拍手お礼ログ その3

まさかの疑惑(クリトラ)

 認めたくは無いが、これは確かに。

「…………」
 氷だけのグラスをからん、と揺らし、トランは静かに嘆息した。

 確かに自分には感情がある。だから誰かを好きになっても、それはおかしいことではない。それは分かっている。
 その相手が同じ男だったということにも、今は目を瞑ろう。
 だけど、だけどよりにもよってその相手が。
「……はぁ〜」
 もう一度深く溜息を吐くと、隣に座る気配がゆらりと動くのが分かった。
「だから、そんなに悩むならいい加減告っちまえよ」
「別に悩んでいるわけではないですよ」
 気配には振り向かず、小さく答える。
 もう一度、グラスをからんと揺らすと、
「ただ、少し、理不尽さを感じていただけで」
「理不尽さ?」
「同じギルドの仲間、という点なら、ノエルだってエイプリルだって構わなかったわけです。それなのになんでクリスだったのか。理不尽じゃないですか、一番反目していたのに」
 トランの呟きを彼女──エイプリルは黙って聞いていたが、その言葉に反応して口を挟んだ。
「……それは、一番反目してたからじゃねえか?」
「どういうことです」
 ここで初めて、トランは顔を上げた。視界に入る金の髪の美しい少女は、グラスをあおってから、さも当然とでも言うように続けた。
「俺達は目的のために協力し合っている。いけ好かねえ奴とでもそうしなきゃならねえ。そのためには、嫌でも相手のことをよく見てなきゃいけねえわけだ」
「…………」
 確かに、協力──もとい、利用するために、クリスの言動や戦闘行動を逐一観察して戦術に組み込んだ。そのおかげで、今では剣を振る時の呼吸すら手に取るように分かる。

 ──でも、
「それとこれと、何の関係が」
「ずっと見ているうちに、相手の良い面も分かってくるもんだろ?」
「っ!」
「……なんでそこで赤くなるんだよ」
「…………うるさいですね、図星だったんですよ」

 一気に頬が朱に染まる。

 エイプリルが言った通りだった。
 彼の家系や過去については既に知識として知っていたが、そのために彼が仲間を守ることを第一としていることを実感したのは、共に戦っていくうちに気付いたことだ。
 最初の印象がマイナスだった分、一つ良いところを見つければ印象は急上昇する(不良が雨の日に捨て犬を拾うところを目撃した時の原理だ)。
 現に今では、彼の背中を頼もしいと感じるようになっていた。
 だがそれらは、告げたところでどうにもならない想いだとトランは思っていた。
 万が一に、相手も自分と同じ気持ちでいてくれていたとしても、それでも自分は組織を裏切ることはできないし、彼もそうだろう。痛いほどよく分かる。
 分からないはずがない。そういう所にも自分は惹かれているのだから。

 再び思考の堂々巡り(悩んでいるわけではないから、余計にたちが悪い)に陥ったトランを見て、少女の口から軽い、まるで鼻先で笑われているかのような溜息が漏れる。
「……まあ、どうしても言いたくねえってんなら、別にばらしたりはしねえさ」
 どうせ苦しいのはお前だけだしな。とそれだけ言うと、エイプリルはすっかり中身の無くなったグラスを置く。
「お気遣いありがとうございます」
「そこは礼を言う所なのか?」
 大丈夫かお前、と眉を顰めると、念を押された。
「大丈夫ですよ。もちろん言うつもりはありませんがそのことで御迷惑をおかけすることもありません」
「どうだか」
「大丈夫ですって」
 苦笑してトランが立ち上がる。だがその微笑みがいつもの胡散臭そうな掴み所の無い表情とは明らかに違うことに、エイプリルは気付いていた。
 彼が何かを我慢しているのは間違いあるまい。それを悟られまいと、トランは椅子を直すと、短く「では」と挨拶して踵を返す。その去り際。

「……大丈夫。この想いは『消去』できる」

 不要なメモリーは、消去すればいい。こんなノイズは、消去すれば。

 人気の無い酒場に消え入るように呟かれた小さな言葉に、エイプリルは聞こえないふりをした。

動悸息切れの理由(藤崎隼人)

 秋葉原に店舗を構える、UGN秋葉原支部こと『喫茶ゆにばーさる』、いや逆か。
 ともかく、そこでバイトをする高崎隼人は、すっかり世慣れしてしまい、チルドレンのくせに妙に庶民くさくなっていた。まあオタクではなくて古き良き電気街の住人っぽいからまだいいが。
 そんなわけで、彼はバイトの休憩時間に街中を駆け回ってPCパーツを買いあさり、趣味で組み立てたりしているわけだが。

 その日もそんな彼の守るべき日常から、支部へと帰還し新たな任務(まあ、ウェイターだが)へと赴こうとしていた、その時であった。
「わー、似合いますね〜!」
 店内から聞こえてくるそんな少女の声に、隼人は新調する予定の買ってきたマザーボード入りの紙袋をさげたまま首を傾げた。新しいバイトが入ってくるとは聞いていない。
 ならば一体誰が、と意を決して自動ドアをくぐる。
「あ、隼人さん。おかえりなさーい」
 まず最初に彼を迎え入れたのは店長の結希だ。だが隼人の視線は小柄な彼女のさらに上に向けられたまま固定されてしまった。
「……な、なっ……」
「……?」
「何であんたがここにいるんだーっ!?」
「……ただの視察だ」
 ミラーシェイドの奥の目と眉を思い切り寄せて、彼──執事服を着た藤崎が言った。なんでも彼が言うには、『似合いそうだから』と霧谷に執事服を渡され、従業員一同の強い要望によりそれを着る羽目になってしまったらしい。
 隼人は固まったまま、手に持ったマザーボードが音を立てて地面に落ちる音を聞いた。

