Novel
天使は瞳を閉じて 6
久し振りに、夢を見た。
神以外への愛というものを初めて知った、幸せな頃の夢を。
「不思議ね。あなたと話していると、まるで懺悔をしているような気持ちになってくるの。あなたといると、誰にでも優しくなれるような気がする……」
「……それが仕事だからな」
「え?」
「いや、何でもない。それに、お前は元から優しい」
「ふふっ。……ありがとう、クラトス」
そう言ったアンナの笑顔がぼやけて、そこでクラトスは目を覚ました。
見れば店を開けようかという時間帯だった。何故今更になってそんな夢を見たのか、いまだ分からないまま。
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住宅街の中にひっそりと佇む喫茶店『アンナ』。その奥にあるこじんまりとした一軒家がロイドの家だ。
家の入り口は裏にちゃんとあるのだが、急いでいる時などは、通りに面した店の入り口を使って出入りすることがよくあった。その日も、そんなうちのひとつだ。
「ただいまー」
からん、からん、と来客を告げるためのベルが鳴って、開いたドアからロイドが制服姿にぺしゃんこの鞄を持ったまま入ってくる。カウンターの奥から、小さく溜息が聞こえた。
「……おかえり。店を開けている時は裏口から入れと言っているだろう」
「いいじゃん、別にちょっとくらい……」
どうせ客もいないのに、と言おうとして、窓側のボックス席に驚いた顔のカップルの姿を認めて慌てて口を押さえる。そして照れたような笑顔と取り繕ったような態度で、そちらにぺこりとお辞儀した。
若いカップルだった。ロイドと同じか、少し年下に見える。
ロイドがカウンターに入ると、カップルの女の方がはしゃいだ声を出すのが耳に入ってきた。
「ねー、ここのお店、マスターも素敵だけど、その息子さんもカッコいいの!」
「う、うん……そうだね」
「あ! でも安心して! エミルの方がその何倍もカッコいいから!」
「あ、あはは……」
まごうこと無きバカップルである。女性客の方は、ロイドも何度か見たことがあった。珍しい若い女の子の常連客ということで、顔を覚えていたのだ。今回は向かいの席に座る彼氏に行きつけの店を紹介したのだろう。
でも、マスターのカッコよさとかよりも味を見て欲しいんだけどな。我が親のことながら少し同情して、ロイドは苦笑した。
その、次の瞬間。
(……何だ?)
視界が一瞬、ぼやける感じがした。鞄を奥に放り投げ、クラトスから渡されたギャルソンエプロンを腰に巻いて、再びホールに目を向けた時だ。
先程のバカップルの姿が、向かい合って座る自分とコレットの姿に見えた。
「…………?」
目をこすってもう一度見る。やはり先程のカップルだ。女の方が男の方に迫る感じのカカア殿下なカップル。ロイドとコレットとは、似ても似つかない。
「どうした、ロイド」
背後からの父の声に、はっと息を飲む。振り返ると心配そうな顔のクラトスがいた。どうやらかなりボーっとしていたらしい。ロイドは首を振って答えた。
「何でもないよ。ただ俺も、コレットと……」
「コレット?」
聞き返した途端口を噤んだロイドに、クラトスは怪訝な表情のまま首をひねった。少しの沈黙。
「やっぱり、何でもない」
俯いてロイドが言うと、そのまま洗い場に立つ。その表情は、アンナと会ったばかりのクラトスと酷似していたのだが、そのことに気付くものは誰もいなかった。
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あとがき。
ええ、クラトス=元天使はガチです。アンナさんがちょびっと出てましたが、基本的にあれ以上の描写はしません。
たぶんイメージが崩れると思うので。というか曖昧なイメージのままにしておきたいというか。
あとエミマルもゲスト出演なので、出張ったりはしないはず……