Novel

愉快なゲーマー国家(愉快な海産物一家のノリで)

「アルぅ〜っ!!」
「おわっ!?」
 フェリタニア建国より約二ヶ月。その間、城を離れ国外に出ていたアルを迎えたのは、最後に会った時よりかなりやつれた表情の女王ピアニィその人だった。
「アル! もう、今までどこに行ってたんですか? アルがいなかったから、あたしずっと困ってたんですよ!?」
「え、あ、お……ひ、姫さん?」
 帰ってくるなりいきなり涙声で抱きつかれ、アルは狼狽した。ちなみに狼狽はARAではバッステのうちに入らないので、《インデュア》無効である。
「ちょっと待て、何があったのか話してくれねえと分かんねえだろ」
 しどろもどろになりながら、ピアニィの肩に手を置き体を離す。
 自分のいない間に、一体何があったというのか。アルは内心、歯がゆさを感じていた。
 この若き女王を守ると約束したのに。
 ピアニィが顔を上げ、やはりやつれた泣きそうな表情のまま答えた。
「だって、面子が足りなかったんです!」
「……は?」
 いや、面子って何だ。アルは再度、聞き直した。
「面子って……何の面子だよ」
「決まってるじゃないですか! TRPGのです!」
 少し怒ったようにピアニィは断言した。
「ナヴァールは忙しいから、あんまり付き合ってもらえなかったですし、たまにユンガーさんが来てくれましたけど、基本はあたしとベネットちゃんとナイジェルさんだけだったんですよ! プレイヤー二人じゃできることだって限られてるし、あたしだってGMばっかりじゃなくてたまにはプレイヤーやりたいんです!」
「そんな理由かぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 すらすらとまくし立てるピアニィ。見た目のやつれっぷりからは想像もつかない。

「そ、そうでやんすよ……ピアニィ様は忙しい公務の合間を縫って、睡眠時間を削ってまで遊んでたでやんす……」
 それに追従するようにあらわれる獣人の影。ベネットはピアニィ以上のやつれ具合だった。
「アルからも叱ってやって欲しいでやんす! このままじゃあっしの体がもたないでやんす!」
 自分から遊んでいるピアニィと違い、ベネットはほとんど付き合わされているだけなのであろう、心底うんざりした様子だ。
「そうだったのか……」
 アルは低く呻いた。掴んだままにしていたピアニィの肩まで一緒に震えるくらいにがたがたと体をふるわせる。
「姫さんよ……」
「は、はい……」
 少しだけしゅんとしたピアニィを真正面から見据えて、アルは深刻な表情で、こう告げた。
「なんでもっと早く言ってくれなかったんだ……!」
「え?」
「徹夜TRPGやってるって知ってたら、俺だって二ヶ月も城空けたりしなかったのに!」
 アルの表情は心底悔しそうだった。
「アル……ごめんなさい、でも、今日からは一緒に遊びましょう!」
「うぉぉぉぉいっ!? なんでこうなるでやんすかーっ!?」
 見つめあう二人。ベネットは思い切り孤独な絶叫を響かせた。

 そんな時である。
「アル……帰ってきた……のか……」
「な、ナヴァールの旦那……っ!? 何だその今にも倒れそうな足取りは!?」
 反対方向からアルの帰りを迎えたのは、軍師ナヴァール。ただし普段の超然とした雰囲気は全くなりを潜めており、今の彼は今にも死にそうなほどふらついている。
 ナヴァールは無理やり笑顔を作り、アルに答えた。
「ははは……この二ヶ月で、48回ほどTRPGのセッションをしてな……もう吐きそうだよ」
「あんたもかぁぁぁぁっ!?」
「ええっ!? それ、聞いてません! あたしの卓には35回しか参加してないじゃないですか!」
 驚きの叫び声を上げるアルと同時に、ピアニィがやや不満げに声を荒げた。
 いや、さっき「ナヴァールはあんまり付き合ってくれない」って言ってただろう、二ヶ月で35セッションが『あんまり』なのか、と問う暇もなかった。
 ナヴァールは相変わらず死にそうな笑顔で平然と、
「もちろん、残る13回はプライベートセッションです、陛下」
 と、親指まで立ててみせた。
「そうですか……プライベートじゃしょうがないですね。でも、今日は付き合ってもらいますよ、なんたって、アルが帰ってきた記念セッションなんですから!」
「御意にございます──」
 恭しく頭を垂れるナヴァール。それを見て満足気に頷くと、ピアニィは今度はアルに向かってたずねた。
「と、いうわけで……早速アルも交えて徹夜TRPGです! システムは何がいいですか?」
「そりゃ、もちろんダブルクロスだな! 他にも好きなゲームはたくさんあるが、思い入れの点ではやっぱりこれだ」
「分かりました! じゃあシナリオを考えておきますね!」

 はしゃぐ三人、溜息をつく一人。
「ベネットちゃんも、キャラクター作っておいてくださいねー!」
「ああ……もう駄目だこの国……何もかも終わりでやんす……」
 こうして、今日もフェリタニアの夜は更けていく──

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あとがき。

ふぃあ通のラジオドラマを聴いて衝動的に書いたものです。
しかしこんな国はさっさと滅んでしまうと思う(笑)つーか私なら滅ぼすね!
傾国の美姫ならぬ傾国のTRPG……