Novel

アルピィの子供ネタです。苦手な方はご注意ください。

マンチ式家族計画

 その日、会議室を訪れたナヴァールの目は、それ以上ないというほどに見開かれた。

 テーブルには女王とその騎士が並んで座り、二人で何事かを話し合いながら目の前に置かれた紙に何かを書き綴っている。
 それだけならば別に気にすることの無いいつもの風景であった。だが今日は、そんな二人の足元に明らかな変化があった。
 年のころは3歳くらいであろうか。紅色の髪が特徴的な男の子と女の子が、彼らの足元に座り込んでいる。男の子はピアニィによく似た翠色の瞳の、愛らしい表情。女の子はアルに似た琥珀の瞳を持つ勝気そうな表情で。

 それはどう見ても二人の子供だった。

「陛下、アル! 一体いつの間に子を生し……というか、計算が合いません!」
 二人が出会ってまだ一年も経っていない。なのにそんな年頃の子供がいるということ自体がおかしい。
 ナヴァールの叫びに気付いた二人が振り返る。どちらもきょとんとした表情だ。
「何言ってるんですか、ナヴァール。計算ならちゃんと合ってますよ? ほら」
「は……?」
 疑問を浮かべるナヴァールの前に、ピアニィはテーブルの上にあった紙をひらひらと振って見せた。距離的に全てを見ることはできなかったが、おそらくキャラクターシートであろう。
「成長点の算出も、スキルの数も、ちゃんと何度も見直したんですから。ねえ、アル?」
「そうだぜ旦那。俺らがどんだけARAやってきたと思ってんだ」
「…………」

 いやそういう意味ではなく。というかそのキャラクターシートとそこにいる子供と何の関係があるのだと突っ込みたくても突っ込めなかった。二人はまたすぐに真剣な表情でキャラシーとにらめっこを再開したのだ。

「うーん、この先の成長は、どうしたらいいと思います? あたし的にはこのまま殲滅力を重視でいきたいんですけど……」
「けどそれじゃあ姫さんと全く同じになるだろ? アタッカーや壁ならある程度似通ってくるけど、魔術師ならもうちょっとタイプを変えて汎用性を高めるっていうのもありだと思うぜ」
「なるほど……じゃあここはいったん保留にしておきます」
「だな。後でナヴァールの旦那にも見せて調整していったらいいんじゃねえか?」
「あ、じゃあ今聞きましょう! ナヴァール!」
 ピアニィが席を立ち、いまだ固まったままのナヴァールに駆け寄った。彼の状態もお構い無しにキャラクターの成長についての質問をしてくる女王の様子に、ナヴァールはいつものように「ルールに関する質問はHPにメールでお願いします」と軽くあしらうこともできずにいた。
「陛下……その前に、お聞きしたいことがあるのですが。これは一体、何のキャラクターを作っているのですか?」
「そんなの、決まってるじゃないですか。あたしとアルの子供です!」
 にこやかに答えるピアニィと、背後で何やらむず痒そうな表情をしているアル、そしてなぜか一緒になって喜んでいる二人の子供。ナヴァールはもう「そうですか」としか言えなくなってしまっていた。
 それをいいことに、ピアニィはさらにまくし立てる。
「それでですねー、男の子の方は最終的にはあたしと同じウィザードにする予定なんですけど、属性をどうするかまだいまいち決め切れなくて……あたしが水で、エルザさんが火だから、命中重視で風かなって気もするんですけど、ナヴァールはどう思います?」
「陛下、それより先に考えなければならないことがあります」
「え?」
 深刻な表情のナヴァールに、ピアニィは慌ててキャラシーを見直そうとして……ナヴァールに止められる。
「他に何かありましたっけ?」
「まずは、おめでとうございます……と申し上げておきましょう。跡継ぎができたとなれば、フェリタニアもますます安泰することでしょう」
「は、はい」
「まずは祝賀の用意をしなければなりません。そして……そういえば、陛下」
「?」
 仰々しいナヴァールの演説のような言葉は、そこでいったん途切れた。首を傾げるピアニィと後ろにいる二人の子供を交互に見て、彼は再び口を開く。
「お子様の名前を伺っておりませんでしたが……何という名で?」
「あ、決めてなかった」
 まるでおつかいで一品だけ買うのを忘れていたかのような気軽さでピアニィは答えた。

「どうしましょう、アル」
 すぐさまテーブルに戻り、アルと何やら相談を始める。が、それはすぐに終わった。
 アルは傍らに置かれたお茶(奮発してアールグレイの紅茶)を見て、なんともあっさりと答える。
「じゃあ、『アール』と『グレイ』で」

「ネーミングまでお約束過ぎるわっ!?」

 数分後。ナヴァールは全てを把握した。
 二人は別に時間軸的計算の合わない子作りをしたわけではなく、ただ単に『自分達の子供』という設定でキャラクターを作っていただけだったのだ。それでどうして本当に子供の姿があったのかは永遠の謎ではあるが。
 元の冷静さを取り戻したナヴァールは、二人から預かった二枚のキャラシーを手に持ったまま、静かに告げる。
「二人とも……婚前交渉はスキャンダルの元です。お控えください」
 そうとだけ言うと、一思いにキャラシーを破り捨てた。
「あー!!」
 会議室にピアニィの悲鳴が響くと同時、それまでアルの足元できゃっきゃと戯れていた二人の子供が幻のように掻き消える。

 こうして、二人の子供騒動は外に漏れる前に収束するのであった。涙目の女王と残念そうな騎士と、そしてびりびりに破られた二枚のキャラシーを残して──

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あとがき。

というわけで、ブログでも言ってた子供ネタでした。二人の子作り風景は夜の云々ではなくキャラクターメイキングですよねー、という話。
この方法なら何人でも生産可能だしね!(笑)
ところで勇者募集で「○年後のアルとピアニィの息子or娘です!」つって応募するのもあり?

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おまけ。

※アール・フェリタニア&グレイ・フェリタニア…女王ピアニィと騎士アルの子。双子の姉弟。
姉は父譲りの剣の才を、弟は母譲りの魔術の才能を持ち、それぞれスパルタで育てられた……という設定
実際には、二人が作ったARAのキャラである。ナヴァールによって破棄された。