの出した交換条件はカンタンなもので、イリヤはあっさりとセラの申し出を受けたのだった。  ……訂正。  受けてしまったのだった。』 *外に出ています。 凛53 「んー、絶好のプール日和よねー!  こんな日にざぶーんを貸し切りとはさっすがアインツベルン。そんな無駄遣い死んでもする気になれないけど、人様がやってくれる分には気分いいわー♪」 セイバー54 「まったくです。その上、誘われなかった私たちにまで声をかけてくれるとは。  感謝しますイリヤスフィール。今まで貴女の事を誤解していたようだ。  そしてシロウ、貴方の事も誤解していたようだ」 桜55 「うわあ、本当に本日臨時閉館って書いてある……すごいなあ。こんなの一生に一度あるかないかですよね。  って、きっとフツーは一回もないですよね!  イリヤさん、ありがとうございますっ! きょ、今日はわたし、ずっとはじっこで大人しくしてますからっ!」 ライダー56 「サクラ、遠慮するコトはありません。  プールサイドでは誰もが平等です。あそこは肉体のみが勝敗を決する場所……貴女なら、十分に主役に成り代われるでしょう」 凛57 「あら、ずいぶん強気ねライダー。  けどプールサイドの女神は完璧主義者よ? 一部だけ闇に育っていても、ほかの部分が劣っていたら微笑まないわ。  ところで桜、ちょっと太ったんじゃない?」 ライダー58 「……黄金律ですか……たしかに、その点で言えば不安材料はありますが……」 桜59 「……うう……それならライダーが一番ですよぅ……」 セイバー60 「なんですかライダー。私の肩に何か?」 ライダー61 「いえ。……そうですね、人の嗜好はそれぞれです。  ボリューム派か、バランス派か、困った派か。  審査員の趣味が偏っていた場合、最強の敵は貴女か、あるいは」 凛62 「バランスよ。パラメータはバランスよく最高じゃないと意味がないわ。ドベネックの桶って知ってる?」 凛63 「に、日本人なら一点豪華主義ではないでしょうかっ! ほら、戦艦ヤマトのなんとか主義、みたいなっ」 セイバー64 「……ふたりが何を言っているのか理解できませんが……ライダー、貴女はどうなのです」 ライダー65 「私は論外です。多少体格が優れていようが、貴女たちには遠く及びません。  ……セイバー、貴女はその体の素晴らしさをもっと噛みしめるべきなのです」  和気あいあいと駅前パークを闊歩する一団。 イリヤ66 「……………………」 士郎67 「……………………」 士郎68 『……言いにくいのだが。  あの一団とオレたちは同じパーティーだったりする。』 イリヤ69 「……………………ごめんね、シロウ」 士郎70 「……………………いや。俺の方こそ、ごめんイリヤ」 士郎71  『セラの盗み聞きに気づかなかったコトではない。  何の考えもなく、プールの話を衛宮邸でしてしまったコトがである。』 セラ72 「おや、どうなされましたかエミヤ様、先ほどから元気がないようですが?  ふふ。そのような体たらくではお嬢様をエスコートできませんよ?」 リズ73 「そうそう。シロウ、元気だす」  ぽんぽん、と肩をたたいてくれるリズ。 士郎74 『話は一時間前に戻る。  セラが出した交換条件とは“他の住人も連れて行く”というものだった。』 士郎75 「なんだ、そんなコトか」 イリヤ76 「んーっ……仕方ないけど、セイバーぐらいだったらいいわ」 セラ77 「……それでよろしいのですね?  こほん。それでは決を取りましょう。貸し切りのわくわくざぶーんに行きたい方、どうぞお入りください」 SE:すたん!と上から出てくる感じ。 凛78 「はーい。午後の予定を全部キャンセルして同伴させていただくわ」 士郎79 「と、遠坂!? おまえどこから!?」 桜80 「えーと……に、人数は多い方がいいですよね!」 イリヤ81 「サクラ!? あ、貴女まで盗み聞きしてたの!?」 