「……隼人さーん?」
「…………」
 そのまま動かなくなった隼人を心配してか、結希は彼の目の前で手をヒラヒラと振ってみたが反応は無い。様子を見ていた藤崎(執事服姿)は溜息を吐くと、結希を押しのけて隼人の頬を思い切りむにゅっと掴んだ。
「!!?? ……はっ! 俺は今何を!?」
「立ったまま呆然としていた」
「そ、そうか……ってぇ!?」
「?」
 ようやく正気を取り戻し、前を向いた隼人の眼前には、藤崎(執事服姿)の姿。

 間近で見た隼人は、今度は直立したままバッタリと後ろに倒れた。

 結希は「はにゃ〜」と呟くと、指をぱちんと鳴らし、呼び出した他の従業員に、藤崎(執事服姿)のあまりのかっこよさに衝動判定に盛大に失敗したらしき隼人を奥へと運ばせていった。

(なんだこの甘酸っぱさは!)(柊アンゼ)

「……で! 用件は何だよアンゼロット!」

 目の前にはほやほやと湯気を立てるティーカップと、向かい側に座って微笑む美少女守護者。
 どうにも居心地が悪くなって、柊はテーブルを叩き立ち上がった。だが美少女守護者──アンゼロットは動ずることなく、
「ええ、ですから紅茶をお召し上がりください」
「いらねえよっ! だから何の用事なんだよっ!」
「いいじゃないですか、たまにはお茶でも」
「……は?」
 てっきりまた有無を言わさず任務に送られるものだとばかり思っていた柊は、そこで拍子抜けした。
 仕方が無い、とカップを持ち上げ、口に運ぶ。

「酸っぺええええっ!?」
 一瞬で口を離した。
「ローズヒップティーです。ビタミンCが豊富で酸味が強いのが特徴です」
「早く言え、そういうことは!」
 柊の叫び声もなんのその、アンゼロットはシュガーポットを差し出してくる。
「そういえば、柊さん酸っぱいの苦手でしたっけ。こちらをどうぞ」
「…………」
 別に酸味が駄目なわけではない。いや確かに梅干しとか苦手だが。
 鮮やかな色に騙されて思わぬ一撃を食らっただけだ。この女もそうだ。かわいらしい外見に油断してはいけないのだ。
 だけども今日はどうしたことか、一向にその本性を見せるふしがない。
 渋々と座り直した柊は、シュガーポットを受け取りティースプーンでさらさらと砂糖をカップに入れていく。

 そうして再び飲んだ紅茶の甘酸っぱさはやけに口の中に残った。

それは一種のテロリズム(ふぃあーリプレイ風TOA)

※このなんちゃってリプレイに登場する人名などは全てフィクションであり、実在の人物、団体とは一切関係ありません。
 また、キャラクターの口調が違う(いわゆる『プレイヤー発言』)ことがあるので、お気をつけください。


 その日、GMである私は少々困っていた。
 何を隠そう、今日は『テイルズオブジアビス』セッションの番外編の収録日なのだ。しかし、肝心のPC1、ルークのプレイヤーが仕事で来られなくなってしまった。
 だが何とかしなければならない。私はあるアイデアを持って、プレイヤーたちの待つセッションの行われる会議室へと向かった。

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GM:というわけで、今日はルークがいません!
一同:ええええー!?
ジェイド:そういえば、さっき事務所で書類積んでヒーヒー言ってたな。
アニス:別にいんじゃないですか? 5人もいるし。
ティア:でもそれだと前衛きつくならないですか?
GM:それに関しては、代役を頼んでみます。皆さんはレベルアップ作業などをやっておいてください。
ナタリア:私はどちらでもいいですけど……誰が来るんですか?
GM:それは来てのお楽しみです。

 ここでGMは、おもむろに携帯電話を取り出し誰かと連絡を取り始めた。

GM:あ、もしもし? ──さんですか? そうです。それでですね、アビスのセッション、ルークの代わりに参加しませんか? 他のメンバーはいつもと同じです。ええ、ナタリアもいますよ。はーい、ではお待ちしてます(電話を切る)
ジェイド:なんて言ってた?
GM:「何ぃ!? ナタリア!? あの女もいるのかよ! なんで俺を呼ぶんだよ!! ……まあしょうがないから行くけどさ」……だそうです(笑)
ガイ:相変わらずツンデレだな、あいつ(笑)
ナタリア:え、ちょっと待って、ってことは代わりのメンバーって……

 その時、会議室のドアが開いた。

アッシュ:おう、来たぞ。
ナタリア:やっぱり! じゅんいっちゃーん!!(一同爆笑)
アッシュ:じゅんいっちゃんじゃねえっ! だからなんで俺の行くとこには必ずお前がいるんだよ!
アニス:愛だね。
ジェイド:愛ですねぇ。
アッシュ:お前らうるせえっ!?
ナタリア:もーじゅんいっちゃん照れちゃってぇ〜。
アッシュ:違ぇよっ!?(一同大爆笑)
GM:いいから席についてください。
ジェイド:ではナタリアの隣にどうぞ(笑)
アッシュ:なんでだよっ!?
GM:イニシアティブ順ですから(笑)
アッシュ:ちっきしょー絶対行動値上げてやるからな!

 こうして、ツンデレを加えたセッションが始まるのであった……

アッシュ:だから違うっつってんだろうがーっ!?
GM:いいからセッション始めるぞ!
ナタリア:私はじゅんいっちゃんを愛せばいいんですね?(笑)

 ……続かない。

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お題提供:TV