Novel

 ある冬の日、彼らの元に一通の手紙が届けられた。
 絶望的な報せを持って。

 そう、すなわち──『今年のクリスマスは中止です』

クリスマス中止のおしらせ〜SEED DESTINY編〜

「な、なんですかこれ、何なんですか、あなた!」
 混乱した頭で、は目の前の黒髪の男に憤然と食って掛かる。酒場内の空気も似たようなものだ。
 だが外に出て行こうとするものはいなかった。騒然とする建物の中よりも酷い爆音と銃撃音が、真冬の夜空に響いている。

 そこは西ユーラシア、中東にある小さな村だった。
 一度目の戦争でインフラが死に、二度目の戦争ではユーラシア連邦の内紛に巻き込まれ、そこで決して豊かとはいえないがつつましく穏やかな生活を送っていた村人達はほとんどいなくなってしまった。だがそれでも、生き残った人たちが村を離れることはほとんどなかった。故郷に愛着があるし、何より他に行く所がなかったからである。
 そんな哀れな村を、三度目の不幸が襲っていた。
 かつて大西洋連邦に進駐されボロボロになったユーラシア。このあたりにテロリストと化したその残党がいるという情報が入ったのである。そして差し向けられたのが、プラントとオーブのもとに結成された治安維持軍であった。
 彼らは圧倒的戦力で、テロリスト達を殲滅しようとした──村ごと犠牲にするほどの飽和攻撃で。
 その日はクリスマスの夜だった。この村は基本的にイスラム圏にあったが、そういう宗教的なものが薄れてきている現在では、他の地域と同じようにお祭りとして祝ったりもする。
 は普段働いている村の外れにある酒場でそういった『特別な日』にのみ出されるささやかなご馳走を、とても楽しみにしていた。

 でも、もうこの夜はおしまいだ。
 集まった村人達の賑やかな声で彩られるはずの酒場には、不安そうな話し声や泣き声しか聞こえてこない。
 たち村人をたった一人で抑えている目の前の赤い瞳の男は、乱雑な字で『クリスマス中止のおしらせ』とだけ書かれている古ぼけた羊皮紙をに放り投げると、過去にザフトで支給されていた(らしい)旧型の自動小銃を構えて入り口へと向かった。

「安心しろ」
「……え?」
「クリスマスをいただく代わりに、俺があんた達を守ってやる」
 男の呟きに、は首を傾げた。

 それはなぜかある種の説得力を持って、の耳にすぅっと入ってきた。
 そうだ。もしかしたら、彼は村人を人質に取ったテロリストなんかじゃなく、無礼にも身勝手な鎮圧をしにきた治安維持軍でもないのかもしれない。
 ただ、両者からたちを守りたいと、心から思っているだけなのかもしれない。

 だって、守ると言った時の彼の表情は、振り向いた彼の赤い瞳は、あんなにも悲しそうだったのだから。