Novel

幸福な微睡み

 今でも思い出す。
 父さんがいて、母さんがいて、マユがいて。そして……がいて。

 あの時俺は、家族でキャンプに出かけていたんだ。まだオーブが戦争をしていなくて、俺の周りは平和だったころ。
 は「自分を置いていくなんてずるい」って怒ったっけ。でもさ、俺んちは引っ越してきたばかりの普通の家で、のうちは昔からアスハに仕える下級氏族の家で……子供の俺たちはともかく、家同士での付き合いなんてなくて。だから一緒に遊べる機会はあんまりなかった。
 最初のうちは自分を連れて行ってくれなかったって怒ってたけど、しばらくするとそれもなくなって……と会う機会も、どんどん減っていって、俺は寂しかったんだ。マユも寂しかったと思うよ。

 でも、それだけ。家族が死んでしまった今、俺のオーブへの心残りは、だけ。

 うちの家族は、別にアスハの理念に賛同したわけじゃない。理念を守りさえすればコーディネイターでも平等に住まわせてくれると言ってくれたから、だからオーブに移り住んだんだ。
 それが、何だよ。
 戦争はしないなんて言っておきながら、いざ宣戦布告されて仕方なく応戦するにしても、まるで防災訓練みたいな避難勧告で、トップはみーんな自爆して責任逃れ。唯一、自分の娘だけは安全に戦艦に乗せて逃がすしさ。
 後で知ったことだけど、連合の宣戦布告から48時間の猶予があったらしいんだ。それだけ時間があれば、もっと何かできたんじゃないか?
 俺たちが勧告を聞いて逃げようとした時は、既に手遅れだったんだ。ギリギリで避難戦に乗れた俺はむしろ運がいい方。戦闘後の本土には、逃げ遅れた人たちがそれまで敵だったはずの連合のおかげで助かったって人たちまでいたらしい。それ以外にも、きっとたくさん死んだんだ。たった一年ちょっとしか提唱していないアスハの理念を信じて。口だけの中立を信じて。

 俺、どうしてプラントに行く前に君の事を探さなかったんだろう。俺にはもうしかいなかったのに。
 今どこにいるんだ?

 会いたいよ。

 会いたい──……


「……ン……シン!」
 体を揺すられ名を呼ばれて、シンは目を覚ました。
「ん……? レイ、どうしたんだ? まだ時間は……」
「魘されていた。また……昔の夢でも見たのか?」
「……そっか、ごめん。何でもないんだ」
「ならいいが……」
 心配そうに覗き込むルームメイトに力なく微笑むと、シンは再びベッドに潜り込んだ。


 ……きっと生きてるって、信じてる。絶対会いに行くから……

 そうしてまた、シンは僅かな幸せの残る夢の中へとダイブした。願わくは、この微睡みをもう少しだけ──

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お題提供:capriccio