Novel
ピアニィは如何にしてノベルで可憐な少女へと変貌を遂げたのか
ノルウィッチ遷都がようやく落ち着いたある日のこと。
女王ピアニィは城の一室に第一の騎士アル・イーズデイルを呼び出した。
二人はテーブルに向かい合って座り、そしてしばしの時が流れる。ピアニィは手に分厚い書類の束を持ったまま、どこか所在なげにしているアルを笑顔で見据えると、一言、
「ボツ」
そう言い放ち、手にした紙束をばさばさとテーブルの上に放り投げた。
そして脇のチェストに置かれていたティーカップを取り、優雅に口をつける。王族なだけあって、その動き一つとっても洗練された品のよさが伺える……が、今のアルにはそんなことはどうでもよかった。
ただ、目の前にばら撒かれた紙束を焦点の合わない瞳で見つめているのみである。
ピアニィはカップを置き、再びアルを見た。
「だって、あたしをヒロインにして書くって言うから許可したのに、何ですかこれ! 全然ヒロインらしくないし、第一あたしこんなに殺意高くないですっ!!」
誰もが耳を疑う発言だった。
フェリタニア王国女王は、何よりもその殺意こそが彼女を彼女たらしめている、といっても過言ではないほどの殺意を秘めた、まさに殺意の申し子である。
アルの生気の無い顔が僅かに動く。
「そう言われても、俺はありのままを書いたんであって……」
「だ、ダメ! ダメですこんなの他の人に読ませられませんっ! 誤解されたらどうするんですかっ!?」
「誤解も何も、編集に読ませたらまさしく姫さんそのものだって……うおっ!?」
アルの言葉は、空中に舞った紙束──アルが何日も徹夜で書いた小説の原稿用紙だ──により途切れさせられる。それがおさまった後視界に入って来たのは、笑いながら怒るという摩訶不思議な表情をした女王の姿だ。
「とにかく、書き直してくださいっ! 終わるまで外出とTRPG禁止ですっ!」
「ちょ、酷ぇっ!?」
「女王命令ですっ! あなたは……あ、あたしのヒロインらしさを書きなさいっ!」
拳を握り締めるピアニィ。女王命令を出されてはもうどうしようもなく、アルはそれに従うしかなかった。
何よりこれ以上渋ると、今度は魔術が飛んできそうだった。
そしてリテイクを食らってからしばらくの後。
ピアニィは至極上機嫌に、真新しい一冊の本を手にしていた。アルが著したフェリタニアの女王の物語だ。
それは出版されるや否やフェリタニア=メルトランドで瞬く間にベストセラーへと駆け上り、書に記されている優しく気高く可憐な女王の姿に皆憧れを抱き、国内でのピアニィの支持率はうなぎ上りとなっていった。
もちろん、当の女王もこの物語が大のお気に入りで、毎日暇さえあれば読みふけり、この儚げな女王と頼れる騎士との淡いロマンスなどを妄想……もとい、想像しては床を転がり、クッションをバシバシと叩く姿が見受けられた。
「歴史って、こうやって美化されていくんだな……」
国内のあまりの事態に、著者はそっと呟いたという。
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あとがき。
アルの小説執筆シリーズの番外編? でした。
そしてタクティクスガイドでの陛下の人気の高さ、実はこういうことだったりして……という妄想。
いやー、それにしてもノベル陛下は本当に可憐ですねー! 本人にも見習って欲s(フロストプリズム