Novel

独占

 アルは真剣な目つきでボードを見つめていた。その瞳に映っているのは『独占』の二文字のみである。
 やがて引き締まった表情がにやりと笑う。
「……よっし、これでオレンジの土地は全部俺のもんだ!」
「あぁーっ!?」
 駒を進め、バンカーを務めるナヴァールに土地代を支払う。非常に嬉しそうな様子であった。
 一方、隣に座っていたピアニィは、対照的に悲痛な叫び声をあげた。
「アル! ずるいです! 酷いですっ!!」
「ずるくない。はい次、姫さんの番」
「うぅ〜っ……」
 顔を渋くするピアニィに、アルはダイスを寄越しながらふと笑いかけた。
「大丈夫だって、青の土地はあとひとつで姫さんが独占だろ? 十分挽回できるって」
「……そ、そうですよね。それに鉄道もあたしが一番多いですし。よーし、負けませんよ!」
 再びやる気を取り戻し、ピアニィは意気揚々とダイスを振った。

 そして数巡が過ぎた。

「アルっ! そこの『バーランド大通り』あたしに売ってくださいっ! そこ、最後の青の土地なのにどーしてアルが買ってるんですか!?」
「やだ。交渉終了」
「アルぅ〜っ!!」
 頬を膨らませるピアニィをよそに、アルは何とも白々しく返した。
 そして次のベネットへとダイスを寄越す。
「ここを押さえとけば、当分の間安泰だからな。おーい、次ベネットの番だぞ」
「は、ではあっしが……げふぅっ!?」
 しかし、ベネットがダイスを振ろうとした瞬間、ピアニィが身を乗り出した。勢い、ベネットは椅子から転がり落ちる。
「駄目ですっ! 待ってください! アル、さっき「あたしが青を独占したら十分挽回できる」って言ってたじゃないですか! 約束を破るんですかっ!?」
「約束? さあ、知らねえな。それに俺は「姫さんが独占したら」とは言ったが独占させてやるとは一言も言った覚えはねえよ」
「信じられない! もう、アルのことが信じられないっ! ナヴァールっ!!」
 ピアニィは怒りの矛先を今度はナヴァールへと向けた。ゲーム中はいかなるリアル権力にも屈しない、約束だって反故にする。今のアル・イーズデイルという男は普段と全く違うのだ。
 だが、話を振られたナヴァールは涼しい顔で、
「交渉は当人同士でお願いします。それから私のことはナヴァールではなくバンカーと呼ぶように」
「おーいバンカー、家よっつ建てたからホテルくれ、ホテル」
「は、少々お待ちを……」

 そしてピアニィを放ってホテル建設の手続きを始める男二人に、彼女の怒りは頂点に達した。

「もうっ! アルとは口ききません!!」

 その後涙目となった女王陛下をゲーム終了後に慰めるのに、アルはたいそう苦労したという。

---

おまけ。

アル「おいベネット、ダイス振る前にレンタル料払えよー」
ピアニィ「こっちも払ってくださいね、ベネットちゃん」
ベネット「な、なんであっしはいつもこんな役回りでやんすかーっ!?」

---

あとがき。

独占、つまりmonopoly! ネタでした。らぶらぶとか甘々とか恋愛的独占欲を期待した方はすみません(笑)
アルは本気ゲームの時は、約束を守るんだろうか……いやそもそも約束しねえな、王子だし! と(勝手に)思ったので、そんな感じです。
でも、陛下もきっとえげつない手を使うと思うの。今回はただの困っぽくなってしまいましたが……反省。