Novel

「ノロケ?ただ事実を言ってるだけなんだけど」

「そういや、このあたりだったっけ」

 タルカロンへと向かう途中、準備も兼ねて帝都へと寄った一行。
 市街地の一画にある少し開けた場所、すぐそばの坂を上れば貴族街に行ける道の真ん中で、ユーリはふと足を止めた。
「どうしたのユーリ? お店まですぐそこだよ!」
「このあたりって……何がです?」
 先頭を揚々と歩いていたカロルがその場で足踏みをしながら振り返り、ユーリのすぐ前を歩いていたエステルは同じく立ち止まって首を傾げる。
 後ろには、ユーリが止まったおかげで前に進めなくなっている集団がぞろりと集まっている。
「いや、何」
 ユーリはひらひらと手を振ってみせ、

「ここでおっさんに手ぇ繋がされそうになった」

 あまりにもくだらないことを思い出していたのだった。

「そういえばそうじゃったの」
「あらら、変なこと覚えてんのね青年」
「気色悪かったからな」
「ヒドイ……」
 落ち込むレイヴンをジュディスが(テキトーに)慰めている間、『そんなことがあったのか』といった風な顔をしている者が二人。エステルとフレンだ。
 エステルはその時アレクセイに捕らえられていたし、フレンはフレンで、騎士団を率いるという本分があったのだから当たり前だが。
 そして少しの間、その当時の状況をかいつまんで話すと、エステルは興味深く聞いていたが、フレンの方は顎に手を当て何かを考え込む様子をみせた。
 たいした話題じゃないだろ、とユーリが(このことを思い出させた張本人であるにも関わらず)再び商店へと向かおうとしたその時だった。
 何を思ったか、フレンがすっと右手を差し出してきたのだ。
 至極、真剣な眼差しで。
「ユーリ、手を繋いでもいいかい?」
「あ? 何だよ急に……」
 怪訝な顔をするユーリ。誰もが「いきなり何言ってんだコイツ」的な反応を示していた。当然ユーリはそのまま軽くあしらうのだろうと、誰もが思っていた。そう、誰もが。
 だが次の瞬間、ユーリは剣の鞘を右手に持ち替えると、当然のことのようにに左手を伸ばされたフレンの右手に重ねた。
「ほれ」
 そして指の間に互いの指を滑り込ませる。誰もが予想し得なかった展開だった。

「えええええぇぇぇぇっ!?」
「ん? 何か驚くようなことでもあったか?」
 仲間達の叫びにも平然とした顔で尋ねるユーリに、周囲はますます驚愕する。
「だ、だってユーリ、手繋がれるの嫌だったんじゃないの?」
「なんで?」
 繋いだ手を上げて、これ見よがしに振ってみせる。

 ああ、おっさんだから嫌だったのか。そういうことで納得したのか、みんなは生温い笑顔になっていた。一人微妙に傷ついた表情のレイヴンと、相変わらずの微笑をたたえるジュディスは置いといて。
「それならうちは右手なのじゃ! ユーリ〜」
「はっは、残念だったな。剣持ってるから無理だ」
「……僕が持とうか?」
「それも駄目。フレンの両手塞がったら、いざって時に対応に困るだろ?」
「それはユーリだって同じだろう」
「オレはいーの、いざって時は鞘でぶっ叩くか蹴る」
「全く……」
 呆れたと言わんばかりに首を振る。手を離すという選択肢はないんだね、とのツッコミが聞こえた気がしたが無視して、フレンは目の前で手を差し出しているパティににっこりと笑いかけた。
「すみません。パティ、レイヴンさん。ユーリの手は僕専用らしいので」
「な、何それ! ノロケ? ノロケですか!?」
「あ、あ、あきらかにノロケ以外の何物でもないのじゃ!」
「ノロケ? ただ事実を言ってるだけなんだけど」
「だよなぁ?」
 二人で顔を見合わせ、同じように首を傾げる。

「何だろね、この敗北感……」
「あ、あれは伝説の恋人繋ぎ……二人とも、なかなかやるのじゃ……!」
「パティちゃん、解説しなくてもいいのよ?」
「し、しかもお互いに利き手を預けておるのじゃ! 絶対の信頼がないと使用できない超高等テクニックなのじゃあ!」

 そんな野次が飛んできたが、二人は気にしなかった。ユーリが体重を預けてくる。意外と軽いその感触を肩に感じながら、フレンもまたユーリの方に僅かに体を傾け、寄り添うように歩き始める。

「……なあ、フレン」
「何だい?」
「何でいきなり、手ぇ繋ぐなんて言い出したんだ?」
「それは……」
 フレンの頬が僅かに赤くなったのを、ユーリは見逃さなかった。
「もしかして、妬いてんのか?」
「……少しね」
 正直に認めて、フレンは頷いた。
 今は行動を共に出来ているとはいえ、お互いの歩む道は決して同じではない。いずれはまた、ギルドと騎士団、それぞれの道を歩まなければならない時が来る。
 だからこそ、フレンは自分がいない時のユーリを気にはかけていても、直接の手出しが出来ないのだ。
 もどかしい。だからせめて、一緒にいられる今だけはこうして互いを感じ合っていたい。
 ユーリの指に絡まった自分の指。強く握り締めると手甲が当たったためか、ユーリが小さく「いてっ」と呟くのが聞こえた。

「あぁぁ姐さんっ! 奴らイチャってますぜ!?」
「うむむむ……コーラを飲んだらゲップが出るほど確実にバカップルなのじゃ!」
「もういいから、あたしたちも行くわよ!」
 そして背後からは、やはりそんな声が飛んできていた。

---

あとがき。

エアル暴走帝都での「手ぇつないでていい?」にPS3版ではパティちゃんが加わって大混戦!
ですがまあ、うちのユーリはフレン専用です。大丈夫、ユーリさん通常営業です。
そしておっさんとパティは意外と名(迷?)コンビっぷりを発揮してくれて書くの楽しいです。あ、あと一応うちのおっさんはノーマルです。