ライダー82 「盗み聞きとは人聞きの悪い。私たちはたまたま、思い立って廊下の雑巾がけをしていただけです。  ちなみにリンは縁側の埃取りを。  そしてそちらの」 セイバー83 「わ、私はとっておいた甘食を思い出したので、台所に用があっただけですがっ」 士郎84 『……あまりにも甘かった。  イリヤの歓声から数分間。  俺たちが気づかないうちに、居間は完全に包囲されていたのである……。』 凛85 「どうしたのよ二人とも。もうすぐざぶーんよ? 行く前から疲れてちゃタイヘンよ?」 士郎86 「誰のせいだと思ってる」   イリヤ87 『行く行く、ぜったい行く〜〜〜!!!!  やったー! シロウとプールにデートだーーーぁ!』 士郎88 『喜んでいたイリヤを思い返すと、申し訳ない。』 凛89 「目に見えて不満そうなんだから。あいかわらず、そういうところはハッキリしてるのね」 士郎90 「なんだよ、そういうところって」 凛91 「好き嫌いは少ないクセに、イヤなコトは隠さないってトコロ。  やっぱりイリヤと二人っきりの方が良かった?」 士郎92 「当然だろ。はじめっからそういう約束だったんだから」 凛93 「じゃあ二人きりになれば?  頃合いを見てわたしたちは別行動するからね。セイバーたちはもちろん、セラとリズもこっちに引き込んであげる」  こそこそと耳打ちする遠坂。  ……遠坂もイリヤに悪いと思ったのかは分からないが、親切すぎて逆に怖い。 士郎94 「……ありがたいけど。なんか企んでないだろうな、おまえ」 凛95 「あら、人聞きの悪い。ワタクシ、覗きや盗み聞きはいたしません。存分にイリヤと楽しんできてくださいな」 士郎96 「……ますます怪しい。というか、いいのか、年頃の女の子と男を二人きりにして」 凛97 「その点は衛宮くんを信頼していますから。  わたしたちが見張ってなくても、健全なおつき合いをするでしょう?」 凛98 「ま、しばらくはみんなで楽しみましょう。一日は長いんだしね!じゃあねー」 SE:たたたっ(少し離れていく足音)完全に離れるわけではない。 イリヤ99 「リンも困ったものね。あそこまで分かりやすいお人好しも珍しいわ」 士郎100 「え……?」 イリヤ101 「シロウと同じ(おんなじ)って言ったの。リンはリンなりに気を遣ってるってコト。  まあ、まず自分が楽しくなくちゃダメって原則があるところがシロウとは違うんだけど」  態度とは裏腹に、イリヤの声は明るかった。  さっきまでの落ち込みようが嘘のようだ。 士郎102 「イリヤ、いいのか? 約束通りになってないのに」 イリヤ103 「こうなったら仕方ないものね。  それよりプラスを考えようと思って。シロウが誘ってくれて、もってこいのプールがあって、みんなが集まってるなんて滅多にないでしょ?」 士郎104 「そうだな。一年に一度あるかないかだ」 イリヤ105 「でしょ? 楽しまないとそれこそもったいないわ。  わたしたちも気兼ねなく過ごしましょう。  期待してたのとは違うけど、楽しいコトには変わりはないんだし」 <ざぶ〜ん内部> 士郎106 「ホントに誰もいないなあ……」 士郎107 『合わせ鏡のように続くロッカー、  壁にずらりと並んだ着替えスペース。  普段なら人で溢れかえっている更衣室にいるのは自分一人だ。  貸し切りなんだから当然なのだが、これだけ広い空間に男が自分だけ、というのはいささか心許ない。』 士郎108 「よし、準備完了。先にプールサイドに行ってろって話だったな」 士郎109 「ん……?俺が使っているもの以外にも鍵が…?」 SE:ててててて・・・みたいなはだしで歩く音 士郎110 「…おお。…なんか叫びたい。  これだけ広い場所を貸し切ったら寂しくなるかと思ったが、そんなのは要らぬ心配だった。」 士郎111 「入りたいな…………泳ぎたいな…………沈みたいな」 士郎112 「……いや、ガマンだ。