Novel

シークレット・ミッション・アフター

「アル、元に戻ったようだな」
 バーランド宮の一室、騎士の部屋にしては簡素すぎるその中をひょいと覗き込むのは、その部屋の主よりもひとまわり背の高い竜人の男。
「旦那……あーもう、ウンザリだ、こんなのは」
 部屋の主、アル・イーズデイルは上半身をぺたぺたと触り、昨日までついていた脂肪の塊がなくなっているのを確認して吐き出すように言う。
「ピアニィ陛下は随分と楽しんでおられたようだが」
「姫さんはただ単に着せ替えが楽しかっただけだろ」
 彼らの仕える女王の名を出すと、アルは頬を赤くして憮然とした表情でもって答えた。いくら薬で女の姿になったとはいえ、心は男のままだったのだ。目の前できゃっきゃと自分を剥いては着せ剥いては着せを繰り返されて、男としてはなんとも複雑だったことを思い出す。
 だから今、アルは心底ほっとしているのだ。そのことが分かったのか、訪れた竜人──軍師ナヴァールの表情も僅かに笑みが浮かんでいる。
「けどまあ、昨日あんたが忙しかったのが不幸中の幸いか。さすがに女の姿してる時に……」
「男に戻ったのなら、もう我慢することはないかな」
「会って襲われでも……っ、ん……!」
 アルが最後まで喋り終える前に、その言葉はナヴァールの唇に飲み込まれる。

「ン……ぁ、なにすっ……」
 口付けは思ったより深かった。ようやく開放されると手の甲で口を押さえ、息を整えながらそれでも泰然としているナヴァールを見上げると、彼は緩く微笑んで答えた。
「元に戻るのを待っていた。いくらアルとはいえ、女性の姿のままのところに手を出すのは、フェアじゃない」
「は……」
 ナヴァールの言葉を噛み砕く。ややあって、出てきた言葉は、
「……あんた……マジモンだったのか?」
「そういうわけではないよ、たまたまだ」
 アルの発した少々不躾な疑問にも、ナヴァールはやはり笑ったまま答える。

 ナヴァールとそういう関係になっている以上、自分が女性化してしまうということは、やはり彼にとっても『女の方がいいのではないか?』などと、アルに柄にもない不安を抱かせることになっていた。
 だから先程まで、男に戻ってから顔を見せに来たことにほっとしていた。色んな意味で。

 そんなアルをよそに、ナヴァールは膝を折り、しゃがんでアルの赤銅色の髪に顔を寄せ、そのままアルの体を抱き寄せた。
「好きになったのがたまたまアル・イーズデイルという男だっただけだ。まあ、君自身が女性としての快楽を体験してみたい、というのなら話は別だがね」
「……いや、このままでいいよ」
 もうあの薬は飲みたくない。と告げて、アルもナヴァールの肩に体重を乗せた。

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あとがき。

すいません、女体化が苦手なもので思わず書いてしまいました。
このSSが怒涛のサガ更新の発端でしたね。
そういう意味では、あの短編に感謝です。「…というわけだ」がサイコーでした(笑)

ちなみに、これの続きは地下室にあります(笑)