Novel

リシャールがナーシアを嫌いなワケ

「……あれ、先輩?」
 アンソンは彼の顔を見ると不思議そうに呟いた。常に穏やかな笑みを浮かべる彼の上司、公爵領を治め大陸一の剣士とも名高い社交界の花形でもあるリシャール・クリフォードが、珍しく眉間に皺を寄せて不機嫌な表情でこちらに向かって来たからだ。
「先輩、どうかしましたか?」
「……ああ、アンソンか」
 声をかけると、やっとアンソンに気付いたかのようにはっと顔を上げ、次の瞬間にはいつものリシャールに戻っていた。彼は優雅に溜息をひとつつくと、少し困ったように答えた。
「ここに来る途中、あの女に会ってな」
「あの女……もしかして、ナーシアですか?」
 アンソンが名前を口にすると、またもリシャールの整った顔が僅かに歪む。間違いない。
 リシャールはゴーダ伯の腹心であるあの女、ナーシアを毛嫌いしていた。だがそれでも腑に落ちないものを感じ、アンソンは再び彼に尋ねた。
「でも、それだけでそんなに嫌な顔するなんて、なんだか先輩らしくないですね」
「会っただけ、ならな」
「……?」
 頭にクエスチョンマークを浮かべるアンソンをよそに、リシャールは先程のことを思い起こしていた。


 幻竜騎士団の本部に立ち寄った帰りのことだ。リシャールはふと、自分に向けられている視線に気付いた。
 上手く身を隠してはいるが、こちらも大陸一の腕前という自負はある。リシャールは振り返り声を上げた。
「……ナーシアか?」
「さすがは、団長……私の気配に、気付くなんて」
 思ったとおり、壁の向こうからナーシアがこちらを覗き込むようにして立っていた。彼女は見つかると諦めて全身をリシャールの前に晒し、彼の威圧感などものともせずにリシャールを見返した。
「何か用か?」
 急かすように、短く告げる。彼女は政敵ともいえるゴーダ伯の直属の部下だ。リシャールには叩かれても埃など出ない自信はあったが、それでも何かを詮索されるようなことは避けたい。
 だがそうではなかったらしい。グラスウェルズでは珍しい紫色の瞳がすぅっと細められ、ナーシアの口元には僅かな笑みが浮かぶ。
「フェリタニア第一の騎士は……彼はあなたには決してなびかない」
「……何?」
 知らずリシャールは視線を強めていた。纏った空気が冷たくなり、先程よりも明確な殺気がびりびりと周囲に散る。
「彼の心の中には、今でも剣聖テオドールが存在する……テオドールを超えることは、誰にもできない」
「話はそれだけか」
「……それだけ」

 最後に含み笑いをして、ナーシアの気配が消えた。
 残されたリシャールは、心の中に言いようのないほど熱くドロドロと煮え滾るものを感じていた。
 これは彼女からの牽制なのだ。彼に、フェリタニアの騎士アル・イーズデイルに近づくな、との。
 だが。
「ナーシア……その程度でこの私が臆するとでも思ったか?」
 彼女が消えた方向を睨みつけ、リシャールは独りごちた。
 死者が生者に適うはずがない。今、アルの心を占めているのが彼の師なのだとしても、いずれ必ず、自分のものにしてみせる。リシャールにはその自信があった。

 リシャールの決意は、今はまだ誰にも知られてはいない。
 だがその決意こそが、この戦乱のアルディオンに一石を投じる──新たな戦いの前奏曲となることを、近いうちに彼らは知ることになる。

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あとがき。

アル受け絵茶で発生したネタを元に書かせていただきました。
そうでなくても団長とナーシアのギスギス感というか、ブレイクシリーズの仲の良さ(笑)
が、とってもステキですね!

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おまけデータ

受け専用ライフパスその1
出自:理解ある女性
効果:あなたは任意の女性キャラクターのコネクションを取得する。
   関係は『理解者』とすること。
解説:あなたには、あなたの境遇を理解してくれる女性がいる。
   彼女は自分の周りの人間関係を生温かく見守ったり、あるいは撮影したり萌えたりしている。
   あなたはなぜか彼女に逆らえない。