みんな来てるんだから、先走って遊んでどうする」 士郎113 『ここは男らしくドンと構えなければ。  水に触れたら我慢がきかなそうなので、プールサイドからちょい離れてセイバーたちを待つ。』 セイバー114 「お待たせしました。やはりシロウが一番乗りでしたね」 士郎115 「お、セイバー」   士郎116 「え?」 士郎117 『……白状すると。  この瞬間まで“みんなでプールに行く”というコトがどれだけ大事なのか、まったく理解していなかった。』 セイバー118 「ど、どうでしょうかシロウ。  水着は初めてなので、馴染めているか自信はないのですが」 士郎119 「や。良いか悪いかで言えば、とんでもない」 士郎120 『不意打ちにクラックされた頭は、まともに機能しなかった。  セイバーらしい白い水着は、その清楚さとは裏腹に大胆なデザインだ。  ビキニタイプの水着は、セイバーの地肌の美しさをこれでもかと見せつけてくれる。』 セイバー121 「ありがとう。シロウの水着もよく似合っています」 士郎122 「え、あ、よかった、ありがとう!  で、でで、遠坂とかは、どうしてるんだっ!」 セイバー123 「リンたちもじき来るでしょう。  更衣室に入ってからは別行動でして。プールサイドに行くのは早いもの順だ、と話し合っていたのですが」 ライダー124 「そうですね。着替え、という点では私たちの方が楽ですから。サクラたちはもうしばらくかかるかと」 士郎125 「は?」 士郎126 『セイバーとは対極の艶姿。  ライダーらしい黒い水着は、その大胆さとは裏腹に大人しめなデザインだった。  セイバーと同じビキニタイプでも、どこか大人なシックさがある。  にも関わらず彼女が蠱惑的なのは、大きめの水着でも隠しきれない、豊満なスタイルのせいだろう。  二人して、ライダーの姿に硬直する。  セイバーはいかなる感情からかは分からないが、こっちはもう容赦なく言い訳なく、男として目が離せなかった。』 士郎127 「こ、これは、また」 士郎128 『滑りそうになる言葉を飲み込む。  よーするに、セイバーに次いで、またもとんでもないモノが現れてしまったのだった……!』 ライダー129 「……? タイミングが悪かったでしょうか?  その様子からすると、大切な話をしていた時に割り込んでしまいましたか……?」 セイバー130 「いえ、そのようなコトはないのですが……  そうですね。驚かされた、というのは事実です。  素直に敗北を認めましょう、ライダー。……私も、貴女の半分でいいから身長が欲しかった」 ライダー131 「……セイバー。  言いたくはありませんが、敗北感に打ちひしがれているのは私の方です。  貴女は自分の素晴らしさが分かっていない。私の方こそ、せめて貴女の十分の一でも……があれば」 士郎132 「……なんで打ちひしがれているかは分からないが。  ライダーの水着姿、すごくカッコイイぞ。セイバーと並んでると古今東西のご馳走が並んでるみたいだ」 ライダー133 「し、士郎の気持ちは良しとしますが、その表現はいただけません。カッコイイなど、言われて喜ぶ女性はいないでしょう」 凛134 「そう?  こと水着姿なら、最上の褒め言葉だと思うけど?」 士郎135 『そこに、  見るも華やかな、赤い水着姿があった。』 凛136 「どう? 女にとって水着は戦闘服みたいなものよ。  可愛いよりカッコイイ、ってコンセプトの方がらしいと思わない?」 士郎137 『自信満々の遠坂に、そ、そうかも、と思わず頷く我々だった。  白、黒、ときて、更に派手な赤色の水着。  見ているこっちが恥ずかしくなりそうなデザインなのだが、本人が堂々と着こなしているんで、見つめるコトが後ろめたくない、というのもポイントだ。』 凛138 「で、感想は、衛宮くん?」 士郎139 「……らしい。ぐうの音も出ないほど、遠坂らしい」 士郎140 『あと、確かにカッコイイのだが、同じぐらい愛らしい、というコトは、悔しいんで口にしなかった。』 