Novel

一緒に居てね?

「良かったのか、?」
「何が?」

 西ユーラシアのとある街並みを並んで歩く二人は、ある意味目立っていた。
 整った顔立ち。日差しをものともしない白い肌。さらに男は鮮やかな紅い目をしている。二人がコーディネイターだというのが一目で見て取れる。
 それなのに彼らが街の住人たちから罵声を浴びせかけられないのは、この土地がかつてザフトの世話になった過去のおかげと、そして。
「こんな地味な作業見に地球に降りたりしてさ。プラントも忙しいんだろ?」
 必要なもののみを買い出した紙袋を抱えて、シンが隣を歩く女に振り向く。
 彼らがこの土地で普通に買い物が出来る理由とは、現在ザフトがこのあたりの復興および治安維持、インフラ整備、さらにはニュートロンジャマーの撤去作業などを引き受けているからである。
 男──シン・アスカはそのうちの一人なのだ。女──は軍人ではないが、街の人にしてみればその辺はどうでもいいらしい。
 はシンの問いに笑って答えた。
「私、これでも外交官の卵なんですけど? 視察の一環としてね、こういうことも必要なの。シンこそ、前大戦のエースがこんな地道な作業に身をやつしちゃってさ……」
「しょうがないだろ、前線を志願したらここに飛ばされたんだから」
「新議長閣下はシンの性格をよく御存知でいらっしゃる」
 からかうようにが言うと、シンはあからさまにぶすっとした表情を作って見せた。
「お前の親父さんだろ! 何とか言ってくれよ」
「だーめ。シンは死にたがりなんだから。こういうのの方が、案外似合ってると思うよ」
! どういう意味だよ!」

 顔を僅かに赤くして、シンがに迫る。くすりと笑みを返してはそれまで隣り合っていた距離を開け、帰り道を小走りに駆け出した。
「待てって!」
 それでも本気で置いていくつもりは無かったようで、すぐに追いついてきたシンがの腕を取った。
 さて何から言ってやろうかと真正面から瞳を覗き込むシンの耳に聞こえてきたのは、それまでとは全く違ったトーンのの呟き。
「……ねえ、シン。世界はまだ平和になんてなってない。今も生活に苦しんでいる人がこんなにいるんだ」
「え……?」
「ヒーローが戦いに勝つだけじゃ、世界は救われないんだね。ここに来て、それが良く分かったよ」
「……そうだな」
 の言葉に、いつしかシンは穏やかな表情で頷いていた。
「それを分からなかったから、あの人たちは──……っと」
 そして思い出しかけて、慌てて口をつぐむ。ちらりとの方を見ると、何でもないような顔をしてはいたが。それでも、C.E.73のあの時の彼らについては、ここで語りつくせるようなものではない。

 再び二人は歩き出す。基地へと帰りながら、二人はぽつぽつと語るのをやめなかった。
「シン? 私ね、頑張るよ。シンみたいな人が、戦わずに済む世界を作るために」
「俺も……俺は、軍人だから、いざって時には戦わなくちゃならないけど。それでも」

 それでも、期待している。シンはその言葉を心の中だけに押しとどめた。なんだか自分だけが頼っているような気がして。
 だからかわりに、別のことを言った。
「俺はお前の傍にいたいから……それが許される優しい世界を、一緒に、作りたい」
「うん」
 は嬉しそうに微笑んだ。本当に、嬉しそうに、そして、
「一緒に居てね?」

 少なくとも今この瞬間だけは、自分は救われているのだと、その時のシンは思った。

---

お題提供:Capriccio

---

※戦後捏造、スペエディ無視。アニメ本編とはだいぶ違います。
新議長はヒロインのお父さんで、シンは赤服のまま前線送りという名のPKO活動。
ヒロインは視察と称してシンについてきました。他にも設定あるけど長いので省略。