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陛下を怒らせたワケ

「……で、一体何をしたんだ?」
「何って……」
 どうにか14行きツアーから生還し、身も心もボロボロのアルにさらに追い討ちをかけるかのように、ナヴァールが問う。明らかにアルが何か悪いことをしたに違いない、と問い詰める口調で。
 そして話しづらいのか口ごもるアルから理由を聞きだす前に、すらすらと推測を並べ立てる。
「陛下を差し置いてナーシアとフラグを立てたとか」
「ねえよっ!」
「では、まさかベネットと!?」
「もっとねえよっ!? 誰が立てるか!?」
「ならば、リシャールに篭絡されグラスウェルズに寝返ったとか」
「じゃあ今ここにいる俺は何だよっ!? 違うよっ!!」
「セッションでついうっかり強い敵出して陛下のPCがジャーム化したとか」
「それはよくあることだっ!!」

 ぜーはーと息を荒げながら、ナヴァールの言った可能性をことごとく否定して回るアル。やがて思い当たるふしをすべて言い終えたナヴァールは、顎に手を当ててふむ、と唸ってみせる。
「……本当に、心当たりは何も無いのか?」
「…………」
 先程よりも声のトーンを落とし、ナヴァールは再度問う。あれからピアニィの機嫌は一応直りはしたものの、いつまた怒らせてしまうかと思うと、やはり原因を探っておかねばなるまい。
 それが伝わったのか、アルが言いにくそうに告げる。
「実は……その、姫さんにプレゼントしたんだよ」
「プレゼント?」
「う、うん。なんか可愛いのとか好きそうだから……」
「何をプレゼントしたのだ?」
「これ……」
 ポケットの中からおずおずと『プレゼント』を差し出すアル。おそらく突っ返されたのであろう『それ』は、包装をはがされ裸のままアルの手の中で転がり──

「アル……」
「な、何だよ」
 ナヴァールの顔つきが変わった。信じられないといった表情でアルをちらりと見ては、肩を落とし嘆息する。
「これは……俺でも怒るわ」
 うっかり口調が素に戻るほどの衝撃だった。

 アルの手の中で、『それ』は何とも可愛らしく転がっていた。
 可愛くて、口に入れると甘く蕩けていきそうな、それはそれは美味しい砂糖菓子……
 ──の、ようなダイスであった。
「何だよ!? いいじゃねえか砂糖菓子ダイス!」
「お前は何も分かってない! このダイスは、かの小暮英m……もとい、ナーシアですら勝てなかったいわく付きだぞ!? こんなもの渡したら怒られるに決まってる!」
「そこまで言うかっ!?」
「言うよっ!? 陛下はわりと出目がいい方なんだから、そんなものはベネットにでもやってしまえ!」
 その瞬間、どこかから何かがずっこける音が聞こえた。どうやら偶然通りかかったベネットがその会話を聞いてしまったらしい。
「あああああっしだっていらないでやんすよー! ただでさえ出目が悪いんでやんすからーっ!?」
「大丈夫、もともと悪いんだからたいして変わらないだろ」
「何を言ってるでやんすか! そのダイスはエリンディルのかの大賢人シェフィールドですら敵わなかった強敵! それに、いくら固定値が高くても、固定値はファンブルには決して敵わないというのにーっ!?」

「あー、えーっと……」
 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるベネットとそれに応対するナヴァールの図を見ながら、アルは出したダイスをどうすることもできず、固まっていた。


 その後。

 結局アルは、ピアニィに別のダイスをプレゼントした。出目が見やすく見た目にも綺麗なクリスタルダイスである。ピアニィはいたくお気に入りのようで、バーランド宮で行われるセッションではたびたびそのダイスが使用されることとなる。

 一方、砂糖菓子ダイスがどうなったかというと──……


「リシャール団長、今日も貢物やらお届けものやらがこんなにたくさん……」
 ベルクシーレの一等高い場所に位置する幻竜騎士団詰所に訪れていたリシャールは、そこで毎日のように贈られてくる貴族のご婦人からのプレゼントやら、コランドベリー公のご機嫌を取ろうとする者からの貢物やらを目の前に、軽く溜息などついていた。
「いつものように、中身はすべてあらためておいてくれ。危険物と生ものは処分して、花は詰所に活けるといい」
「かしこまりました……あら?」
「どうした?」
 指示通りに贈り物を検分していた騎士の一人が、その中からひとつを取り出した。綺麗にラッピングされた小さな箱にはカードが添えられている。リシャールはカードを取り、それに目を通す。
「これは……嬉しいな、プリンセス」
「団長?」
「これは私が持って帰ろう。後は頼む」
「は、はい……」
 首を傾げる騎士たちをあとに、リシャールは小さな贈り物を懐に納めると、自分の屋敷へと戻っていった。
 カードにはこう記されていた。


『親愛なるリシャール・クリフォード様 愛を込めて 受け取ってくださいね♪ ピアニィより』

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あとがき。

砂糖菓子ダイスの呪いは無事にリシャールに届けられました。ちなみにみんなで相談して決めたという設定です。
ホントはアルからの贈り物にしようとしたんですが、ややこしくなるのでやめました(笑)
でも、ちょっと欲しいです、砂糖菓子ダイス。