セイバー141 「戦闘服……なるほど、白兵戦を行わない魔術師なら水着でも戦える。……水中戦になれば圧倒的に有利、というコトですか。」 ライダー142 「たしかに見ていて気持ちがいい……リンらしい着こなしと言えるでしょう」  お見事です、とうなだれるライダー。 凛143 「ありがとう。けど、わたしがこうやっていられるのはみんながいるからなんだけどね」 セイバー144 「? それはどういう意味でしょうか?」 凛145 「みんなタイプが違うから、恥ずかしがってる場合じゃないってコト。自分の持ち味をいかさないと埋もれちゃうって言うか。  総合的なプロポーションじゃライダーが最強だしね」 セラ146 「それが貴女の持論ですか。  ……なんと恥知らずなのでしょう。トオサカらしい自己顕示欲です」 セイバー・ライダー・凛・士郎147 「……?」 士郎148 『紛れもなく……誰?』 士郎149 「セ、セラ!?」 セラ150 「……ふん。私たちは必要以上に肌をさらしませんから。礼装を脱いだ今、わからないのは当然です」 士郎151 『……普段のメイド服から想像もできない。  鮮やかなグリーンの水着は、水着なのに見ていて清々しい気持ちにさせてくれる。  セラ自身が清潔感あふれる女性だからだろう。  不釣り合いな表現だが、大和撫子、という言葉が頭に浮かんでしまった。』 セラ152 「な、なんですか、その目は。  文句があるのでしたらどうぞ遠慮なく。私はあくまでお嬢様におつき合いしたまでです。  見も知らぬ他人ならいざ知らず、名前を知る方たちに見せるものではない、と自覚していますから」 凛153 「他人なら気にならなくて、わたしたちは気になるの?  ……いえ、違うわね。そっかぁー。セラさんは堅物だし、知人じゃなくて衛宮くんっていう男の視線が、」 セラ154 「き、きゃあああ、なんという誤解でしょう!  わ、私は単に、アインツベルンに連なる者として、不完全な体を見せるコトに恥じ入っているだけです!  あ、貴女だって、プロポーションではライダーに負けるから、と恥じ入っていたでしょう!」 凛155 「べっつにー?  そりゃボリュームじゃ勝てないけど、全体的なバランスなら負けてないもの。  いいじゃない、みんなそれぞれ特徴のある水着姿なんだから」 凛156 「そんなの、さっきから衛宮くんの百面相が証明してるでしょ?  セイバーも、ライダーも、わたしも、セラさんも、みんなそれぞれに魅力があるんであって、誰かにどこか負けてるからって恥じいる必要は、な」 SE:ぴしっ(心にひびが入っちゃったみたいな。) 士郎157 「?」 桜158 「は、はい、お待たせしました!」 士郎159 『その視線の先には、第五の声の主が慌てながら駆け寄ってきていたのだった。  遠坂が、いっしょうけんめい、さっきの続きを言おうとしている。  水着の魅力は人それぞれ。  体の一部が誰かに負けていても恥じいる必要はないのだ、と。  そんな、すごくいいコトを言おうとしていたのになあ。  ……しかしだな、遠坂の気持ちも分かる。  つーかなんだあれ。  ライダーはいい。ライダーは。  俺たちより年上だし。外国人だし。もともと豊饒の女神だし。ちょいと人より規格外でも納得できる。  が。俺たちより年下、しかも血を分けた妹があそこまでの凶器を誇っていたら、俺も困るし遠坂も震え上がらずにはいられまい……! 凛160 「桜、アンタ……」 士郎161 『じめっとした遠坂の声。  その視線は、桜の胸元に集中している。』 桜162 「え、はい!? なんですか姉さん!?」 凛163 「なにって……アンタ、また増えた?」 桜164 「!?」 SE:がーん(と凍りつく桜。) ライダー165 「違いますよサクラ。リンは、貴女の胸囲がまた増えたコトに恐れおののいているのです」 桜166 「あ……やだなあ姉さん、そうだったんですか。  