Novel

Dive:4〜『彼』の消えた日〜 -Master Scene-

 それは確かな異変だった。

 第八世界ファー・ジ・アースにおいて、次元の歪みが観測されたと同時に、主八界以外の世界において、『ある一人の人物』が次々と消えていったのだ。


 ──戦国日本、武蔵国。

「浄ノ進、才蔵が来てやったでござる。具合はどう……おや?」
「ウキキーッ」
 緑に囲まれた静寂な庵であった。だが静かすぎる。肩に小猿を連れ巨大な瓢箪を背負った少女は異変を感じ取り、急ぎこの庵の主のいるであろう寝所へと急いだ。
「浄ノ進?」
 襖を開ける。そこで主、山住浄ノ進が静養しているはずだ。だが才蔵は部屋の様子を一目見るなり、深刻な表情となった。
「いない……」
 彼のために持って来た秘伝の薬が袖から零れ落ちた。
 部屋はもぬけの殻だった。ただ、つい先程まで人が寝入っていたかのように布団が敷かれている。まるで少しばかり厠にでも立ったかのような。
 だが彼女には分かった。ここに浄ノ進の気配が無いのだ。
「浄ノ進……おぬし、どこへ消えたでござるか……?」
 呆然と呟く才蔵の肩の上で、小猿の佐助が悲しげに鳴き声を上げた。


 ──アルディオン大陸、フェリタニア王国王城。

「た、大変でやんす! アルがさらわれたでやんすっ!」
 荒々しく王宮の扉を開き、狼の耳を持った少女が開口一番にそう叫んだ。
 それを聞きとめて驚きの表情を浮かべるのは、それまで執務に励んでいた若き女王とその軍師。
「ええっ!? アルが触られたっ!?」
「痴漢にでも遭ったのか?」
「ちーがーうでやんすっ! さ・ら・わ・れ・たでやんす! 誘拐でやんすっ! 拉致監でやんすーっ!!」
 手をじたばたさせながら獣人──ベネットが説明する。女王、ピアニィは途端に顔面を青白く染め、立ち上がった。
「なんてこと……っ、ナヴァール、ベネットちゃん! すぐに取り返しに行きますよっ!」
「しかし陛下、まだ問題が山積みでは?」
「だって、犯人があの変態騎士さんだったらどうするんですかっ!?」
「おお? やっぱりアルが心配でやんすねぇ〜、ラブでやんすっ」
「そ、そんなんじゃありませんっ! それに……」
「……それに?」
 さっと頬を染めるピアニィをからかうようにベネットが聞くと、少女の小さな拳にぐっと力が込められる。
「壁兼アタッカーがいなくなったら、殲滅力も防御力も大幅減少であたしたちは壊滅です! パーティーバランス的な意味で!!」
「相変わらず殺意高ぇ!!」


 ──オリジン、旧レグニツァ王国領。

「イリアがいなくなったって、ホントかっ!?」
 クロルデンから飛んで来たのは、フォーリナー栂尾滝。月の向こうに消えたサラ姫をいまだ待ち続けている彼であったが、かつての戦友の消失の報せを聞いて慌てて駆けつけたのである。
 だが消えた少女──イリア・ルゥ・レグニツァの従僕であるはずの魔王ミステルは、いつも通りのほほんとしたものである。
「あら滝様、ご機嫌麗しゅう。相変わらずのヘタレ弱腰っぷりがステキですわ」
「うるせぇーっ!? そ、それより何でそんなに落ち着いてんだよ、主人がいなくなったっつーのに……!」
「大丈夫ですわ。この預言書によると……お嬢様は必ず戻られると、そう書いてあります」
「けどよ……」
 ぱらぱらと古びた預言書をめくるミステル。それでも滝は心配だった。
「ご心配ならば、探しに行かれますか? ちょうど、小澤様の艦隊もこちらに来ておられますので……」
 彼の不安を読んでいたかのように、頭上に巨大な戦艦があらわれ、レグニツァの大地に影を落とした。


 ──秋葉原、某社。

 社員はみんな忙しそうに仕事をしていた。デスクについて、電話をかけているその男も同じだ。その男の話す内容が、この忙しさの原因の一つを明かしてくれるだろう。
「あーもしもし、天くん? いやさぁ、矢野君がね、あいつまだ出社してないんだよね。何かあったの? あ、知らない? うーん、おっかしいなぁ、連絡の一つもよこさないなんて……うん、中学時代からの付き合いの君なら何か知ってるんじゃないかと思ったんだけどさぁ、そう、キミくんに聞いても知らないって言うし。あー、じゃとりあえず会議行って来るわ。何か分かったら連絡ちょうだい。……うるせー、副社長は忙しいんだよ!」


 皇帝世界、ジャングル世界、古代アトランティス、近未来アフターホロコースト、機械化世界、並行世界ガイア、その他諸々──

 かくしてあらゆる時空、あらゆる並行世界から、『彼』の姿が消え去った……


 ──一方そのころ、某ローカル線にて。

「ふぅ……やはりぶらり旅は各駅停車につきますね……」
 うっとりとした溜息をつき、車窓から流れる景色を眺める黒髪の少女。
 ベルに先んじて表界に降り立ったはずの魔王は、優雅に鉄道旅行を満喫していた。

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あとがき。

リオンは何をやっているのか(笑)まあ彼女にとっては、メアリーさえ押さえられればいいわけなので、
この混乱よりも自分の楽しみを優先したのでしょう……いい性格だ。
なんかジパングキャラとかの性格があやふやなんですが気にしない!

※DOUBLE+CROSS The 2nd Edition、アリアンロッドRPG、ナイトウィザード、異界戦記カオスフレアは
有限会社ファーイースト・アミューズメントリサーチの著作物です。
なお、この作品はフィクションであり、登場する人物、団体名等は実在の人物とは一切関係ありません。