ぱちりと目を開けると、鈍痛が腰を襲った。
ひとたび視線をめぐらすと、すぐそばには見慣れた金の髪が映り、それでいくばくかは痛みが和らいだような気がして、それでやっとトランは表情を緩めた。
「おはようございます、クリス」
「おはよう……その、大丈夫か?」
こちらを覗き込むように降り注ぐクリスの視線には答えず、トランは無言で両腕を差し出していた。
「……?」
「起き上がれません」
「……すまん」
「いいから起こしてください」
ばつが悪そうに項垂れるクリスの腕に触れて、起こすようにせがむ。いくら寝起きとはいえ、自分がここまで素直に甘えていることにトランは内心驚いていた。
少しの間を置いて、クリスがトランの腕を取った。そのまま起こしてくれるものだとばかり思っていたので、彼に体重を預けたが、次の瞬間トランの体はふわりとベッドに仰向けに横たえられていた。
「…………あれ?」
一瞬、視界が薄暗くなる。覆い被さったクリスが影になっているのだと気付いた時には、既に彼はトランの唇にかすかな感触だけを残して離れていった。
「もう少し、寝ていろ」
そして見上げる先に、少々照れくさそうにベッドに座るクリスがいた。
「しかし」
「いいから寝てろ」
「いや、お腹すいたんですが……」
朝食を取りに行きたいのだとの意思表示のつもりだったのだが、それもあっさりと無視される。クリスはトランの頭をひと撫ですると、ベッドを立ち上がった。
「俺が持ってくる」
「……寝たまま、食べろと?」
「心配するな」
振り返りもせずにクリスが答える。既にドアへと歩き出していた足を一瞬だけ止めると、
「俺が食べさせてやる」
とだけ言い残して部屋を出て行った。
後ろ姿のためよく見えなかったが、あきらかに口元は笑っていたな、というのがトランには分かった。
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お題提供:
Capriccio様