だいじょうぶ、ぜんぜん気にするコトないですよ〜。  水着の魅力は人それぞれ。一部分だけ優れていてもしょうがないし、ほら、姉さんも言ってたじゃないですか。全体的なバランスが重要なんだって」 凛167 「うっ……うう、うううう、覚えてなさいよ桜ぁ!」 桜168 「お見事でした。リンに初勝利を収めたばかりか、完膚無きまで叩きのめすとは。  それでこそわたしのサクラです」 桜169 「うん、やっちゃったライダー!  ふふふ、バストサイズなら無敵です!」 士郎170 『悪魔は去った。  しかし、ここに更に強大な悪魔が誕生してしまった。』 士郎171 「……あー。なあ桜。遠坂も悪気があったワケじゃなし、なんだ」   桜172 「先輩は甘いですっ! プールサイドは女の戦場、力なきものは泣きながら逃げ帰るのみなんです! ここでは胸囲イコール支配力なんです!」 士郎173 『かつてない盛り上がりを見せる桜。  パチパチと拍手をして独裁者を称えるライダー。』 セイバー174 「桜、その考えは危うい。  力こそ正義というのなら、更なる力に破れましょう。  今なら間に合います。ヤケを起こしてジュースをリットル飲みしている凛に手を差し伸べてくるべきかと」 桜175 「心配ないですよセイバーさん、わたしを脅かす敵はいませんから。  きっと、今日のわくわくざぶーんは間桐桜最良の日なんですっ! 今日だけはセイバーさんにも姉さんにも、いえ、負けられないのっ!!!!」 SE:ガガガ(落雷) 士郎176 『桜はかつてない自信に満ちあふれている。  ……無理もないか。あんなの見せられたら、俺だって桜に一票…………いや、待った。  なんだ、あれ。』 士郎177 「………セイバー。知ってたのか」 セイバー178 「……はい。着替えの時、彼女に手伝ってもらったので」 桜179 「せ、先輩? セイバーさん? どうしたんです、そんな、ありえないものを見たような顔しちゃって?」 士郎180 「なにって……その通りだよ、桜」 ライダー181 「……残念です。短い天下でした、サクラ」 桜182 「や、やだなあライダーまで。……うう、振り返るのホントにやだなあ……」 桜183 「って、ありえないですぅーーーーー!!!!!?」 リズ184 「? セラ、何かあった?」 セラ185 「気にする事はありませんよリーゼリット。今のはちょっとした負け犬の遠吠えですから」 リズ186 「まけいぬ? サクラが?」 士郎187 「……ああ。リズの水着が破壊力ありすぎて、桜がまいっちまったんだ」 リズ188 「???」 桜189 「……ち、力はより強い力に破れる……こ、こんなに骨身にしみた教訓ははじめてですぅ……」 凛190 「……ふふふ、分かってくれたのね桜。  そう、大事なのはバランスなのよバランス。人間、一つのコトにとらわれちゃいけないわ」 桜191 「はい、思い知りました姉さん……わたしなんてまだまだ井の中の蛙でした……」 士郎192  『そしてほどよく姉妹愛を確かめあう負け犬たち。』 士郎193 「しっかし……二人とも、水着似合ってるな。  わりと外に出ないイメージがあったから、プールは苦手なのかと思った。もったいない、これならもっと早くイリヤと一緒に誘えば良かった」 セラ194 「け、結構です。プールでしたら、たまに息抜きで足を運びますからっ!」 士郎195 「え、そうなの?」 ライダー196 「……ですね。わりと見かけますよ、セラの方は」 リズ197 「うん。森には川がない、から。セラ、泳ぐの好きだし」 セラ198 「わ、私の趣味などどうでもよいでしょう!  それよりお嬢様です! リーゼリット、お嬢様のお着替えは済んだのですかっ!」 リズ199 「うん。はい、イリヤ出番」 士郎200 「え?」 士郎201 『……あれ……なんかおかしいぞ、俺。  焦点がぼやけて、ヘンに言葉が浮かばない。』 