Novel

女体化嫌いの管理人がアルが女体化しない話を書いてみた

「…………」
 アルの目の前には、因縁の薬があった。
 飲んだ人物の性別を変えてしまうという、アルにとっては地獄のような体験をプレゼントしてくれたとんでもない薬だ。
 出来うるならば飲みたくない。だが、どうしても飲まなければならない事態となった。それが今だ。
「くっそぉ……」
 この薬を使って起きた愉快な事件については長くなるので省略するが、要点をまとめて言うと、男子禁制の修道院にアルが女性のふりをして行かなければならない事態にまたなったのだ。

 長い逡巡の後、アルは薬を手に取った。
「ええい、ままよ!」
 一度なったのだ、二度も三度も同じことだ。そう自分に言い聞かせ、アルは薬を飲み干した。
 明日になればまたあの恥ずかしい姿になっている……だが、そのアルの覚悟は空振りに終わることとなった。


「えぇーっ!? 薬が効かなかった!?」
 翌日。女王は自らの前に出てきた、昨日となんら変わりのない騎士の姿にひどく驚いた。
 彼女の手元には、また着せ替えを楽しもうと用意した可愛らしい衣装の数々。しかし目の前に立つ彼女の騎士は、どう見ても男のままである。
「アル、本当にちゃんと薬を飲んだんですか?」
「飲んだよ!」
「むぅ……っ、ホントにほんとですね? こっそり薬を捨てたとかじゃないですよね?」
「信じろっ!?」
 腕を組んでぶすっとした表情の騎士──女にならなくて少しだけ嬉しそうだが、それでも困惑している様子からは嘘を言っているようには思えない。
「じゃあ、どうして……」
「俺に聞かれてもな……旦那は何か心当たりねえのか?」
 二人してしばし考えたのち、アルは薬を用意した張本人である軍師の顔を伺った。いつも『自分は全てお見通しだ』とでも言いたげな彼の表情は、この日に限って曇っていた。
「いや……何らかの外的要因で薬が効果を発揮しなかった、と考えるほかはないのだが……」
 考え込む人数が一人増えた。ちなみに最後のメンバーであるベネットはもとより頭脳労働に向いていないため、三人の横でぼえーっとしているだけである。

 そんな時であった。

「あ……」
 突然ピアニィがぴくりと肩を震わせた。
「姫さん?」
「陛下、いかがなされました?」
 雷に打たれたかのようにピアニィは固まり、数瞬後ゆっくりと呟く。
「今、真実の竜輝石が言いました……」
「何と?」
「神竜王セフィロス曰く『アルは男のままで十分総受けだから女体化する必要なし』と……!」

 女王はあくまで真剣だった。
 だが、聞かされた当の本人はわけがわからない状態だった。
「…………なんっじゃそりゃああああああっ!?」
「だってホントにそう聞こえてきたんです!」
「つまりアルに件の薬が効かないのは神竜王の御心によるもの、ということか……」
「あんたも何納得してんだっ!?」
「だって効果がないんだから、そう考えるしかないだろうっ!」
 既にナヴァールは考えることをやめていた。
 薬を飲んでもアルが女体化しなかったという事実。他に心当たりがないのだからもうそれは神竜王の仕業と考えるより他はあるまい。

「それで、どうするでやんすか? 修道院は男子禁制でやんす」
 ここでようやく事態が呑み込めたベネットがもっともな疑問を掲げた。ピアニィは困り切った顔をぶんぶんと振って決意を固めた。
「仕方ありません、本当のことを話して特別に許可してもらいましょう」
「そう上手くいくのか……?」
 修道院の警備の凄まじさを知っているアルは身震いした。あれは男だとばれたら殺されかねん勢いだったのに、今更男だったとばらして自分は無事でいられるのかどうか──


 結果だけを言えば、上手くいった。
 あんなに厳格だったシスターは、男の姿のままのアルと付添いのピアニィの謝罪を聞くとすぐに厳戒態勢を解き笑顔でこう言った。
「まあ、そうだったのですか。神竜王様のお告げなら仕方ありませんね」
「ってあっさりしすぎだろっ!?」
「そうなんですよー、アルは本当は男性ですけど、総受けだから問題ないって神竜王が言ってました!」
「そうですわね、言われてみれば確かにこんなかわいい子が女の子のはずがないですものね」
「待てっ!? どういう理屈だそれはーっ!?」

 実にいい笑顔で神託を述べるピアニィとこれまた実にいい笑顔で対応するシスターに挟まれて、アルは決して答えの返ってこない絶叫を上げ続けた。

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あとがき。

もうアルは『性別:受け』でいい。だから女の子になんかならなくていい。
(説明しよう!性別:受けとは、男の中でも特別に受けとして愛される存在だけが名乗ることを許される不名誉な称号である!(笑))
ちなみに管理人がこの認定を下しているのは現在の時点でアルただ一人です。アル総受けはジャスティス。