拍手お礼ログ その4

優しい時間(クリトラ)

「いたたっ」
 道中立ち寄った、小さな村の宿。その一室で、ノエルがそんな声をあげた。
「大丈夫か?」
「うぅ……指切ってしまいました〜」
 すかさずすぐそばにいたエイプリルが少しかがんで小柄なノエルに目線を合わせると、一本だけ立てた人差し指の先から小さな赤い血だまりがふくらんで、今にも張力で流れていってしまいそうなのが見えた。
「その程度なら、舐めときゃ治るだろ」
「駄目ですよエイプリル。利き手ですし、きちんと手当てしなければ」
 ノエルのそばを離れたエイプリルの背後から、焦ったような、心配するような、そんな声がかけられた。この美貌のガンナーはそれまでの荒んだ生活のせいなのか、多少の怪我などものともしない。それは自分であっても他人であっても同じだ。
 だがそうは思わないものが、このギルドには存在した。
 エイプリルと入れ替わりにノエルの前にやって来た魔術師。彼は手に手当て用にか救急箱を持っていた。
「ノエル、怪我した方の手を心臓より高い位置に……そう、そのままにしておいてくださいね。傷口を洗って……はい、これでよし」
 驚くほどの手際の良さで、あっという間にノエルの傷の手当てが終了した。

「おぉー、すごいですっ、トランさん、看護士さんになれますねー!」
「いやあ、このくらいの傷ならヒールをかけずに済ませるようにと、ウチの組織でも徹底されてましたからねえ」
 感心しながら清潔な包帯の巻かれた自らの指をまじまじ見つめるノエルに、何故だか自慢げなトランの姿。優しく流れる時間が彼らを包んでいて……

 その様子に、エイプリルはふと背後の奴を思い出した。

「へっ、仲睦まじいこって……妬けるか?」
「まさか」
 わざとらしくそう言うと、部屋の隅で剣の手入れをしていたフォア・ローゼス最後のメンバーを振り返る。意外なことに、クリスはエイプリルが想像したような反応を返してこなかった。
「ほう、意外だな。ハンカチでも噛み締めてるかと思ったが」
「別に……あの様子を見ていると、な。というか、アレは恋人同士というよりもむしろ母娘だろ」
「母なのか」
「ああ、母だ」
 やけに自信たっぷりなクリスに、エイプリルはうっかりとお前が父なのかと問いそうになった。おそらく彼の頭の中ではそれに近い状態になっているのだろう。

(余裕ぶっこきやがって)

 これが勝者の心の余裕、ということなのだろうか。別にクリスが誰かから勝ち取ったわけではないのだが。
 やがて手入れが終わったのか、クリスは剣を鞘に戻して椅子から立ち上がった。
「トラン」
 短く名前だけを呼ぶと、手招きをしてそのままドアの方へと向かう。
「はいはい」
 トランの方もそれに頷きだけ返して、しゃがんでいたノエルの前から立ち上がる。
「それじゃお二人とも、わたしたちは部屋に戻りますね」
「はーいっ、おやすみなさい!」
 ノエルが怪我をしていない方の手を振るのをちらりと見ると、クリスがトランの袖を引っ張って足早に退室していく。トランはドアが閉まるまで、ノエルに手を振り返していた。

「……なんだ、やっぱり妬いてるんじゃねえか」

 二人の姿が消えてからそのことに思い立ったエイプリルは、ノエルが不審がるのも気にせず声を上げて笑った。

秘密の、本音(リシャ→アル)

「私に話とは?」
 普段は優しく聞こえる彼の声が、今はやけに冷たく響くように思える。アンソンは向けられた視線を正面から見返すと、彼──敬愛する幻竜騎士団長リシャール・クリフォードへと申し出た。
「先輩の……婚約者についてです」
「またその話か」
 リシャールの声音がふと柔らかくなるのを感じた。
「ピアニィ・ルティナベール・フェリタニア……先輩の婚約者が、まさかバル……」
「アンソン」
 人差し指を自らの唇に押し当て、リシャールが咎めるように小さく名を呼ぶ。
「ゴーダ伯からの任務のことは聞いている。ピアニィ様がそうであるかの確証は、今のところ私にもない」
「しかし、先輩!」
 押し殺したようなリシャールに、しかしアンソンは食い下がった。拳をぐっと握りしめ、気が付けば叫んでいた。
「もし情報が本当だとすれば、先輩は婚約者を失うことに……」