セイバー202 「なんと可憐な。よく似合っています、イリヤスフィール」 凛203 「ほんとほんと。イメージがここまで変わるなんて。ピンク色見直したわ、わたし」 士郎204 「…………………………」 桜205 「あはは……な、なんかドキドキしますね、先輩っ」 士郎206 「あ、ああ、そっか」 士郎207 『桜の声に、そうだったんだ、と一人納得する。』 セラ208 「……エミヤ様。まだお言葉をいただいておりませんが?」 セラ209  「エミヤ様」 イリヤ210 「そんなの聞かなくていいわセラ。シロウの顔を見れば分かるでしょう」 セラ211 「ですがお嬢様、このような機会はエミヤシロウにとって一生に、いいえ、この先、輪廻転生を繰り返したところであるかないかです。この名誉に応える機会は与えてあげませんと」 イリヤ212 「もう、大げさなんだからセラは。シロウだって困ってるじゃない。そんなのいつでもいいよー」 イリヤ213 「たいへん長らくお待たせいたしました。  みんなで遊びたおすざぶーんの日、これより開場といたしまーす!」 SE:ぱーん 士郎214 『時間は砂のように過ぎていく。  二チームにわけて行われた100メートルリレー、地獄のビーチボール、流れるプールの水流をマックスにしての、ゴムボート生き残り大作戦、等々。  大人数で行うゲームはあらかたやり尽くして、昼食を食べて落ち着いた午後一時。  俺はちょい休憩をもらって、のんびりとベンチで休んでいた。  イリヤたちも小休止なのか、波のプールの浅瀬でパシャパシャと戯れている。  セイバーや桜も楽しそうだが、とりわけイリヤのはしゃぎっぷりが頬を緩ませる。』 士郎215 「……しかし……」 士郎216 「まったく壮観だ。」 士郎217 「ほんと、冷静に見るとすごいな」 子ギル218 「うん、すごいですよねー。ちょっとないかな、この展開は」 士郎219 「だろ。朴念仁と言われる俺でも、下手すればどうにかしそうだ」 子ギル220 「んー、この状況で生殖本能がいきり立たないのは牡として問題ありますけどねー」 士郎221 「いや、いくら俺でもそれぐらいは真っ当だぞ」 子ギル・士郎222 「あはははは」 士郎223 「って、なにフツーに混ざってるんだおまえ……!?」 子ギル224 「あれ? はじめに気づいてたと思ってたんですけど、スルーされちゃってました?  それはごめんなさいでした。挨拶、遅れちゃいましたね」 士郎225 「………………」 士郎226 『……苦手だ。  どんなにいい子でも、元が元なだけに、いい子でいられるほど落ち着かない。』 士郎227 「……で。なんでここにいるんだよ、おまえ。  貸し切りだぞ、今日は」 子ギル228 「知ってますよー。貸し切りに許可だしたの、ボクですからねー」 士郎229 「げ。許可だしたって、つまり」 子ギル230 「この施設、ボクがオーナーです」 士郎231 「……どうりで最悪のネーミング……まあ、それはいいとして。いくらオーナーでも、混ざっていいワケじゃないぞ」 子ギル232 「そこはそれ、ちょっとしたイレギュラーというコトで。それともお兄さんは青い人とか赤い人がやってきた方が良かったですか?  さっき不法侵入しようとしていたんで、ボクが追い払っておいたんですけど」 士郎233 「ありがとう。いつも貴方を誤解していた」 SE:がっしりと握手する。 士郎234 『にぱにぱと握手を返される。  この瞬間、俺たちの間に一日だけの真・友情が燃え上がったのだった。  そしてざまあみろなのだマッチョサーヴァントコンビめ……っ!』 士郎235 「とまあ、邪魔者を追い払ってくれたコトは感謝なんだが……何が目的なんだ、おまえ」 子ギル236 「別に、これといってありませんけど? 人の恋路になんとやらです。ボクの本命もいませんしね」 士郎237 「本命……?」 子ギル238 「セイバーさんは悪くないんですけどね。