Novel

Climax:3〜世界滅亡の危機〜 -Master Scene-

 霧深い森の中。
 最初は、ただそれだけだった。

 カナンの神殿に最初になされた報告は「霧の森を覆う霧が外に広がってきている」との、極めてシンプルかつ一見無害そうなもののみだった。
 神殿は当初、これを取るに足らない問題として捨て置いた。だがそれは間違いだったのである。

 そう気付いたのは、霧に包まれた巨大な城がまるで幻のように現れ、霧の森から遙か天空、空中都市テニアよりも上に浮かび上がっていった時だった。

 その日、世界は滅亡の時を迎えようとしていた。


 ──空中都市・テニア。

「怯むな、ゆけい! 我がヴァンスターの神聖騎士団の力を見せ付けてやるのだ!」
 雄々しい声が響いていた。

 今より少し前。現出した霧の城から謎の敵が出てきたとの報告を受けた神殿は、この非常事態に当たってテニアに騎士団を差し向けた。
 神聖ヴァンスター帝国、パリス同盟、キルディア共和国、エルーラン王国──そして聖都ディアスロンド、各国の神殿より派遣された騎士たち。それらはまさに精鋭中の精鋭だ。
 中でも血気にはやるのは、以前とある事件により権威を失墜して以来、名誉挽回を計らんとするヴァンスター神殿のマティス・アディンセル。彼は先陣の部隊を指揮し、鬨の声を上げた。

 そしてここに、騎士団と謎の霧の城との戦いが始まったのである。
 もっとも、霧の正体に気付いていれば、神殿の中には戦いをやめようとするものが出たかもしれないが。

 そう、それは紛れもなく神々の遣わした『粛清』との戦いであった。

「うわあっ、何だ、この霧は!?」
「くそっ! こいつら、武器が通用しない!」
 しばらくの後、騎士団からそんな悲鳴が上がり始める。城から出てきた謎の敵影は、霧が人型を取った魔法生物らしきものだった。当然、霧に物理攻撃は通用しない。
 話はそれにとどまらなかった。
 ならばと騎士団は魔法攻撃を開始したのだが、それらは全て不可視の結界に阻まれて全て霧散してしまうのだ。

 そして最悪の事態は、これだ。

 ふと耳をすましたある騎士は、それが何であるか確認する前にこのエリンディルより『消滅』した。
 轟音と共にやってくる、それは紛れもない世界の消失。これこそが、神すら恐れた『霧の粛清』の、真の力だった。

「うわーだめだー!」

 そして、神聖騎士団は壊滅した。


 ──エリンディルのどこか。

「これは……なんてことだ……」
 城を見上げ、少年が呟く。その瞳に僅かながらの絶望と落胆を灯して。
 空が落ちてくる。それ意外に表現する言葉が見つからない。
 無意識に手が胸元に伸びていた。そこには、今ある絶望と同等の力を持つ『世界を滅ぼす鍵』が秘められている。
「僕が『鍵』を使わなくたって……世界はこうも簡単に滅びを迎えてしまう……」
「……世界の命運を託されているのは、あなただけではない、ということ……」
「フェルシアさんっ!?」
 突然かけられた声に、少年は背後を振り向く。すっかり見慣れた銀の髪と、長い耳が風に揺れていた。
 フェルシアは静かに告げる。
「エイジ。今私達にできるのは、対処療法だけ……」
「でも、それじゃ、あの城は……?」
「現出したあの城は、既に『現象』……侵攻も災厄もなく、ただ静かに、世界に消失をもたらすもの……」
「打つ手はない、ってことですか?」
「……粛清を止めるものは、あそこにいる」

 不安げに聞くエイジをよそに、フェルシアはつかつかと彼を追い越し、空を見た。


 ──異変はエリンディルにとどまらなかった。


 ──ブルースフィア・某市。

「うっわ……何、この霧……」
 家を一歩出ると、そこは一面の白。
 宮沢茉莉は呆然と、玄関を開け放ったまま固まった。これから学校なのに、これでは前が見えない。
 眉尻を下げる茉莉の背中に、おっとりとした声がかけられる。
「茉莉さん、わたくしのシャードが、何やら光っているようなのですが……」
「ホント……何が起こってるのかな?」
「祥吾さまなら、何かお分かりになるのではないですか?」
 中に地球の浮かぶ『星のシャード』は、確かにその持ち主、西園寺恵の言うように、淡く光を放っている。このシャードは非常に特別なものだ。また何か、始まるのだろうか?
 そのことを予想して、恵はその名を出した。茉莉の父にして、伝説のクエスター『蒼の守護者』宮沢祥吾の名を。
 茉莉がそれに頷こうとした、その時。

