Novel
クリスが多すぎる
1938年某月某日、ヴォルスング公国宮殿。
「大悟兄ちゃぁーんっ! 大変だぁっ!!」
ばんっ!
と勢いよく開けられた扉から飛び込んできたのは、まだあどけなさの残る赤毛の少年。これで大英帝国のエージェントだと言うのだから驚きだ。
「どうした、フィン?」
大悟、と呼ばれた男が振り返る。このフィンという少年の慌てた様子にも動じない落ち着き様、まさに『快男児』という言葉が似合う好青年である。
「落ち着いてる場合じゃないんだよっ! 大変なんだって!」
「だから何が大変なのだね?」
よほど焦っているのか、発明品の詰め込まれた大きなトランクを背負ったまま、フィンはその場で足踏みする。少年の問いに答えたのは、上等なスーツに身を包んだ壮年の男。
「ああ、もうっ、大悟兄ちゃんもギヨームのおっちゃんも、いいから来て! クリス姉ちゃんがっ……」
「……クリスが、どうした?」
フィンが残るもう一人の仲間の名を出すと、さすがに大悟達も興味を持ったのか、身を乗り出す。
同時に、背後に人の気配を感じ、大悟は僅かに身を固くした。彼の心眼(アジナー・チャクラ)は、それが今まで見たことのない人間のものであると知らせている。
気配はすぐそこまで迫っていた。そしていまだ要領を得ない説明を続けようとするフィンのすぐ後ろまでやって来る。
大悟とギヨームは、その見知らぬ客の姿をいぶかしんだ。
「クリス姉ちゃんが……男になっちゃった!!」
彼らの仲間である、元ナチスの超人兵士クリステル・フォン・エッシェンバッハ。チームの紅一点である彼女は、短く切りそろえられた金の髪も眩しい、典型的なドイツ人美少女だった。
だが、今彼らの前に──正確に言えば、フィンの真後ろに──佇むのは、白銀の鎧に身を包み、中世の古風な神官服、のようなものを着た──どう見ても、青年だった。
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同刻、エリンディル大陸のとある街。
「とらんさーーーんっ! たたた、たいへん、大変ですっ!!」
「ど、どうしましたノエ……ぐえっ!」
部屋のドアを開け放ち、一直線にトランの元に飛び込んできた少女。ノエルはその勢いを殺ぐことが出来ず、そのままトランに突進し、彼の胴を締めつける。
「うごあっ……! ち、力いっぱい抱きしめないで……っ、ろ、ロープ、ロープ……っ」
「大変ですよトランさん! とにかくすっごい大変なんですー!!」
「お、落ち着いて……っ、ウォーリアの全力で抱きしめたら……ああーなんか体がミシミシいってる!」
「……ほらよ。これでいいか?」
目の前のテーブルをバンバン叩いて助けを求めるトランに、溜息を吐いてエイプリルがなんとかノエルを引き剥がす。
トランはその場で何度か咳き込んで、憔悴した表情のまま、ノエルに問うた。
「……それで、大変って、何があったんですか?」
「は、そ、そうなんですっ、クリスさんが、クリスさんがっ……」
「あの神殿の犬が、どうかしました?」
怪訝そうに、ノエルを見遣る。その時だった。
「……どうやらお客さんだ」
何者かの気配に気付き、エイプリルが唇に指を当てる。そして懐から銃を引き抜き……構える!
「!!」
交錯は一瞬。だがエイプリルはその瞬間信じられないものを見た、といった表情で、目の前に突きつけられたアサルトライフルに視線を集中させていた。
「……ガンスリンガー!? もしや十三班の……」
「いや、違うな」
さすがにこの事態にトランも警戒を強める。エイプリルと対峙していたのは、キャリバーよりもふたまわりは大きな銃をかかげた、一人の女だった。
その身のこなしといい、外見といい、決してエイプリルに引けは取っていない。
ただ一人、状況を把握しないノエルの声が、部屋に響く。
「クリスさんが、女の人になっちゃいましたーっ!!」
とりあえず、頭の中を整理できないまま、トランは呟いた。
「……ハーレム、完成?」
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あとがき(?)
……続かない。だってこの後のネタがないんですもの。
クリストファー・フォウリーが入れられなかったのが無念。
『許されし偽り』手元にないからなぁorz
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おまけ
クリス「カバーリングに……」
ギヨーム「《砂の結界》+《氷雪の守護》! ダメージはゼロ!」
GM「あなたたちはケダモノよぉーっ!!」
クリス「……えっと、じゃあヒールを……」
大悟「《リザレクト》! 侵蝕率はまだ余裕がある!」
クリス「…………(することがなくてスミッコにうずくまる)」
フィン「これだから神殿は……はっ!? 僕は今何を!?」
おまけその2
クリス「《小さな塵》+《ピンポイントレーザー》! 装甲無視です」
GM「う、ダメだ。それで死ぬ」
ノエル「女のクリスさんもすごいですー!」
エイプリル「こっちは普通に戦えるんだな。システム違うのに」
クリス「ヴリルパワーの神秘ですね」
トラン「……レネゲイドの神秘なんだけどね」←デザイナー
おまけその3
小太刀「クリスが男になっただと!? つまりなかったものが『生えた』んでゴザルな?」
一同「ハッタリ仕事しろ」