「ん……うぅ……」
じめじめとした、寝苦しい夜だった。はふと、隣から微かに聞こえてくる呻き声に目を覚ました。
「シン……?」
「……っ」
目が慣れてくると、夜の闇の中にシンの白い顔が見えてくる。シーツをきつく握り締め、眉をぎゅっと寄せていて、額に滲んだ汗はおそらく暑さのせいではないだろう。
は優しくシンの体を揺すって起こそうとした。
「シン……シン、どうしたの、大丈夫?」
「……マユ……」
出て来たのは女の名前。の表情が一瞬固まる。
彼女は知らなかった。シンは家族のことを話そうとしなかったから。
だからそれが、の怒りに触れてしまった。
「ベッドの上で他の女の名前?」
口を尖らせて、はシンの頬をむにっとつまんだ。そのまま捻りあげてやる。それでもシンは苦しそうな表情を浮かべたまま、目を覚まそうとはしなかった。
「……もう、ムカつく!」
それがかえって苛立ちをつのらせ、はさらにもう片方の頬もつねってやる。やはりシンの様子に変わりはなかった。
「そんなに可愛かったの、そのマユちゃんは!?」
「ひっ……」
「……え?」
突然、シンが体を固くした。それまでも息苦しそうだったが、今は呼吸そのものを忘れてしまったかのようだ。
「シン……?」
「……父さん、母さん……」
「!」
苦しげに吐き出された言葉に、ははっとした。
自分が先程感じていた嫉妬心など本当にバカバカしいものだった。シンはうなされていたのだ。
目尻には光るものが浮かび、震える彼の手はシーツを放れ、宙をさまよう。
「ごめんね、シン……私、何もあなたの力になってあげられてない……」
シンの手を取り、は俯く。
何も知らない自分には、こうしてついていてあげることしかできないのだ。
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お題提供:
Fortune Fate様