拍手お礼ログ その1

ABC(藤崎隼人)

「ねえ、隼人」
「ん?」
 日本支部へと出頭するその廊下で、椿はふと、思い出したように口を開いた。
「最近、支部の人によく聞かれるんだけど……」
「何を」
「隼人は藤崎さんと、ABCのどこまで行ったのか、って」
「……何だそりゃ?」
 不可思議な問いに隼人は歩みを止め、首を捻った。そもそも椿が聞かれたというその質問の意味が分からない。
「私もよく分からない……というか、この質問の意図が掴めないんだけど」
 つられて椿も足を止めて、隼人に向き直った。彼女としては、一体どういうことなのか直接隼人に聞きたかったわけなのだが、当の本人もまったく分かっていない様子で。

 しばし考え込んだ後、椿はある一点に思い当たった。
 この不真面目なチルドレンの、不真面目さゆえの知識の無さについてだ。
 椿は眉を顰めると、詰め寄るように隼人に向かう。
「……もしかして、ABCの意味自体が分からない、ってわけじゃないでしょうね」
「馬鹿にすんなよ!?」
 これにはさすがにカチンと来たのか、隼人は肩をいからせる。不真面目であるとはいえ、彼は本気を出せば優秀なのだ。本気を出せば、の話だが。
 それでも今回はその本気が実ったのだろう。隼人は自信満々、こう答えた。

「Atomic、Biological、Chemical、だろ?」
「なんだ、分かってるんじゃない」

 腕まで組んで何かを誇示しようとしている隼人に、椿はふぅと溜息を吐いてみせた。
 二人とも優秀なチルドレンなのである。
 だが、チルドレンは総じて世間知らずであった。
「……で、なんで俺と藤崎とABC兵器とが関係してくるんだ?」
「さあ……?」
 結局、隼人にも心当たりは無く、二人はそのまま支部長室へと向かうこととなった。


 後日、霧谷伝いにこの話を耳に入れた藤崎が、隼人にちゃんと意味を教えることになるのだが、それはまた別の話である。

ポルノグラフィー(カイジェス)

 ある時ジェスが隣のベッドの壁を見ると、見覚えの無い女性の肌もあらわなポスターが貼ってあった。
「カイトの奴……また性懲りも無く」
 溜息を吐く。あの同居人(?)はたまにどこからかこういういかがわしいものを集めてきては、部屋に貼るのだ。そのことがジェスには気に食わなかった。
 この家《バックホーム》には子供も住んでいるというのに……

 と、そこまで思い返してみて、現在その子供──セトナがいないことに気付く。
 どうやらまた例の気ままな失踪のようだ。
「しょうがない、俺がやっとくか」
 もう一度溜息を吐いて、ジェスは自分の机の引き出しからガムテープを取り出した。


「あぁーっ!? 俺のコレクションがっ!」
 ガムテープにて写真のきわどい部分を隠すように貼っていたジェスの背後から、何やら絶望したような叫び声が聞こえてくる。ジェスは気にせず作業を続けた。
「おい、ジェス……っ! お前、カメラマンだろう! この写真の良さが分からんのか!」
「知りませーん。俺はポルノは専門外だ。第一セトナだっているんだぞ、教育に悪い」
「あのガキがいない今がチャンスだったのに!」
 後ろからカイト(どうやら戻ってきたらしい)がジェスの肩を掴んでは何かを喚いているが、ジェスは無視して作業を続ける。やがてすっかり肌の見えなくなった写真に一つ頷くと、ようやく後ろを振り返った。
 そこには物凄く不機嫌な表情のカイトがいた。
「あのなぁ、カイト……」
 ガムテープを置き、ジェスは疲れたような声を出す。目の前の彼の不機嫌さに対抗するかのようにだ。
「こんなの貼って俺が嫉妬しないとでも思ってるのか」
「……は?」
「そりゃ、俺だって男だし気持ちは分からんでもないが……」
 それでもこう堂々とやられると傷付くというか、なんというか。
 そんなようなことを、頬をポリポリとかきながら呟く。するとみるみるうちに、それまでむすっとしていたカイトの表情が焦ったようなものに変わっていった。
「その……すまん」
「いいよ、別に。セトナに悪影響が出なきゃそれで」
 小さく聞こえてきた謝罪に微笑んで返す。それにはさらに軽い口付けで返された。


 ちなみにこの後、カイトのベッド脇の壁には引き伸ばされたジェスの写真が貼られたのだが、これはさすがにジェス本人により高速で引っぺがされることになる。

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お題提供:BLUE TEARS