蛇は趣味じゃありませんし、造花にも興味はありません。  魔術師のお姉さんたちは……まあ、時間があったらでしょうか」 士郎239 「………………」 士郎240 『さりげに問題発言だった。  一人しか興味がない男と、趣味があうなら誰でも興味を持つ少年。  どっちも厄介なコトには違いない。』 子ギル241 「ところで、そう言うお兄さんこそ目的はなんなんですか? 本命さんが決まっているなら、のんびりしてる場合じゃないでしょう」 士郎242 「そうだった。さっきから延ばし延ばしにしてたんだ。  ……もしかして、おまえ」 士郎243 「まさか。考えすぎか」 子ギル244 「あれ、もう行くんですか?」 士郎245 「ああ。イリヤに泳ぎを教えなくっちゃ」 子ギル246 「はい。それじゃあ、またいつか。  ボクは引っ込みますから、妹さんとごゆっくりどうぞ」 SE:たたたたた・・・(去っていく足音) 士郎247 「よし……!おーい、イリヤー!」 士郎248 『まずは定番、イリヤに泳ぎを教えるべく、気合い十分でイリヤ水泳教室を開始したのだが』 イリヤ249 「ほら、ぜんぜん大丈夫でしょう?  わたし、ちゃんと泳げるんだからっ!」 士郎250 「なんと……!……なんてコトだ。俺より泳ぎうまいじゃないか、イリヤ」 イリヤ251 「めったに泳がないけど、泳ぎは得意中の得意なのっ。  その気になれば荒波の中だって泳げるんだから。疲れるからやらないけどね」 士郎252 「すまん。でもイリヤが泳げるなら、午後はやれるコトが増えるな。次は二人で組んで、ライダーとセイバーを打ち負かそう」 イリヤ253 「え、ええ。そうね、それも悪くはないけど……。  その前に、もうちょっと休みましょう」   士郎254 「じゃ、もうちょっとここにいようか。  ……しかし、ホントにうまいなイリヤ。泳ぎ、セラに教わったのか?」 イリヤ255 「え? セラに教えたのはわたしよ?  ……セラったら覚えが悪いクセに、すっごく水が好きなんだもの。溺れかけたところを何度助けてあげたことか」 士郎256 「なんだ。セラ、運動苦手なんだ」 イリヤ257 「苦手も苦手、てんでダメ!  でも水は自分たちの起源だから慣れておきたいって無理やり頼み込まれたのよ。  おかげでわたしもうまくなっちゃった。泳ぎなんて、知識でしか知らなかったのにね」 士郎258 「……と。待った、それじゃイリヤは自分で泳ぎを?」 イリヤ259 「そうよ。わたしは人魚(ローレライ)だもの。泳ぎぐらい、水の方が教えてくれるわ」 士郎260 『さっきと同じだ。  イリヤの笑顔で意識が空っぽになる。  クラッとした浮遊感は目眩に近いが、断じて目眩なんてモノじゃない。』 士郎261 「……まず……」 士郎262 『か、考えてはいけないコトなんだが、これってようするに、なんだ、ほら、』 士郎263 「ストップ、そこまで……!  イイイ、イリヤ泳ごう! 波のプールを一周して、セイバーたちのところに戻ろう!」 イリヤ264 「だめ、却下。もう少し休むって言ったでしょ。  退屈だって言うなら、そうね……シロウに質問してあげる」 士郎265 「質問?」 イリヤ266 「そ。みんなの水着姿見たでしょ。  その中で、誰が一番キレイだった?」 士郎267 「誰が一番キレイだったかって……?」 イリヤ268 「そ。誰が一番キレイだったか」 士郎269 「………………」  (む、難しい質問だ。  みんながみんなキレイだった、ではダメだろうな、うん。)っと、考え込んでいる感じで収録してください。 イリヤ270 「しょうがないなあ、もう。  じゃあセイバーは? シロウから見てどうだった?」 士郎271 「セイバーは……そうだな、健康的というか、清楚な花一輪って感じでキレイだった」 イリヤ272 「じゃあ次、ライダーは?」 士郎273 「ライダーは……キレイではあったんだが、それ以上にオトナというか。