Novel
オフショット
ジェスはカイトの(たぶん勝手に)所有する廃コロニーで、一心不乱にシャッターを切っていた。
仕事というわけではない。ただ、興味があったのだ。専用のジンを壊してしまった傭兵イライジャに気前よく自分のザクをプレゼントして、さらにその調整にまで付き合っているカイト。その調整作業や模擬戦闘がカメラを通して自分の目にはどう映るのかが。
調整作業は何日にも及んだが、ジェスは不満を言うこともなく、ずっと熱心にザクの姿をカメラにおさめ続けていた。
「よくもまあ、飽きないもんだ」
休憩を取るつもりなのだろうか。カイトは部屋に入るなりカメラの整備をしているジェスに向かって呆れたように言い放った。だがジェスはどこ吹く風だ。
「お前だって、ここ数日ずっと戦闘と調整作業だろ? それと同じだよ」
答えながら、自らの腰のあたりに伸ばされてきたカイトの手をさりげなく避ける。カイトが舌打ちしたのが分かった。
ジェスは基本的に、戦闘は専門家に任せるというスタンスを取っていた。カイトはイライジャにつきっきりでザクのカスタマイズをやっていたが、素人の自分が口を出していいものではないというのはよく分かっている。
だけどもなぜか、カイトはそれが気に食わない様子なのだ。
「お前な、ちっとは寂しいとか構って欲しいとか、そういうのはないのか?」
「別に」
さらりと答えると、今度はカイトが盛大に眉を顰めるのが分かった。
が、気にせずにレンズを磨きながら続ける。
「お前たちはMSで戦うのが仕事。俺は報道するのが仕事だろ? さすがに門外漢がでしゃばるような真似はしないさ」
「にしたって、少しくらい危機感ってものを持ったらどうなんだ。もし俺が美女を誘ってどっかにしけ込んだらどうしようとか」
「ここに女性なんていないじゃないか」
「だから、もしもの話だ」
苛ついたような声を出すカイト。ここでジェスはやっと顔を上げ彼の方をじっと見る。
「カイト、浮気したいのか?」
「何でそうなるっ! 俺はただ、あの色男と俺が話しこんでてもお前は全然気にしてなさそうだったから……!」
そこまで言って、カイトはしまった、と口をつぐんだ。ばれてしまった。ジェスに嫉妬して欲しかったなどという幼稚な感情が。
だがそんなカイトに、容赦なくジェスはにっこり笑いかけたまま。
「そりゃ俺は信じてるからな」
「……ジェス……」
緩みかけたカイトの口元に、しかし更なる追撃が待っていた。
「イライジャは人の恋人に手を出すような奴じゃないって」
「そっちかよ!」
思わず叫んだ拍子に、うっかりバランスを崩してしまいそうになる。ジェスのこのどこかずれた感覚はどうにかならないだろうかと常々カイトは思っているのだが、人と違う視点を持つこともジャーナリストとしての資質なのだろうか。それともただ単に鈍いだけなのか。どっちにしろお守り役としては苦労させられる。
しかしまあ。と、カイトは思い直す。先程ジェスは自分のことを何と言った? 『人の恋人』──だ。
今まで散々女好きを強調してきたカイトだったが、こんな一言で舞い上がってしまいそうになるなんて、我ながら情けないなと自嘲しながらも、やはり嬉しいものは仕方ない。
ジェスのその一言だけで、面倒だが自分のコレクションだからとやっているザクの調整作業も頑張れそうだ。
「おいマディガン、さっきの戦闘の……」
「ちっ、いい所に」
「?」
邪魔が入った、とそれまでにやけていたカイトの表情が再び渋いものになった。端末を引っ張り出して、OSの調整をするつもりなのだろう、イライジャが二人を見ては目を細める。
「もしかして、細かい作業は俺に押し付けてお前はジェスといちゃつくつもりだったのか?」
「そ、そういう訳じゃない! ちょっと休憩だ、休憩っ!」
「怒るってことはそうなんだろう!」
「あーうるせえっ! いいから邪魔すんな!」
「ちょ、おいカイト……」
カメラを持ったままのジェスを引っ張って、カイトは奥の部屋へと消えていった。
「……あのエロおやじめ」
残されたイライジャが、半眼のままそう呟いた。
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あとがき。
とりあえずいちゃつかせたかったんじゃー!(馬鹿はVSの反動で暴走した!)
おそらくイライジャさんは、非常にしょっぱい気持ちになられたことでしょう。
いや、もしかしたら砂吐いたかもしれませんが。