Novel
天使は瞳を閉じて 2
近道しようとして入り込んだ路地裏にて『それ』を見た瞬間、ロイドの思考は停止した。
風も無いのにさらさらと揺れる長い金髪。モデルのような愛らしい顔。清楚を体現した白い衣装。
そして、何より、ホログラフのように半透明に光る羽でふわりと体を浮かせている。
「てん……し……?」
やっとそれだけ呟けた時に動き出したロイドの脳は、『クラトスは嘘は言ってなかったんだ』などという至極どうでもいいことだった。
そしてその小さな声は、少女にバッチリと聞こえていたらしく、それまで無表情だった彼女の瞳にはっと光が差す。
「あっ、はい、天使です」
そう言ってにっこりと笑う少女に、ロイドの脳はもう一度停止した。
透き通るようなソプラノ。まるでそこだけ日が差したかのような笑顔に視線が外せなかった。
今まで特に女の子の好みなど気にしたことが無かったロイドにすら、それは強烈な印象を焼きつかせた。
「……? え、ええっと……?」
軽く混乱したロイドに向かって、少女はにこにこしながら続ける。
「天使番号3277、天使名コレットです」
「え、あ、ああ……俺、ロイド……」
「えへへ、地上に来てもうお友達ができちゃった。よろしくね、ロイド」
「ああ、うん、よ、よろしく……?」
少女──コレットが宙に浮いたまま差し出した右手をわけが分からぬままに握る。彼女の方は何だか凄く嬉しそうだしまあ別に良いか、などと思考が楽な方へ傾きかけた所で、コレットは笑顔のまま首を傾げた。
「……あの、ロイドはどうして天使が見えるの?」
「……え?」
「あ、分かった! ロイドも天使なんだね! どこの担当なの? 天使番号は?」
「えぇええ!? お、俺は人間だ!」
「…………あれ?」
うろたえるロイドに、コレットはきょとん、と目を見開いてみせ、ようやく自分が早とちりであることを認識したようだった。
数分後。
二人は路地裏に面している古いビルに背をもたれて並んでいた。
「……でね、普通、人間には天使は見えないんだよ」
ロイドは黙ってコレットの話を聞いていた。
彼女は見習いの天使で、修行のために地上に降りてきたのだとかなんとか、まあそういう話だ。
「不思議だねえ。どうしてロイドには見えるんだろう?」
「もしかしたら、俺が天使の子供だからかもしれないな」
「え?」
思い出すようにぽつりと言ったロイドの言葉を聞き返す。
「クラトス──父さん、が、自分は元天使だって言ってた。俺はあんまり信じてなかったけど」
ただのおとぎ話だと思ってたけど。それでも目の前に羽根をつけた人間が浮いていたら信じざるを得ない。
そう言うとコレットはまた嬉しそうにする。一体何がそんなに嬉しいのだろうか。その時のロイドには分からなかった。
---
あとがき。
ファーストコンタクトは唐突かつ天然ボケボケ。まあロイコレじゃしょうがない。
人間が大好きなとことかは、元ネタで言うテンコちゃんのイメージ。
天使番号とかは適当です。ぶっちゃけ言えば中の人です(笑)