Novel

幸福の午後

「うわぁー、綺麗ですねえ!」
 バーランド宮の外壁によじ登り、ピアニィは街を一望していた。当然、彼女が自力でここへ上がったわけではなく、かたわらに立つアルの腕にしがみついて、バランスをとっているのが分かる。
 そのアルは、横目でちらりとピアニィを見た後、同じように城下を見渡し得意気な表情になった。
「だろ?」
「ありがとうございます、アル」
「別にたいしたことじゃない。それに、たまにはこうやって全体を見ることも重要だしな」
 まるで照れ隠しのようなアルの言葉に、ピアニィは返事のかわりに彼の腕にぎゅっと抱きついた。
「ねえ、アル……」
「ん?」
 再び口を開いたピアニィから、甘い吐息のような問いが漏れる。
「幸せですか?」

 そんなもの、今の二人の状況を見て分からない奴などいるのだろうか。寄り添う姿は青空に映えて一枚の絵画のようだ。だが、そんな聞かなくても分かる問いかけにも、アルは正直に答えた。
「ああ。……俺はいつも幸せだよ」
「ですよね?」
 アルは再びピアニィに視線を合わせた。だが真に幸せな時間はそこまでだった。
「ところで、アル……」
「何だ?」
「このバーランド宮殿の外の状況は、市民のセキュリティ・クリアランスには開示されていません。市民アル、あなたはどうやって、この場所の情報を得たのですか?」
「あ……!」
 ピアニィの微笑みは、既に慈愛の女王から無慈悲なウルトラヴァイオレットへと変貌していて、それが能面のように貼り付いている。対するアルの方は、瞬時にひくついた表情筋がそのまま凍り付いてしまう。
 次いでピアニィは懐からレーザーガン(のようなもの)を取り出した。錬金術の心得のない彼女がまともに扱える代物ではないはずだが、それでもこめかみに突き付けられて危機感を覚えない人間など、おそらくこの世にいない。
「しまった……」

 ZAP! ZAP! ZAP!

 次の瞬間、アルは──いや、市民AL-R-MRT-5は、PIANY-UV-FEL-1により、略式処刑された。

 そう、今日はなんと、バーランド宮殿を丸ごと使用しての、大規模なライブセッションをおこなっていたのだ。使用システムはもちろん完璧で幸福なアレである。
「あー、残り一体になっちまった……」
「前回のクローンは反逆行為をおこなったため、処刑されました。次のクローンはうまくやってくれるでしょう。コンピューターに奉仕することは幸福です」
 頭を抱えるアルに、笑ってお決まりの宣言をするピアニィ。
 他のプレイヤーとのブッキングを避けるために、人のいないところへやって来たのが仇になった。とりあえず、もうこの場所にはいられない、と、二人は外壁を降りていった。

 そして、もうこうなったらどんな手を使ってでも他のプレイヤーを陥れてやらなければならない。そう決意して、アルはナヴァールとベネットを探しにかかった。


 Stay alert! Trust no one! Keep your laser handy!

    ──フェリタニアの今週の標語より。


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おまけ。

アル「姫さん……じゃない、UV様、ミュータントを見つけました」
ベネット「アッー! 耳を引っ張るなでやんす! あっしはミュータントじゃないでやんすよ! ヴァーナ差別反対でやんすーっ!?」
ピアニィ「市民ベネット、『ヴァーナ』とは何ですか?」
ベネット「……はっ!? し、しまったでやんすーっ!!」

 ZAP! ZAP! ZAP!

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あとがき。

はい、パラノイアネタでした。前半ラブラブ後半で酷いオチ、という、いつものアルピィでしたね。
こんな仕打ちを受けてもアルが反撃に出ないのは、他のゲームで発散してるからか、楽しんでやってるからか、それとも……
……やっぱ受けだから?(笑)い、いや、ZAPされるのがこのゲームの醍醐味だから、かな!?