Novel

天使は瞳を閉じて 4

 放課後。
 いつの間にか屋上からいなくなっていた赤毛の男が謎めいた存在ではないのかと疑うことすらせず、ロイドの頭の中はやはり彼に話した金髪の天使のことで埋め尽くされていた。
「何ニヤニヤしてるのさ?」
「え」
 上の空だったためか、隣を歩く少年の声に反応が遅れてしまう。
「悪い、ジーニアス。何だっけ?」
「もー! ロイドんちのお店の手伝いのことでしょ? 一人バイトしたいって人見つかったから、今度連れてくって……」
 こちらを非難めいた目つきで見上げてくる小柄な少年に、やっとそれまでの話を思い出してそちらに視線を合わせた。

 この少年、ジーニアスとは、昔から仲がよく、年は離れているが親友とも言える間柄であった。学部が違うため毎日ではないが、ロイドはよく一緒に登下校をしていた。この日もそんないつも通りの一日のはずだった。
 ジーニアスが、前を歩くツインテールのついた小さな背中を見つけるまでは。

「あっ……ぷ、プレセアっ……!」

 鈍いロイドにすら容易に分かる、緊張しきった少年の声。
 ジーニアスは一転、まるでロイドなど最初からいなかったかのようにツインテールの少女──プレセアにふらふらと近づいていった。
「ジーニアス。どうかしましたか?」
「ぷ、ププ、プレセア……今、帰り?」
「はい」
「あ、あのあのっ、よかったら、その、一緒に……か、帰らない……っ?」

 盛大にどもりながら下校を誘うその様子は、普段の利発そうな雰囲気が台無しである。そんな必死な少年に何ら心を惑わされることなく、プレセアは無表情のまま首を振った。
「いえ……結構です」
「そ、そんなぁ……」
 ロイドのいる場所から見ても、ジーニアスのその項垂れっぷりは良く分かった。苦笑して少年を慰めるために二人に近づこうとした時に、

 奇跡は、起こった。

「…………!」
 ジーニアスの真上に出現した光を見上げて、ロイドは思わず息を飲んだ。二人は気づいていない。見えないのだ。
 光は少女の形をしていた。彼女は一瞬だけロイドの方を向いて、人差し指を唇に当てて「しーっ」と言い彼の行動を制した。
 そしてジーニアスとプレセアのすぐ後ろに降り立ち、片手をジーニアスの肩にぽんと置き、もう片方の手でプレセアの背中をひと撫でする。
 すると項垂れていた少年の背中が元通りに立ち上がった。
「……?」
 何か不思議なことが起こった、というような顔をして(いや、起こっているのだが)振られた寂しさに少し翳っているものの、その表情にそれまでの鬱々とした雰囲気は無い。
 と、少女の形をした光が、プレセアからすっと離れる。こちらもジーニアスと同じく、どこか不思議そうに首をかしげて、それからジーニアスを振り向いた。
「……ジーニアス」
「な、に?」
「やっぱり、途中まで一緒に帰りましょう」
「……! うんっ!!」
 すぐさまぱぁっと顔を輝かせて頷いたはいいものの、はっと何かを思い出したようにロイドを振り返る。
 本当なら、無視したなとか何とか言ってやろうかとなる所だったが、ロイドは笑って二人に手を振った。たった今、大事な用ができたから。

 二人が去り、そこにはロイドと光──コレットが残された。

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あとがき。

コレットのお仕事をちらっと表現。天使に触れられると、人間は優しい気持ちになるのです。
決してロイドと二人きりになるために帰したわけではありません(笑)
そして良い雰囲気のところすまんなジーニアス……うちのサイトは攻略対象(笑)同士のカプは書かないのだ……