Novel
フリーダムが倒せない
『フリーダムを倒す方法を教えてください』
電話に出ると、いきなりそう言われた。
なんですかそのフリーダムって、いやそれ以前にお前誰だよ。なんで俺んちの電話番号知ってるんだよ。
というようなことを冷静に伝えると、電話の主は切羽詰まった声で捲くし立ててきた。
『ここに電話すれば倒し方を教えてくれるって言われたんです! 俺、フリーダムをどうしても倒したいんです! 家族の仇なんです!』
ちょっと待て、落ち着け。だから誰だよお前。
『俺、シン・アスカっていいます。ミネルバでインパルスのパイロットをやってます』
はあ。シン・アスカさんですか。確かそんな名前のガンダムのキャラがいたような。ってことはフリーダムっていうのはあれか。あの青羽根サイキョーガンダムか。
『やっぱり最強なんですか……どうしよう俺じゃ倒せないのかなぁ……ただでさえ出番が少ないし好きな子は死ぬし、ネットで叩かれまくるし、もう最悪っすよ』
と、途端に愚痴大会になってしまった。このままでは電話が終わりそうにない。
しょうがないので、適当にアドバイスをしてやることにした。
まずはシンの戦友たちについてのチェックだ。一緒に戦ってくれる仲間というのは貴重な存在だからな。さて、どんな奴がいるかな。
『それがろくな奴がいないんです。モビルスーツ隊の隊長は空気読めないハゲでむしろフリーダムの味方っぽいし、同期のパイロットは二人いるけど一人は射撃外しまくりでもう一人は何考えてんのかいまいちよく分かんないし、唯一まともそうだったのはこの間あっさり死んじゃったし』
なるほど。
ろくな奴がいないな。
でも、協力してくれって頼んでみたらどうかな。一人くらいは話に乗ってくれる奴がいるんじゃないか?
『あ……そういえば、レイの奴がフリーダムのデータを持ってたような。じゃあ頼んでみます!』
うむ、それがいい。やはり持つべきものは頼れる仲間だよ。
『でも、やっぱり俺は自分の手でフリーダムを倒したいんですよ。頼ってばっかりじゃ一人前のパイロットじゃないですし』
つまり、もっと他のアドバイスが欲しいとな。うーむ、フリーダムに弱点らしきものはあっただろうか。しばし考える。
『聞いた話によると、フリーダムは武装やカメラを狙って攻撃して、コクピットは狙わないらしいんですけど……』
あ、それ嘘。フリーダムはね、ピンチになると不殺解除して本気で殺しにかかるよ。
『え!? そうなの?』
うん。ただし、相手が本気で強い場合に限るけど。君、腕に自身はあるかい?
『それは……もちろん、あります! 俺は絶対にフリーダムを倒してみせる!』
その心意気が重要だぞ少年。あと、種が割れたりするとフリーダムの本気度は高くなるんだけど、種割れたこととかある?
『種、ですか? んー……よく分かんないけど、急に頭の中がクリアになって火事場の馬鹿力みたいなのが出せたりするのはなったことあります』
それだ。まず間違いなくコクピットを狙われる。注意しろ。
『は、はい。やってみます』
と、一通りそんな注意をして。
あとはまあ、思い切りが重要だなとか、フリーダムは攻撃がワンパだからコツさえ掴めば懐に入り込むのは容易いはずだとか、インパルスの装備の切り替えは使えるかもとか、資料として『Vガンダム』を見ておけとか、そんな話をした。
気付けば随分な時間が経っていた。
『ありがとうございます。俺、やります! 絶対フリーダムを倒します!』
意気込んで電話が切れた。頑張れシン。遠くから祈っているよ。
それからしばらくして。
シンは無事にフリーダムを倒せただろうかと、ふと思い出したその時、ちょうどタイミングを見計らったかのように電話がかかってきた。
受話器を取ると、涙混じりの声が聞こえてきた。
電話の主はシンだった。彼は開口一番こう言ったのだ。
『フリーダムを倒したと思ったのに、パワーアップして帰ってきたんです!』
俺は泣いた。
---
あとがき。
ちょっと異色作。不思議なショートショート劇場、みたいな雰囲気が出せてたらいいな。
でもさすがにストフリの倒し方は教えられなかった。嫁補正は強し。