Novel

※このSSは、『時の満ちる部屋』の夕凪時雨さんと一緒に遊んだなりきりメールの内容を元にしてあります。
 夕凪さんから許可をいただいたので、ここにアップしたいと思います。
 お先になりメのログ(夕凪さんのサイトにあります)をご覧になってからお読みいただくとより分かりやすいかと。
 なお、なりメはエロいので苦手な方はお気をつけください(笑)

7:はだけた服

 翌朝。
「ふわあ……」
 欠伸を噛み殺し、クリスは起き上がった。
 すこぶる爽やかな朝だった。体調も万全、至極快適な目覚めだ。ただ少し、心に残るのは、昨夜の罪悪感。
(あれは夢じゃない)
 隣に眠る気配からも、それがうかがえた。
 関係だけなら今更どうと言うことはなくなっていた。ただ、今までと違っていたのは、それまで曖昧にしていた互いの気持ちをはっきりと伝えてしまったこと。
 ふと横に視線を移す。
 トランの寝顔をじっくり見ることは珍しいことだった。悪の組織の幹部なぞやっているからには悪党のカテゴリーに入るはずなのだが、普段の彼は人の善い老人のごとく寝起きがいい。
 だが今朝はそうもいかなかった理由が、トランの体のそこかしこに証拠として残ってしまっている。
 彼が意識を失った後適当に着せただけの寝間着は、きちんとボタンをはめられることもなく、トランの胸から腹にかけては大きくはだけられていた。その隙間から、昨夜の情交の跡がいくつも見える。
 だがもっとも顕著な跡は手首だった。交わっている間ずっと彼の手首を戒めていたのは、彼自身が普段身につけている丈夫な皮製のベルト。クリスとしては適当に巻きつけて牽制になればいい、くらいの軽い気持ちでやってしまったことだったが、やはり痛かっただろうか。

 きっと、この跡が無くなるまではこの後ろめたさは消えないんだろうな、と思うと、クリスの手は無意識にトランの手首を撫でていた。
 癒しの術をかけようかとも思ったが、それはなんだか、昨日のことをすべて無かったことにしてしまうような、そんな気がして躊躇われる。だけど彼の手首は見るからに痛々しそうで、いくら服の裾で隠れるとはいっても、申し訳ない気持ちまで隠せるわけではない。
 どうしよう。

 そんな思考は不意にノックの音で遮られた。

「クリスさんトランさんー、朝ごはんの時間ですよー?」
 ドアの外から聞こえてきた少女の声に一瞬慌てる。別に彼女、ノエルに今の状況を見られたわけではなかったのだが、いきなり呼ばれるとやはり驚くもので。
 少しの逡巡の後、クリスはベッドを降り、ドアの元へ歩いた。
「クリスさん、おはようございます!」
「おはようございます、ノエルさん。ええと……」
 ドアの向こうから、小柄なノエルがぴょこぴょこと部屋の中を覗こうとしているのをそれとなく邪魔してみる。おそらくトランがどうしているのかが気になっているのだろうが、今の彼をノエルに見せることはとてもじゃないができない。
「あのー、朝ごはんの時間ですけど……トランさんは?」
「まだ寝てますよ。昨日、だいぶ呑んでたみたいで……」
 後ろをちらちらと気にしながら答える。嘘はついていない。
 昨夜トランは珍しく酔って帰ってきたのだし、まだ目覚めていないのも本当だ。ただ、その理由が自分との一件にあることだけは伏せておいた。

 ノエルは意外にもあっさりと引き下がった。
「そうなんですかぁ、それじゃちょうど良かったかもです」
「というと?」
 一歩下がってにこりと笑うノエルに首を傾げる。
「今日出発の予定でしたけど、実は色々足りないものが出てきちゃいまして。だから出発は明日にして今日はお買い物に行きましょうということになったんです〜」
 えへへと笑うノエルの表情には、明らかに取り繕う感がうかがえた。男性陣に相談せずに事後承諾を取ったことへの後ろめたさだろうか。
 が、すぐに元の快活さを取り戻すと、
「だからトランさんにゆっくり休むように言ってあげてくださいね」
「分かりました。それじゃ……」
 承諾の意を示し、一礼してドアを閉じようとすると、再びノエルはひょこりと顔を覗かせた。

「それと、クリスさん。あんまり無茶はさせないであげてくださいねっ。それじゃ、お大事に!」
「……え?」

 ばたりっ。

 閉めようと思っていたドアはノエルが閉じて帰っていった。ぱたぱたと軽い足音をドア越しに残して去っていく。
「……いや、まさかな?」
 ぽつり、と呟く。

(まさか……ばれてる?)

 クリスはしばしドアの前に立ち尽くした。


 そこからどれくらいの時間が経ったのか。
 おそらく数分もないだろうが、ともかくよろよろとベッドに戻ったクリスを迎えたのは、いまだ寝転がったままぱちりと目を開けたトランの姿。
「……今のは?」
「ああ、ノエルさんが。出発を明日に延ばすそうだ」
 挨拶らしい挨拶もなしに、簡素な報告のみがなされる。だからもう少し寝てていいとのクリスの言葉を聞くと、トランは小さく「そうですか」とだけ言って再び目を閉じた。
「……その、すまん」
「え?」
 二度寝するために再度閉じた瞳はしかしすぐにまた薄く開かれる。なんで謝られているのか分からない、という顔をしていた。
 クリスはトランの手首を差し、もう一度謝罪の言葉を述べた。
「ああ……これですか」
 眠そうな表情のまま、トランは手首をくるくると動かしてみせる。
「まあ、やっちゃったもんはしょーがないですよ」
「…………」
「機能にも問題はないし、このくらいなら平気です」
 しゅんと項垂れるクリスに微笑んで、今度こそ目を閉じながら、手を下ろす。そのままさらに小さく、でも、と続けた。
「?」
「……でも、もうやらないでくださいね? 痛くないわけでは無いので」
「分かってる。もう、二度としない」
 シーツの上にだらんと置かれた手に自分の手を重ねて、クリスは最後にもう一度だけ謝罪した。
 照れ隠しが混じったのか、そのついでのように、大事にしたいんだ、と呟くそれは独り言のつもりだった。でも、それを言った後のトランの寝顔が、心なしか緩んだような気がして、少しだけほっとする。
 自分はちゃんと受け入れられているのだと、思った。

 やがて小さな寝息が聞こえてきた。
 シーツを被せようとしたクリスの目に、はだけたままのトランの体が映り込む。
 起こさないように、慎重にボタンを閉じてから、シーツを被せてやった。

 あれをはだけさせないのも、大事にすることの一つだろう、とふと思った。

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あとがき。
何か恥ずかしいというかラブラブというか?(笑)
なりメ自体は夕凪時雨さんとの共同だったので、なんかトランの性格「ここがおかしいよ!」などと
思われることもあるかもしれませんがこの辺で勘弁してやってください。