 アンソンの所属する幻竜騎士団特殊部隊、通称『ファントムレイダーズ』に下された任務。それは、アルディオンに戦乱を撒き散らさんと暗躍する『バルムンク』なる組織の首領、フェリタニア女王ピアニィの抹殺であった。
 だがアンソンには、リシャールの婚約者であるらしいその少女を討つことに幾許かの躊躇いがあったのだ。自分でさえこうなのだから、まして当の本人であるリシャールの心中は……そう思うと、アンソンの気持ちは沈み、思わず御前にかかわらず俯いてしまう。
 だが驚くべきことに、リシャールからは思ったような反応は見られなかった。
「確かにピアニィ様は聡明で美しく、素晴らしい素質を持つ方だ。彼女が私のもとへ来てくだされば、『グラスウェルズはまた一つ強大な力を手に入れることになる』」
「……え?」
 思ってもみない彼の言葉に、アンソンははっと顔を上げた。リシャールはいたって普通だ。……普通すぎるくらいに。少なくとも、婚約者を讃えた後の表情には見えない。
「あの……先輩は、その婚約者のこと、気にならないのですか?」
 咄嗟に出た質問は我ながらに拙かったなと、アンソンは後悔した。だが噂によると、『リシャールはピアニィが真に彼を受け入れるならば全ての忠誠を捧げても良いくらいに入れ込んでいる』とも聞いていたというのに。この反応は淡白すぎやしないか?

 アンソンの疑問を解消するかのように、リシャールは薄く笑ってみせた。
「アンソン、私が忠誠を誓うのは偉大なる白竜王国グラスウェルズとフィリップ陛下のみだ。フェリタニアに下ることはありえない」
「そ、それはもちろん分かっていますが……」
「ならば私がピアニィ様をどう思うかも、分かるんじゃないか?」
「…………!」
 眼鏡の奥に隠された鋭い眼光に、アンソンは気付けば竦んでいた。
「もちろん、婚約者としては彼女のことは大切に思っているよ。だがそれは、彼女が私のもとへ来てくれたら、の話だ。それに今はバルムンクを討つことが先決だ」
 それだけ言うと、リシャールは歩き出した。すれ違いざまにアンソンの肩を叩き、激励の言葉をくれる。
「ピアニィ様のもとについている騎士……粗野で無礼で苛立つかも知れんが、腕は確かだ。気を抜くなよ」
「はっ!」

「すべては白き竜の御旗のために」

 アンソンが敬礼するのをみとめると、リシャールは一つ頷いて騎士団の本営へと向かっていった。


「そう……真に警戒すべきはあの騎士殿だ。なにせ私が欲しいと思うくらいだからな」
 歩きながら思い出す。愛しいと思っていたはずの自らの婚約者を護っていた双剣の騎士に一瞬で心を奪われた。その未完成な太刀筋にも、強気な光を放つ琥珀の瞳にも、何もかも。
 俯き加減にリシャールがそう呟くのを、アンソンは聞くことはなかった。

---

ここまでのお題提供:capriccio

金のリシャール、銀のリシャール(サガ童話パロ)

 ある日、アルが泉のそばを歩いていると、リシャールをうっかり泉の中に落としてしまいました。
 すると泉の中から、泉の精があらわれてこう言いました。

「あなたが落としたのは、こちらのきくたけリシャールですか? それとも鈴吹リシャールですか?」
「…………は?」

 アルは大いに悩みました。
(考えろ……考えろ、俺! この場合、どう答えれば一番いいかッ! 今現在の俺にとって面倒事が無く尚且つ姫さんやフェリタニアにとって都合の良い結果になる答えは!?)
 その一見無鉄砲そうな見目に反したクレバーな脳細胞をフル稼働させているアルを、泉の精は生温かい視線で見守っていました。
 その横では、きりりとした鈴吹リシャールがグラスウェルズに思いを馳せ、胡散臭いきくたけリシャールが鼻から『リシャァァァァァル』と息を吐いています。

