Novel
魔術師に大切なこと〜炎の申し子と高殺意女王〜
その日はフェリタニアの王宮に来客があった。
母ゆずりの金髪を長く伸ばした、魔術師の女性である。
エルザ・ブルックス──アルディオン有数の武器商人の家に生まれた娘であり、またこの国の第一の騎士、アル・イーズデイルの姉。
ちなみに、名字が違うのは、弟が勝手に偽名を名乗っているだけであり、特に深刻な事情などはないのであしからず。
さて、エルザの用事──弟の顔を見てついでにフェリタニアへ武器を卸す──はとっくに終わっているわけなのだが、彼女はいまだ王宮にとどまり、テラスで女王ピアニィ・ルティナベール・フェリタニアと談笑に興じている。
はたから見ると女性二人のおしゃべりは微笑ましいものだが、そばで会話を聞いていたアルにとっては、とてもそう捉えられる内容ではなかった。
「……というわけなんです。エルザさんも、やっぱりもう少し素早く動く訓練をした方がいいと思うんですよ!」
「なるほど……でも、ピアニィ様と私とでは、やっぱり魔術の考え方が違うんですね」
「そうなんですか?」
「ええ。だって『魔術師はフィニッシャーであるべし』というのが私の持論ですから」
「えぇ!? 先制攻撃は加えないんですか?」
「そうですねぇ……いつ攻撃を加えるかは問題じゃないですね。私の炎ならタイミングを見極めて一撃必殺ですから!」
なんとも物騒な話題に花を咲かせている。アルは頭を抱えてから、二人の間に入った。この不毛な会話は打ち切らせなければならない気がする。
「何を姫さんに吹き込んでんだよ、エルザ姉」
「アル?」
ピアニィを背中に庇うようにしながら、アルは二人に割って入った。後ろでピアニィがなぜだか残念そうな声を出す。そして目の前では唇を尖らせる姉の姿が。
「アルくん、失礼だなぁ。私はピアニィ様に魔術の効果的な運用法をね……」
「そうですっ、エルザさんのお話もっと聞きたいのに」
「あのなぁ」
アルは溜息を吐いた。
一口に魔術師といっても、様々なタイプが存在する。ピアニィもエルザも、それぞれの得意属性の威力を伸ばしていくウィザードと呼ばれるタイプの魔術師ではあるが、そのカテゴリ中においても、違いというのはあるものだ。
「そりゃあ“炎の申し子”の火力だったら、後から攻撃しようが大抵の奴は黒コゲだろうよ。ただまぁ、姫さんの魔術と戦術は、どっちかというと奇襲や露払いに適してる。最初に凍らせてもらったところを俺が斬りに行けば、それが一番効率がいい」
「適材適所、ってやつですね!」
背後でピアニィが手を叩くのが分かった。アルは振り返り、それに頷く。
「そういうこった。だから姫さんは今まで通り速さでも極めとけばいいさ。とどめも防御も俺で賄えるし、第一今でも十分高火力……」
そこまで言ってから、アルはふと、何やらむず痒くなるような視線を三つ感じ取った。
そのうちの一つは、すぐそばにいる姉のものだった。
「へぇ〜、アルくんとピアニィ様ってお似合いなんだね〜、両方ともマンチキンで」
「ちょ、ちょっと待て姉貴! マンチキンはともかくお似合いって何だよ!?」
「そっちなんですか!?」
ツッコミ鮮やかにばばっと後ろを振り向くアルに、いささかショックを受けたかのようなピアニィの声が続く。だがエルザはあくまでのほほんと、
「うん、マンチキンカップルだね」
と微笑むのみ。さらに。
「ええ、本当にマンチキンですね」
「まごうことなきマンチキンでやんすなぁ〜」
と、いつの間にか影から出てきたフェリタニアの首脳陣が口々に言う。アルは再び頭を抱えた。
「うるせぇええええっ!? このNAGOYAにメタ軍師に三下ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
バーランド宮にアルの(一番メタな)叫び声が響いた。
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あとがき。
殺意の高い女性に囲まれ苦労するアル……?
いえいえとんでもない。アルの中身(王子)だって相当なもんです。
やっぱりアンタ、ブルックスの子ですよ。