「茉莉ー、お父さんのカバン知らないか?」
「もう、そんなこと言ってる場合じゃないでしょーっ!?」

 二人のさらに背後から、そんな気の抜けた声が聞こえてくる。
 その声の主こそ、蒼の守護者、宮沢祥吾のものだった──……


 ──地球・S市。

 そこは関東よりも一足早い冬の足音を聞いていた。
 だが、今その場所に広がった白いものは、雪などではない。

 そんな所で兄弟喧嘩を繰り広げる人影が、ふたつ。
「お、おい、司っ! 兄ちゃん、メキシコから帰ってきたばっかりなんだ寒いんだ何とかしろ」
「俺のせいじゃねーよ!」
 叫んでみても、この霧が晴れるわけではない。ないのだが、叫ばずにはおれなかった。

「しっかし、なんか不気味だな……」
 呟く少年──上月司の懐で、電子音が鳴り響く。この音はUGNからの通信だ。
 携帯端末を取り出し、通話ボタンを押す。瞬間、司の表情がぴくりと揺らいだ。
「この霧……ホントにやばいもんらしいぜ、兄貴」
 携帯を切った司はそれだけ兄、永斗に告げると歩き出す。当然、永斗も同様だ。
「なあ、兄貴……」
「……ああ」
 二人は並んで歩きながら、静かに言葉をかわす。

「……辛い仕事に、なりそうだな……」
「それだけで無理やりいいシーンにしようとすんな?」

 ともかく、兄弟の戦いが始まった。


 ──異次元の城。

「霧が濃くなってきましたね……」
 外の様子をモニターで見ながら静かに呟き、少女はそっとティーカップを置いた。
 銀の髪がさらりとほどけ、僅かに光を反射する。人形のような整った美貌には穏やかな笑みを浮かばせてはいたが、そこに余裕を見出すものはいないだろう。
 少女が焦っていることは、誰の目にも明白だった。
『──様……! ……目……です……城が……消……』
 部屋の中に常に聞こえてくるはずの戦況報告も途切れ途切れだ。そのことがまた、少女の表情を曇らせる。
「やはり……どちらも次元の狭間に存在する城である以上、一番侵蝕が顕著なのはここでしたか……」
 やがて意を決し、少女は立ち上がった。

「ロンギヌス各員に告ぐ。かの城……『霧の粛清』が全世界に侵蝕するのを、なんとしても食い止めるのです。ここで我らが敗れてしまえば、ファー・ジ・アースのみならず、他の世界までもが侵蝕されることでしょう。この城を……世界を守るのです」

 部屋の中には反応は返ってこない。どうやら通信が完全に途絶えてしまったようだ。しかし伝わってはいるだろう。
 少女──アンゼロットは信じ、そして背後に立っていた男に向き合う。
「さあ、柊さん。あなたも早く」
「お、おう……けどよ、お前はどうすんだ」
 男──柊蓮司は怪訝そうにアンゼロットを見遣る。彼女はこの世界の守護者であるが、直接の力の行使を禁じられている。ならばこれからどうするのか、と問うたのだ。
 少女はにこり、と微笑み、
「私はここに残ります。大事な用がありますから」
「用?」
「ええ。柊さんが心配するようなことは何もありません。さあ早く! こうしている間にも、侵蝕は広がっているんですよ?」
「おわっ……!」
 背中を押されて、柊は部屋の入り口まで押し出される。何か文句を言う前に扉が再び閉じられた。

 しばし扉の向こうを見つめるようにした後、アンゼロットはどこか決意するように言う。
「いざとなれば、この城をぶつけて『粛清』の本体を対消滅させます。ですがこれは最後の手段……みなさん、頼みましたよ」
 再度、モニターに目を移す。
 そこは霧に覆われて、真っ白になっていた。

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あとがき。
各世界の危機を演出。クロスオーバー大好き!
というかきくたけリプレイのクライマックスにはこういうシーンを挟まなければね。

※DOUBLE+CROSS The 2nd Edition、アリアンロッドRPG、ナイトウィザード、アルシャードガイアは
 有限会社ファーイースト・アミューズメントリサーチの著作物です。

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おまけ
レント「(驚愕の表情)あ……アンゼロットがまともなこと言ってる……」
GM「失敬な(笑)」
ノエル「ええとこのアンゼロットさんというのは〜?」
GM「は、『ナイトウィザード』という別のゲームのキャラクターでして」
エイプリル「傍若無人!」
クリス「とにかく酷い!」
GM「ええいっやかましいやかましい!」
ノエル「あ、英麻ちゃんが演ってたキャラですよね?」
レント「そうです……そのおかげでどれだけ俺が酷い目にあったか……」
GM「何を言うんだ、あんなに素晴らしい大惨事キャラ、他には……あ!(何か思い出した)」
一同「?」
GM「うひひ(笑)シーンの最後にこんな演出が入るよ。部屋の外に出た柊の足元がパカッと開いて……」

 ドカーン!
「うおおおおおーーーっ!?」

GM「……爆発音と共にそんな悲鳴が聞こえて、このシーンが閉じられる(笑)」
レント「ひ、柊ーーーっ!?」