Novel
Opening:2〜新たなる旅立ち〜
「本当にこっちでいいんだろうな?」
「知るか。わたしに聞くな」
ダンジョンと言うほどでもない一本道の洞窟に、そんな話し声と、数人の足音がこだまする。
フォア・ローゼスの新しい冒険──では、なさそうな雰囲気だ。
その証拠に、先頭を歩くのは後衛のはずのレントで。その横に防御役のクリスが並び、何事かを言い合いながら。
普段は先頭にて斥候を務めるはずのエイプリルは、そんな二人のやり取りを眺めながら、ノエルと共に後ろからついて来ていた。
そこはかつて、彼らが『ガイアの種子』と呼ばれるものを取りに来たあの試練の洞窟だった。中には特に危険もなく、既に試練を乗り越えた彼らにとっては、怖れるべきものは何もない、ただの洞窟と成り果てた場所である。
そんなところへなぜ来ているのか、という疑問に答えるものは、ノエルが荷物と一緒に詰め込んである鍔広のとんがり帽子だけ。
つまり彼らが探しているのは──……
それは今は置いておくとして。
前を歩く二人はいまだ軽口を叩き合っていた。
「聞くな……って、大体お前、トランの記憶持ってるんだろう。それなのになぜ分からんのだ」
「部品が使われているだけで、全ての記憶を共有しているわけではない。それに」
ふとレントが足を止める。つられて手に持っていた松明の灯りが揺らいだ。
「……それに?」
隣でなにやら神妙な表情になっている(最近、この魔術師の表情が分かるようになった)レントに思わず聞き返すと、彼は少しだけ言いよどむ風を見せる。
やがて一度だけ嘆息して、彼は続けた。
「それに……意図的に消去している部分もある。トランの記憶回路を使ったうえで、きちんと自我が芽生え、自律活動を行うことが出来るうちの人造人間は、現在わたしだけなのでな」
「どういうことだ?」
クリスは首を傾げた。レントが婉曲に言っているのも手伝って、どうもこの男の言わんとするところがつかめない。
「他にも起動した固体はあったが……自己を確立する前に、トランの記憶と意識が前に出てきて……二つの人格がせめぎ合い、自我が崩壊した」
「!!」
目を見開く。
戦慄した。当事者になりえたかもしれないレントがこの中で一番淡々としているのが逆に恐ろしく感じられた。
「じゃあ、お前はどうなんだ……?」
問い質す声が震えていた。だが彼はやはり動じぬ姿勢で、何をそんなに驚いているのか分からない、といった風に続ける。
「わたしの中に残っているのはただのメモリーだ。元々、緊急の事態に即して目覚めた後任だからな、わたしは。人格データがどうのと、調整している暇は無かった」
「……? つまり?」
「つまりレントさんはレントさんで、他の何者でもない、ってことですよね」
「そういうこった。全く、馬鹿が無理に頭使うと、熱出すぞ」
「なっ……!?」
クリスが振り向くと、笑顔で手のひらを拳でぽんっと叩くノエルと、皮肉げにこちらを見つめているエイプリルの姿が映る。
そしてからかわれた、と気付く直前に、隣から追い討ちがかかった。
「その通りだな。今ここにいるわたしが、わたしの全てだ。それだけ分かっていれば、不足はないだろう」
レントは再び足を進める。手に持たせた松明が再び風を受けて揺れた。
三人が後を追うと、やがてかつて見た洞窟の最奥部、少し開けたドーム上になっている空間があらわれる。
「この先に……トランがいる、のか?」
「分からない」
「でも、異世界に繋がっているんですよね、ここ……?」
背後に、追いついてきたノエルの疑問を聞くと、レントはこくりと頷く。
確率はほとんどゼロに等しい。数多く存在するであろう異世界のどこに、あるいはその狭間に、トランがいるという保証すらない。
それでも。
「……それでも、行くのでしょう?」
仲間の顔を順に見ていくと、皆それぞれに頷いているのが分かった。それに応えて、レントも一つ頷くと、さらに足を進める。
そこで洞窟は行き止まりになっており、前に手に入れた《種子》の試練は影すらもない。
「ところで……」
ぽつりと呟いたノエルの声は、どこか戸惑っているように思えた。
「……どうやって、異世界に行くんでしょう?」
「…………あ」
少女のもっともすぎる疑問に、しばし一行の動きが止まる。
確かに、『繋がっているらしい』ということは知っていたが、それと『どうやって世界を渡るのか』というのとは別の問題だ。
前に起こった事件のように、あちら側が道を用意してくれるわけでもない。
そのまま立ち往生するかと思うほどの静かな間。
不意に静寂を破ったのは、女の声だった。
「みぃーつけた」
「……え?」
いつの間にか眼前に降り立っていた人影が発していたのだと分かるのとほぼ同時に、ノエルたちの足元が不確かになる。
台風予報に果敢にも挑み吹き飛ばされるウェザーリポーターような、突然の大嵐に飲み込まれた小さな漁船のような、そんな感覚が四人を襲った。
この眩暈のする感覚が、謎の人影の開いた『異世界の扉』だということを、この時の彼らは気付くよしもなかった。
そう、今この時、確かに時を越え世界を越えて、新たな冒険の幕開けとなるのだ。
もう一人の仲間に再会する旅の──
「あれ? 何か違うような……」
怪訝そうに人影がそう言う声が、時空の渦に巻き込まれながら気を失うまでにノエルたちが最後に聞いた言葉となった。
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あとがき。
ローゼス側のオープニングシーンです。謎のキャラ登場、今回の一発ゲストです。
次からファー・ジ・アースにてミドルフェイズ開始です。
ちなみにルールはナイトウィザード2nd採用です。なのでアリアンのスキルは使えません!(笑)
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おまけ
GM「ノエルはナイトウィザード初めてなんだよね。じゃあ……」
エイプリル「NWでキャラメイクはしなくていいのか?」
レント「あ、それはまだ大丈夫みたいですよ。ミドル以降でイベントがあるらしいんで」
クリス「何で知ってんだ」
GM「ああ、今回、ちょっとした仕掛けがあってね。サブマスターみたいなことをやってもらってるんだ」
ノエル「なるほどぉ、すごいですっ! さすが薔薇王子……っ!(笑)」
通りすがりの小暮英麻「何やってるんですか〜? あ、新しいセッションだ!」
通りすがりの矢薙直樹「……あれ? これNWですか? ARAじゃないんだ」
通りすがりの宮崎羽衣「あたし、セッションでエリス使いたいんですよ〜、混ざってもいいですか?」
GM「ぎゃーやめろお前ら来るな来るなー! あとでご飯おごるから!」
一同「ごちそうさまでーす!(笑)」
GM「なんでお前らも来るんだよっ!?」