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第十五話 二人のザビ
ネオ・ジオンは、自分が想像していた以上の規模なのだと、その時のカミーユは改めてそう思った。
レイド・ルーラ。レウルーラと同クラスの、『隠れていた』ネオ・ジオン軍の旗艦。
こんなものが白日の下に晒されずに、この宇宙に存在しているなんて。
案内された部屋は、昔…エゥーゴにいた時に入ったグワダンの謁見室に酷似していた。
中央に玉座。あの艦では、今は隣に居るミネバが座っていた所──そこには彼女と同年代と思われる少年が居心地悪そうに座っている。
その隣には、おそらく後見人なのであろう壮年の男性。
彼はまず少年をカミーユ達に紹介すると、自らをラドルフ・ヴェルナー、と名乗った。
少年の名はルストール・ザビ。
傍系ではあるらしいが、れっきとした一族の者であるという。
ザビ、と聞いて、ミネバの顔色が一瞬変わったのを隠すように、カミーユは一歩前へ出た。
「お初にお目にかかります、ルストール殿下。アハト・イングズと申します。以後、お見知りおきを」
恭しくアハトがこうべを垂れる。それを見てルストールは、ぎこちなく頷いた。
「ところで、アハト・イングズ。ジオン縁の者を保護していると聞いたが、その娘はミネバ・ザビではないのか?」
「いいえ、彼女は旧ジオン軍将校の娘、メイファ・ギルボードです」
「ではそちらの男は?」
「……僕はシュリー・クライム。メイファ・ギルボードの義兄です」
二人がすらすらと自己紹介しているのを、ミネバははらはらしながらじっと見守っていた。
艦内に入り、ここへと案内される前にアハトはこう告げていた。「そう長い間騙せるものではない」…と。
ネオ・ジオンの中で身分を偽るには、ミネバはあまりにも有名すぎるのだ。
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謁見は特に問題も無く終わり、三人は部屋を出た。
「本当に、大丈夫なんだろうな、あれで?」
開口一番、カミーユは苛立たしげにアハトに言った。
「ええ、しばらくは平気だと思いますよ。少なくともメイファさんの準備が整うまでは」
「準備?」
「あなたが…本当の名前を名乗るべき時の準備ですよ」
顔を上げて聞いてくるミネバに、アハトは普段と変わらぬ笑みを浮かべた。
「私の…本当の名前……」
これから自分の為そうとすることは、相当な困難がつきまとう。上手くやらなければ、昔のようにネオ・ジオンを名乗る一部のスペースノイド達に傀儡として利用されるだけになってしまうからだ。
この先のことは、多分カミーユにかかってくる。
たった二人でどこまでやれるか。それに加えて、今いるここは現存のネオ・ジオンの最大戦力でもあるのだ。
おそらく、これからどこか連邦の目の届かない場所で終結していくのだろう。それまでにやらなくてはならないことは山ほどある。
まずは、何はなくとも彼らの信頼を得なければならない。味方は多いに越したことは無いのだ。
カミーユとミネバは、それぞれ居住スペースに用意された部屋へと向かった。
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「メイファ…メイファ・ギルボード!」
割り振られた部屋へ入ろうとしたミネバの背後から、少年とおぼしき声が聞こえた。
「お前は……」
振り向いて、小さく呟く。この艦に乗る子供など、自分と後もう一人しかいない。
少年はルストール・ザビだった。
「何故ここへ?」
まがりなりにも、現在のネオ・ジオンをまとめるべき立場にある人物だ。そうそう自由に艦内をうろつけるものなのか。
昔の自分はもっと行動が制限されていた記憶がある。
「ああ、僕、こういう所なら自由に出回っていいって言われてるんだ。しちゃいけないことは十分に注意されてるし…どうせ何も出来ない、って思われてるだろうしね」
ルストールは、考えを読んだかのようにミネバの疑問を軽く振り払った。
「ここに来てから、同年代の友達がいなかったんだ。良かったらさ、話し相手になってよ」
「あ…は、はい。ルストール……様」
「様なんかいいよ。ルストール、って呼んでよ」
「で、でも……」
今の自分は一般将校の娘だ。ザビ家の者、との触れ込みである彼にいつもの態度で接してはいけない。
そう思ってミネバは躊躇した。
けれど少年は気にせず言葉を続ける。
「僕がザビ家の人間だっていうけど、あんまり実感わかないんだ。それに、本当かどうかなんて、僕には分からないしね。だから気にしないで」
ラドルフには「もっと上に立つ者としての自覚を持て」っていつも怒られるけど、と続けて、ルストールは自嘲気味な笑顔を向けた。
彼は自分だ。
ジオンの亡霊が生み出した、もう一人の自分なのだ。とミネバは感じた。
彼が本当にザビ家の血を引いているのかどうかは、ミネバには分からない。
ただそれでも、ザビを名乗っている以上は付き纏う人の目に晒されながら生きていかねばならない。
かつての自分のように。
「分かった、ならルストールって呼ぶ。私もお前…あなたと友達になりたい」
ミネバは柔和な微笑みを少年に向けた。