Novel
陛下のスキルガイド休暇
夜、そろそろ自分の部屋で休もうかとバーランド宮の廊下を歩いていたアルは、ふととある部屋の灯りがまだついていたことに気付き、その足を止めた。
(姫さん、まだやってるのか)
そこは普段、フェリタニアの首脳陣がTRPGに興じる際に(あと、会議の時などにも)使われる部屋で、夕方にもその部屋を覗いてみたアルは、そこでピアニィが必死に『スキルガイド』を読み込んでいる場面を目撃したのだ。
──あたし今からこれ読みますから、終わったら声かけますからそれまで話しかけないでください!
そう言ったきり、彼女は一人でその部屋に篭っていたはずだ。ちなみにアルは、彼女が読み終わったという報告はまだ聞いていない。
慈悲深き女王ピアニィ。彼女は自らの公務や城の警備などのことも考えて、自分の分の『スキルガイド休暇』を一番最後に回していたのだ。……慈悲をかける部分が大幅に間違っているような気もしないでもないが。
ドアは開いていた。アルはそっと中を覗いてみる。
中央に置かれたセッション用(兼会議用)のテーブルに突っ伏して眠るピアニィの姿が見えた。伏せた顔の下には、ページを開いたままのスキルガイドが放置されている。
確かに、ざっと読み流せるような本ではない。アルだって、丸一日かけて読破し、重要なところに付箋を貼ったりマーカーをつけたりメモを取ったりと、色々やった。
おそらくこの女王も同じだろう。アルは苦笑を漏らしていた。
音を立てないように注意深く部屋に入る。辺りを見回して、何かかけてやるものがないか探してみるが、財政の困窮するフェリタニア王国のセッションルーム(兼会議室)にはそんな気の効いたものは置かれていない。
しばし考えて、アルは纏っていたマントを外し、すやすやと寝息を立てるピアニィの背中にふわりとそれをかけ──
「……おはようございます!」
勢い良く起き上がった女王の背にはじかれて、マントは空しく床に落ちた。
「うおっ!?」
「あ、アル! 読みましたよースキルガイド! 早速新ルール導入してセッションしましょう!」
「お、おう……」
立ち上がり、興奮気味にそう言うピアニィの足で、アルのマントはぐりぐりと踏まれていた。
これは柄にもないことをやった自分への罰なのか、いや、直前で止めてもらえて良かったというべきなのか……その答えは出ないまま、アルはセッションのためにナヴァールやベネットを叩き起こしに行かされるのだった。
---
あとがき。
当サイトの陛下は、いつもいい所で台無しにしてしまいます(笑)
せっかくアルがデレているのに……
んでもって、陛下がデレた時にはアルがスルーしてしまうという罠!