「」
「きゃっ」
後ろから抱きつかれて、はうっかりとスパナを取り落としそうになった。
「もう……びっくりさせないで」
「あはは、ごめんごめん」
別段悪びれもせずそう言う。今を抱き締めているのは、黒のオーブ製パイロットスーツに身を包んだ男だった。
まだ少年と言ってもいい。被りっぱなしのヘルメット、パイロットスーツと同じく黒い遮光バイザーの奥には、暗い色を灯しながらも歳相応に子供らしい瞳が隠れていることを、は知っていた。
知っていた。彼こそがにとっての本当の『キラ・ヤマト』であることを。
「ねえ、これって不便じゃないの?」
「何が?」
キラが首を傾げる。もちろんを抱き締めたままで。器用な男だ。
はバイザーをこつん、と叩くと、もう一度同じ問いを口にする。
「これ。視界が暗くならないのかなって。今はともかく戦闘中なんかは……」
「大丈夫、サングラスみたいなものだから」
目はいいんだ僕、と自慢するように言ってのけるさまは、やはり同年代の普通の少年なのだな、とは実感した。ふっと表情を緩める。
「だったらいいんだ。もし周りが見えなくてやられちゃったらいけないから」
「見えないよ」
「え? でもさっき……」
「戦場の動きは見えても、これからどうなるのか、全然見えない」
「…………」
キラの体が僅かに震えるのを感じた。その正体は不安だ。
身一つで宇宙まで飛び出してきて、いまだに偽者の情報すらつかめない。
「……私も」
はぽつりと漏らして、キラに体重を預けた。パイロットスーツ越しでは体温なんか感じられないけれど、なぜだか少し安心した。
「でも、何も見えなくても、私だけはずっと一緒にいるから。ずっとあなたの側に……」
すぐにキラの腕の力が強まるのが分かった。
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お題提供:
31D様