オリンピック選手とか、そんな感じでキレイだった」 イリヤ274 「……じゃあ次、凛は?」 士郎275 「遠坂は鮮やかだった。キレイって言うなら、あいつが一番分かりやすいキレイさだと思う」 イリヤ276 「…………じゃあセラは?」 士郎277 「セラは……そうだな、セラとリズはとにかく意外だった。二人ともびっくりするぐらいキレイだった」 イリヤ278 「………………桜は?」 士郎279 「桜もキレイだったけど、それ以上に目のやり場に困ったというか。健康的な色っぽさが凄かった、よな……?」 イリヤ280 「……………………」  イリヤの質問が途切れる。  ちゃぽん、と少しだけ深く身を沈めて、 イリヤ281 「…………………………じゃあ、わたしは?」 士郎282 「…………イリヤには、一番ドキドキした」 士郎283 「ホントは今もバクバクいってる。  ……その、なんだ。イリヤはドキドキしないか?」 イリヤ284 「うん! すっごくドキドキしてる!」  首もとに抱きついてくる感触に逆らわず、イリヤと一緒に水中に落ちた。 イリヤ285 「シロウのバカー!  三時間も待たせて、ホントに嫌いになっちゃうところだったんだからっ!」 士郎286 「けど間に合っただろ。午後はまるまる残ってる。  次は何処に行こうか、イリヤ」 イリヤ287 「スライダー! あ、もちろんセイバーたちも一緒にね。午前中ヤキモキさせられた仕返しに、午後はずっーと見せつけてあげるんだから!」 士郎288 「よし。後が恐いが、仲良しパワーを見せつけてやるか!」  夕暮れはすぐに訪れた。  ざぶーんを貸し切ったデタラメな一日も、暮れる太陽だけはどうにもならなかったようだ。 凛289 「あー、つっかれたー。  誰よ、どうせならプール全部回ろうなんて言い出したの。これじゃあ間違いなく全身筋肉痛よ、明日」 桜290 「でも楽しかったです。五メートルの飛び込み台とか、いつもは恥ずかしくてできなかったですし」 セイバー291 「出店の鉄板を利用した昼食も中々でした。  皆(みな)で焼きそばを作るなど、めったにない出来事でしょう」 ライダー292 「貴方の料理はひどいものでしたが。  反面、クジ運は反則級に強い。なぜ自分の犯した災厄を他人に、特に私に押しつけるのです」  始まりと同じように、騒々しく享楽の時間を後にする。  俺とイリヤは歩幅を揃えて、みんなとはちょっとだけ距離をとって、その笑顔を見つめていた。  ぼんやりと眺めるのではなく。わりと代え難いものっぽいから、忘れないように見つめていたのだ。 イリヤ293 「はい、特別なのはこれでおしまい。  ちゃんと体を休めてねシロウ。家に帰ればいつもの夜が待ってるんだから」 士郎294 「ご忠告どうも。だいじょうぶ、さすがに今夜は出歩かないよ。泳ぎすぎて体中パンパンだ」  こうして歩いて帰るのが精一杯。  一日中プールにつかっていた体からは、懐かしいカルキの匂いがする。  今日はこのまま眠って、あっというまに過ぎていった出来事を目蓋に映そう。 イリヤ295 「じゃあ深山町でお別れね。  セラとリズにも無理させちゃったし。わたしも今夜は城に戻らなくちゃ」 士郎296 「そっか。じゃあまた明日な、イリヤ」  うん、とうなずく。  俺たちは兄妹か姉弟のように、夕暮れの街を歩いていく。  不意に、  初めて話をした時のように、大仰に彼女はお辞儀をした。 イリヤ297 「楽しかったわシロウ。  あんな小さな、見逃してしまいそうな約束を覚えていてくれて、ありがとう」 士郎298 「こっちこそ。遅くなって申し訳ないぐらいだ」 イリヤ299 「ええ。いつか、また来ようね、お兄ちゃん」 士郎300 『空はやけに遠い。  地平に陽射しが没していく。  今日は文句なしに輝かしい一日だった。  あの沈んでいく光に見劣りしない記憶を、こうして作る事ができたのだ。』