Novel
Opening:1〜目覚めは突然に〜 -Master Scene-
だんだんと意識が覚醒してくる。
体が動かない。
だが考えることはできる。
彼は確認のため、いまだ混濁した頭の中で記憶を辿り、反芻する。
もっとも鮮烈な、最期の記憶。
わたしは イジンデルのむらを まもるために しんでんにたちむかった
なかまが もくてきをはたすまで たったひとりで もちこたえなければならない…
つかう>アガートラーム>めのまえのきしだん
わたしの はなった まほうが しんでんのいぬたちを うちすえる!
しかし!! これだけではたおしきれなかった!
ふたたび たちあがった きしたちが わたしにむかって けんをふりかぶる!!
ギャー!! これは つうこんのミス!
こうほうで たいきしていた きしたちも やってきて
わたしのからだは まるでぼろぞうきんのように ずたずたになっていく…
ざんねん!! わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!!
「……って、んなわけがあるかーっ!?」
叫び、彼──トランは無理矢理上半身を引き起こす。関節の軋むのが自分でも分かったが、気にせずに。
目を開けて、まず周囲を警戒してしまうのは、それまで彼が培ってきた経験のおかげか。
そこはトランが今まで見たこともない部屋だった。中央に置かれたベッドの上で、彼の体は真新しいシャツで包まれて、そこで寝かされていたらしい。
「お目覚めですか?」
状況は分かった。だがそこに至る過程が見付からない。混乱したままのトランに、そんな涼やかな少女の声がかけられた。
「……?」
くるりと声のした方を向く。トランの視界に一人の少女が映った。
美しい少女だった。黒いゴシック調のドレスに身を包み、白銀の長い髪は月の光を集めたかのよう。そして深く澄んだ瞳でトランをじっと見ている。
目が合うと、少女はにこりと微笑んだ。
「はじめまして。私の名はアンゼロット。この世界の守護者です」
「…………はあ」
生返事。
出てきた言葉に一瞬思考が追いつかなくなる。この子はナニを言っているのか。
しかしトランは反論の言葉を持たなかった。彼女の言葉は、字面だけ捉えれば幼い少女の空想というか妄想で済まされそうなものだが、不思議とその声には、有無を言わせぬ迫力、もとい、説得力のようなものを感じたからだ。
なるほど、確かに言われてみればアンゼロットの外見、立ち居振る舞いは、普通の10代の少女とは思えぬ威厳に満ちている。
トランは知らぬ間に居住まいを正しアンゼロットに向き直っていた。
「わたしはトラン……トラン=セプターです」
手短に名乗って一礼する。少女の威厳、というのもあるのだろうが、なぜだかトランはそうすることが自然なように思えた。彼女には逆らえない、そういったものが遺伝子レベルでプログラムされているのではないかとすら感じられた。
アンゼロットはそれに満足気に頷くと、表情がふと真剣なものに変わる。
「では、トランさん。色々聞きたいこともあるでしょうが、まずは……」
「……まずは?」
聞き返すと、アンゼロットは再び、口元を上げた。それは傍目には、今にも花開かんとする薔薇の蕾のごとく。だがトランには、なぜだか悪魔のようにも感じられる。
嫌な予感がした。
アンゼロットは笑顔を浮かべて言った。
「まずは、これからする私のお願いに『はい』か『イエス』でお返事してください」
そして予感は現実となった。
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あとがき。
今回、オープニングを二つに分けました。しかも最初からマスターシーン。
トランは今回普通に出てくるけどNPCなんじゃよー!
ちなみに作者は『シャド○ゲイト』やったことがありません(笑)