Novel
もしもシンがもう少し上を斬っていたら
エクスカリバーの閃光が、白いMSの胴体に吸い込まれる。
シン・アスカは、ザフトとして、どこまでも忠実に任務を遂行しているところだった。
おそらくこのまま対艦刀を引き抜き、すぐさまミネルバに帰還したとしても、彼の戦果には何もひびかないだろう。
インパルスのレーダーには、後方から駄目押しのごとく艦砲射撃が来ることが表示されている。
だが。
これだけでは駄目だ。
愛するものを失ったその仇をとっている最中でもあるというのに、シンは恐ろしいほどに冷静だった。
この戦闘の直前、シンは同僚のレイと共に、敵のMS──フリーダムの分析をしていた。
ザフトのデータベースから、フリーダムのコクピットブロックはインパルスのそれよりも上方にあることを、ちゃんと把握していたのだ。
さらにシンは、過去行われた戦争の中での戦闘記録にも目を通していた。
二年前に開発された連合のGATシリーズ…そのうちの一機は、コクピットがむき出しの状態でのMSの爆発にさえ耐えうる『セーフティシャッター』を有していた。
そしてそれはザフトのMSにも取り入れられ、フリーダムに取り付けられていることも、シンは知っていた。
だから、これだけでは駄目なのだ。
完膚なきまでに叩きのめさなければ。
こいつはステラの仇と言うだけではない。
連合との戦闘中にしゃしゃり出てきてはわけの分からない戯言を垂れ流す、あの忌々しいアスハと同じ、積極的敵性分子なのだ。
パイロットを生かしたままだと、また新たなMSを駆って再び自分達の前に立ちはだかるかもしれない。
どこまでも冷静に、シンは握ったエクスカリバーを180度ひねり上げ、刃を上向きにする。
深く、抉るように、対艦刀がフリーダムの胴体部を熔かし、火花を散らした。
そして短く息を吐くと、そのまま思い切り逆袈裟に切り上げる。
「うぁあああぁぁああぁぁぁっ!!」
気合一閃、叫びと共に刀を振りぬいたシンのすぐそばを、タンホイザーのエネルギーが通過していった。
衝撃に飛ばされ、一瞬ミネルバクルーはインパルスを見失ったが、程なくボロボロになった機体を発見することとなる。
「ふ、ははは……やった…ステラ……やっとこれで……」
乾いた笑いのようなシンの声は、誰にも聞こえていなかった。
焦点を失った赤い瞳から、ふた筋の涙が零れ落ちた。
その後アークエンジェルでは、ストライクルージュによるフリーダムの引き上げが行われた。
海の底でカガリが見つけたものは、無残にも真っ二つに焼き切れた、無人のコクピットだった。
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あとがき(?)
まあどうせ生きてるだろうけどね('A`)