 そんな中で考えること数分。

「……よし、決まった!」

 アルは顔を上げ、泉の精と、その両脇で所在無げにしている二人のリシャールをしっかりと見据え、そして答えを──

「あいや、待たれよ!」
 ……言おうとしたところで、よく知る声に遮られてしまいました。アルはうんざりした顔で、声の主を振り返ると言いました。
「何だよ、旦那」
 そこには、長身の竜人が立っていました。現在アルの所属するフェリタニアの軍師ナヴァールです。
 いつもは常に穏やかな表情を絶やさぬナヴァールでしたが、この時ばかりはなぜか怒気も露に、普段は閉じている竜眼をかっと見開きアルを睨むように見ていました。
「アル、まさかとは思うがきくたけリシャールを返してもらおうなどと思ってはいまいな?」
「い、いや……違うけど……」
「そうか、それならいい」
 アルがどもりながらも答えると、ナヴァールはそれまでが嘘のように目を閉じてにこやかな微笑みを向けました。アルは怪訝な表情で問いただします。
「菊池さんのバージョンだと何か不都合でもあんのか?」
「ある」
「?」
 深刻なナヴァールの口調に、アルは首を傾げました。するとナヴァールは、その真面目な表情もそのままに、

「わたしのリシャールはかっこいいんだ。『鼻からリシャァァァァァル』とか言わないの!」
「しゃ、社長…………」
「社長ではなくナヴァールと呼ぶように」

 予想外の答えに、アルはがっくりと肩を落としました。


 さて、そんなやり取りを見せられて困ったのが泉の精でした。
「あのー……」
 相変わらずな二人のリシャールに挟まれて、なんとも肩身の狭そうな泉の精を振り返り、ナヴァールはこう言いました。
「お待たせしました。我々が落としたのは……」
 その時、ナヴァールは再び目を開きました。縦に割れた竜眼がきらりと光ります。

「我々が落としたのは『一見かっこいい鈴吹リシャールに見えて、実はこちらのアルにメロメロでアルのためならグラスウェルズからフェリタニアに寝返ってもいいくらいの同人仕様リシャール』です!」

 これには、さすがのアルも空いた口が塞がりませんでした。
「お、おい! 何だその妙な設定は!?」
「ん、ちょうどいいだろう? これならすぐに嘘だとばれてどのリシャールだろうが返してもらえなくなる。そうすればグラスウェルズの最大の戦力がなくなるわけだ。万が一返してもらえることになってもフェリタニアに寝返らせることができ、尚且つ被害をこうむるのはアルだけで陛下に手を出されることもなくなる」
「こぉぉぉの野郎ーっ!?」
 怒り狂うアルとは対照的に、それを聞かされた泉の精は底冷えのするような声と笑顔で答えました。

「あなたはとても嘘つきな方ですね」
「策士と言って頂きたい」
「そんなあなたには、罰を与えましょう」

 泉の精が言うと、立っていた二人のリシャールがアルとナヴァールのもとへと歩き出したではありませんか!

「ま、待ってください! わたしは嘘つきですよ!? どうして両方ともくれるんですか!」
「嘘つきなあなたたちには、罰として『一見きくたけリシャールに見えて実はアルにメロメロでアルのためならグラスウェルズからフェリタニアに寝返ってもいいくらいの同人仕様リシャール』と『一見鈴吹リシャールに見えて実はピアニィにメロメロで無理やりグラスウェルズに連れて行くつもりで断られたらピアニィを殺して自分も死ぬヤンデレリシャール』の両方を差し上げます」

