Novel

セイバーヘーゲンの影

 俺様だって人並みに独占欲や嫉妬心はあるんですよ。
 とはっきりと言えないのがヒースクリフ・セイバーヘーゲンと言う人間なわけで。

 大体普段から、奴の周りは女だらけだ。
 仲間は全員美女と美少女のハーレムパーティーだし、見てくれと立場を鑑みると、ギルド内でひそかに人気があってもおかしくない。
 それほどに美女に囲まれていてもまだ足りないのか、他の美人にデレったりすることも多々ありだ。女遊びだって、おそらく一度や二度では済んでないだろう。
 とにかく血筋なのか、溢れ出る甲斐性を発揮しまくって、奴の周りには常に女の影があった。
 そんな『奴』を見るたびに、彼の胸には「羨ましいぜコンチクショー」という思いと、それとは別種のもっとモヤモヤしたものが渦巻くのだ。

 なので、偶然花街から出て来るリウイの姿を見てしまったその日……ついに溜め込んでいた色んなものが爆発した彼は、実力行使に出ることにしたのである。


「ちょっとばかし話がある。着いてこいや」
 花町通りから道を一つ違えたところですぐに奴を呼び止める。奴──リウイは片手を振って、よお、などと軽い挨拶をしてきたがそれはするっと流し、街外れに向けて親指でくいっと指し示す。

 二人がやってきたのは、ファンの街を少し出たところにある、やや開けた野。

 そこに男二人が対峙しているのだ。なかなかに異様な光景といっていい。
「で、何だヒース? こんなとこで」
「西方諸国にその名を知られた、美しき女盗賊ナイトウィンド……」
「……は?」
 リウイの問いを無視してヒースは喋り出した。
 歌うように……とはいえ、本職のバスなどと比べるとその声は棒読みかつやる気なさげではあるが。ともかくヒースはそのあることないこと滑るように湧き出てくる舌をフル稼働させた。
 こうなってしまうと、いかなリウイでもしばらく黙って聞いてしまうあたり、天性の才能というやつか。

「嫉妬深い彼女はある時、浮気した恋人に……『ライトニング』でオシオキした」
「へ、へえ……?」
「ついたあだ名が電撃ビリビリねーちゃんだ」

 軽い口調だったが、ヒース、目が笑ってません。
 しかも片手に杖を持って、その先をリウイに向かって突きつけている。

 ってオイこれはまさか。
 リウイの踵がじりじりと下がっていった。口元を引きつらせて、なんとか笑顔を保とうとする。

「……冗談だよな?」
 なだめるように言うが、ヒースは表情を変えない。
「俺様が普段ギルドで何て言われていると思う?」
「法螺吹き」
 即答。とりあえずリウイは正直者、かつ後先考えない、らしい。
 だが導き出したその答えに、少しだけほっとする。

「ってぇことは……何だ、やっぱり嘘か」
 ちょっと脅かしただけなんだ。何か俺がちょっとした誤解をさせてしまって、多分その、可愛い嫉妬だ。そうに違いない。
「ところがァ?」
 リウイの気が抜けた瞬間をまるで狙ったかのように、ヒースの口元がニヤリと歪む。
 鮫のように笑うと、キッと正面を見据え──
「こいつは本当だったりするんだな!」
 叫びと共に、詠唱が完成する。ヒースのそれは酷く完成度が高い上に、よく回る口も手伝ってか詠唱時間も短い。
 既に完成されたライトニング。もちろんリウイは逃げる間もなく──……

「ぐあああああーーっ!?」

 だいぶ可愛くない嫉妬だった。

 悲鳴を上げながら、黒焦げになった大男の体がどう、と地に伏した。
「うむ、さすが俺様天才。オーガーも一撃!」
「……人間だ……っ」
 腕を組み、素晴らしい出来栄えのライトニング(達成値三倍がけ)に惚れ惚れと自画自賛中のヒースにやっとそれだけ言うと、リウイは再び地面に倒れる。

 数分後。

「ま、これに懲りたらパーティーの美女軍団では飽き足らぬかのようなフトドキ行為は控えるこったナー、でやっはっはっ」
 なんとか立ち上がれるまでに回復した(というか、生命力全てをもぎ取ることはさすがにできなかったらしい)リウイに、ヒースは高らかな笑い声を上げていた。
 現在は、街中に戻る途中である。怪我したリウイの歩調に合わせてゆっくりと歩いていると、ふいに横合いから声がかけられる。
「ところで、ヒース」
「何だよ?」
 その、あまりにもいつもと変わらぬ口調に、ヒースは少しムカッと来た。先程痛めつけてやった分では堪えなかったというのか。

 そうではなかった。

「俺は今日、情報収集のために、あの場所でミレルと待ち合わせていたわけなんだが」
「何だと!?」
 思わず横を振り向く。やはりいつもと変わらぬ(違いは焦げだけ)リウイがそこにいた。
 え、じゃあ何、俺様カン違い!?
 そう驚く暇もなく、リウイはいつの間にかヒースの前に回り込み、その間合いに入っていた。
「もちろん、この落とし前はつけてくれるんだろうな?」
 がしっ、と。
 ヒースの肩をつかまえたまま、リウイは笑う。口端の引き上げ方、目元の緩め方、いつもの笑顔とやり方だけは一緒だ。一緒なのだが。

(目が笑ってないんですけど)

「え、あ、いやー、俺様、今日は寮の裏庭の土を掘り起こしては埋め戻すという作業があるのを忘れてたぜ」
「そんな意味のない作業をお前がやるはずがない」
「……ちっ」
 舌打ちするヒースに、リウイは今度こそ普通の笑みを見せた。全くこの男、ライトニングのダメージをちゃんと回復もしていないのに、たいしたタフネス。やっぱり人間じゃねーや。
 内心毒づくヒースに、顔を近付ける。
「まあ、妬いてくれたのは嬉しいが?」
「う……うるせーやい、妬いてねえよ!」
「ファンにその名を知られた、法螺吹き魔術師ヒースクリフ。嫉妬深い彼はある時……何だっけ?」
「! ば、ばばばば馬鹿じゃねーの何真似っこしてやがりますかーっ!?」
 先程のお返しにと、リウイが歌うようにヒースを真似た。頬を紅潮させて抗議の声を上げてみても、当のリウイはどこ吹く風だ。

 このままでも最高にヒース的屈辱の極みなのだが、さらにその上を行く『落とし前』が、今夜訪れる……ことだろう。多分。

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あとがき。

某所様のチャットにて「ロー○スでハイエルフにデレデレするリウイにお仕置きすれ」というネタが出たので、
せっかくですから某夜の風さんの逸話を持ち出してきてみました。タイトルも一部拝借。
分からない方はスチャラカを読みましょうと販促(笑)

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おまけ。

GM「ダメージは……よ、よかった。死んでない……(これで死んだら私が殺される)」
ヒース「見たかこの威力! だが次やったらもっと酷いぞー」
GM「(あれより酷いんかい)」
ヒース「そーだナー、三倍がけパラライズの後、最終兵器猛女でフルボッコだ」
イリーナ「兄さんがすごくしっとマスクです……っていうかやりませんよ私はそんなの」
GM「(色んな方面からお叱りがくるよ〜!!)」