「ゲゲェーッ!? リシャール!? これはリシャールの罠かーっ!?」
「こ、こっちくんなっ!?」


 泉のたもとに、二人の絶叫が響きました。
 嘘つきには天罰が下ります。みなさんは、正直に生きましょうね。

「たぁぁぁすけてぇぇぇぇえいっ!?」

テイルズオブジアビス リプレイ 番外編 〜COLOSSEUM〜

※このなんちゃってリプレイに登場する人名などは全てフィクションであり、実在の人物、団体とは一切関係ありません。
 また、キャラクターの口調が違う(いわゆる『プレイヤー発言』)ことがあるので、お気をつけください。


 さて、番外編である。今回はルークのプレイヤーも参加できるのだが、少し悩みの種があった。
 収録に使用できる時間がいつもより短いということだ。
 サブシナリオといえど、いつものようなフェイズプロセッション式の通常セッションだと時間が足りなくなる可能性もある……私は、事務所で仕事をしているある人物に相談することにした。

GM:というわけなんですけど、何かないですかね?
ジェイド:だったら闘技場はどうだ? 確か、前回バチカルに戻ってきたところで終わってただろう。
GM:なるほど……となると、コロシアムルールを使用していけますね。
ジェイド:あ、ちょうどいいや、エキシビジョンマッチやろうよ。俺、やってみたいネタがあるんだ!

 ……え?

---

GM:……というわけで、今日は普通のシナリオではなく、バチカルの闘技場を使用したコロシアムセッションをやろうと思います。
一同:おぉ〜!!(拍手)
ルーク:あれ、でも6人でやるのか? 確か歴代でも最大4人だったろ?
GM:ええ、4対4ですよ。なので6人のうち2人は……
ティア:2人は?
ジェイド:(別のキャラクターシートを取り出しながら)別キャラを使って敵に回ろうと思うっ!(一同爆笑)
ルーク:ええぇぇぇええっ!?
アニス:(別のキャラクターシートを取り出し)じゃじゃーん! アニスちゃんも今回お休みでーす!(一同大爆笑)
ガイ:ってことは、あと2人は……?
アッシュ:(別のキャラクターシートを取り出し)なんで俺まで……
ナタリア:きゃあ、じゅんいっちゃん敵になっちゃうのー?
アッシュ:今までも味方になった覚えはねえ……っつーかなんでまたお前が隣なんだよっ!? だいたい俺はこのキャンペーン参加者じゃなかっただろうが! それをGMがどうしてもって言うから安達君や遠藤と話し合って「ジェイド・カーティス(きくちたけし)を殺せるデータ」を作っただけだったんだよ!?
ルーク:あ、俺じゃないんだ……(なぜか寂しそう)
GM:いや、そもそもレプリカ設定にしたのはルークだからな。井上さんはそんなの知らなかったから(と言いながらキャラクターシートを取り出す)

 そう、エキシビジョンマッチの残る1人、担当はGM……つまりこの私である。

ティア:じ、GM……そのデータは、もしかして……
ルーク:ん? あれこれ、昔のシリーズでGMがやったキャラでしたっけ?
GM:そうだよ。いやー懐かしいな、コイツ使うの。
ティア:やっぱりこのGM、鬼だ……(笑いをこらえている)

 驚愕するティアのプレイヤー。どうやら気付いたらしい。

ガイ:ってこれ、初代チート主人公と名高いアイツじゃないですかっ!?
ルーク:げ、ゲゲェーッ!? アレが今、アビスのシステムで蘇るっ!?(一同爆笑)
ナタリア:え? 何か凄いんですか、GMのキャラ……

 取り出したのは、過去シリーズで私が使用していたキャラクター、リッド・ハーシェルのコンバートデータ。一応アビス用に調整はしたのだが……

GM(以下、リッド):まあ大分古いバージョンだったからな。残念なことに、アビス用にコンバートしたら『極光剣』が使えなくなったけど(笑顔)
ティア:十分鬼畜仕様です!
ナタリア:えーだから何ですか? ……まあいいですけど……
リッド:いいからさっさと始めようぜ。早く帰ってファラのオムレツ食って寝るんだから。
ルーク:こ……コイツ! ロールプレイまで始めやがった!!(一同大爆笑)

 ……続きません。